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レポート02 旅の始まり

 黒い視界が切り替わり、何やら賑やかな街が目の前に広がった。背後には大きな城が聳え立っている。

確か、ここはサラームの街。


 王から手紙を受け、城に出向いた時の回想だろう。

 きょろきょろと懐かしい風景を見渡していると、予想通り城からギムレットが出てきた。もうだいぶ慣れたが自分を観察すると言うのは不思議な感覚だ。


「どうだったんだい?」


 そこでラベンダーの声がした。

声の方を見ればやはりいた。あー、そーいやこいつ呼ばれてないくせになんかついてきたなーと思い出していると、


「なんでお前がここにいるの?」


 ラベンダーがついてきたことを知らないギムレットが目を丸くする。


「いやねぇ、あんたの事だし王様から討伐を正式に依頼されたら町に戻らずに旅に出ちまうと思ってねぇ」


 からからとラベンダーは笑い、やっぱりそのまま旅立てるような支度をしているねと目を細めた。


「で? 結局どうなったのか聞いてもいいかい?」


 ラベンダーはゆっくりと城を見上げる。

聞いてもいいかいと言う割にははよ教えろと言うような圧を感じる。


「どうもこうも、王から直々に役職を戴いただけだよ」


 後ろ腰に引っ掛けた剣の位置を直しながらギムレットは苦笑する。

ラベンダーはほぉ、と口元を緩める。


「戦闘狂とでも言われたのかい?」

「まあ、そうだな。似たようなもの」


 歩き出しながらギムレットは街の中心へと向かう。

ラベンダーははっきりしないねぇと笑ってその後を追った。


◇◇◇


「勇者ぁ? あんたが? なんで?」


 ギムレット達が向かったのはギルドだ。

俺の記憶が正しければ、王宮と連絡を取りやすくするためにここで正式に王直属のギルドメンバーになるのだ。

 勿論登録の時に役職を記入する。それを横で見ていたラベンダーは驚いたようにギムレットを見る。


「なんでだろうな」


 答えるのが面倒なのか、ギムレットは適当に返してさっさと登録を終わらせる。

ラベンダーは相変わらず真面目に会話をしないねぇ、と呆れていた。


◇◇◇


 ギルドから出ると、声がかかった。


「あんさん、王様直属の勇者さんなのかい?」


 見れば、色黒の肌に濃い茶髪に真っ黒の瞳を持つ体格のいい男が立っていた。

確かこいつはジェットとか言う冒険家だったか。服装もザ、冒険家と言う感じだ。


「…そうですけど、何か御用ですかね」


 ギムレットは面倒そうに口を開く。そんなギムレットを見たラベンダーはやれやれとため息を吐く。



 今更言い訳には遅いだろうが、この実体のある俺、ギムレットは昔はちゃんと人当たりがよく明るい性格だったのだ。

 しかしライラやカトレアがいなくなってからはあまり笑わなくなった。人との会話や人付き合いを放棄するようになった。

ラベンダーだからこそこんなギムレット相手に話しかけてくれるが、町では討伐依頼以外では誰も話しかけてくることはなかった。



「御用と言うか、もしそうならあっしもついてっていいですかい?」

「はぁ?」

「あ、そうそう、ギム。あたいもあんたの旅、勝手について行くからね。」

「はぁ!?」


 いきなりの展開にギムレットは声を上げる。


「急すぎないか?

人数が多いと足手まといが出てくるし俺は一人で行きたいんだけど…」


 ため息交じりに二人を見るギムレット。

 容赦なく足手まといだとかなんだとかをストレートに冷たく言うようになったのもライラとカトレアがいなくなってからだった。


「自分の身は自分で守れますぜ?

あっしが殺されようと何だろうと、見捨ててくださって構いませんぜ?」

「そこのお兄さんと同じく。別にいいだろ? 迷惑かけたりしないからさ」

「迷惑とかそう言うんじゃないんだが」


 全く引く気配の無い二人を見て面倒になったのか、ギムレットはそれ以上何も言わなかった。



 思い出せる範囲内で、この時期の俺はラベンダーの実力は認めていたしラベンダー一人なら守れると考えていた。

 人付き合いや会話は面倒くさがるが人を見殺しにすることは絶対しなかった。

守れる範囲の人数でないと、守り切れなかった時また悔やむと怖がっていたのかもしれない。


◇◇◇


 ギムレットの話を全く聞かない二人と共に街の出口に向かうと、一人の女が待っていた。

姿勢よく立っている姿はその場に浮いていた。

 綺麗な長い銀髪を一つにまとめ、正義感の溢れるスッとした緑の瞳。騎士の様な立ち姿、服装をしており、城に仕えている者と一目瞭然だった。

 ただ、普通の騎士は通常の剣を持っているが、この女は自分の身長の半分はあるだろうと言う大きな剣を背負っていた。


 俺の記憶にもちゃんと残っているその女。


 ギムレットを見つけると、ふわりと笑いこちらに近づいてくる。


「失礼。わたしはナシュと申します。僭越ながら王に使えさせていただいている者です。

貴方が王に選ばれた勇者様ですね?

少しお時間よろしいでしょうか?」


 綺麗に会釈をし、人のよさそうな笑みを浮かべるナシュと名乗った女。


「何か御用ですか」


 連続して出発の足止めを食らい、だんだん投げやりになっているギムレット。

そんなギムレットの態度をものともせず、ナシュは口を開く。


「ありがとうございます。

ひとつめは、王の命で貴方様の最初の調査地が決まりました。」


 ぴしっとギムレットが固まるのがよくわかった。

 うん、思い出すとこの時俺めちゃくちゃ思考が停止してたなって思う。


「は? 自由に各地調査じゃなくそっちの指示で動くわけ?」


 簡単に言うと、俺は自由に旅をして自分でその依頼されたモンスターの情報を集めぶっ殺しに行くと思っていた。

ライラやカトレアの事も広い範囲で情報を集め探せると思っていたのだ。

 しかし突きつけられた現実は行動範囲は完全に王により決められ、行きたいところに行けるのは依頼が終わってからと言う残酷なもの。

 今考えれば当たり前っちゃ当たり前だが、この時の俺はぶっちゃけ依頼はライラやカトレア探しのついで程度と思っていたのだ。ばれたら確実に首が飛ぶ。


「はい。より正確な情報をより速くお伝えし、貴方様に現地調査へと出向いていただきたいとのことです。」

「………。」


 ナシュの言葉に何かを言いたそうにするギムレット。

 覚えていますとも。「そんな面倒なやり方なら俺は下りる」と言いかけたのを。

何を言いかけたのかわかったのかラベンダーはふっと笑う。それを睨むギムレット。


「そして、より迅速な解決の為にもわたしが貴方様の旅に同行するよう命を受けました。

改めまして、アサーティール王国、王直属の聖騎士ナシュと申します。微力ながら貴方様の旅のサポートをさせて頂きます。」


 にこりと笑うナシュにギムレットは声を失う。

「ふざけんな」とでも言いたいのだろう。いや、言いたかった。

 俺は多くても二人、つまり自分を入れ三人組のPTを好む。と言うか三人組じゃないと上手くまとめられないのだ。

四人になると戦闘の時に三人の仲間の状態を気にかけなければならない。昔はどれほど大人数だろうと大丈夫と自負していたが、今は最高二人までしか守れないと思っている。



 思い出せる範囲内でも俺は基本一人で行動していた。

二人以上で行動する時は大体気心知れたカトレアとだったため、初対面が二人もPTにいることはなかったと思う。そもそも二人以上で組むことがまずなかった。


『ギムは接近戦が得意だから、もし二人以上のPTを組む時はギムをちゃんとサポートしてくれる遠距離戦や回復系に特化した人と組んだ方がいいと思いますよ』


 昔、いつだったかカトレアにそんな事を言われた。

俺はカトレアのそう言った助言に何度も助けられたことがある。

ちなみにカトレアは遠距離戦を得意としていた。そして回復面もカバーしてくれていた。


 ナシュは聖騎士なので接近戦が得意だった。ラベンダーは回復系と遠距離戦の掛け持ち。ジェットは確か体格の割には戦う事はしなかったと思う。

 バランス的にはそんな問題はない。接近戦が二人いれば一人への負担が分散される。問題があるのは俺の戦い方なのだ。



「ああ、そうでさぁ、あっしも自己紹介が遅れましたな。

あっしぁジェットと言う者でさぁ。役職は冒険家。アピロ地方ならぐるっと回ったことがありますんで道案内ならお役に立てると思いまっせ。」

「じゃああたいもしとくかね。自己紹介。

あたいはラベンダー。役職は魔女だよ。

この勇者サマはあたいの幼馴染のギムレット。あんまり喋らないけど悪いやつじゃないんでよろしくしてやってね」


 かなり遅い自己紹介が始まったらしい。

ラベンダーはギムレットの紹介もしてくれた。母親か。


「自己紹介が終わったことですし、さっそく出発しましょう」


 にこにことナシュは笑って出口を見る。

 少しだけ、ナシュに違和感を覚えた。記憶の中のナシュも常に笑っていたが、どこか胡散臭かった。

ぶっちゃけ色々面倒になった俺はラベンダー以外の二人の事はあまり見てなかった為朧げな記憶なのだが。

 今こうやって第三者視点から見ていると、どこかナシュはギムレット…俺が嫌いなのではないかと感じる。いや、態度は何一つボロなく優しいおねーさんって感じなんだけど。何となくそう感じた。


「そうだね。行こうか」

「最初の目的地はどこです? あっしがご案内しますぜ」


 ぽんぽんと進む話。

 ついていけないのかついていく気がないのか、ギムレットは悟ったような瞳をしてため息を吐いていた。

俺もこの時の記憶は「なんだこいつら」としかないので正確な心情はわからない。自分なのに。

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