セーブ154 チェス帝国へ
チェス帝国に行くとしても、数日後にはぼたんの国に戻らなくてはならないのであまりのんびりはできないなと思いながら空竜をどうにかこうにか丸め込み元の場所に戻ってきたのだが、問題が一つ生じた。
空竜をどうするか、と言う問題だ。このまま連れ歩いたら、ぼたんの国に行った時にはい攫いましたと言っているようなものだ。
チェス帝国に連れて行くにしても、まずあそこはモンスターを受け付けないと前カトレアが行っていた。あれ、今の俺の旅仲間ってほぼほぼモンスターじゃん? まあどうにかしよう。
そしてないだろうが実験班の連中と出くわしたら面倒なことになりそうだ。
「空竜、お前はこれからどうするつもりだ?」
「ギムレットについてくよ?」
きょとんと当たり前だろうと見上げられて頭痛がする。
クリアネスは我関せずと言った様子で知らん顔をしているし、とりあえずカトレアやトトと合流するかと苦笑した。
◇◇◇
「元のギムレット様にお戻りになったのですね?」
案外、速く合流できた。
トトの連れて行ってくれた別空間にどう行こうかとうんうん唸っていたら、向こうから戻って来てくれたのだ。
カトレアは俺を見て一瞬驚いたように目を見開いたが、それもすぐなくなり駆け寄って来てくれた。
海竜は相変わらずカトレアに抱っこされている。空竜を見てきゅいきゅい鳴いており、カトレアの腕から飛び降りで空竜に駆け寄っていた。あの一触即発な雰囲気は何処へ行ったのか。
トトはトトで驚いたように笑っていた。
「そう。
空竜が色々やってくれたみたくて。あとハックにも会った」
「息の根は止めました?」
「トトってやっぱハック嫌い?」
「それはもう。エニシダの次に嫌いですよ」
にこにこと笑ってトトは言うが、トトの笑顔には嫌悪が現れていた。エニシダも嫌いなのか。俺と一緒だな、と戻ってきたエニシダへの嫌悪を噛みしめつつため息を吐く。
「ハックは空竜でも歯が立たなかった化け物ってのがよくわかったし、色々アドバイス貰ったから見返してやろうかなと思っている」
「徹底的にやり返すのが一番だと思います。で、何を仰っていたので?」
トトの問いにチェス帝国を指差す。トトははて、と首をかしげる。
「あそこの帝王のジペイがうまくすれば協力してくれるかもしれないってことがわかった」
「…チェス帝国の帝王様が?」
「あ、トトってチェス帝国嫌いだっけ?」
「好きではないですねぇ…」
それに、あそこはモンスターの入国を許さないはずですが、どうするので? とトトは笑う。
どうしようね、とクリアネスを見れば、肩をすくめただけで何も言ってはくれなかった。
さあ、どうしようか。
若干現実逃避を交えつつ淡く滲み出した夕日色の空を眺める。
全く考えていなかったし忘れていたチェス帝国の最難関。モンスターを国には入れない。トトや空竜は置いてくとしても、カトレアを置いてくわけにはいかないし…どうしたものか。本当に。
「モンスターダメって言う割には地下にわんさかモンスターいたよな。矛盾してるよあの国」
頭痛のしてきた頭を抑えつつため息を吐く。
「国として成り立っているのは地上だけだゾ! 地下はある意味チェス帝国ではなかったりするゾ!!
チェス帝国がモンスターを受け付けないならチェス帝国と言わない地下に来ればいいゾ!!」
「おう、久しぶりだなダイヤ」
音もなく空から降ってきたぞこいつ。
暗殺者だか何だか知らないが、こいつは本当に神出鬼没だ。しかし俺の周りは神出鬼没の巣窟。だいぶ耐性ができていたため悲鳴を上げることなく対応できた。
「ギム相手なら、王様もお話聞くと思うゾ!!」
相変わらず楽し気に笑っているダイヤ。
最後に見た時は随分ぼろぼろだったし死にかけていた記憶だが、元気そうで何よりだ。
「つか、A隊が表に出てていいのか?」
ふと気になったことを問えば、ダイヤはうーんと少し考え、
「ダメだゾ?
でもボクは暇だから抜け出してきたゾ!! 内緒だゾ!!」
「…内緒も何もスペードやハートにはばれてそうだけどな…?」
「怒られるのは嫌だゾ!! ボクもう戻るゾ!!」
俺の言葉にハッとしたダイヤはすたこらとチェス帝国の方に駆けて行く。
ダイヤを追いかければどうにかなるのでは、と言う考えが頭をよぎる。ダイヤの向かう先にはきっとA隊がいるだろう。
ハート辺りと会えれば話が速いはず。
「クリアネス、剣に戻ってくれ。
カトレア、トト、空竜はぐれるなよ。ダイヤを追う」
ぱぱっと仲間たちに指示を出せばクリアネスはうまく行くといいですねぇと笑って大人しく剣に戻ってくれた。
カトレアは海竜を抱き上げ、トトは承知とばかりに頷く。
空竜ははーいと元気よく返事をしてくれる。
ダイヤは相変わらず身軽で足が速い。
少々遅れを取りつつも見失わずに追いかける。
久しぶりと言う程久しぶりではないが、チェス帝国はあれからどうなったのだろうと少しだけ楽しみにしつつ、面倒事が起きませんようにと小さく祈りながらダイヤの後を追った。