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セーブ169 夜月の帰還

 城を出るまでに引き止められたのが二回。怪訝そうに見られたのが数えきれず。

 まだ俺たちのことが伝わっていない城を抜けるのには結構苦労した。

一番面倒だったのが地位の高そうな兵士に引き止められたとき。


 モンスターを連れていること、そして顔はバレているらしいアサーティールの勇者である俺が何故ここにいるのかやどこから入ったなど。

やけに敵意を感じたその兵士は二十歳過ぎかそこらと言うまだ若い分類の顔立ちだった。


 かなりの圧力とまくし立てるような質問攻めに悲鳴を上げたのはすぐであり、トトが丁寧に対応してくれた。

 が、トトは何を思ったのかいきなり静かに怒り出してこの兵士消しとばしていいですかなど始まったのでまた悲鳴をあげた。


 見ていられないとでも思ったのか、カトレアが兵士の前にふらふらと出て行き怪訝そうにカトレアを睨む兵士の目の前でカトレアはいきなり猫騙しをした。


 するとどうだろう。

兵士はその場に崩れ落ちて意識を失っていた。


 何をしたのとカトレアを見れば、カトレアは面倒そうに倒れた兵士を一瞥し、俺の手を引いて走り出した。


 トトの、殺さなくてよかったので?などという物騒な質問に答える間も無く半端引きずられるように城の外に走り出た。


 途中何事かと言うように何人もの兵士や使えているであろう人々の視線を頂いた。戻ったときリベルタに小言の一つでも言われそうだ。


「災難だったな」


 珍しく黙って見ていたカイが哀れみの視線を向けてくる。

うるさいと睨めばため息を吐かれた。


「初対面相手にあんなに敵意向けなくてもいいのにね」


 息一つ乱れていない空竜は海竜を抱っこしたまま呆れたように城を見る。

カトレアは城を抜けた途端眠そうにぼんやりとし出した。


「失礼な方でしたねぇ。」


 トトは落ち着いたのか、ため息を吐いて苦笑する。

 トトとあの兵士のやりとりをまともに聞いていなかったため何を言われたのかは定かではないが大方カトレアの事で何か言われたのだろう。

トトが怒るとすれば一にカトレア二にカトレア三にカトレアだろうから。


「で、どうするのだ?

城は抜けたぞ」


 ジペイの居場所に心当たりでも?とカイが聞いてくるので、ぶっちゃけ心当たりのこの字もないわと笑えば馬鹿者と体当たりをされる。


「いつも思うけど体当たりは無いと思う」

「やかましい! なぜ貴様は毎回こうもノープランなのだ!?」

「俺ジペイとそこまで親しく無いからさ…」

「じゃっかあしい!!」


 お怒りのカイを放置して、まずは最初にジペイと出会ったところから一番近かったはずのQueenに行くかと頭の中で予定を組み立てていく。


「Queenにならあるかな、手袋」

「手袋、ですか?」


 はたと思い出したカトレアの手袋の件。

カトレアはまだ言っているのかと呆れたように俺を見る。


「あと鎌」

「鎌、ですか?」


 話の流れを知らないトトは困ったように俺とカトレアを交互に見る。


「そう。カトレアの手袋と鎌。

合いそうなの新調しようかなと思って」


 その言葉で漸く理解したらしいトトは、それならと手を叩く。


「人間の作るものより、精霊様の作ったものの方が合うかと思われますよ」


 にこにこと笑うトトの言葉で反射的にカイを見る。

阿呆とまた体当たりをされる。


「仕立て屋の精霊と俺様を一緒にするな愚か者!!」

「精霊にも色々あるのか」


 へー、と当たってきたカイを掴みながら感心する。


「精霊も大変だな。こんなのが地位高いなんて」

「無礼者!!!」


 俺の知ってる地位の高い精霊でまともなのはまだ会った試しがない。

精霊王とか言うのも腹黒だし…。精霊達に合掌しつつ、トトに向き直る。


「どうせなら、ギムレット様の服も仕立て直してしまえばよろしいかと。

 ギムレット様や主人様は元は人間ですし、戻った時に便利かと思われますよ。

防御力や動きやすさが人間の作るものの何倍も高いですから」


 ね、とばかりにトトは笑う。

と言われましても。


「高価そうだしまず精霊の仕立て屋とかと会う機会がなさそうなんだけど…」


 なあ、とカトレアを見ればカトレアは心底どうでも良さげな顔をする。

そんな顔するなよ…。


「たしかに気まぐれとは聞きますが、海の精霊様や精霊王様がご一緒なら容易いかと思いますよ」


 カイはトトに見られてふんと鼻を鳴らす。

それが肯定の意なのか否定の意なのか今ひとつ分からない。


「俺が掛け合ってみようか?」

「知り合いなのか?」

「まあね。俺の服も仕立て屋さんに頼んだものだし」


 いつの間にか隣に立っている夜月。相変わらずだ。

こちらも当たり前のように話を続ける。


「夜月様はお知り合いなので?」

「うーん、知り合いと言うか…うーん、そうだねぇ。」


 曖昧な返事だが、知り合いなのは確かなのだろう。

夜月は腕を組み、少し考える。


「仕立て屋さんはクセが強いからねぇ。

色々材料を集めて来いとか注文が多い時もあるし気まぐれだから難しいんだよ。

まあ、この面子なら問題なさそうだけどね」


 ちらりと俺の剣を見て笑う夜月。

それもそうか。だが決定したわけではない。


「考えておく。

で、夜月おかえり」

「ただいまぁ。色々わかったよ。

 まあ、いざこざのありそうなこの国にいる時にわざわざ話しても良いことはなさそうだからひと段落ついたら話すよ。

で、誰か探すのかい?」


 夜月はふわりと笑い、すぐに状況を察したらしく話を進める。

話が早くて助かるよ、と返しながらざっと今までのことを話す。


 夜月はなるほどと頷いて、じゃあ探しに行こうかと笑った。


「夜月ってジペイと知り合い…とかではない?」


 のんびり歩き出そうとする夜月に問えば、夜月はどうたったかなぁと笑った。


「俺は物覚えが悪くてね。特に人と関わった記憶をすぐに忘れるからなんとも…、まあ会えばわかるんじゃない?」


 とりあえず歩き出そう、と夜月は笑って俺の背中を押した。

久しぶり、と言う程ではないが数日ぶりに見る夜月は相変わらずでどこか安堵した。


 …そう言えば、夜月と別れて何日経ったんだっけ?

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