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セーブ125 四神-玄武

 足元、という概念が感じられたのは、本当に唐突だった。

落ちているから、少なからず着地の衝撃が来ると思った。しかしそれは来ず、気づいたら底に着いていた。


「…変な感覚だな。」


 まじまじと足元を見る。

土の様な、うっすらと水の張っているようなところ。カトレアも驚いたように足元を見つめている。


「四神、とか言ってたよな、カイが。

何もいないじゃんか…」


 その場は、とても広くただただその場に在った。

足元の柔らかい土。そこに水がうっすらと張っているような軽い圧迫感。その地面が永遠と続いている。

 空なんて見えないはずなのに、どよんとした色が頭上に広がっている。

別空間なんだろうな、と結論付け辺りを見渡す。うん。何もいない。


 くいくいと服が引っ張られ、振り返るとカトレアがじっとこちらを見つめてきた。

なんだ? と問えばカトレアはスッと背後の一点を指差した。


 何だろう、とその一点を見つめる。

ぞわりと、何かに睨まれたような感覚が腹の底から這い上がる。


 同時に、罪の力を使うときの様な言い知れぬエネルギーが体の中で爆発する。

じわりと目の奥が熱くなる。

 カトレアも同じなのか、少々顔をしかめている。

罪持ちが同時に反応する何かが、その一点にはいるのだろう。


「女の方は上々。男の方はまだまだ、と言ったところか。」


 ずん、と腹の底に響くような声が全方位から圧迫する様に聞こえてきた。

ハッとして顔を上げれば、そこには大きな亀がいた。島の様な、そんな大きい亀。


 正直、心臓が止まるかと思った。いきなり現れるな馬鹿野郎、と思いつつ、普通の亀とは大きさから言って違うし甲羅の間からは蛇がうねうねと顔を出している。


 まるで、「玄武」と呼ばれる四神の人柱の様な姿。

 間違いなくこいつが玄武だろうなとどこか悟りを開きつつ、じわじわと体の隅々に行き渡ろうとするエネルギーに耐える。

好きにさせたら、目の前の亀に斬りかかりそうなそんな衝動。


 カトレアは、じっと亀を見つめ拳を握っている。どうやら俺と同じ状態らしい。


「お主だな。新たな強欲と言うのは」


 亀が、大きな瞳でこちらをぎょろりと睨むように見る。

この頭に響くような声はこの亀のモノで間違いないだろう。いきなり出てきていきなりなんなんだ。


 亀への興味が若干薄れつつも、一応は返事をする。


「そうだけど。

お前は玄武でいいのか?」


 俺の言葉に亀はほおと俺を面白そうに見る。


「わての姿に怯えず正体を問うてくる辺り流石強欲と言ったところか。」


 褒められてんだかなんだかよくわからないが、どーもとだけ一応言っておく。

玄武は俺を見た後、カトレアに視線をやる。


「万物の王の依代がまさかこんなモノに育っているとは。

わての予想は外れた様だ。こりゃあ朱雀にどやされるか」


 目を細めてため息を吐くように言葉を並べる。

朱雀、と言う四神の名も出てきた。


「そっちの事情なんざ興味ないけど、なんでわざわざ玄武とあろうお前がこんなところに?」


 十中八九、俺が狙いのようだが一体何の用だと玄武を見上げる。

玄武は目を細めて、少々呆れたように笑う。


「まさか、ここまで無関心とはな。

罪に食われない代わりに関心を失ったか。人としては不十分なやつだな」

「要件を教えてくれるとありがたい」

「人の話を聞きやしないなお主」

「そのまま返すね玄武サン」


 玄武への興味がじわじわとなくなりめんどくさくなっていく。

玄武は話にならないとばかりにため息を吐く。カイもよくそのため息吐くようになったよな。


「ため息を吐くと幸せ逃げるらしいよ」


 場違いとは理解しつつもけろっと言ってみれば、玄武は呆れを通り越して開き直る様に笑う。


「ははは、まともに会話ができない様で、一応はできるのか。

まあいい。わてがお主をここに引きずり込んだ理由と言ったか?」

「そう。できればさっさと元の場所に戻してほしい。」


 玄武はじっと俺を見つめ、カトレアを一瞥して勝手に納得したように頷いた。勝手に納得すんな説明をしろよと思いつつ、玄武の言葉を待つ。


「わての見守る北の国から変なものが出たとなれば面倒事になる前にどうにかすべきかと思って、と言う理由が妥当か。」

「お前アサーティール王国の神様なの? 四神とアサーティール王国ってなんか似合わなくない?」

「国の名前とはその時代によって変わるものだ。

あまりおかしなことを言うな、国に喧嘩を売ることになるぞ」

「まあ、この地方の国名ってふざけてるよな。ぼたんにチェスとか」


 今まで気にしなかったが、この世界の国の名は随分とばらつきがある。

 仮にゲームの世界だとするなら、統一性があってもいいのに。やはりこの世界は神様がハックのせいか色々ずれているのだろう。


 玄武の目的もわかったし、完全に目の前の亀から興味がなくなった。

国の事も少しだけ考えたら興味が無くなった。


 カトレアを見れば、カトレアはじっと玄武を見つめている。


「カトレア、亀好きだっけ?」


 あまりに真剣に見つめているので思わず聞けば、カトレアはむっとしたようにこちらを睨む。

冗談だよと笑えばカトレアはつんとそっぽを向いてしまう。


「ごめんって。」


 こっち向いてーとカトレアに声をかける。

そんな俺らをみて玄武はため息を吐く。カイも玄武もため息多いな。


「お主はまだ罪をちゃんと使いこなしていないからわからないだろうが、七つの大罪とわてら四神は相性が非常に悪いのだ。

罪を使いこなしている者からすればわてら四神は天敵であるのだ。そんな相手から目を放すほど馬鹿な罪人はおるまい」

「それつまり俺の事遠回しに馬鹿にしてる?」

「食いつくところが少々おかしいなお主」


 呆れたように失笑し、玄武はさてと俺を見る。次はなんだと若干疲れたように玄武を見上げる。


「わては確認しに来ただけであって、危害を加えるつもりはない。このままもう戻らせてもらう。

お主は今現在は無害だが、近い将来災厄にも救世の光にもなるだろう。道を違えるなよ。」

「はぁ…」


 よくわからないが、解放してもらえそうだと言う事はわかった。

俺を見て玄武は苦笑して付け加える様に


「他の四神のうち、朱雀と白虎は酷く罪人を…白虎は強欲を嫌っている。気をつけると良い」

「面倒事確定を教えてくれてありがとう。」


 聞きたくなかったと思いつつ、礼は言っておく。

速めに面倒事を知っておけば対処法を考えることができる。


「お前は、罪人に、俺らに敵意を持っていないのな」

「そうだな。お主らだからだろうな。

お主らの様なマヌケな罪人は実に珍しい。牙を剥く前に拍子抜けしてしまう」

「ふーん」


 どうやら、歴代?罪人達とは違うらしい。

玄武は満足したのかゆっくりと方向転換をする。ずしんずしんと巨体が歩けば地が揺れる。


 玄武が歩き出したのと同時に白い冷たい煙が辺りに立ち込める。


 じわり、じわりと玄武の姿が煙の中に消えて行き、影だけになり、その影もいつの間にか見えなくなった。


 玄武が見えなくなるのに比例して俺の中に生まれたエネルギーも徐々に無くなっていく。

本当に、四神に反応したんだな。


 そして、ふと気づけば精霊の丘の大木の根元に立っていた。

カトレアも隣に立っており、いきなり変わった風景に目をぱちくりとさせている。


「…大木じゃなく、精霊の丘のぼたんの国側の出口に送ってくれればよかったのに」


 思わず零れた言葉を玄武に聞かれたら、多分また呆れ果てられるだろうな。

ブックマークや閲覧していただける回数がこの頃増えててとても嬉しいです…。

ありがとうございます…!

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