セーブ165 スペードとダイヤの能力
「わざわざワイらを待たんでもよかったのに。
ワイらはギムレット達をここまで送り届けたら上には向かわずハートの所に戻るのだがな」
「ここまで連れてきてくれたんだし、礼くらい直接言いたいなって思っただけだよ。深い意味はない」
「フハハ、律儀な奴だな!」
ダイヤに引きずられるようにして戻ってきたスペードは、ジョーカーを見るなりほっと安堵の息を吐きまだここにいる俺らを不思議そうに見ていた。
ジョーカーも別に待ってなーでもよかったでしょ?と苦笑した。そうは言われてもやはり例は言いたい物だ。
ダイヤはジョーカーを見るなり嬉しそうに飛び跳ねていたし、やはりジョーカーはA隊のやつらにとって特別なのだろう。
「ワタシが思ったより来るのが遅かったよーですが、なにかありゃーした?」
どうやらジョーカーが予想していたよりも二人の到着は遅かったらしい。
ジョーカーが少々心配そうにスペードを見るので、スペードはなに、大したことないさと笑う。
「別軍の連中に絡まれてな。なぁに、手は出してないし怪我もない。問題ないな」
からからと笑うスペード。別軍、と言うと先程の喧嘩をしていた青年二人の様な軍人だろうか。
「A隊ってそんな他の軍から嫌われてんの?」
俺の問いに、スペードはそんな事はないはずだぞと笑った。
ジョーカーはため息を吐いて苦笑する。
「嫌われているといーましょーか、嫉妬と言いましょーか。
隊長さんの力がこの前の一件で表ざたになってしまーして、まー色々あるんでしょーな」
スペードの能力、と言われてそう言えばこいつの能力って何なんだろうとスペードを見る。
やばいってのくらいしか知らないし、少し興味がある。
いつだったか「殺したいと思えば殺せる」とかなんとか聞いたような。
「ワイの能力はシンプルなのだ。
殺すと思った相手を的確に殺していくシンプルで危ないモノだな!
死の風と呼ばれていてな、ワイの認識は曖昧でも思えば殺せる。顔を知らずとも、個人だけでも、複数人でも、何と言うか、この世界の生き物は全てデータとして認識していて殺したいと思った奴のちょっとした情報があれば、そのデータの記録と一致した人物を的確に殺せるのだ。
国よ滅べと思えば国は勝手に滅ぶしな。フハハ、ワイもよくわかっとらんがワイがこの能力を使えるのはA隊に何かがあった時だけなのだ。
ワイは殺意や憎悪と言うモノが非常に薄くてな。A隊絡みじゃなければそんな感情抱きもせん。
この能力の発動条件は恐ろしいほどの殺意と憎悪と言うワイにはちょいと難しいモノなのだ。」
「殺すと思っていない相手さんには効かーせんしな。
国一の殺戮兵器と呼ばれちゃーいーすが、現実的に殺戮兵器なのはダイヤさんでしょーな」
恐ろしい話を聞いた気がする。敵に回したらやばそうなのはよくわかった。
ダイヤ、と言われてジョーカーの周りをうろちょろしているダイヤに目をやれば、ダイヤはにっと笑う。
「ボクの能力は相手の持つ財産や地位を巻き上げて金として具現化させることゾ!!
ボクお金とかよくわかんないから使った事ないゾ!!」
少々聞いていたのと違う話に若干驚きつつスペードを見れば、
「ダイヤはな、能力"は"使わずに戦うんだ」
にっとスペードは笑った。
あの恐ろしい拳は能力ではないと言う事か。益々恐ろしい。
「A隊の皆さんはー、実験動物の時期もあーしたしまあ人ばなれた身体能力だのなんだの持ってるんでしょーな。
攻撃性に特化したのがダイヤさんでしょーぞ。」
戦車相手にだってタメはれましょーよ。とジョーカーはにっこり笑う。
え。危なくない? とダイヤを見れば、ダイヤはきょとんとしている。
「恐らく、ダイヤ様は自分の意思では動けないのでしょうね」
そこでトトがタイミングよく助け舟を出してくれた。
「自分の意思で動けない者は、いくら強くてもガラクタにすぎませんし。
大方、司令塔はジョーカー様とスペード様と言ったところでしょうか。」
言い方はアレだが、悪気はなさそうなのがなんとも。
「当たりですなー。
お察しのとーり、ダイヤさんは命令がないと、指示がないとなーんにもできない子なんでしょーや」
「可愛いだろう」
特に機嫌を損ねる様子もなく二人はにこにこしている。
スペードはうんうんと満足そうに頷いている。
「…前から思ってたけど、あんたらダイヤに甘くない?」
俺の言葉に、スペードは当たり前だろうと腕を組む。
あ、当たり前なんだ。
「ワイらのなかで最も火力のあるダイヤが一番馬鹿でマヌケな末っ子だぞ?
甘やかしてなんぼだろう!」
「甘やかし過ぎにはきょーつけなせんけど、ダイヤさんの場合甘やかされてるかどうかもよくわかっとりゃーせんしなぁ。
周りが勝手にちやほやしてるだけでしょーな。」
「ダイヤに反抗期など来てみろ。
A隊が壊滅するぞ。ワイを筆頭に。」
はっきりと言いきったスペードに何を言えばいいのかわからなくなる。
「ライラ様に嫌いと言われたときのギムレット様みたいなものでしょうかね」
「ああ成程」
さらっとトトが言った事ですぐに腑に落ちた。
ライラに拒絶されたことがほぼないが、喧嘩した時に言われた拒絶の言葉は致命傷もいいところである。
「A隊のバランスがちょーとばかしおかしーのはわかっとーんですが、ワタシも人のこと言えーせんからなんとも。
まー、これでもう長くうまく行っているのですしいーかなと」
ジョーカーは何も考えていない様な笑顔でからから笑う。
確かに、現状をどうこうするのはデメリットもついてくるし簡単にはいかないのだろう。
それに、A隊が満場一致でそれでいいと言うならもう何も言う事はないだろう。
思わぬ形でA隊の事を知れたのはいいが、それと同時に絶対に的には回したくないなとそっと心の中で思った。
負けはしないだろうが、勝てるとも思えない。できれば仲間側であってほしい。本当に。