セーブ13 海の泡沫
「げほっ、カイ、さんきゅー…」
「っっっっったく貴様と言うやつは!!!!!!! 見てるこっちがひやひやするわ馬鹿者!!!」
海竜の記憶を見、海竜が何故こうなったのかを理解した俺だが荒れる海中ではどうにもできずあっやばい死ぬなと思った時。
カイがすごい勢いであの小さな体で俺を浜辺に引きずりあげてくれた。
しかし、カトレアが海竜とああ絡んでいたとは。
強くなりたいとか言っていたな。十分強く優しいのに何故強さを求めるのだろう。
カイの説教を聞き流し、ぼんやりとまだ荒れている海を眺める。
「カイ、闇属性に強い属性ってなんだ?」
「はぁ? 光属性に決まってるだろう?」
光属性。
確かこの世界の伝説にあったような。
闇を打ち砕き闇を救う光魔法。
使えるのは聖女と言われるものだけとか。
「うーん、そっかぁ…。
どーにかしてあの海竜を闇から解放してやりたいんだけどなぁ」
モンスターは絶対殺す思考だが、色々知ってしまった以上情が移るのは仕方ない。
ここが命取りとも言われるが、海竜はただ、寂しがりのドラゴンなのだ。
「貴様、助けたところで海竜はもう死ぬしかないのだぞ!?
狂ったまま逝かせてやった方がいいのではないのか?」
カイがわけわからんと俺の周りをぐるぐる飛ぶ。
「そうかもしれないけど、俺はあの海竜と話がしたい。」
俺の言葉にぬぬっとカイは呻き、はーとため息を吐く。
「貴様、海竜の記憶を覗いたのだろう? 俺様にはわかるぞ。
覗いたのなら、語り掛けてやればいい。もし海竜にまだ自我と言うものが少しでもあるのなら…可能性はある。」
相変わらずのプライバシーとは無縁な奴だなと思いつつも、いい情報を喋ってくれたのでチャラにしよう。
「わかった。ありがとう」
「素直な貴様は気色悪いわ!!」
お礼を言って駆け出せば、カイの叫びが聞こえた。
◇◇◇
先ほどの様に水圧操作とやらで海の上をぽいぽいと歩きながら海竜を探していると、すぐに見つけられた。
ぼんやりと空を見上げる海竜はやはりでかかった。
そんな海竜に声をかける。
「なあ海竜。お前、カトレアと話したんだろ?
カトレアと会いたいんだろ?」
カトレアと言う言葉に反応して、俺を見下ろす海竜。
「そんな狂った姿、カトレアに見せていいのかよ。
いくら優しいあいつでも、がっかりするんじゃないのか?」
海竜の真っ黒な瞳を真っ直ぐ見つめ、そう声を投げる。
真っ黒な瞳の中に、わずかな光がちらついた。
「…主は、カトレアを知っているのですか?」
__喋った。
俺の言葉はちゃんと聞こえていたらしい。
「ああ。俺はカトレアの幼馴染さ。
いきなりいなくなったのカトレアを探しているんだよ。」
俺の言葉に、海竜の瞳が少し見開かれる。
「お前の記憶を覗かせてもらった。
お前もカトレアも寂しそうだった。
でも、お前と話している時のカトレアは、少し嬉しそうだった。」
淡々と的確に言葉を紡ぐ。
「海竜。俺が言うのもアレかもしれないけど、カトレアと、出会ってくれてありがとう。」
カトレアの寂しさを少しでも和らげてくれた。
それだけで俺は感謝した。
その役目は、俺にあると思っていたから、少しだけ複雑な気持ちではある。
海竜は、俺の言葉を静かに聞くとどこか安心したように目を閉じた。
「ああ、そうか。そう言う事か。
私の神様の神様が、貴方なんですね。
…そうか…よかった。」
よくわからないことを海竜は呟き、俺を見る。
その瞳は、美しい海の色をしていた。
「…私は、カトレアと出会ってよかったのですね」
殺気の抜け落ちた海竜は、ただただ穏やかだった。
「出会っていいとか、悪いとかないだろう。
出会わなければ、何も始まらない」
そう、出会って初めて、好きとか嫌いとか、楽しいとか寂しいとかが生まれるのだ。
海竜はゆっくりと俺に近づいてくる。
「私は、村の者たちと出会ってよかったと思いますか?」
何故、そんな事を聞くのだろう。
「ひとりぼっちだったお前に、光をくれたのなら、それはとても素晴らしい事じゃないのか?」
ハッとしたように海竜は目を見開く。
「…そうですね。
そんな簡単なことを見落としていたなんて、私は本当に馬鹿だ」
くすくすと笑う海竜は、泣いているようにも見えた。
「貴方の名を聞いてもいいですか?」
真っ直ぐ俺を見つめ、海竜が問いかけてくる。
「俺はギムレット。」
ギムレット、と海竜はゆっくりと復唱する。
そして満足そうに笑った。
「ギムレット。私を鎮めてくれてありがとうございます。
何人か、私は殺めてしまった。でも、もう殺めずに済む。
私が殺めた者たちは私が昔助けたとある青年の子孫。
きっと、寂しさから人間との交流と言えない交流のきっかけになってくれた者と一緒に消えたかったのでしょう。
これが後悔と言うものでしょうか。
しかし、貴方のおかげで救われました。
最後に、私のずっと探していた答えをくださり、感謝します」
海竜は優しくそう微笑んで海の中に消えた。
しかし、海を覗いてもあの大きな海竜は見当たらず、ただ俺の目の前には泡沫が広がるだけだった。
「カトレアを見つけたら、また来るよ、海竜」
泡沫にそう言葉を落とし、カイ達の待つ浜辺に向けのんびりと歩き出した。
カトレアに笑いかけた海竜は、一体内を思っていたのだろう。
海竜に笑いかけたカトレアは、一体何を思っていたのだろう。