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セーブ191 森を抜けた先に

 完全に迷ったと悟ったのはあれからすぐである。

カトレアを最後に見た方向に進んではみたが、進むにつれどんどん森が深くなっていく。

 一旦引き返そうと元来た道を戻ろうとしたが、元来た道すらわからなくなっていた。

そとじゃないため、方向感覚も狂っており深いため息を吐いたのは記憶に新しい。


 どうしようか、と諦めのため息を吐きつつ、部屋の中だし外程の危険はない。

それに、進めば部屋だしいずれ壁が見えてくるだろう。


 そうポジティブに考えぐんぐん進んではみたが一向に森は開けない。

 さらさらと流れる小川を見つけ、川上の方に歩いてみたがそこに在ったのは小さな湖で。

湖の周りも草木が生い茂っておりお世辞にも開けた場所とは言い難かった。せめて湖の周りくらい休むスペースがあってもいいんだが。


 疲労の溜まった足を休めるため、湖の岸にある申し訳程度に座れる場所に腰を下ろす。

どうすっかなぁ、と空を見上げれば先ほどまで見えていた月や星は見えなくなっていた。

 そう言えば、ジョーカーが明日は曇りとか言ってたような。夜から曇るのかと肩を落としつつ、これ以上暗くなったら森を歩くにも危ないだろうとため息を吐く。

完全に視界が暗闇で霞む前に寝る場所を探さなくては。


「ぴぃ!!」

「ぶっ!?」


 空を見上げていたら聞き覚えのある鳴き声と共に記憶にある感触がまた顔面に落ちてきた。

顔面キャッチよろしく顔に落ちてきたのは毛玉だった。追いかけてきたのか。


「なんなんだよ」


 べりっと引きはがしながら睨めば、ぴぃ、と得意気に鳴いた。

カイとどこかだぶって見えるがもふもふだしこっちのがまだ許せるな。


「ぴぃじゃわかんないんだよなぁ。

お前も迷子か? 毛玉が森をのそのそ彷徨い歩いているってのも想像してみると面白い様な」


 ため息を吐きつつ、こいつが俺と同じ迷子なら相当面白い絵面が見れたのではと思わず笑う。

毛玉は少々不機嫌そうにぴぃと鳴いて俺の手から逃れるべくまた飛びあがる。


「毛玉さん、そちらは湖ですよ。あ、落ちた」


 毛玉の飛んだ方向は湖。ぼっちゃーんと言う良い音と共にそれはそれは綺麗に湖に沈んでいった。

 あいつ泳げるのかな。と思いつつ上着と靴を脱いで湖にのろのろと入る。どうせ泳げないだろう。溺死されたらたまったもんじゃない。


「ったく…世話のかかる毛玉だな」


 思ったより冷たい湖の水にため息を吐きながら毛玉の綺麗に沈んでいった辺りを手探りする。

思ったより水があり、俺の腰上までは余裕で浸かっている。進むにつれて更に深くなっている。あんまりのんびりしていると風邪ひきそうだな。


 意を決して湖に潜り、すぐに見つかったゆるゆると沈む毛玉に呆れつつとっとと回収するためにその場を蹴った。


◇◇◇


 毛玉を回収してびしょ濡れになった服を絞る。

毛玉は濡れたため、先ほどまでのもふもふとした面影は消え失せている。思ったより小さくなったなと思いながら濡れていない上着でがしがしと拭いてやれば不満そうにぴぃと鳴く。


「あのなぁ、ぴぃじゃわかんないし拭く物が気に食わないのも我慢しろ。お前の自業自得だからな」


 ぴぃぴぃ不満そうになく毛玉にぶつぶつ文句を言いながらある程度毛玉が乾いたのを確認して立ち上がる。

 上着のあまり濡れていない方の面で毛玉を包んで袖同士を結び持ちやすくする。風呂敷でよく物を包むそれを真似てはみたもののやはり不格好。だが気にしなくていいだろう。誰も見ちゃいない。


 毛玉はぴぃぴぃ未だに鳴いている。しかし上着の中から出るつもりはないらしく、大人しく揺られている。

 さて、またしてもこの毛玉のせいで時間を取られたわけだ。既に辺りは真っ暗で残念なことに今から森に入るのは危険だろう。部屋の中とは言え森は森。


 近くにある手頃な木に飛び乗って一番頑丈そうな枝に跨る。その傍に在るそこそこ頑丈そうで細めの枝に毛玉を入れた上着を引っ掛けてとりあえずここで一夜を明かすかとぼんやりする。


 毛玉はしばらくの間ぴぃぴぃ鳴いていたが気づくと大人しくなっていた。

除けば、見事に爆睡していた。やっと大人しくなったかとほっとしつつ、やはり部屋の中とは言え濡れたままだと寒いなと苦笑する。

 さっきはじっとしていなかったから濡れていてもあまり寒さを感じなかったのか。今は大人しくしているのに付け加えて夜だ。冷えるのも無理はないだろう。


 はー、とすべての元凶の毛玉を見るが元凶は爆睡している。明日にはあのもふもふも復活しているだろう。

とりあえず、夜が明けるのを待つしかない。


◇◇◇


「ぴぃ!!」

「うるさい」


 やかましい鳴き声で目が覚めた。

目をあければすっかりもふもふを復活させた毛玉が頭の上で鳴いていた。

 空を見ればもう少しで夜が明ける時間帯だった。もう少し寝かせろよとごちりつつ、頭の上に乗っている毛玉を引きはがして上着で作った毛玉入れに突っ込む。


 薄明るくなっているし、もう森に入っても大丈夫だろう。本当ならもう少し明るくなるのを待ちたかったが、毛玉が動かないとうるさくて敵わない。


 ぶんぶん少々毛玉入れを大きく振りながら森に入ってみた。

右も左もよくわからない状態だが、とにかく進んでみよう。毛玉の不足そうな声を聞き流しつつ、さてどっちに行こうかと欠伸をする。


◇◇◇


 適当に進んでいるとすっかり朝になった。ジョーカーの言った通り曇りらしく、薄暗い。これじゃあ森に入った時とあまり変わらないなと苦笑しながらずんずん進む。

毛玉はお腹でもすいたのか先程から一度も鳴かずに大人しくしている。


 こいつのいる場所はどこなのか、それすらわからないし食べるものもわからないので何もしてやれない。我慢してもらうしかないだろう。


 少し歩くと、木々が無くなり向日葵畑が一面に広がる場所に出た。

ようやっと開けた場所に出れた、と感激しつつ余裕で俺の背丈以上はある向日葵たちを見上げる。


 向日葵畑を抜けると草原だった。この部屋はどんだけでかいのか。

草原の中には岩場らしきものがあり、草原が途切れた所には盆谷があった。


「あっ」


 盆谷を覗き込めば思わずそんな声が出た。

 分かれ道で置いてきたあのキメラが見えたのだ。もしかして、ここはあのキメラが俺を連れて行こうとした場所なのでは?

となるとカトレアの進んだ方向とはだいぶ離れているのでは…。


「毛玉、怨むからな」


 脱力しつつすよすよといつの間にか昼寝を始めた毛玉を見るが、どうも怒る気力も湧いてこない。

あのキメラに見つかったらそれこそ終わりだろう。

気づかれないようにとっととこの場を離れなくては。


 しかし、まあ、そう簡単に思った通りになれば人生苦労しない。

向日葵畑に入ろうとしたところで聞き覚えのある鳴き声が空から降って来て、そのあとはお察しだ。


 さて、どうやってカトレアを探そうか、と言う前にどうやってこのキメラから逃げようかと言う話になってしまった。

 毛玉はそんな俺の気持ちなど露知らずすよすよと寝ている。

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