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セーブ147 空竜の試練

 びゅう、と言う冷たい風で目が覚めた。

ん? 風?


 何で風。と起き上がると、ものすごい風圧が押し寄せてきた。


「なんだ!? って、さむっ!?」


 慌てて伏せる様に体勢を元に戻してみたが、無駄に寒い。

何事だ。と状況が今一つ理解できずに混乱していると、俺が寝ていた地面が変わっているのに気づいた。

 いや、これは地面じゃない。


「まてまて、なんで空竜の背中に乗ってんの!?」


 正確には、空をものすごいスピードで飛ぶ空竜の背中。

 あれ、空竜って俺の事めちゃくちゃ威嚇してなかったっけ? なんで乗せられてるの? 威嚇してた相手を運ぶなら銜えるとか他に方法あるんじゃない?


「お、おい、空竜!! 一体何なんだ?」


 顔を上げると恐ろしい風圧で息ができないので体勢はそのまま、叫ぶように空竜に声をかける。

が、反応は無い。なんなんだ?


 見える範囲で、空竜の背に乗っているのは俺だけの様だし。カトレアやカイ、トトはどうしたのだろう?

剣は腰に引っ掛けてあるので空竜が飛ぶのをやめたらクリアネスにでも聞こう。


◇◇◇


 空を恐ろしいスピードで飛ぶと言う事は、それだけ冷たい空気に全身を冷やされると言うわけで。

いくら人間もどきの俺でもそろそろ命の危険を感じ出した頃、ようやっと空竜は速度を落として地に降りてくれた。


 そこはしっとりとした空気の漂う場所で、ごろごろと丸い岩が落ちている。

岩や地面には苔が生えており、むせかえるほど苔の香りがする。さらさらと流れる小川もすぐ傍に在り一体ここは何処なのだろうと混乱する。


 いきなり空竜の背の角度が変わり呆気なく地面に落ちる。受け身は取ったので問題はない。


「ええと…空竜?」


 おずおずと空竜を見上げると、空竜はじっと俺の事を見つめる。

顔の高さが随分と違う為見上げている首が痛くなりそうだ。


 靴越しに感じる苔の感触がやけに心地よくて、ぼんやりと辺りを見渡す。

ここに生えている苔は、うっすらと光を放っている。


「ぼたんの国の地下にあった、光る水みたいだな」


 つんつん、と岩に生えている苔をつっついて呟くと、空竜がぴくりと反応して俺の傍に顔を降ろしてきた。


「なんだ?」


 苔、触らなかった方がよかった? とのんきに聞けば、空竜はじっと俺を見つめ、そして苔を見つめる。


「光る水って、綺麗だった?」

「お前漸く喋ったな」


 しばらくの沈黙の後、思ったよりも少年の声で空竜が訪ねて来た。

ホッと安堵しつつ苦笑すれば、空竜はむっとしたように俺を睨む。


「悪い悪い。怒るなって。

光る水が綺麗だったかって話だろ? すごい幻想的で綺麗だったぞ。

濡れないし、綺麗だし、不思議なものだった」


 何か知ってるのか、と聞けば、空竜は少々考える様に間を置いた後、


「キミが見つけた水は、源の神秘だよ」

「みなもとのしんぴ?」

「なんで、キミみたいな罪人がその場所に行けたのかはわからないけど、キミはボクを助けてくれたんでしょ?」


 空色の瞳でじっと見つめられる。

どうやら、状況を随分と理解しているらしい。聞きわけの良いやつだなと感心すれば、


「姉さんから、聞いたから」

「姉さん?」

「今は、妹になっちゃったけど。海竜だよ」


 ああ、そう言えばトトがエニシダや空竜、海竜は兄弟と言っていたな。

確かに、海竜は女性っぽかったし。成程、生まれ変わった海竜も女なんだ。


「助けてくれてありがとう。でも、ボクはまだキミを信用できない。」

「信用できない相手を背に乗せてこんなところまで連れてくるなんて酔狂なことするな。お前」


 結局なんでこんなところに連れてきたんだよ、と空竜の鼻先を突けば、空竜は嫌そうにそっぽを向く。


「ボクは、キミが何なのかを知らなくてはならない。

兄さんの方は、罪人に興味なんてないし、姉さんはまだ小さすぎる。陸海空を司るドラゴンで一番しっかりしなくちゃいけないのは、ボクだから」

「苦労してんのな」

「キミらのせいだけどね」


 空竜は顔をまた高い位置に戻し、空を示す様に空を仰いだ。

空は無駄に青くて丁度昼と言ったところか?


「今からボクはキミを試す」

「唐突な」


 ばさ、と翼を広げ空竜は一つ羽ばたく。

それだけでかなり強い風がその場に巻き起こる。


「この小川の川上までキミが来れたのなら、ボクはキミを信用しよう」


 さらさらと流れる小川を示して、空竜は一方的にそう告げて突風と共にいなくなってしまった。


「…わけがわからないんだけども」


 一人取り残された空間で、どうしようとため息を吐く。

クリアネスにまず状況説明を頼むか、と剣を引き抜き刃をこつこつと叩く。

 しかし無反応。あれ、もしかして剣に戻ってない状態できちゃった? でもあいつなら戻ってようが戻ってまいがどこにでも出てきそうだけど…。


「川上、だっけ」


 小川に近寄り、川上の方を見上げる。

この場所以外はどうやら霧が立ち込めている様で、遠くは見えない状態。


 この霧の中を迷わずに進めと言う事なのか? それなら、川に沿って歩けばいいだけだろうし…。

試すとか言っていたが、あいつの目的はなんなのだろう。せめて教えてほしいものだ。


 カトレアもカイもトトも、クリアネスもいない状態なので俺がどうにか頑張るしかない様だ。

気は進まないが、ここでうだうだしていてもどうしようもない。それに、俺がいない時にカトレアに何かがあったらたまったものではない。


 とっとと川上に行って空竜を満足させて元の場所に戻してもらおう。


 のろのろと川上に向かって歩き出しながら、一筋縄ではいかないんだろうなと内心げっそりしている俺がいた。

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