セーブ141 青龍
「で、お前誰?」
「青龍アルね」
「四神の?」
「そうアルね」
一番気になっていたちびっ子に声をかければ、にこにこと返された。
四神。玄武の話によれば俺が一番気をつけなくてはならないのは白虎だった気がする。
白虎と朱雀は俺ら罪人を酷く嫌っているとか。
ではこの目の前にいるちびっ子…青龍はどうなのだろう。
今のところ敵意は感じられない。
「何しに来た? 殺しにでも来たか?」
「最初はそうだったアルね。
でもやめたネ」
袖の余った服で上下に腕を動かす青龍。袖に小さな鈴がついているのでしゃんしゃんとやかましい。
最初はそうだったって結構恐ろしい事言ったなこいつ。
「秋のデーモンがいたネ。分が悪いネ。
それに、思っていたよりも安全そうアルね」
しゃん、と鈴を鳴らしながら俺を見上げる青龍。
小さい姿、そして中性的な声のせいもあり性別がよくわからない。
「罪人でも出ない限り外には出ないアルね。
久しぶりに出てみれば意外と面白い事があったネ。」
からからと笑いながら海竜と空竜を見る青龍。
確かになんか一番やばそうに揉めてたよな、この二人。それにドラゴン繋がりで何か感じるものがあるのかもしれないし。
青龍は楽し気に笑ってしゃんしゃんと鈴を鳴らす。
「アンタら面白いアルね。
白虎には気をつけると良いアルね」
玄武と同じようなことを言うな、と思いつつご忠告ありがとうと返せば青龍はけらけらと笑う。
「アンタの周りにはかなりのエネルギーが集まってるネ。
アンタが本当に堕ちればそのエネルギーも堕ちることになるネ。
正しい道に進むのをおススメするネ」
しゃん、しゃん、しゃんとクリアネスやカイ、夜月にトト達を順に示していく青龍。
そして最後にカトレアでそれは止まった。
「強欲は、やはり強欲アルね。
本来散っていなければならないエネルギー達を一つにまとめてしまうアルね。」
目を細めてカトレアを見たあと、青龍は俺を見上げる。
「ま、頑張るアルね。」
しゃんしゃんと鈴を鳴らして手を振る様な仕草をし、青龍は砂漠の方へと消えて行った。
なんか、言いたいことを一方的に喋って帰ってったなあいつ。まあ、こちらも特に質問をしなかったからそう感じるのだろうけど。
「…で、なんでドラゴン二人は喧嘩してたんだ?」
振り返りながらクリアネスに問えば、クリアネスははてと首をかしげて笑うだけ。
こいつ答える気ねえな。
「どうやら、主様に懐いている海竜様を快く思わなかった空竜様が喧嘩をお売りになったみたいですよ。」
にこにことトトが教えてくれる。次からトトに聞こう。
カトレアの腕に収まってる海竜と、未だにこちらを睨んでくる空竜を見比べると自然とため息が出る。
「お前、とりあえず落ち着けよ。
一応助けてやったんだし、そう威嚇すんなって。俺はお前に何もしないし興味がない。
逃げたいならとっとと逃げればいいし、好きにするといい。ただ襲い掛かって来るなら命の保証はしない」
変に刺激しても面倒なので、ひらひらと手を振って伝えれば、空竜は威嚇こそは止めたがじとっと睨んでくる。
まあ、威嚇が無くなっただけよしとしよう。
そこで、ギリッと手首に痛みが走った。
やばい。カトレアの事忘れてた。
恐る恐るカトレアを見れば、ものすごく不機嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。
俺の手首を掴んだ手には毎秒ごとに力が注がれていく。
「カトレア、ごめんって。
トトの事で怒ってるんだろ? 説明させてくれって。」
説明するほどの事はなかったが。一旦この手を放してもらわなければ俺の手首が真っ二つになる。
冷や汗をかきながらカトレアに頼んではみるが、カトレアはそうじゃないとばかりに顔を歪める。
トトの事で怒ってないとしたら、他に何で怒ってるんだ?
ぐるぐると思いだしてみるが、心当たりがない。
そうしている間にも俺の手首の骨はみしみしと悲鳴を上げていく。
まずは、怒ってる原因とかじゃなくカトレアにこの手を放してもらう事を頑張ろう。結構痛い。
クリアネス達は助ける気などないように、面白そうにこちらを眺めているだけだ。畜生他人事だと思いやがって。まあ、他人事だけど。