セーブ139 赤茶髪の青年
商店街に来たのはいいが、思ったよりもやることがない。
そう簡単にハックの様な奴が見つかるわけでもなく、ただただふらふらするしかなかった。
あちこちから賑やかな声が聞こえる。
新作だのイチオシだの数量限定だの。日本人が大好きで食いつきそうな言葉ばかりが飛び交う。流石商店街。
さて、どうしようか、と商店街を抜け少し静かな場所に出た。
まだ商店街の賑わいが届いており、静寂とは程遠い場所だが何かを考えるにはうってつけの場所だろう。
商店街にはピンとくるものやヒントらしきものはなかった。
次は何処へ行こう。腹を括って学校方面に行った方が進展しそうな気もする。
そこで携帯の電源を付けてみた。
通知が一面に広がる。なんだ、と若干引きつつその一つの通知をタップすれば、友人らしきやつからのメッセージだった。
「あー…何も言わずにサボりだなんてらしくないな。何かあったのか、か。
何があったかにがあったもないんだけどなぁ」
友人らしきやつの名前は思い出せないし、その名前が書いてある場所はぼんやりと濁っていて読めない。
どう返信するべきかぼんやりしていると、強めの風が吹いた。
空を見れば曇って来ている。
一雨来るかもな、と思いながら立ち上がる。
いきなりバケツをひっくり返した様な雨に襲われたらたまったものじゃない。
もう今日は帰ろう。
少々早歩きで商店街を抜け、家への道を歩いていると、
「あーもーやっと見つけた!! ちょっとぉ、なんで帰っちゃうのさ!!」
勢いよく腕を掴まれて後ろにひっくり返るかと思った。
なんだ、と振り返ると不機嫌そうなハックがそこにいた。
「…お前、一人でここまで来れたの? 偉いね?」
「馬鹿にしてるよね?」
博物館に置いてきたはず、と言うかあそこでさようならしたはずのハックが何故ここにいるんだ。
わけわからん、と思いつつもため息を吐けば、ハックは腕を組む。
「なんで勝手に帰っちゃうわけ?
まだあのカフェでぼんやりしてるかと思って戻ってみればいないって何事?」
「いやあの雰囲気からしてもう用済みだからばいばいかなって」
「確認してからばいばいってするもんでしょ!?」
「知らないよ…」
ハックはふんふんと不機嫌そうに俺を睨み、ため息を吐く。
「で、何の用?」
「何もかにも、まだ話が途中だったじゃん?」
「そうなの?」
「そうだよ?」
「途中でお前博物館巡り始めたの?」
「いやぁ、ああいう話ずっとしててもギムが疲れちゃうかなって」
「あ、そう…」
向こうのハックもずれていたが、このハックもずれてるなと苦笑が零れる。
なんにせよ、手掛かり、と言うかヒントが向こうから戻って来てくれたのはありがたい。何をするつもりもないけれど。
「追いかけてきてくれたの悪いけど、俺もう帰ろうと思ってるんだけど」
「ええ、博物館に戻ろうよ」
「俺博物館に興味ないからさ…」
ハックは俺の言葉にうーんと考え込み、じゃあさと笑う。
うん、すごく嫌な予感がする。
「オレもギムの家行こうかな」
「やっぱりね」
予想的中。笑えないなと思いつつもハックは一度決めたことは多分曲げないからやだと言ってもついてくるだろう。
「安心してよ。満足したら出てくから」
「そう言って居座りそう」
諦めて歩き出せばハックはけらけらと笑う。
本来なら、会ってまだそんな時間のたっていない奴を家に連れて行くのはおかしいだろう。
だが今の俺はまるっとそう言った事に興味がないし目の前にいるハックは俺の知っているハックに見えてしまって些かガードが緩くなっている。
セーブのできる俺の部屋に向こうでは神様であるハックを入れていいのかも微妙なところだが、そう言った事は面倒なので考えないでおく。なるようになるさ。
◇◇◇
家に着いた頃には夕方に差し掛かった時間だった。
途中、ハックが本屋に行きたいと言いだしたりなんだりかんだり引っ張り回されたのでかなり時間を食った。
げっそりしつつやっと着いた我が家に安堵のため息を吐く。
ハックはふんふんとご機嫌で疲れている俺を眺めている。この野郎。
「やっっっっ、と帰ってきたなこの不良!!」
「誰?」
「…うーん?」
さっさと寝たいと思いながらのろのろ歩いているとフードを思い切り引っ張られた。
ぐえ、となりつつ振り返ると酷く怒ったような顔をした赤茶の髪を持つ青年がいた。
ハックはきょとんと俺に聞いてくるし、俺も残念ながらよくわからない。
が、わかることがひとつだけならある。
「…キンマ?」
「アァ!?」
俺の抜けた声にその青年はさらに顔を歪める。
うん、このキレ方キンマじゃん。
「お前なぁ、何の連絡もなしにサボりたぁどう言う事だ?」
「ごめんって」
憶測だが、こいつは多分俺の友人の一人なのだろう。
もしかしたらさっき見たメッセージもこいつからのものかもしれない。
話を適当に合わせる為謝れば、キンマらしき青年は訝し気に俺を見る。
「…何かあったのか?」
「何も」
まじまじと俺を見てくるので、そんなに今までの俺と違うだろうか、と首をかしげる。
「で、アンタは?」
青年は少々考え、次に俺の横に立つハックに視線を向け問う。
ハックはにっこり笑い、ひらりと手を振る。
「オレ? オレはね、しがない放浪者だよ。
ハックって呼んでくれていいよ。」
若干斜め上の発言をしながらにこにこするハックは流石と言うか何と言うか。
青年はわけがわからないと言う顔をして説明を求める様に俺を見る。
「あーっと…ぶらぶら散歩してたら出会ったハーフの人」
簡潔に告げれば、青年はそうじゃないとため息を吐く。
「何にせよ、お前本当にどうしちまったんだよ」
じとっと俺を見ながら青年はどうするかなと携帯をいじり出す。
そこで、飽きてきたらしいハックが欠伸をしながら声をかけてくる。
「オレそろそろ疲れたから家に入りたい」
実にマイペースと思いながらも、それは同意なのでとりあえず立ち話もアレだし家に入ろうかと笑えば、青年は少々驚いたように俺を見た。
そんなにおかしい事言ったかな。