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セーブ185 バグの起こした奇跡

 あれから、うろうろとふらついてはみたがどうにも出口が見つからない。


「まあ、入るたびに形が変わる場所だしそう簡単にはたどり着けないだろうな。

モンスターのレベルだけでなく迷路のレベルも上がるだろうから」


 と笑っていたスペードもおかしいとばかりに困惑している。

 そのくらい、出られないのだ。確か、バグ的な何かも発生しているみたいだし、もしかしたらこの空間自体が歪んで出られなくなっているのかもしれない。


「どうするの?」


 空竜は出られないと悟ったらしく、しかし慌てず俺を見上げてくる。

どうもこうも、出られるまでふらつくしかないだろう。


 あまり一か所に留まると際限なく湧くモンスターに囲まれる。

雑魚も集えば面倒になる。ふらついて、かかってきたやつから始末するのが持って来いだ。


 それに、雑魚とは言えレベルは高い。中々見ない動きをする奴も紛れているため、案外鍛えるのには良い場所だったりする。レベルがもう少し高ければ最高だが、今は贅沢は言っていられないだろう。


「ううん、どうしたものかな」


 スペードはため息を吐いてこんこんと傍の壁を叩く。

しかし叩いたからと言って何かが起こるわけでもなく、変化の無い空間がそこに広がる。


「バグの中ってとんでもないことが起きる可能性とかそう言うのってあるのか?」

「あるだろうな。なんせバグだからな」


 俺の問いに笑って答えるスペードはやはり元気がなかった。

先程までは元気だったのに。どうしたんだと問えば、スペードは顔覆う。


「思い出したのだ」

「何を」

「今日の夜、ダイヤを食事に連れて行くことを。

もしこのまま夜までにこのダンジョンを抜けられなかったらダイヤを悲しませてしまう」


 くだらねぇなオイ。そう言わなかっただけ偉いと思う。


◇◇◇


 めそめそしているスペードをスルーして、少し進むとカトレアが足を止めた。

どうしたんだ、とカトレアを見ればカトレアはじっと足元を見つめている。


 足元に何かあるのかと足元を見れば特に変わった様子はない。


「カトレア?」



 思わず声をかければカトレアは俺を見る。


「…声が、出ます」

「!?」


 久しぶりに聞くカトレアの声に思わず目を見開く。

スペードも空竜も驚いたようにカトレアを見る。


「バグに巻き込まれたか?」


 スペードの言葉にどういうことだと困惑する。


「バグに絡まると、本来あり得ないことが起きる。

 例えば今のカトレアのようにな。ワイの憶測にすぎないが、カトレアは言葉を失っていたはずだ。それがこうやって唐突に戻ったりな。


 まあ、ここを抜ければ元に戻ってしまうが今は好都合だ。この中で一番冷静で頭が切れるのはカトレアだろう。なにか打開策でも出してくるだろう?」


 からからと笑うスペードにそう言う事ってあるんだとカトレアを見れば、カトレア自身も驚いているらしく目をぱちくりさせている。

カトレアの声を初めて聴いたであろう空竜は興味津々とばかりにカトレアを見ている。


「…打開策、と言うか…。」


 驚いてはいるらしいが、ちゃんとこの場を把握しているらしいカトレアは苦笑する。


「バグでおかしくなっているなら、壊してしまえばいいのでは…?」


 カトレアが言いだした壊すと言う言葉がよくわからずぽかんとしていると、カトレアは笑う。


「適当に手あたり次第、このエリアを破壊して行けばバグ自体も壊れて外に出られると思うんです。

ただ、そうするとこのエリアがボロボロになって迷惑がかかると言う問題が発生しますが…。」


 ね、とカトレアが笑う。

飛んでもない事を言いだしたものだと思いつつ、もし破壊したらジペイは怒るだろうなとため息を吐く。


「破壊と言ってもなぁ…ワイはそう言った暴力的なことはできないぞ?」

「大丈夫です。ギムや私、空竜さんは破壊特化ですから」

「カトレアそれだとすごい語弊があるぞ」


 なにも破壊するために力を付けたわけじゃないよと慌てるが、カトレアは涼しい顔で俺の言葉を流す。

 スペードはなるほど、と手を叩くが、やはり破壊と言うのは少々気が引けるらしくうんうん考えている。


「…そうですね。別にこの方法が最善策と言うわけでもないでしょうし、私達がここに来ていると言うのもジペイさんならそのうち気づくでしょう。

 助けを待つのも一つの案ですよ。ですが、バグの中となると少々救出側も大変でしょうしダイヤさんとの約束には確実に間に合わないと思いますよ」

「ばっかお前、そんな事言ったら」

「よし壊そう」

「ほらぁ!!」


 にこにこと笑うカトレアの容赦ない言葉にスペードは真顔で壊す選択を選んだ。

カトレアも確実に狙っただろう。


「ここ壊すの?」


 空竜はきらきらと俺を見上げるし、あれ、このメンツってこんなに血の気が多かったっけと眩暈がする。


「…救出に数日かかるのなら、ラベンダーとの約束もすっぽかすことになるでしょうし、ギムもものすごく怒られるでしょうね。ラベンダーに」


 にこにこと俺を笑って見上げるカトレアのその一言で、俺の中でも壊すかと言う結論が出た。

ラベンダーとの約束をすっぽかしたのなら、それこそ殺されそうだ。何が原因であれ、「ギムならどうにかできただろう? 言い訳はおよし見苦しい」と吐き捨てられるのがオチだろう。


「壊すのも最小限に抑えるため、一番外に近い場所を探したいのですが…スペードさんは何かご存知ではありませんか?」


 カトレアはむやみやたらに壊そうとはしているわけではないらしく、スペードにそう問う。

スペードはそうだなと少し考え、


「風だ。

 どの階層にも換気が必要だから、一か所だけ外と繋がる換気口がある。そこが最も外に近い場所と言われている。

ただ、階層ごとに、最悪入るたびにその換気口の位置は変わる。把握はできていないから探すしかないだろうな」

「換気口ですか。じゃあ、探しましょうか」


 話がまとまったらしく、カトレアが俺を見る。

 そう言えばリーダー俺だったなと思い出しつつ、風と言ってもなと見渡す。

風の流れを読もうにも、ここはモンスター達の起こす風なども混じっていて換気口からの風なんて読めっこない。


「空竜、お前、風読みってできるか?」


 はたと空竜の存在を思い出した。

空竜は空を駆けるドラゴン。空の化身。それなら、風を読めるのではないか?


「できるよ!

聞いた感じだと、外からの純粋な風を探せばいいんだよね?」


 理解が速くて助かる。空竜は任せてとばかりに自分の胸を叩く。

任せたと空竜の頭を一撫でして、これならどうにかなりそうだと安堵の息を吐いた。


 しかし、この人工ダンジョンは本当に人工なのだろうか。そこらのダンジョンよりもレベルは高いが、人工的な動きをするモンスターが一匹たりとも居ない。

謎が多いなと苦笑すれば、カトレアが不思議そうに俺を見てきた。

 なんでもない、と笑いつつこのバグも前ハックが変に暴れたせいでこうなったのだろう。あいつ容赦なく爆発みたいなの起こしたし。

 今度会ったら文句でも言おうかと考えながら、風を見つけたらしい空竜の声を聞いて空竜が走って行った方向へと俺らも進み出した。

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