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レポート04 リセット

 風一つなかった黒い空間が明るくなった。

 そこに広がる景色は美しく桃源郷の様なものだった。


 実体がなかったはずなのに、いつの間にか体がある。

 しかも高校生の俺の体ではなくギムレットとしての体だった。


「どこだ、ここ」


 声も出る。足元に広がる芝生にも触れる。動ける。

きょろきょろと辺りを見渡していると、ふわっと風が動いた。


 振り返るとそこには風の中から一人の人間…ではない___きっと精霊だろう。___神秘的な人物が現れた。

 中性的だが美しい顔立ち。白、と言うよりも透明と言う表現が正しい長い髪。瞳も透明の様な美しいもの。服装も透明感のある見たこともない様な布で作られている。


「自分の記憶を、見たようですね」


 ゆっくりとこちらに歩み寄りながらその精霊は微笑んだ。

俺の今持っている記憶の中にこいつはいない。しかし、敵ではないと何故か思う。


「…かいそう、とやらを見たが…。これはお前の仕業か?」


 俺の問いにそいつはふっと優しく笑い、


「その通りですよ。

貴方は、あまりにも間違え過ぎたのです。だから、大切な人達は皆死んだのですよ。」


 そいつはゆっくりとそんな事を言った。


「間違えた?」


 完全に記憶を取り戻したわけではない今の俺。

 しかし、あんな結末になるのだから大きな間違いをしたのは明白。

 が、その間違いをどこでしたのかが全くわからないのだ。記憶が全て戻っていればわかるのだろうか。それでもわからないのだろうか。

 甘ったれた考えをしてしまうのはきっと俺が自分に甘いからだろう。


「そう難しく考えなくていいのですよ。間違いとは、常に付き纏うものです。

もしかしたら、貴方自身が間違いなのかもしれない。もしかしたら、周りが全て間違いなのかもしれない。

しかし、生き物は弱く鈍い。だから、間違いに気づくことができないのです。

気づいたときには既に手遅れ。そうやって学んでいくのです。」


 俺を見透かすようなその瞳。


「お前には、人の間違いがわかるのか…?」


 問えば、そいつは優しく「どうでしょうね」と笑った。

不思議と、こいつと話していると気持ちが落ち着いていく。


「話を戻しましょう。

貴方は間違えた。本来なら私はそれを見守るだけ。

なのですが、今回どうやら貴方の歩んだ道には何かが介入したようなのです。

本来、気づけるものすら見えなくなってしまうと言う悪質な何かが。」


 遠くを見つめるそいつは、ここにはない何かを見ている様だった。


「ですから、貴方にはチャンスを授けます。」

「チャンス?」

「ええ。

もう一度、貴方は"ギムレット"としての人生を歩めます。今私と話している記憶も回想を見た記憶も消さず、ヒントを持った状態でです。

ですから、どうか次は間違えず、悔いのないものにしてくださいね」


 そんな事ができるのか、と驚いていると、そいつはくすりと笑い


「貴方だけにメリットがあるわけではないのですよ。私にもメリットはあるんです。」


 ふわっと風が俺とそいつの間を通っていく。


「貴方がもう一度人生を歩むと言う事は、介入した何かも反応するでしょう。

私はそれが何なのかを知りたい。

貴方がもう一度人生を歩まぬ限りそれはもう現れないと私は何故か思うのです。」

「つまり、その介入した何かを突き止めるのに俺が必要。

そしてそれは俺にとってはチャンス、と言う事か」

「そう言う事です」


 理解が速くて助かりますよ、とそいつは笑う。


「さて、そろそろ時間が無くなってきましたね。

貴方の魂をギムレットの場所に還します。

きっとまた困難が貴方を待ち構えているでしょう。」


 俺から一歩離れ、微笑む。


「困難とは試練です。

乗り越えられぬ試練など訪れませんよ。安心して向き合いなさい。」


 その言葉が終わると同時にそいつはふわっと風に揺らぎ消えた。

 名も知らぬそいつが最後に言った言葉は、何故かストンと俺の胸の中に落ち着きおまじないの様な安心したものになった。

 ゆるゆると流れてくる風が優しく頬を撫でていく。


 誰もいなくなった空間。ただただ残された美しい景色を眺める。

美しい景色をぼんやりと眺めていると、大切な何かを思い出せそうな気がしたのだ。


◇◇◇


【セーブデータを えらんで ください ▼】


 ぱっと目の前に広がっていた景色が消え、文字が現れる。

 はっとした俺はため息を吐いて、目の前に現れた文字の一つをタッチした。


【はじめからを スタート します ▼】


 文字が変わり、辺りが白く光り出した。



『人の気持ちなんて、その人しかわからないでしょう』


 意識か飛びそうになる瞬間聞こえたのは、寂しそうな声だった。

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