セーブ131 トトとの再会
ぼたんの国に戻るのには魔法を使わず四季の森に入った。
相変わらず別の季節が一気に拝める不思議な森だと見惚れる。
カトレアも左右交互に別の季節を見ており、海竜なんかは興味津々とばかりに目を輝かせている。
「四季の森探検するのもありか?」
「阿呆!! 四季のデーモンに何を言われるか分かったものではない!! やめておけ!!」
ふと思いついた名案にカイが即否定を入れてくる。
ケチだなと思いながら森を出るために足を動かす。
と、そこでぶわっと秋の森の方から何かを感じた。
カトレアもぴくりと反応して、じっと秋の森の方を見つめている。
秋? 秋の森? 秋のデーモン?
「トトか?」
自然と、よく知る名前が口から零れる。
秋のデーモンと言えばトト。なんだかんだ言いつつかなり世話になった記憶がある。
最後、どこで会ったのかはよく覚えていないけど。
俺の声に秋の森は答える様にざわりと揺れた。
トトは出てこなかったが、秋の森が手招きをするようにさわさわと揺れる。
カトレアは少々嫌そうに俺を見てくるが、俺の興味が珍しく秋の森に釘付けになった。
「俺ちょっと秋の森探検してくる」
自然の流れで秋の森に吸い込まれるように入ろうとすれば、カトレアに手首を掴まれる。
すぐ戻るよ、と笑ってもカトレアは一向に放してはくれない。
「その小娘は人間だった頃関わったやつとは会いたくないそうだぞ」
「なんで?」
「知らんわ!!」
カイが代弁する様に腕を組む。
カトレアを見れば、そうだと言う様に頷いている。
「なんでだよ。何か手掛かりが見つかるかもしれないんだぞ?」
人間に戻るための、またはハックの居場所の。とカトレアに言えば、カトレアは酷く顔をしかめた。
そんなに嫌なのか。
「カトレアが会いたくないなら、会わなくていいよ。
俺が一人でちょっと会ってくるから」
だから放してくれ、と言えばカトレアはさらに不機嫌そうに顔をしかめる。
掴んでいる指先に力がこもる。モンスターになっているせいかかなり力が強い。痛い。
「カトレアまって。俺の腕折るつもりか?」
痛い痛いと言うがカトレアは一向に力を緩めてはくれない。
「探検を諦めないのなら手首を折るぞと言う事だな。」
けらけらとカイが笑う。
笑っている場合か。たかが探検に手首一本持ってかれるのは割に合わな過ぎる。
「わかった、わかった。今回は諦めるから。」
流石に手首一本持っていかれるのは困るので探検を諦めれば、カトレアはほっとしたように俺の手首を放した。
カトレアに折らんばかりに掴まれていた手首を手袋を外して見て見たが、結構赤くなっており爪も食い込んでいたらしく軽く出血していた。これは痕になるなと思いつつ、手袋を付け直す。
「なんでそんなに嫌なんだよ…」
ため息交じりに苦笑すれば、カトレアはふんとそっぽを向いてしまった。
モンスター状態のカトレアって結構短気だよな。あと感情がめっちゃ表に出る。
◇◇◇
ぼたんの国に戻ってみると、何やら騒がしかった。
何だろう、とカトレアと海竜、カイ達には目立たないところで待っていてもらい騒ぎの原因を探ってみる。
騒ぎの中心らしき場所に行くと、そこには大きなドラゴンが倒れていた。
俺の知っているドラゴンと言うとエニシダや海竜を思い浮かべるが、どこかその二人に似ていた。
エニシダよりもすらっとしており、海竜よりも翼が鋭い。まるで、空を音速で飛ぶドラゴンの様な…。
「あれは空竜ですよ。」
「へぇ。エニシダとかの仲間?」
「ええ。エニシダに海竜様、そしてあの空竜様はご兄弟らしくて」
「ほーん。
で? なんでお前がここにいるの? トト」
「秋の森に来てくださらなかったので。私から来ました」
いつの間にか横にいたトトに動揺することなく夜月の時の様に対応する。
トトはにっこりと笑い、そして空竜を一瞥してさてと俺に向き直る。
「今、私の姿を認識できるのはギムレット様だけですので。このままですとギムレット様がおかしい方に見えてしまいます。
移動しましょう。少々お時間戴けませんか?」
「カトレアに手首持ってかれそうだけどまあいいか。」
「主様、随分と感情が表に出るようになった見たくて何よりです」
「あれ、怒ってない?」
エニシダの様に、怒っているかと思ったのにと呟きながら人込みから抜けて路地裏に入る。
トトは笑いながらついてくる。
「最初は、怒りもありましたよ。
しかし主様は随分お楽しそうなので。主様が幸せならそれでいいのです。」
「歪んだ忠誠心…」
「今のギムレット様には言われたくないですね」
思ったより話しやすく、内心ホッとしつつ用事って何? と聞けばトトはそうでしたと姿勢を正す。忘れてたのかよ。
「私も連れて行ってくださいませんか?」
「…うん?」
いきなり、突然、唐突に、にっこりと何気なく言われたその一言に、俺はそんな言葉しか返せなかった。