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セーブ144 十日後の約束

「カトレア、無理するなよ」


 剣を引き抜きながら不機嫌そうに俺の横に立つカトレアに声をかければ、カトレアはわかってるとばかりに目を逸らした。

 まだご機嫌斜めかよ、と苦笑しながら、カトレアがどれだけやばい力を持ってるのか少しはわかるかもなと若干楽しみだ。


「あと、殺すのは無しだからな。」


 間違って、殺したら大変なことになる。

カトレアはぎろりと俺を睨む。そんなことするわけないでしょうと言う様に。

 ごめんごめんと笑えば、カトレアはふんとそっぽを向いて駆け出した。駆け出した先にはナシュが居るので、カトレアはナシュを相手にする気なのだろう。

先程の蹴りと言い精霊の丘での出来事と言い、まあ大丈夫だろうと思い俺はラベンダーに向き直る。


「随分と人が変わってしまったようだがね、いいかいギム。

あんたはそんな状態でもまだ勇者って役職があるんだ。けじめをつけてから好き勝手しな。」


 ラベンダーはそう言って、腰から魔女の杖を抜いた。

ガン、と地に杖先を叩きつけると、その部分からこちらに向けて大きな亀裂が走る。

魔力だけで、あれほど地面を割れるのはラベンダーくらいだろう。


 ラベンダーの正論を聞き流しながらひょいひょいと亀裂を避けて距離を縮める。


「今の俺が、アサーティールに戻ったらきっとしばらくは自由を制限されるだろうな」


 俺が思ったよりも速く動くので驚いたらしいラベンダーを無視して、すぐ斬りつけられる距離まで来てにっこり笑う。

ハッとしたラベンダーが杖を横に振る。

 それを飛んで躱す。杖が振られた後には鋭い風が飛ぶ。躱してなければ大怪我してたな、と笑いながら距離を取る。


 ラベンダーは結構マジになっているらしいが、違和感を感じる。

なんでだろう。ラベンダーってこんなに弱かったっけ? こんなに、読みやすいやつだったっけ?


「なあ、お前本当にS帯?」

「はあ?」

「いや、やっぱなんでもない」


 別に、剣を抜くほどの相手じゃないなと思いつつここで剣を鞘に納めたらラベンダーが何をしでかすかわからないので握っておく。

 ラベンダーは確かに動きは速いし、的確にこちらの隙を突いてくる。だが、遅すぎる。

隙を突かれてるのに、ひとつも当たらずに掠らずに、避けきれるのだ。


「ギム、あんたこの短期間でなにがあったんだい?」


 バシッと風魔法を薙ぎ払いながら少々焦ったようにラベンダーがこちらを見る。

そこで、大きな音がした。


 なんだ、と音の方を見ればナシュが倒れていた。

その横にはあの大きな剣が刺さっており剣にはひびが入っている。


 そんなナシュを見下ろす様に立っているカトレア。

あれカトレアがやったのか。この短時間で。あのナシュを。


 ひえ、と苦笑しながらカトレアに声をかける。


「カトレア、もういいぞ。戻ってこい」


 おいでおいでと手招きすれば、カトレアは一瞬こちらを睨んだものの、ふんと鼻を鳴らして渋々と言ったように駆けよって来る。

 行動と表情が一致してないじゃんと思いながらカトレアの腕を見れば、やはり精霊の丘で見た時の様なものになっていた。


「大丈夫だったか?」


 俺の問いに何ともないとばかりに頷くカトレア。

うーん、あのナシュをあっさりと戦闘不能に追い込む辺り、カトレアの今の力は未知数過ぎる。全然本気じゃないっぽいし。


「…ギム、そのカトレアは一体…?」


 ナシュとカトレアを交互に見て、ラベンダーは引きつった表情で俺に問いかけてくる。

そんな顔するなよ…。


「モンスターになったから、めちゃくちゃ強くなったらしい。

これでも結構本来の力抑えてる状態らしいんだけどね」


 ぽんぽんとカトレアの背を軽く叩きながら笑えば、ラベンダーは困惑したように何かを考え出す。

戦闘中なのにいいのかな、と思いながら、向こうが戦る気じゃないならまあいいかと剣を鞘に納める。


「…ギム、空竜はどこだい?」

「知らんて」

「すっとぼけなくていいよ。

 あんたが馬鹿みたいに強くなっていて、カトレアもそんな状態。

先程あたいの魔力を跳ね返した魔力はギムのものじゃないと思ったが、今のギムなら普通にあり得ることだ。


 隠さず話してくれないかい? あんたのしたことは、かなりやばいことなんだよ」


 珍しく真面目な表情でラベンダーが俺を見つめる。

どうしよう、とカトレアを見れば、戦闘の時はいなかったはずの海竜がいつの間にか戻ってきており、それを抱き上げようとしていた。


「カイ~」

「なんじゃ」


 だめだ話聞いてない、とカイにヘルプを求めれば、カイはひゅんと飛んできた。

こっちも話聞いてないじゃん。


「空竜云々どうする」

「だから知らんと言っておろうが!」


 ぎゃんぎゃんと騒ぎ出すカイに、ラベンダーはため息を吐く。


「わかったわかった。空竜の事は保留にするさね。

ただ、ギム。あんたは一緒に来てもらうよ。」

「遠慮しとく…」


 話にならんとラベンダーは腕を組んで俺を睨む。

そんな怒らなくてもいいじゃんか。


「やめとけ。今のこいつをアサーティールに連れて行ったら大変なことになりかねん。

 放浪させ、好きにさせておくのが一番安全なんだ。束縛などしてみろ。国一つ滅ぼすぞ」

「なあカイ。仮にも契約者の事なんだと思ってんの?」

「黙っとれ」


 べしっと叩かれたので黙っておく。

俺そんな国一つ滅ぼす力なんて持ってないぞ。


 ラベンダーは少々俺を見た後、うんうんと悩み出す。


「なるほどねぇ。ギムも化け物ってわけかい。

どうしたものかねぇ…。連れて行かねば証明などできないし…。」


 ラベンダーはため息を吐いたあと、ぱんと手を叩いた。


「わかった。十日後ぼたんの国に集合ってのはどうだい?

あんたの会いたがってるライラも連れてきてやるさね。」

「…どうしよう。俺今から旅始めたいんだけど」

「どこに行く気かは知らないが決まりだよ。

十日後、必ずぼたんの国に来な。」


 一方的に約束を取り付けると、ラベンダーはナシュの方に駆け寄って行ってしまった。


「どうしよう。十日後だって」

「それでケリがつくなら行けばよかろう。

それまでに空竜を解放しておけば空竜の件は夜月辺りが揉み消してくれるだろう。」

「そうなの?

じゃなくて。十日後って俺どこにいるかわからないんだけど。」

「俺様が特別にテレポートをしてやるから安心しろ」

「ええ…」


 どうやら逃げ道は無いらしい。

若干げっそりしつつ、まあ仕方ないかと割り切って、とっとと未知の草原に行こうと切り替える。


「じゃあな、ラベンダー。

十日後また会おうぜ」


 ひらひらと手を振ってラベンダーに声をかければ、ラベンダーははぁ!? と俺を見る。なんだ。まだあるのか。


「なんだいもう行っちまうってのかい?」

「うん。じゃあね」


 ひらひら手を振り四季の森の方に歩く。

カトレアはじっとラベンダーを見た後、ふんふんと何か勝手に納得したらしく満足そうに頷いて俺の隣に小走りで戻ってくる。


「未知の草原行くにはチェス帝国だっけ」

「そうなるな。」

「ジペイに会えるといいなぁ」


 呑気に笑いながら、背中にラベンダーの制止の声を聞きさてチェス帝国では何が起きるだろうと想像を広げてみた。

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