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セーブ128 ギムレットとクリアネス

 クリアネスの指先に灯った光がカトレアの喉に吸い込まれるように消えた。


「…それだけ?」

「随分と簡単に言ってくれますね」


 呆気なさに思わず声が出る。クリアネスは苦笑しただけだ。

カトレアを見れば、ぽかんとしている。


「カトレア、声、出るか?」


 俺の言葉にカトレアはぽかんとしたままだ。

クリアネスを見れば、クリアネスはそう慌てても無理ですよと笑う。


「精神年齢なども一時的に元に戻そうと思っているので、反映までには少々時間がかかりますよ」

「へぇ…」


 まじまじとカトレアを見るが、カトレア本人もよくわかってないらしく辺りを見渡している。


「さて、本題に入りますね」

「唐突」

「そろそろ黙って聞いてくださると嬉しいのですが」

「わかったから」


 にっこりと、影のある笑みで微笑まれる。

こいつ、外見は透き通っているように美しいけど腹の中真っ黒じゃん…。


「私が出てきたのには大きく分けて二つの問題が生じたからです。

 一つ目はギムレット。貴方です。

強欲になり、すでにご存知かもしれませんが四神だの何だのから疎まれる存在になってしまった。

 今は罪との同化を抑えられてはいますが、いつまで持つかもはっきりしていない。


 私は貴方をこの世界に送り出した身ですので、守る義務があります。

 もう剣に宿っているだけでは無理だと判断しましたし、万物の王も鎌から解き放たれています。

私が剣に宿っていては、光と闇のバランスが崩れてしまうと予測し出てきたのです。


 出てこれたのは、カトレアの勘の良さと頭の良さに救われましたね。

貴方だけでは剣をここに突き刺すだなんて発想できなかったでしょうし…。


 次です。

 次はやはりエンドを迎えているのに貴方の物語が終わっていないと言う事です。

本来決められた中のエンドにしか到達できないはずのこの世界で、何が起こっているのかちゃんとこの目で確かめたいのです。

 つまりは、神が何を考えているのか、何故介入したのかをより詳しく調べるには宿っていては範囲が限定されてしまう、と言ったものからですね」

「お前サラッと俺の事馬鹿にしてない?」

「気のせいじゃないでしょうか?」


 にっこりと笑うクリアネスに何も言えなくなり、大人しくしておく。

とりあえず、こいつが出てきた意味は分かった。


「…で?」


 そこからが問題だ。

俺の問いかけにはて、とクリアネスは首をかしげる。


「これから、どうするつもり?」

「ああ、言い忘れていましたね。

 既に私と貴方は契約を交わしていますので、シアン…今はカイと言いましたか。あの子と同じ扱いになりますね。

基本は剣の中にいますよ。貴方が呼ぶか、または私が必要と感じたら出られるようになっただけです」

「待って」

「はい?」


 この腹黒と俺って契約してんの?いつ?聞いてないぞこんなの。

混乱する俺を読み取ったのか、クリアネスはにっこりと笑う。


「貴方をこの世界に送り出した時点で、すでに契約は交わされていましたよ」

「俺契約に同意した覚えないんだけど」

「困難とは試練です。

乗り越えられぬ試練など訪れませんよ。安心して向き合いなさい。」

「お前それ言えば大体許されると思ってない?」


 自分を試練扱いか。自分の腹黒をよく理解しているらしい。恐れ入ったよ。

面倒事が増えたと頭を抱える俺の傍らで、クリアネスはそんな俺を面白そうに見ている。


「…精霊王と契約しているのに、ギムはよく死なないね」


 そこで、声がした。

ずっと聞きたかった声が。


 ハッと顔を上げればカトレアが苦笑してそこに座っていた。

 先程よりもはっきりとした顔立ちになっており、モンスターになる前のカトレアと言った雰囲気だった。


「カトレア、お前、声」

「おかげさまで戻りましたよ。」


 ふわりと笑うカトレアが随分懐かしく思えて、ここで初めてクリアネスに心の底から感謝した。


「成功したみたいで何よりですね。

 カトレアが今の状態に戻れるのは新月の時のみです。逆に、満月の時はよりモンスターに近づいてしまいますが…まあ、私もカイもいますしどうにかなるでしょう」

「お前色々言うのが遅くない??? ハックかなんか?」

「私とあの神を同じだとは思わないでくださいね」


 飛んでもない事を言い出したクリアネスに頭痛を覚えつつも、カトレアを見ればカトレアは呑気に笑っていた。


「大丈夫だよ、ギム。

 私は何があってもギムの指示には従うだろうし。ギム以外に興味がないから、人を襲う事もないと思うよ」

「そうじゃなくて…」


 腹黒とぶっ飛びな二人に囲まれてどうしていいのかうんうんしていると、クリアネスがああそうだと手を叩く。


「未知の草原に行く前に、もう一度月の砂漠に行きましょう」

「なんで????」


 色々唐突過ぎるんだよと顔をしかめると、クリアネスはからからと笑う。


「夜月も、連れて行きましょう」

「あいつ砂漠から出られないんじゃないの?」

「私ならどうにかできます」

「あ、そう…」


 もう色々考えるのに疲れ出したので、何かあったらクリアネスにどうにかしてもらおうと言ういつもの思考を取り出し会話を放棄した。


「あの、クリアネスさん」


 一段落したところで、カトレアがおずおずとクリアネスの名を呼ぶ。

なんでしょう、とクリアネスがカトレアを見ると、カトレアはえーとと少し考え、


「新月の時に戻れるのはわかったんですけど、今はあとどのくらいこの状態が続くのでしょう?」


 カトレアの問いに、ああ、確かに気になるとクリアネスを見れば、クリアネスは少々考え、


「日が沈むくらいまででしょうか」


 思ったより長い時間を口にした。

カトレアも予想外だったらしく目をぱちくりさせ、嬉しそうに笑った。


「半日は、このままでいられるってことですね」

「そうなりますね。

ちなみに、新月の日は日が沈むと同時にその状態に戻り、日が昇り、また日が沈むまでその状態でいられますよ。丸一日、ってことです」


 クリアネスが優しく笑んだ。

丸一日カトレアが元に戻ると言うのはありがたい。

クリアネスに礼を述べれば、クリアネスはこのくらい当たり前ですよと笑った。


 腹黒だけど、優しい面もあるんだな、こいつ。


 しかし、思ったよりも色々面倒そうな旅になりそうだな。

 改めて、少し痛み出した頭を抱えてはみたが、なるようになるだろうと言う思考が八割を占め結局は考えるのを放棄した。

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