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セーブ140 森を抜けて

 玄関に入ったところでぐらりと眩暈がした。

ハッとして周りを見れば、玄関には俺が一人だった。


 ぽかんとしてもう一度扉を開ければ、そこはもう先ほどまでの景色ではなかった。


「…一定時間が終わったのか」


 滅びた街を眺めながら、ぼんやりと呟く。

特に、役立ちそうなヒントは見つからなかったなと深緑に戻った前髪がちらちらする視界で苦笑する。


 夜月もいないし、ここは四季の森なのだろうけどどうやって出ればいいのだろう。


 滅びた街をふらつきながら、先程の地下水路への入り口を覗き込む。

真っ暗で、もう一度入ろうとは思えなかった。


 仕方ないので、ここからどうにかして月の砂漠まで行くかと腹を括り、適当にぶらつけば春だった森が夏になった。

 これはラッキーでは? 夏って事は次は秋だろう。秋の森まで行ければトトに会える気がする。

あれ、でもトトっていまぼたんの国だっけ?


「まあ、いいか」


 ごちゃごちゃ考えるのをやめ、すたすたと歩く。

そう言えば四季ごとに森を治めるデーモンがいたんだっけ。途中で出くわさないといいなと思いながら歩く。


 夏の森は気温も高く、じとっと汗ばんでくる。

さっさと抜けたいと考えながら見えてきた向日葵畑に目を丸くする。


 森の中なのに、向日葵畑。

 綺麗に咲き誇る向日葵たちの背は通常よりもずっと高く、森よりも森らしい。

向日葵の森かな、と苦笑しながら一直線に向日葵畑を横切る。


 さわさわと揺れる向日葵畑を抜けると、一気に目の前は紅葉色になった。

 案外簡単に夏の森を抜けられたなとほっとしつつ秋の森に入る。

気温もだいぶ下がっており、とても過ごしやすい季節になっていた。


「トトはいないのかな」


 うーんと森を見渡すが、ただただ静かでトトは出てきそうにない。

それどころか、無駄に静かな森に寒気を覚える。


 確か秋と冬をの境目を抜けたところに月の砂漠はあったしもう少しで着くだろうと結論付け歩く速度を上げる。


◇◇◇


 秋の森を抜けるのには少々時間がかかった。

色々な木々が方向感覚を狂わせるように生えているためぐるぐると同じところを迷った気もする。


 げっそりとしつつ漸く抜けた事に歓喜し、さあ月の砂漠に行こうと張り切った所で無駄に嫌な予感がした。

ざわざわと面倒事が起きる様な感じがする。


 若干歩みは遅いが、月の砂漠へ向かって歩き出す。

案外すぐ抜けてしまった事に名残惜しさを感じながら砂漠に目を向けると、何やら問題が起こっていた。


 空竜は最後に見た時よりもぴんぴんしており、何故かはわからないが小さい海竜と揉めている。

 秋の森にいないと思っていたトトは何やらカトレアに睨まれている。

 クリアネスと夜月はそんな連中を止めることすらせず談笑している。

 カイは悟った瞳をしており、いつもの偉そうな雰囲気はどこかに行ってしまっている。

 そしてもう一人、見知らぬちびっこがいた。青緑の髪に、竹林を押し込んだような綺麗な宝石の様な瞳。服は大きめの中国服でけらけらと騒ぎを眺めている。


 俺今からあそこに入るの? どうしようめちゃくちゃやる気が起きない。


 ぼんやりと騒ぎを眺めていると、カトレアがいち早く俺に気付いたらしく目が合った。

やばい。手首折られるかも。とクリアネスの思い出させた危機感を胸におずおずと笑えばカトレアはこちらに走り寄ってきた。


「カトレア、大丈夫だったか?」


 声をかければ、カトレアは酷くイラついた様に俺の腕を掴みずんずんと元の場所に戻っていく。

俺に気付いた面々が、やっと来たかという様な顔をする。


「おかえり。どうだった?」


 夜月だけはにっこり笑いケロッとしているが。


「いきなり地下から気配が無くなったので、どうされたかと思いましたが…、ご無事そうでなによりです」


 トトは端から無事なのを確信していたように笑っている。

 クリアネスは特に何を言うでもなくこちらを一度だけ見てすぐに夜月との会話を再開してしまった。

 空竜はと言えば、俺を見た瞬間海竜との揉め事を放棄したようにこちらを威嚇してくるし。

 海竜はカトレアの足元にすり寄っているし。

 カイは俺を見た瞬間ギュンと素晴らしいスピードで目の前まで来て、


「貴様これは一体何事だ!?」


 等とぎゃんぎゃん騒ぎ出すし。

見知らぬちびっ子は、俺を一回まじまじと見たあと、ふふふ、と面白そうに笑ってこちらを眺めている。


 これもう収拾がつかないんじゃないのかな、とため息を吐きながら、まずどこから聞いて行こうかと頭を抱えた。

 ここまでになると、もう興味の有無で無視をする、しないができなくなっていた。

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