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セーブ190 毛玉との遭遇

「カトレア、あんまり奥に行くと迷うぞ」


 部屋と呼べない大きすぎる部屋にカトレアが入って行ったのはあれからすぐ後の事。

離れないキメラをどうしようかと頭を抱えていると、カトレアはすたすたと部屋の中に迷いなく入って行ったのだ。


 思わずジペイを見たが、特に慌てた様子もないし俺に引っ付いているキメラは部屋に戻りたそうだったのでカトレアを追う様に部屋の中に入った。


「迷ったら迷ったで仕方ないと思うが、まあ気をつけるさね」


 ジペイはそう言うと相当眠いらしくいなくなってしまった。

すごい困るなと素直に思う。ここに来るまでの道順は一応は覚えているが迷う気しかしない。


 夜月とトトは部屋に入るか少々迷っている様だったので置いてきた。


 ずんずん進むカトレアに声をかけるが無視される。無視も何も声が出せないんだし仕方ないのか。


 進んでいると、さらに緑が多くなる小道とどちらかと言うと開けた方に向かう小道に分かれていた。本当、ここって部屋とか保護区とかそう言う言い方よりも一つの森って言った方が当てはまってる気がする。


 カトレアは緑が多くなり、獣道に近い小道に向かって歩き出す。

暗いのもあり危ないと思い慌てて追いかけるが、ぐいとキメラに引っ張られてしまい思わず転びそうになる。


「危ないだろ」


 振り返れば、キメラがぴゅいぴゅい鳴いてカトレアの行った小道とは違う方の小道を示す。

成程、こいつの住処はそっちか。


「じゃ、気をつけて行けよ」


 だが生憎俺の優先順位はカトレアがぶっちぎってトップだ。

笑顔でそう告げれば、キメラは行かないでとばかりにフードを銜えてくる。大きさ的にも力的にも敵わず引きずられるように進んだ分戻される。


「なんだよ」


 カトレアを見失ってしまうだろう。とため息を吐けばキメラは開けた方へ向かう小道と俺を交互に見る。向こうに行こうと言わんばかりに。

行ってやりたいがカトレアを見失うわけにはいかない。


「カトレアを連れ戻したら連れてってな?」


 だからフード離してくれ、と苦笑するがキメラは頑固なのか何なのかぴくりとも動かない。

埒が明かないと原因のフードのついているパーカーを素早く脱いでカトレアの無かった小道に駆け込む。


 驚いたような鳴き声と焦ったような鳴き声が混ざった鳴き声が聞こえる。可哀想だが今は聞こえないふりをしてカトレアの後を追う。

だいぶ離されたが、まだ姿は辛うじて見える。


 一体どこへ向かっているのか。目的の場所があるのだろうが、よくそこの道がわかるな。


 人工的な森は自然の森よりも走りにくかった。

 土は固すぎたり柔らかすぎたりと所々で違っており、無駄に足を取られる。

 木の生え方も人工的な為規則的過ぎて避けるのに苦労する。

カトレアは歩いている、俺は走っているのになかなか追いつかない。


 そこで視界がぼふっと暗くなった。

暗くなるのと同時に羽毛の様な物が顔面に当たる。


「なんなんだ!?」


 毟り取る様に顔に当たったまま離れない毛玉を引きはがせば、ぴぃと声がした。

 毛玉の色はキラキラとした水色。そこにくりっと輝くペリドットの瞳。見たこともない鳥モンスターだった。頭にはドラゴンらしき角もあるしきっとキメラだろう。

 たしか気絶させたキメラ達の中にいた様な…尻尾はトカゲの尾に羽を生やした様な不思議な形。もふもふとした胸毛に雪だるまフォルムのこの毛玉はきっとカトレアが気に入るだろう。


「そうだよカトレア!?」


 追いかけていたのを一瞬忘れていた。

ハッとして辺りを見渡せば見事に見失っていた。がっくりと肩を落としつつ、見失った原因の毛玉を見る。

 ぴい、と悪びれなく鳴くとぱたぱたと小さな羽を動かす。

離せと言う事だろうか。パッと手を放せばべちっと地面に落ちる。


「ちょ、飛べよ!? 大丈夫か?」


 ぴぃ…と痛みに耐える様に鳴いてぷるぷる震えている毛玉。悪いことしたなと拾い上げる。

 無駄に軽いな。だが俺の顔よりは大きい。もうちょっと小さければな…。もふもふと毛玉のやわらかい毛を撫でつつさてどうしようかと辺りを見渡す。


「なあ毛玉。お前はこの部屋の造りを知っているか?」


 未だにぴいぴい鳴いている毛玉に話しかければ、毛玉はぴぃ? と首をかしげる。ダメだな。道案内には絶対使えない。スペード並みに使えない。だが見た目でスペードよりも使える。

脳内で酷くないか!?と言うスペードを想像しつつ、カトレアの足跡を探す為地面を見るが残念なことに色々な足跡がありよくわからなくなっていた。

 それに、今のカトレアは無駄に軽い。体重で足跡がつくのか…。とぼんやり考えていると、毛玉がいきなりまた小さな羽を動かす。

 なんだ、と次は掌の上に乗せる様にして自由にしてやれば、俺の掌をかなりの力で蹴って飛びあがった。

が、べちっと地面に落ちた。


「…お前、前見た時は飛んでなかった?」


 俺が相手にした時は飛んでいたはずだが…記憶が薄れているので完璧には覚えていないが。

毛玉はぴぃ…と痛みに耐えつつ、よたよたと立ち上がる。

 見ていられないなと抱き上げる。この小さな羽で一体飛べるのか、と羽をまじまじ見たが、そこでやっと飛べない理由がわかった。


「お前、羽の長さ足りなくない?」


 その毛玉の羽は、もふもふとした毛でわからなかったが、長さが足りなかった。

切断された様な跡が見えるが、切断下にしては凸凹しているので折れたのか? これじゃあ一生飛べないわなと納得しつつ、何があったんだかとため息を吐く。


 しかし、毛玉本人はそれを理解しているのかしていないのか、飛ぼうとしている。鳥の性ってやつかな。

 どうせ地面に落ちるだけだしこのまま抱っこしててもいいかなとも思う。だが一応野生なのだしいらないお世話かと地面に降ろす。


 毛玉は降ろされたのが不思議なのか、ぴぃ、と俺を見上げる。


「ま、頑張れよ。じゃあな」


 これ以上構っていても仕方ないだろう。

ぽふぽふと小さな頭を指で数回撫でてカトレアの向かったであろう方向に走り出す。


 さて、この大きな部屋でカトレアを探し出せるのか。カトレアの事だし気が済めば勝手に戻ってきそうだが、それを待っているのも無理だしな。

 迷わずカトレアを探して部屋を出るのが理想だが、


「既に迷ってるんだよなぁ」


 そう。もう迷っているのである。

そんな嘆きを無視してこんこんと夜は更けていく。さて、俺は今夜寝れるのだろうか。

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