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セーブ176 VS憑き神

 当たり前だが、走っても出口らしきものは一向に見つからない。

足が折れそうなくらい痛いのは、毒のせいもあるだろう。

このまま走っていても毒の回りが早くなって死ぬだけかもしれないと思いはたと止まる。


 止まると呆気なくその場にへたり込んでしまう。

困った。

困ったがどうするかとため息を吐く。


 心臓がどくどくとうるさい。

その割には手足の先端が冷たい。

頭も回らないしどうしようか。


「死ぬわけにはいかないんだよな」


 シャッと剣を乱暴に抜いてその場に突き刺す。

 歪みの中の空間なんだ。歪んでないわけがない。

歪みまくってるところに剣を突き立てれば出られるのではと言う単純な思考に走ってやっては見たが、剣はその場に刺さるがそこからは動かない。

引き抜くことはできるが、一定の深さまで刺さるとぴくりとも動かなくなる。


 この空間は、歪みすぎて変なバリアにでも包まれているのか?


 いよいよ困った。

夜月が来るとは限らないし何とかして出なくては。


 剣を引き抜き、一つ咳き込む。

血の味が口の中に広がる。


 いよいよやばいなと苦笑しつつどう立ち上がろうと痛む頭を抑えてぼんやりと辺りを見る。


 そこで、白が視界にちらついた。


 は、と息が詰まった。

じりっと熱いものが頬を掠める。


 滲む視界で頬を掠めたものを捉えれば、白だった。


 俺の目の前に、最悪の形で再び現れた___と言うか全体を見たのは初めてだが___憑き神は再会直後に尾で俺の頬を切ったらしい。


 切った、と言うより毒で溶かしたのか。


 夜月の言った通り目の前に現れた憑き神は狐の形をしていた。

俺の倍くらいの大きさで、目は白く濁っており、嘴からちらつく牙は真っ黒だ。


 明らかにやばそうなのが目の前に現れたわけだが、残念ながら俺は動けない。


 絶体絶命。詰んだ。と思うのが普通だが俺は死ぬわけにはいかない。

打開策も解決策もないがどうにか乗り切る策を練らねば。


 憑き神が、高音の音を発する。鳴き声とは呼べないものだった。

途端、俺の周りがぐにゃりと歪んだかと思うと一気に溶けだした。


 理解が追い付かない。

は? とその溶けだした空中をぼんやり見つめる。


 まるで、透明のペンキを塗ったようにどろどろと溶け出す。

それと同時にじゅうじゅうと毒であろうものがそこから溢れ出てくる。


 もしかして、溶かして殺すつもりか? 結構えぐいことするな。元々は神様なのに。

溶解死とかやだよ、と思いながら、まだ若干動く体を無理やり動かし水の盾を展開する。

 魔法はまだ生きている。動けないなら魔法でどうにかするしかない。


 水の盾が溶け出した部分に触れると爆発が起きた。

俺爆発魔法なんて使ってないよと困惑する。


「俺の、魔法と毒って…そんな相性悪いのか?」


 どっちが火薬でどっちが火なのかは知らないが、爆発の起きた部分は溶けていたものはなくなっていた。

 これなら、この周りの毒はどうにかできるのではと希望が見えた時、頭から消えかけていた目の前の白が動いた。


 そちらを見る間もなく背中に衝撃が走る。

声は出ず息だけが口から出たので結構な衝撃だ。頭を強く打たなかったのが不幸中の幸いか。


 うっすらと目を開けると目の前には白があった。

と、言うか憑き神の大きな前足で思いっきり抑えつけられて倒れたらしい。押し倒された後にもその前足は離してもらえず、鋭い爪が肩やわき腹に食い込む。

 どうやらその爪にも毒があるらしくめちゃくちゃ痛いし肉が溶ける音がする。

痛いが声は出ない。どうやら喉をやられたらしい。


 この憑き神はなぜ俺をとっとと食わずにこうも回りくどいやり方をするのだろう。

もしかしてキチガイ系なのか。痛めつけるのが好きなのか。


 そう言えば、この世界に来てから色々な人とは出会ったがそう言ったガチで人を痛めつけて喜ぶキチガイは見てない様な…と若干現実逃避をしながらこの状況どうしようと目の前の狐を見る。


 濁った瞳に俺は映っていない。あの瞳が綺麗だったら何色なんだろう、等と考えつつ毒って言うとトトだなと思いだす。

こんなことなら毒対策を聞いておくんだった。


 諦めた様な思考に走ってはいるが諦めてはいない。

丁度憑き神の腹の下あたりにある爪先に爆発魔法を展開させ無理矢理足を動かし憑き神の腹を蹴り上げる。


 まさかこんな状態で抵抗されるとは思っていなかったらしく憑き神はあっという間に吹っ飛んだ。

憑き神自体が毒の塊なのか、その毒と俺の魔法はどうやら属性関係なく爆発を引き起こすらしく大爆発が起こった。

 蹴り上げた方の足は見事に折れたなと舌打ちをしつつ憑き神を見る。


 結構ダメージが入ったらしくよろよろと立ち上がる。

できればそのまま眠ってほしかったとため息を吐きながら足一本折れていよいよ逃げ場が無くなった。

 だが、魔法があるのでまだ勝機はある。こんな状況でも諦めないのは何故だろう。


 運よく傍に転がっていた剣を拾って剣に水魔法を纏わせる。

その剣を向かってきた憑き神の眉間めがけて投げる。避けられたら終わると思いつつも、憑き神の動きから見るにこいつはまともに思考していない。

 単純なものにほど引っかかりやすいと言うのが何となくわかった。


 腹を蹴られた衝撃でさらにそれは加速しているらしく、怒りに身を任せている様でいい的だった。

俺の首でも喰いちぎろうとしているのか、立派な真っ黒な牙を曝け出している。


 が、その前に憑き神の眉間に剣が刺さった。

水魔法を纏わせていたせいか見事に爆発が起きた。上出来。


 爆発の煙が引いて行くと、憑き神が倒れていた。

眉間には剣が刺さっているのに血は出ていない。これ、死んだのかな。そもそも神様ってどう殺すの。


 剣を回収せねばとのろのろと片足を引きずりつつ憑き神に近づく。

動きはない。死んでいると言うことでいいのか?


 憑き神の眉間から剣を引き抜いた時、小さく水魔法が弾けた。

何だろう、と気になったがその前にぐらりと視界が揺れた。


 やばい、と思う間もなく視界は真っ黒になり、これもしかしなくても死んだんじゃ、と言う思考が最後だった。

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