セーブ143 再会後戦闘
「…ラベンダー?」
「…なんだあんたがここにいるんだい?」
お互いがお互いを認識して、数秒間は沈黙が流れたが、恐る恐ると俺が向こうに声をかけることによりその沈黙は破られた。
そう、出てきたのはラベンダーとナシュだった。その後ろにはぼたんの国にいた兵隊たちがちらほらいる。
ラベンダーも俺の声によってハッとしたみたいだった。ナシュは呆然と俺とカトレアを交互に見ている。
あれ、なんで俺とカトレアだけなんだろう。もっと見るべき奴いるだろう、と策士三人組を振り返る。
「…逃げたなあの野郎共」
クリアネス、夜月、トトがいた場所には何もいなくなっていた。
ひゅう、と冷たい風が俺の頬を撫でる。
クリアネスはきっと俺の剣の中に逃げ込み、夜月は砂漠の中に戻ったのだろう。
トトは多分秋の森辺りにでもテレポートしたんじゃないのかな。次会ったら一発殴ろう。
「居ない方が、話がややこしくならんからいいと思うぞ」
カイが俺だけに聞こえる様に笑った。
まあ、確かにあんなチートっぽいの三人も連れていたら説明が面倒過ぎる。
「…なんであんたがここにいるんだい?
もしかして、空竜を攫ったってのはあんたかい?」
心の中でクリアネス達に毒づいていると、ラベンダーが困ったように声をかけてくる。
攫った、と言うか助けた、と言うか。まあ、国からしてみれば攫ったが正しいのか。
さて、ここでどう答えるか。
ラベンダー達は十中八九空竜を回収しに来たのだろう。
ここで俺が肯定すれば俺はたちまち犯罪者になりかねない。あれ、でももう俺罪人だし犯罪者になろうがあんま変わりないんじゃ…?
「知らんな。俺様達がここに来たのは俺様があの夜月に少々訪ねたいことがあったからだ。
確かに、空竜がここにいた様な気配はあったが、俺様達も今さっき来たばかりだ。俺様達が来た時にはもう何もいなかったぞ」
ふん、と腕を組んでカイが代わりに答えてくれた。大嘘をよく涼しい顔でほざけるな、と感心しつつ適当に話を合わせるべく頷いておく。
「…そうかい。
まあ、確かにあたしの魔法を打ち消したあの魔力。ギムにしては少々強すぎた気もするからねぇ…」
若干疑わしそうだが、証拠がないせいかあまり突っ込んでこないのにホッと胸をなでおろしつつ、あれ、俺サラッと雑魚扱いされてない?と引っかかりを覚える。
悶々としている俺を無視して、カイは淡々と話を続ける。
「お前たちは何をしに?
そもそも何故人ごときが空竜を知っておる?」
「おや、知らないのかい?
ぼたんの国の連中が、空竜を保護したらしくてね。保護した途端何者かに攫われた、と聞いたよ」
保護とは。と哲学に走りそうになりながら、アレは保護じゃあないだろうと内心苦笑する。
あれだけ寒い部屋に閉じ込めて、死ぬ一歩手前まで追い詰めて保護とはよくほざく。ぼたんの国は一体どうなってしまったのだろう。
ハックの兄貴のハウラは何をしているのだろう。
「あ、そう言えばラベンダー。ライラは?」
「あんたはあたいらたちの話を聞いていたのかい?」
「聞いてたよ」
「口を挟むタイミングってモンを知らないのかい? ちょっと黙ってな」
「はい…」
にっこりと久しぶりに圧をかけられ大人しくしておく。
カトレアは最初こそカイとラベンダーの話を真面目に聞いていたが、飽きてしまったのか海竜を撫でている。
「…あの、一つよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
おずおずとナシュが手を上げる。律儀だな、と思いつつ何だろうと様子を見る。
カイが首をかしげると、ナシュは困惑したようにカトレアを指差す。
「…それは、海竜、ですよね?」
正確にはカトレアに抱えられている海竜を指していたらしい。
俺に説明を求める様にナシュが見てくる。
「あー、なんかアトラスの村に行った時、出会ってさ。カトレアに懐いちゃって離れないから連れまわしてるって言うか…。」
ね、とカトレアを見れば、カトレアはじっと俺を見たあとふいとそっぽを向いた。
「あれ、まだ怒ってる? ごめんって。」
モンスターのカトレアは実に子供らしくて可愛いのだが、頑固がきっちり残っているせいか一度怒らせるとなかなか笑ってくれない。
どうしよう、とため息を吐いたところで、カイがべちーんと顔面に当たってきた。
痛いなこの野郎。とカイを掴めば、
「貴様! 小娘を構ってる場合か!! 誤解されぬようちゃんと話せ!!」
べしべしと頬を叩いてくるカイにうっとおしさを感じつつも、誤解されぬようちゃんと話せとは。とため息が出る。
今の俺は嘘がそんなうまくないぞと苦笑する。
「ええと。
とりあえず空竜の件は無関係なんだよ。俺達。
で、ラベンダー達はなんでここにいるんだ? アサーティールに戻ったとばかり思ったんだけど」
とりあえず話を逸らそう、と疑問を一つ投げかければ、ラベンダーは困ったように苦笑する。
ナシュもどう説明しようか、とばかりにラベンダーを見る始末。
ん?と首をかしげていると、兵隊の一人が丁寧に説明してくれた。
「ラベンダー様も、ナシュ様も、アサーティールのS級魔法使いにアサーティールの剣と言われているのですよ。
空竜の件で、我らがお呼びしたのです」
ほーん、と聞きながら、ラベンダーってS帯になったんだと少しだけ驚いた。
俺が勝手にふらりといなくなってからそんなに日にちは経っていないはずだが、アサーティールは色々動いたらしい。実に関わりたくない。
と内心盛大にため息を吐く。これ、もしかしたら一応まだ勇者であろう俺はアサーティールに引きずり戻される可能性がある。
「ま、そう言う事さね。
…で、ギムよ。わかっていると思うし、もう気が済んだだろう? 一度、アサーティールに戻ってほしいんだけど」
ほら見ろと予想的中に嫌気が差した。
悪いがまだまだ気が済んではいない。と言うか何も始まってすらいない。
「断るって言ったらやっぱり力づくって感じ?」
「そうなるさね。
アサーティールの勇者二人が音信不通でアサーティールの王族は大混乱しているんだよ。」
「ああ。そう言う」
アサーティールの勇者の片割れ…ザラームはもう死んでるんだよなぁ、と苦笑しつつ、そう言えばザラームの死骸を持って言ったハックってなんなんだろう。ああいう趣味持ってるのかな。
「一緒に来る気はなさそうだね。まだ気が済んでないのかい?」
「俺、七日間ほど爆睡かましてて本当何も始まってすらないんだよな。あと数年放浪する許可とか出たりする?」
「出るわけないだろう。まだ寝ぼけてるのかい?」
呆れたようにラベンダーが腕を組む。
だよね。その返答は想定内。じゃあさっさと逃げようかなと思ったところで、ナシュがいきなり距離を詰めてきた。
そう簡単には行かせてくれないよね、と剣に指をかけた所で、ナシュの大きな剣をカトレアが蹴り返した。
蹴ったぞ今。蹴った。とぽかんとしてしまう。
「なっ…」
「おやまぁ」
ナシュは目を見開き、ラベンダーも驚いた様にカトレアを見る。
ううん、このままだと完全に戦闘に入るな、と思いつつカイを見れば、
「少し遊んでやれ。
タイミングを見計らってテレポートしてやるさ」
こそりと言ってくれたので、じゃあ遠慮なく。と笑う。
ラベンダーとナシュ相手か。一度戦ってみたかったし丁度いい。若干戦闘狂病が沸き上がり、口元には弧が描かれる。
「怪我しても知らないよ」
「こっちの台詞だなぁ」
ラベンダーがため息を吐いたので、にっこり笑って返せば、ラベンダーはふっと呆れたように笑って、そして真顔になった。
あれはキレたな、と笑いながら剣を引き抜けば、楽しい時間の始まりだ。