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セーブ156 軍事情

 部屋を出ると、そこは通路だった。

暫く一本道だったが、途中でY字路になっており更にそこから十字路になっていたりと迷路の様だった。

 スペードはするすると迷うことなく進んでいく。貰った地図を途中見て見るが、めちゃくちゃ複雑で目的地に辿り着ける気がしなかった。スペードがいて助かった。


 複雑な道を抜けた所は少々賑わっている商店街の様なところだった。

地下なのに相変わらず明るく空がある。まるで地上の様な場所。


「よし、抜けたな」


 スペードはにっと笑って振り返る。


「抜けたなって。もしかしてまぐれか?」

「まさかぁ! と言いたいところだがまぐれだな!

ここらは管轄外でな。ワイはあんまり来ないのだ」

「すげえ失礼なこと承知で聞くね?

お前なんで道案内に選ばれたの?」


 最悪迷っていたかもしれないと言う事だろうか。恐ろしい話だ。


「ハートを除いたA隊で一番暇で常識があるのがワイだからだろうな!」


 はははと笑いながらスペードは楽し気に目を細める。この人何なんだろう。任せて大丈夫なのかな。


「結果オーライでいいではないか。

丁度店の集まる場所に出たのだし休憩して行こう」


 スペードはそう言うとつかつかと商店街らしき場所に歩いて行ってしまう。


「大雑把な方ですね。面白くて私は好きですよ」

「大雑把すぎないか…」


 トトが楽し気に笑うので少々げっそりしつつため息を吐く。


「ボクあいつ嫌い」


 空竜はそっぽを向いて不貞腐れた様に頬を膨らましている。


「あれ、ダイヤは?」


 そこで、先ほどまで大人しくついてきていたダイヤがいないことに気付く。

カトレアを見れば、首を横に振られる。カイも知らんと偉そうに腕を組むし…まあ、ダイヤが簡単にやられることはないだろうし、スペードも焦っていないから大丈夫だろうう。


 スペードの呼ぶ声が聞こえたので、行こうかと仲間達に声をかける。


◇◇◇


「軍同士のいざこざが多くてな」


 スペードが適当に選んだらしいカフェに入ればなにやら怒鳴り声が聞こえてきた。

スペードはしらっとそんな事を言ってくる。


 怒鳴り声の方を見れば、若い青年同士が何かを言い争っていた。あれ以上になれば殴り合いになりそうな勢いで。

 片方の青年の頬にはKと言うマークが記されており、片方の青年の頬にはJと言うマークが記されている。

確かこの国の軍ってKing…ジペイの軍をトップに成り立ってるとか言ってたような…あのKがKingの頭文字ならJはJackだろうか。


「気にすることはないぞ。」


 スペードは争い事よりも食べ物なのか、ほれ、とメニューを渡してくる。呑気だな。


「なあ、あの二人ってもしかしてKing軍とJack軍?」


 受け取りつつ、それを興味津々な空竜に見せながら聞いてみれば、スペードはよう知っとるなと笑う。

ちらりとそろそろ殴り合いが始まるであろう青年二人を見たスペードはうむと少々考え、


「前の一件からな、軍同士の関係が悪くなったのだ。

 特に表に立つトップ3のKing、Queen、Jackの軍がな。理由はなんだったかなぁ。前の一件でその三つの軍はあまり活躍ができなくてなぁ。

地下の出来事はと言え結構重大な問題に関われずほぼワイらA隊と部外者であったギムレットでどうにかしてしまったとなるとどうにもプライドが云々…とかなんとか。


 脱走したキメラ達に食い殺されたりしたやつもいるらしく大変みたいだぞ」


 しらっとあまり興味なさげにスペードが教えてくれる。

なんか大変そう、と思いながらもヒートアップしている青年二人を止めなくていいのかとスペードを見れば、


「ワイらA隊は実験班に関わっとるやつの集まりや。

 実験班の引き起こした事件で活躍できんかった連中にとっては実験動物出のワイらA隊は八つ当たりの恰好の的にされかねん。


 どんな難癖をつけられるかわかったもんじゃないし、別に好きに争って好きに馬鹿になればいいだろう。」


 ひらひらとメニューを団扇のようにさせながらスペードはからから笑う。

 いや、実験班に捕まってたからって難癖付けられるのっておかしくないか、と思ったが、まあ理不尽に八つ当たりされる世の中だし苦労してんのかなと結論付け言葉は飲み込んだ。


「いやはや、人はめんどくさいですねぇ」


 トトが面白そうに青年同士の喧嘩を眺めている。流石悪魔と言ったところか。止める気もなければ慌てる様子もない。


「ワイはな、A隊に、ダイヤが笑ってればそれでいいんだ。

他の軍のことなんざ知らん知らん。そう言えばダイヤはどうした?」

「遅くない?」


 ダイヤが撃たれたときもそうだったが、スペードはダイヤを特別大切に扱っている。いや、A隊自体がダイヤを大切に扱っているのか?

ダイヤがあの喧嘩に巻き込まれたらスペードが綺麗にキレそうだなと思いながら、ため息を吐く。


「にしてもさ、誰も止めないのかよ、喧嘩」


 店内の連中は喧嘩を完全に見て見ぬふり。いや止めろよ。同僚一人くらいいるだろう。


「ピリピリしとるんだろうなぁ。止めようとしても煽り煽られでもっと酷い喧嘩になるっつーかなんつーか。

ま、ここらには例の三つの軍のやつらがたむろする場所だし喧嘩なんて日常茶飯事なんだな」


 やだやだとスペードは笑う。

 あんまり酷くなったら止めようかと思ったが、関わらない方がよさげなのか。不法入国だし知らない相手だしモンスター連れてるし。少なからず難癖つけられそう。よくここまで何も言われずに来れたものだ。


 と、まあ、思っていたよ。

 カッとなったであろう喧嘩してる片方の青年が勢いよくガラスのコップを投げるまでは。

別に投げてもいいよ。それがこっちに飛んでこなければ。

よくありがちなことが起きなければ俺は何も言わなかったよ。


 問題はそこからだ。

ガラスのコップが俺らの方に飛んできてすぐそばの机に当たり見事に割れた。

その破片がカトレアの頬をざっくり切らなければ俺も何も言わなかったよね。うん。


「ギムレット、落ち着け」


 反射的に剣の柄を握って一歩踏み出したところで慌てたようにスペードに止められる。

カイも頭上でカッとなるな阿呆とべしべし頭を叩いてくる。


「いいのではないでしょうか。ここ一帯消し飛ばしても」


 そんなスペードとカイを宥める様にトトが恐ろしい事を言う。それはどうかと思う。と思いながらも、まああの喧嘩してる連中一発は殴りたいよね。と笑う。

スペードがやめろやめろ怒られるぞと慌てる。


「カトレア、傷大丈夫か?」


 仕方ないので一度柄から手を放してカトレアに問えば、カトレアはぽかんとして自分の頬を抑えている。

血が結構出ている。ざっくりやられたな。


「コップ投げるのはどうかと思うよなぁ」

「器物破損だが、あの阿呆共は見事に周りが見えていないからな。困ったものだ」


 水魔法でカトレアの傷口を綺麗にして応急処置をしながらため息を吐く。

スペードも苦笑してメニューをひらひらさせる。

空竜と海竜はむっとしたように喧嘩をしている青年二人を見ている。


「よし、できた。

殴って来る」

「待て」


 カトレアの手当てが一段落ついたので落とし前付けさせてくると言えばスペードがまだ言ってるのかと俺の肩を掴む。


「やっぱりさ、無関係な奴、しかも女の顔傷つけたら殴られるのは仕方ないと思うんだよな、俺」


 一発だけだから、ついでに殴られれば少しは頭冷えるだろ、とスペードに言えば、スペードは呆れたようにため息を吐く。


「じゃあさ、もし今のでダイヤの頬ざっくりやられたらお前どうするの」


 少々卑怯だが、例え話を持ち出せばスペードはぽかんとする。

そして俺の肩から手を放し、


「死なない程度にならやっていいぞ」


 にっこりと笑ってくれた。素晴らしい掌返しを見た気がする。

やっぱりスペードはダイヤの事を馬鹿みたいに大切にしている。俺がカトレアを大切にしているのと 同じくらいには。意外な共通点を見つけたな、と思いながら俺を止めるのがカイだけになったので意気揚々とまだ騒いでいる青年二人に向かって歩き出した。

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