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セーブ172 憑き神

 先程の嫌な風は何だったのだろうと思いつつ、Queenを抜けるためにも元の大通りに戻ろうと来た道を戻る。

今はさわさわと緩やかな風が流れているだけで、他は何も感じない。


「次はどこへ行くんだい?」


 夜月がアテはあるのかいとばかりに見てくるので、ないけどと返しておく。

悪いがジペイ探しは俺の勘で進む事になっている。

次はどこ行こうな、と空を見上げる。


 ひとつ、強い風が吹く。

 その風の直後、話していた夜月の動きも、トトの動きもカトレアの動きも空竜や海竜、カイまでの動きも止まった。


 嫌な風が次に吹いた。

何かが来ると肌で感じた。

 思わず剣の柄に手をかける。が、かけた直後視界が真っ白なものに覆われた。それと同時に浮遊感もついてきた。


 ふわりとやわらかい感触が頬に伝わる。

しかし、その感触の部分からいい知れぬ悪寒が背筋を這い上がった。


「チッ、憑き神か…!」

「この時代にまだ生き残っていたのか…!」


 夜月とトトの声が聞こえる。

憑き神、と聞こえたがその声はやがて歪んで聞こえなくなる。


「精霊にデーモン、天使に化け物、ドラゴンの次は神かよ。

あ、神ならハックもか」


 舌打ち混じりに呟く。

そして剣の柄を握り剣を迷わず抜く。

体を軸に回転させるよう腕を振れば、シャッと紙を斬った様な音がした。


 視界の白がぼやけて消えた。浮遊感がフッと消え落下してる感覚に襲われる。

どのくらいの高さから落ちてるのかわからないが、この体勢から魔法を発動するのは難しいなと少し焦る。


「いやはや、危ないことするねぇ」


 夜月ののんびりした声と共に浮遊感が戻ってきて、やがて足に地の感覚が戻ってくる。

ハッと夜月の声がした方を見れば、苦笑した夜月が立っていた。


「ええと、ありがとう…?」

「どういたしまして」


 どうやら助けてくれたらしい。

白が消えてから今まで、視界が濁っていたため何が起こったのか把握しきれていない。


「俺ね、超能力的なモノ使えるの。

だから落ちてきたギムを浮かせて地に下ろしただけ」


 すかさず夜月が簡単に説明してくれた。

なるほど、空間魔法の上をいくゲームで言うエスパーか。


「なるほど。夜月はなんでもできるんだな」

「一通りはね。それだけ生きてるから」


 ひら、と袖を揺らしながら夜月は笑う。

そこで気づいたが、この場には俺と夜月しかいない。

しかも周りの風景も随分と変わっている。


 あれ、視界が真っ白になってからそんな時間経ってないはずなのに…。


「ここはねぇ、神様のすむ場所と人のすむ場所との境界線的な空間。

 ギムを拐おうとしたのは憑き神って言う神様のなりそこない。

憑き神を追いかけて来れるのはあの中で俺だけ。他は待っても絶対来れないよ」


 きょろきょろと殺風景な場所を見渡す俺に夜月が簡単に説明してくれる。

神様のなりそこない。あれがか。


「なんかもふもふしてたけど」

「うん、あの憑き神は狐の形をとっていたからね。

 でもあの毛には人間には毒になる成分が含まれてるから普通なら触れたら即死なんだけどねぇ。

ギムは強欲の罪もちだから全く効果がないみたくてよかったよ」

「危なくないか!?」

「うんうん。憑き神はねぇ、人の魂を食って生きてるからねぇ」


 ほわほわとのんきに笑いながら夜月はさらさらと簡単そうに教えてくれる。

いや、実に危ない。そんなものがいたら人間絶滅すんぞ。


「ずいぶん昔に憑き神は滅んだはずなんだけどねぇ。

生き残りがいたみたいだね。」


 夜月は目を細めて笑う。

滅んだ、と聞いて神様って滅ぶのか、と思わず目を丸くする。

 夜月はそんな俺を見てからから笑う。


「世界のバランスを取るためなら、世界は意思を持つんだよ」


 いつもなら、世界で生きている命たちに自分の選択を委ねておくくせに。

自分が危なくなると意思を持って世界を変えてしまう。面白いよねぇ。

夜月はそう笑ってさて、と手を叩く。


「ギムにはつまらない話だよね。大昔の事なんてもう関係ないし。

じゃあ、さっきの憑き神を殺しに行こうか」

「神殺し!?」


 のほほんと笑って歩き出す夜月に思わずいいのかと問うてしまう。

夜月はいいんだよと笑う。


「あの憑き神を殺さないとここから出られないもの。流石の俺でも入ることはできても出ることはできないんだよねぇ。

それに、滅んだものがまだ生き残っているってのは世界にとっても誤算だろうから。殺しちゃった方が世の為人の為、なーんてねぇ」

「出られないってわかって来てくれたのか。ありがとうな」

「あのままギムがいなくなられたらつまらないからねぇ。」


 にこにこ笑って夜月は袖を揺らす。

夜月が歩き出したのでついて行こうと一歩踏み出す。そこで、足元の感覚がおかしいことに気付いた。

 動かなければ堅い地面が、歩くとふわふわする。

トランポリンの上を歩いているような。そんな感覚。

 夜月は特によろけることなく歩いていく。慣れているように歩いていく。

俺は体が上下しながら歩くのに慣れていないため、若干よろけそうになる。


「なあここ、なんか歩きにくくないか?」

「仕方ないよ。ここは俺達の住む空間じゃないからね。

神様の空間。言わばなんでもありさ。歩きにくいなら飛ぶかい?」

「俺フライとかは使えないんだけど」


 さらりと飛ぶかい?とか言われても困るものだ。

夜月はそうじゃなくて、と笑う。


「俺に乗るかい?」

「…はあ?」


 夜月の発言からして、抱っことかではないだろうしそれなら全力でお断りする。

夜月はにこりと笑って指を鳴らす。


 柔らかい風が辺りを包んだ。

ふと夜月のいた場所を見れば、銀の毛並みの不思議な生き物がいた。

 オオカミの様な、猫の様な、狐の様な、犬の様な。

切れ長の目にすらりとした鼻。尾は五本あり丁度成猫サイズの不思議な生き物。


 ぽかんとして思わずその生き物を抱き上げる。


「ギムって小動物好きだよねぇ」


 その生き物から夜月の声が発せられる。

口は開いていないのに聞こえる当たり流石と言うか。


「…なんなのこの姿」

「獣の姿」

「何をモデルにした?」

「うーん、俺の囲ってた子が描いた空想の生き物だからわかんないなぁ」

「…乗せるってったってこんなサイズじゃ逆に俺が抱っこしっぱになんぞ」

「それもいいねぇ。楽そう」


 言葉とは反して、夜月はひらりと俺の手から逃れると一瞬で大きくなった。

ライオンくらいの大きさだろうか。人ひとり簡単に食えそう…と思いながらつやつやとする銀の毛並みを撫でる。


「カトレアが見たら喜びそうだな」

「ギムはいっつもカトレアのことを考えてるねぇ。

まあいいんだけどねぇ。とりあえず乗って。憑き神探しに行こうか」


 乗りやすいように屈んでくれたので、遠慮なく乗ってみた。

乗ってまず驚いたのが、クッションの上に乗っているような感覚に襲われたことだ。


「…お前骨入ってる?」

「最初の感想がそれとは面白いねぇ。入ってるよ」


 元の世界で一度だけ乗ったことのある人をダメにするクッションだったか。

あの上に乗っているような感覚で、沈んでいくような感覚がある。しかし見ると沈んではいない。

 夜月の体どうなってんだと軽く叩いてみるがわからないままだ。

夜月は俺の反応が面白かったのか、けらけらと笑っている。笑い事か?


「喜んでもらえてよかったよ。

じゃあ行くよ。まあ、風圧なんて感じないだろうけどねぇ」

「喜びよりも驚きのが強いんですが…」


 夜月は俺の返事も聞く間もなく地を蹴った。

一瞬だけ後ろに持っていかれそうになるがそのあとは何もない。飛んでいるはずなのに風圧は夜月の言った通り感じないし、ずっと止まっているような感覚で。しかし風景は流れていく。

 車に乗っているような感覚だなと思いながら、さて夜月は憑き神の場所を知っているのか。はたまた俺よろしく当てずっぽうで動いているのか。


 夜月だしどっちもありそう、と思いつつも流れる風景をぼんやりと眺めてみた。

たまにはこう言うのも悪くはない。

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