セーブ135 セーブ
ある程度落ち着いた所で、ふらふらと街を彷徨う。
やはりその街には見覚えがあり、俺の住んでいた街だった。
路地裏、店の中、ビルの屋上、学校、車の中、街のありとあらゆる場所に行ってみた。
しかし人は誰一人としていない。
しかも、街は俺の主な行動範囲以外はぷっつりと切り取られた様に無くなっている。
俺が行動している範囲だけが滅んだような、そんな感覚。
さわさわと風が髪を撫でる。
この街は草木が生い茂り、春の風を流している。
桜の花びらが時折舞い散る。
「家に行くかぁ」
一通り見たので最後は自宅に行ってみよう。
ひょいと車の上から飛び降り、すたすたと家への道を歩く。
そう言えば、こっちの世界に来てからこうやって元の世界の街を歩くのは二回目だな。
一回目はエニシダの術だったんだけど。
「今回は現実っぽいよなぁ。
ハックならなんか知ってるんだろうなぁ。次会ったら吐かせよ…」
若干頭痛のする頭を抑えつつため息を吐く。
俺の借りていたアパートに着き、部屋の前に立つ。
何故か半壊しているアパート。__まあ、他のビルや店も所々壊れかけていたが。__よく扉が持っているな。扉に手をかけ扉を開けようとすると、バチッとかなり痛い静電気が走り思わずドアノブから手を放す。
なんだと扉を見ると、一番最初に、この世界に来る前に見た時と同じようなテロップが扉に浮き上がっていた。
【ここまでの冒険を セーブ しますか? ▼】
数秒思考が停止した。
は? と数秒後に声が出る。
わけわからん。とさらに数秒後に混乱が始まる。
「…ここって、マジモンのゲームの世界なワケ?」
思わず出た言葉に、いやいやおかしいだろ。色々と、とツッコミを入れる。
「そうだねぇ。
ゲーム、と一概には言えないけど、まああってはいるよねぇ。
この世界はデータに過ぎないから。」
「夜月さん貴方どこにでもいるんですね。
砂漠からよく出れましたね」
「うん、クリアネスがね、何とかしてくれたんだよ」
「ああ、そう…」
いきなり現れた夜月にげっそりしつつ、どう言う事だよと聞けば、夜月はうーん、と考え、
「ここは四季の森の一部にある遺跡なんだけどね、君達主人公にとっては唯一のセーブポイントでもあるんだよ」
「ゲーム?」
「一概には言えないけどね」
夜月はにっこり笑い、くるりと街の方を見る。
「主人公が誰かによって、四季の森の中にある遺跡の場所は変わる。
主人公が本来の世界で”変わってしまった”季節に近い場所に遺跡は現れる。
遺跡は主人公の住む世界が滅んだ姿として現れる。
ゲームオーバー、神様に負けたら君の世界はこうなるよって警告として現れる。
そして、唯一この世界でセーブができる場所。
ああ、セーブってのはね君の知っているセーブをはちょっと違うんだよ。
ここでセーブしたからと言ってセーブした時に戻って来れるわけじゃない。
ここで言うセーブは、主人公が冒険中に元の世界に一定時間だけ戻れるって言う隠れ要素」
夜月の言葉にはぁ!?っと声が出る。
「え、じゃあここでセーブしますか?にはいって選択して扉くぐれば元の世界に戻れるって事!?」
「そう言う事」
「なんで!?」
「さあ?
セーブできる場所は主人公の家の扉の前ってことくらいしか知らないよ」
夜月はけろっとそんな事を言い、扉を指差す。
「とりあえず戻ってみたら?」
「軽っ…」
夜月は扉を指差してさらりと言ってくる。
いや、それでいいのか?
「別に、君が元の世界に戻ったところでこちらの世界に君がいない時間はほんの数秒。
ずっと元の世界にいられるわけでもない。こちらの世界をクリアしない限り一定時間しかいられない。
今の君にとっての本来あるべき世界はここの世界だからね。
まあ、元の世界にいる間になにかヒントが見つかるかもしれないよ。こちらの世界をクリアするための。
攻略本だと思って一回行くのもいいと思うよ」
「お前自分の世界をなんだと思ってるの?」
「さあ? 俺も今ひとつ理解してない世界、とかじゃない?」
夜月はふわりと笑い、俺の背を押す。
「俺にとって君は三人目の主人公。
他の二人の主人公もよく世界を行き来していたよ。
でも、どっちも最後の最後でゲームオーバーになっちゃって可哀想なことになっちゃったねぇ。
君はどうかゲームオーバーにならず、ゲームクリアできるよう頑張ってね」
色々初耳が多いし、ハックも言っていた三人目と言う言葉。
ゲームオーバーになったらどうなるんだよ、他の主人公はどうなってんだ、と言う質問をする暇もなく夜月はいなくなってしまった。
一人取り残されたので、諦めて扉に向き直る。
【ここまでの冒険を セーブ しますか? ▼】
選択肢には、はいといいえがある。
大人しくはいを選択すれば、
【セーブをしています。】
【セーブが完了しました。】
と言う文字が映り文字は消えた。
ドアノブに手をかけても静電気は飛んでこない。
恐る恐る扉を開けば、そこは見覚えのある部屋だった。
ガチャン、と扉が背後で閉まる。
ハッとして扉に手をかけると静電気がバチッと走った。
「なんなの!?」
油断していた為かなり痛い。
若干涙目になりつつ扉を見れば、字が映されていた。
【これより、セーブモードに入ります。
モードは一定時間で強制終了し、主人公をデータ世界に飛ばします。
一定時間内はデータ世界には戻れませんのでご注意ください。
セーブをしています。
セーブが完了しました。】
俺が読み終わると同時に字は消えた。
なんなのと半ばやけくそになりながら扉を開けば、そこには綺麗な街が広がっていた。
「…まじで戻って来てる…。」
目に飛び込んだ街は、滅んではおらず見慣れたものだった。
いきなりの連発にくらくらしつつ部屋に戻る。
さて、夜月に戻ればいいんじゃない的に言われて戻っては来たが、何をすればいいのだろう。
「…まって、学校」
一番最初に口から出た言葉は、酷く疲れ切った声で若干焦りを含んだものだった。