セーブ14 精霊との契約
「貴様本当に海竜を鎮めたのか!?」
「ギムあんたねぇ、少しはあたいたちの話を聞くって事を覚えな!!」
「旦那流石でさぁ」
「素直に驚きました」
戻った俺を待っていたのは色々な言葉だった。
カイは仰天するしラベンダーは相変わらず俺を揺さぶる。ジェットは相変わらずのテンションでナシュは目を丸くする。
「まあ、ほぼカトレアパワーだったけどな。」
ざっくりと起きたことを話せば、
「あんたら二人は本当に変わり者だねぇ」
ラベンダーは疲れたようにため息を吐く。
変わり者。そう言えば俺が高校生として生活している世界でも言われた気がする。
理由はなんだっけ…よく思い出せない。まあいいか。
◇◇◇
それからは、色々疲れてしまったので村に海竜の記憶やカトレアの事は伏せ、その他は嘘偽りなく報告し宿に戻った。
俺は秒で寝てしまったため三人が何を言っていたかは知らない。
でもまあ、一番いい形で終わらせられたので満足だ。
海竜が死んでしまったのは悲しい気がするが、満足そうなあの笑顔を思い出しその考えを頭の隅に追いやった。
笑っていたのだから、いいではないか。
◇◇◇
「なんだ、もう村を出るのか?」
次の日、もう村に用はないため支度をしているとカイがつまらなそうに俺の肩にとまった。
「まあね。依頼は達成したし現地調査しても俺の追ってる件とは関係なさそうだし」
嘘である。
あの真っ黒のエルフと魔物の総統者は何か関係があるだろうと睨んでいる。
しかし確かな証拠もなく憶測を口にするのは良くない。
しかも、全く関係の無いカイに話すことではないだろう。
…そう言えば、海竜にあのエルフの事聞くのすっかり忘れていたなぁあとため息を吐く。
まあいいか。なるようになるだろう。
「そうか。
ならとっとと契約せんか無能め」
「あー、はいは…なんて?」
何故海竜を鎮めたのにお前と契約しなきゃならんとカイを見れば、
「今のまま行くとこの俺様は貴様の従者と言う扱いになるだろう!!
それだけは御免だ!! 俺様の下僕になれ!!」
「契約って確か同等って聞いたんだけどなぁ」
「ふんっ、知るか!!」
ぎゃーぴー騒ぐカイに頭痛を覚える。
このままだと旅についてくる勢いだ。
中途半端についてこられても正直迷惑なだけ。
「わかったわかった!! 契約してやるから俺の質問に答えろ!!」
「やっとその気になったかノロマめ!!
いいだろう特別に答えてやろう。」
つくづく偉そうなやつだなと舌打ちが出る。
「前俺が聞いてお前のすっぽかした質問だよ。
__何故俺を選んだ?」
あの崖で聞いた質問をもう一度する。
カイは少し黙った後、
「貴様から、クリアネス様の気配を感じたからだ。
それに、貴様の属性に水があったし丁度良かったのだ」
「クリアネス?」
初めて聞く名前だ。
それに、こんな偉そうなカイが様を付けるのだ。何者だ?
後者の理由はまあ、考えればわかるような理由だ。契約するなら相性のいい属性持ちじゃなきゃ意味がなさそうだし。
「様を付けろ阿呆!!
俺様を含める原色精霊四体はクリアネス様に選ばれた者としか契約できん高貴な精霊なのだ!!
正直、海竜を倒すとかなんとかはただの口実にすぎんのだ!! そんな事もわからんとはつくづく無能だな!!」
なーんか色々初耳な情報を喋ってるが今まで俺に偉そうにほざいてきたすべてが口実とは実に腹が立つ。
「…簡単にまとめると、お前が契約できる条件を満たし尚且つ属性もばっちりってのが俺だから手っ取り早く契約しようって魂胆か?」
「そうとも言う」
「ぜってぇ契約しねえ」
「何っ!?」
利用されるのは御免だ。
「何故断る貴様!!
この俺様と契約すれば、俺様の力や俺様の加護を受けられるのだぞ!!!」
「俺そう言うのいらないから…」
ごめんね?と無表情でカイに言えば、カイは無礼者と叫んでどこかに行ってしまった。
◇◇◇
「おや? 喧嘩はすんだのかい? カイはどうしたんだい?」
外に出ていたラベンダー達が戻ってきた。
知らねと返して、もう出発できるかと聞く。
「あたいはいつでも行けるよ」
「あっしも行けまっせ。次はどちらに向かうんで?」
「わたしもいつでも。
次は一度王都に戻り今回の事を報告する形になるかと」
三人とも準備はできているらしい。
しかし聞き捨てならない。王都に戻ると言ったか?
「待て、王都に戻るってなんでまた?」
「当たり前でしょう。今回の事を報告し、闇属性やその他の事を調べなくてはいけないのですから」
「ええー…」
聞いてない。
俺が不満げにしてもナシュは笑顔を崩さない。不気味な奴だ。
◇◇◇
村の者たちに挨拶を済ませ、元来た道を戻っているとカイの祠が見えてきた。
拗ねて飛び出してそれっきりだがあれでもう俺に興味をなくしてくれたなら有り難い。
祠をスルーしてさっさと行こうとすると、一番最初に出会った時の様な光景が目の前に広がった。
うわぁと正直面倒になりながらも飛んでくるであろうカイを叩き落とすため準備する。
バンッ、と祠の扉が開く。
しかし何も飛んでこない。
なんだと祠を覗けば祠の中が綺麗な海の色で光っていた。
「なんだい? カイが飛んでこないなんて珍しいね」
ラベンダーの声が聞こえた。
その瞬間、俺の足元に魔法陣の様なものが現れる。
「なんだこれ」
読めない文字で書かれた青い魔法陣。
魔法陣が現れ、数秒後左目に嫌な痛みが走った。
思わず抑えていると魔法陣はすうっっと消えた。
「はっはっはっ流石俺様!! やいギムレット!! 貴様の負けだ!!」
そこでムカつく声が降ってきた。
まだ変な痛みを残す左目を擦りながら見上げれば勝ち誇った笑みを浮かべるカイが頭上に飛んでいた。
何、叩き落として串刺しにして焼いて食えって言ってんの?
「契約成立だ!! 有り難く思え!!」
「は?」
わけがわからんとカイを睨めば、
「左目は未来を視ると言われている!!
逆に右目は過去を視ると言われている。俺様は貴様の過去なんざどうでもいい。
契約とはある意味縛り。貴様の未来を縛らせてもらった!! そう!!契約と言う名の縛りでな!!
本来契約は心臓の上に書きこむモノだが貴様の場合絶対書きこませんだろう!! だから左目に書きこませてもらった!!
もう逃げられんぞ!! ざまあみろ!!」
うん、わけわからん。
でも俺が怒って良いってのはよくわかった。
「ラベンダー、杖貸して」
「嫌だよ。
どうせカイにぶち当てるために投げるつもりだろう。人のモノじゃなく自分の剣にしなよ。」
さらっと恐ろしい事を言う。
それもそうかと剣の柄に手をかければ、カイが無礼者と叫んだ。
結果から言うと、不本意ながらちょっとした油断で強制的に契約させられたと言う事になる。
覚えとけよ海の精霊。
◇◇◇
王都では、同時刻に一羽の真っ白な鳥が城へと舞い降りた。
鳥使いらしき人物はその鳥を軽く撫で、足に括りつけられていた紙を取りまたその鳥を大空に放った。
鳥使いは紙に書かれたものを読むと、すぐに王の元へと報告へ向かった。