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レポート01 ギムレット

 光が収まると、俺は綺麗な緑の広がる丘に立っていた。

 いや、立っていたのではない。立っている俺を見ていた。


 実体のある方の俺は、深緑の髪にオレンジ色の瞳。瞳の下の方はほんのりピンクく、そしてつり目。

ざんばら髪に赤いバンダナ。モエギ色のパーカーを腕捲りし、同色で肘まである手袋をしている。

紺のジーパンに赤いシューズを履いている。

左の目元には傷があり、左耳には十字のピアス。男にしては細いような気もするが、着痩せするタイプだった気がする。

そんなオレンジの瞳はぼんやりと手に持っている手紙を見つめている。


 実体のないほうの俺、つまり回想とやらを見ている俺は何とも言えない感覚。


「なんだい、ギム。こんなところに突っ立って。面白いモノでも見つけたのかい?」


 いきなり後ろから声が聞こえた。

 振り返れば、濃い紫の長髪を綺麗に結い、じとっとした目には似合わない美しい金の瞳を持ち、すらりとした体形。肩の出たセーター。袖が掌まである。そして首元には黒いチョーカーをしており、腰には魔女の持つ杖をひっかけている。

黒のショートパンツに厚底ブーツ。太ももにはレッグホルスターを巻いている女が腕を組んで立っていた。



 その光景を俺は知っていた。

 これは俺の記憶の回想。夢などとほざいた自分に呆れてしまう。


 女にギムと呼ばれたのは俺。

正式にはギムレット。

確か年齢は19だったか。

妹を一人持ち、両親は故人。

ビダーヤの町と言う緑の豊かな町で育ち、鬼才の持ち主と言われていた。努力家だとも言われた。

そこまで言われるだけあり、身体能力や学力すべての面において完璧だった。


 次に俺に話しかけてきた女。

彼女はラベンダー。俺の幼馴染の一人。

年齢は18。落ち着いている為か年齢よりも上に見られやすい。

魔女の一族の末裔らしく魔法も魔術も使える。そちらの方面では群を抜いている。

俺の妹であるライラととても仲がいい。

流されやすく優柔不断と自他共に認めるゆるい奴。



「…面白いモノってほどじゃないが、まあ、少しは使えそうなものが届いてさ」


 ぼんやりとしていると、実体のある方の俺…ギムレットがラベンダーにそう返した。


「ふぅん? モンスターの討伐ならもっと目ェギラギラさせてるし…はて、予想がつかないねぇ」


 ラベンダーはのんびりとこちらに近づいてくる。

そんな彼女に、ギムレットは持っていた手紙を差し出した。


「なんだい?

…おやまぁ、こりゃぁすごいじゃないか。」


 渡された手紙を読んだラベンダーは一度目を丸くしてのんびりと笑った。



 二人のやり取りを見ながら俺は記憶を手繰り寄せる。

確か、この時の手紙は王都からのものだった気がする。


 モンスターだの魔女だの出ているあたりでわかるとは思うが、この世界はRPGのゲームの様な世界なのだ。

付け足すならば、俺は大のモンスター嫌い。実力がある為町の近くに出たモンスターなどの討伐をよく頼まれたりもする。喜々として請け負っている。


 俺が生まれ育った"ビダーヤの町"は"アピロ地方"の北を領土とする"アサーティール王国"の南東に位置する。

王都は平和の街と呼ばれる"サラームの街"。国一番の大都会。


 そこに住むアサーティール王国の王から手紙が届いたのだ。

 内容は簡単に、「モンスターの動きがこの頃活発になってきたので調べてみた。そうしたらどうやらモンスターをまとめる者が現れたらしい。災厄を招く前にその総統者を討伐してほしい」と言う依頼だったはず。

色々なモンスターを手当たり次第に殺していたら名が知れたらしい。


 俺はこの世界でゲームで言うところの「主人公」や「勇者」だった。

完璧なステータス。主人公にありがちな両親が故人。

第三者視点から眺めると出来過ぎた主人公設定だ。



「王様から直々にご指名とは…。ただモンスターを討伐してたやつには勿体ないような気がするねぇ…。ま、実力は確かだしいいんじゃないのかい。

で? どうするんだい? 受ける? 受けない?」


 どうやら俺の記憶はあっていたらしい。

ラベンダーがゆっくりとギムレットを見る。


「…勿論、引き受けるさ。

依頼と言えど拒否権はないだろうしね。王の命で害悪で強力なモンスターも殺し放題だろ? 俺はモンスターの事になると見境がなくなるから、変にやらかした時の後ろ盾が王なら安心して殺せる。

それに…」


 流石モンスター絶対殺すマン。王をも利用する。流石俺とでも拍手しとこうか。

最後に何かを言いかけたが、目を閉じ「なんでもない」と言いため息を吐いた。


「…それに、カトレアやライラを探すための旅もできるから、ってところかねぇ?

この町の飛びぬけた実力者はあんたとカトレアしかいなかったから、カトレアがいなくなった今、大人共はあんたを手放そうとはしないものね。」


 見透かすようにラベンダーは笑った。

ギムレットはふいと目を逸らして舌打ちをした。


「悪いかよ」

「あれぇ? あたい、悪いなんて一言も言ってないんだけどねぇ?」


 ぼそっと呟くと、ラベンダーは面白そうにギムレットを覗き込む。


「相変わらず、カトレアの事になると落ち着きがなくなるねぇ。カトレアがいなくなってからは冷静なギムばかり見ていたから、新鮮だねぇ。」


 からからとラベンダーは笑う。

ギムレットは嫌そうに顔をしかめ、付き合ってられんと吐き捨ててどこかに行ってしまった。


「あたいは未だにわからんよ、ギム。

あんたのカトレアへの恐ろしい執着は愛なのか独占欲なのかねぇ。」


 丘に一人残されたラベンダーは目を細めてどこか呆れたように呟いたのだった。


 そして俺の視界は黒くなった。



 ___カトレア。

 懐かしい名前だ。

 彼女も俺の幼馴染で、俺が最も共に時間を過ごした相手。

 年齢は18。彼女はスタイルが良くさらさらとした金の髪を持ち、毛先になるにつれ深緑のグラデーションがかかる長い髪はいつも綺麗に結われていた。

 控えめそうなタレ目な紫の瞳は下になるにつれ淡い水色になっている。

右の目元には俺が斬りつけた傷跡が残っている。

 一見気弱そうな彼女だが、俺に負けない努力家。

運動は苦手だがそれ以外は天才と呼ばれるほどに優れており、苦手な運動も努力で俺と同じレベルまできている。

 彼女の存在があったから、俺は怠けずここまで来れたとも言える。良い競い相手だったのだ。


 そんな彼女もある日いきなり町を飛び出し行方を晦ませたのだ。

何日も何か月も探したが、手掛かり一つ見つけられなかった。


 今も昔も俺はカトレアに執着している。ラベンダーの言うようにそれが愛なのか独占欲なのかはわからない。

 ただ、守りたい、笑っていてほしい、そばに居てほしいだけなのだ。

それを聞いてラベンダーは毎回呆れたように笑うだけだった。


 そしてライラ。

俺の唯一血の繋がった二つ年下の大切な妹だ。

俺と同じ深緑の髪を二つ結びにしており、俺と同じ色の瞳だが、俺とは違う可愛らしい丸い瞳を持っていた。

明るく優しい性格をしており、ラベンダーによくくっついて歩いていた。

 カトレアがいなくなって、しばらくした時に俺と大喧嘩をして家を飛び出しそれっきり行方が分からなくなっている。

カトレアの時同様狂ったように探したが、手掛かり一つ見つからない。


 風の噂でモンスターに食われたとかなんとか聞いたときは何かに憑りつかれた様に近くの森や林にいるモンスターを殺していた。


 しかし、何もわからず仕舞いで終わったのだ。

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