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セーブ127 クリアネス

 カトレアは、大木の根元に到着すると俺を振り返るようにして立ち止まった。

何だろう、と速足でカトレアの傍に辿り着けばカトレアはじっと俺を見つめる。


 そして大木を見上げる様にして俺の剣を引き抜いた。


 いきなりの出来事に、ぽかんとしているとカトレアは引き抜いた剣を持って大木の後ろに回り込んだ。

何がしたいのか全く分からずに追いかければ、カトレアは回り込んだ場所に剣を突き立てていた。


 おいおい、大木傷つけたら精霊たちが怒るんじゃないのか、と思いつつも止めることはせずカトレアと大木の根元に突き立った自分の剣を交互に見る。


 カトレアはちょいちょいと手招きをしてくるので大人しくカトレアの隣に行く。

カトレアは俺の腕を掴んで墓標の様に突き立った剣の柄に俺の指先を触れさせる。

しかし何も起こらない。


 何がしたいんだとカトレアを見れば、カトレアはじっと剣を見た後掴んでいる方についている俺の手袋をするりと取り上げた。


「手袋が欲しいのか?」


 若干混乱している俺の問いにカトレアは違うとばかりに睨んでくる。

 まあ、俺の手袋取り上げた所でサイズが合わないだろうけど…。チェス帝国に行ったらカトレアに似合いそうな手袋でも探してみるか。

等と、別の事を考えていると手袋の取れた指先が剣に触れた。


 途端、接触した場所から光が溢れだす。

カトレアが光魔法でも使ったのか。それとも別の何かか。

それにしては、とても澄んだ光だ。


 わけがわからんと目を白黒させていると、剣全体が光出した。

カトレアは少々顔をしかめて俺の背後に逃げ込むように隠れる。


 モンスターだからか、こう言う光が苦手なのだろうか?


 光が収まると、剣の突き立っていた場所に人がいた。


「んっ!?」


 思わずズザッと後ずさる。

 そんな俺を見て、その人物は苦笑した。

 中性的だが美しい顔立ち。白、と言うよりも透明と言う表現が正しい長い髪。瞳も透明の様な美しいもの。服装も透明感のある見たこともない様な布で作られているその神秘的な人物は、見覚えがあった。


「…お前、一番最初の?」


 そう、そいつは俺がこの世界に来る前に、回想を見た後に出会った謎の精霊と思われる人物。


「ええ。そうですよ。

あの時以外にも、一度お会いしましたけどもね」

「えっ、」

「貴方が、マゼンダと交戦した後のとある村での話ですが」


 にっこりと笑うそいつは、やはり俺の記憶通りの人物だった。

しかし、あの時以外にも会っていた?


「…お前あの時の占い師!?」


 記憶を掘り返せば、それらしい人物と出会っていた。

なんか、似たような事言ってて引っかかってたんだった。


 俺の言葉にそいつはにっこり笑い頷いた。どうやら正解らしい。


「思い出してもらえたようで何よりです。

改めまして。私はクリアネス。貴方の剣に宿らせてもらっていました、精霊王です」

「…クリアネスってお前なの!?」


 色々、新しい情報に頭が混乱しつつも、辻褄が合っていく。

 あんな芸道できるのって、確かにハックか万物の王、そしてその王の対のクリアネスくらいだろう。

少し考えれば、わかったかもしれないその答えに、頭が混乱する。


「…で、今更出てきてなんなんだ?」


 混乱した頭で思考を放棄して疑問だけを投げかければ、クリアネスは少々困ったように笑う。


「やはり、随分と変わってしまいましたね」


 目を細め、俺を見る。

そして俺の背後からクリアネスをまじまじと見つめるカトレアに気付き微笑む。


「あまり、良い状態とは言えませんが、選択肢の中にあったエンドのどれでもないエンドを迎えたようですね。」

「ゲームみたいなこと言うなお前」

「ええ、この世界は半分ゲームですから」


 言い切ったぞこいつ。

はー、と呆けたため息が出る。

 クリアネスはそんな俺を見て笑い、さてと話を戻す様に手を叩く。


「貴方はすでにエンドを迎えているはずなのに、物語はまだ続いている。

つまり、何かしらの変化が起きてエンドが長引いているのでしょう。


 …この世界の神と戦う事が決まったことによって、きっと今までにない変化が生じているのでしょうね」

「はぁ」


 よくわからん、と若干興味を失いつつ頷く。

クリアネスはカトレアに一度視線をやり、俺に視線を戻す。


「…私なら、カトレアに言葉を与えることができますが」

「わかったちゃんと聞くから与えてあげてください」


 俺の興味が無くなって言っているのを理解しているらしく、クリアネスはにっこりと笑いやがる。

こいつ、思ったより腹黒じゃない?


「思ったよりも、貴方は扱いやすくなった様ですね」

「お前は思ったよりも性格ひん曲がってるな」


 クリアネスは俺の言葉をスルーして、ああそうだとばかりに笑う。


「介入した何か、がわかりましたよ。」


 最初に言っていた、俺をこの世界にもう一度落とすことによってわかるだろうソレ、がどうやらわかったらしい。

 何だったんだと聞けば、クリアネスはもう予想はできるでしょうと笑う。


「神様ですよ。

 名はシェムハザ…ハックと言いましたか。

神自身がなんの気まぐれか貴方の物語に介入していたようなのです。


 今回の物語には、隠れることなく介入していましたが」

「つくづく疫病神かなあいつ」


 はーとため息を吐けば、クリアネスは驚いたように俺を見る。


「神を疫病神扱いですか。面白いですね。

…それにしても、貴方は神を怨んではいないのですね」


 クリアネスの問いに、まあねと言葉を濁して返せば、クリアネスはそれ以上追及することなくカトレアに向き直る。


「私が出てきた意味、そしてこれから色々話す前にカトレアに言葉を与えます。

一時的に、ですが」


 ぽう、とクリアネスの指先が光る。

カトレアは少々嫌そうにその光を見つめている。


 カトレアが嫌がっている事はあまりしたくないが、言葉を一時的にでも戻してもらった方がありがたい。ここは耐えてもらおう。


 さて、クリアネスは一体何を話すのか。興味こそもうほぼほぼなくなってはいるが、あまり変な態度を取ったらクリアネスが面倒なことを始めそうなので大人しくしておく。


 にしても、クリアネスって見た目詐欺だな。

まだそんなに話していないはずなのに、俺の中のクリアネスの印象がガラッと変わった気がした。


 …精霊と言えば、クリアネスを酷く尊敬しているであろうカイはどうしたのだろう。まあ、いいか。後で探そう。

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