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セーブ124 精霊の丘

 未知の草原に行くためには、アサーティール王国の南西にある精霊の丘と言う場所を通り、ぼたんの国に入る必要がある。

 道順はぐにゃぐにゃしつつも、俺らは二日でその精霊の丘に辿り着けた。

カイは、どこか感激したように「あんな出鱈目の道順でたどり着けるとは…」と言っていた。


 ここにくるまでに、そこそこのモンスターと何回か遭遇して撃退はした。

 しかし、前ほど時間がかからず、圧倒間に始末ができた。カトレアはモンスターを見ても敵意を持たず、俺がモンスターを殺してもぼんやりとしているだけだった。


 さて、精霊の丘と言うだけあり、辿り着いた場所はとても澄んでいて綺麗な場所だった。

 七色の花が一面に咲き誇り、丘の上には透き通った葉と花のついた真っ白の大木がある。

空は青く、まるで幻想的な絵の様な場所。


「精霊の丘って、カイの仲間がいたりするのか?」


 名前に精霊がつくだけあり、この場所には精霊がわんさかいそうな気配がある。

カイはうーん、と唸り、


「確かに、いるにはいるが…そんな関わりはないぞ。

 この場所は、力の持たぬ精霊の住処。そんな精霊も数が集まれば膨大な力を放出する。

長年ここにそのエネルギーがとどまったせいでこの様な丘ができたのだ。

それに…」


 カイがちらりと丘の影を見る。

それを追う様に俺もそちらへ視線をやる。


 そこには、ずらりと真っ白の墓が並んでいた。


「…美しく、精霊の加護のある場所と言う事で、アサーティール王国の戦士たちの眠りの場ともされておるしな。

 俺様の様な精霊は、こう言う場所には留まらぬのだよ。」

「ふぅん。

 …たしか、精霊の加護の下に安らかに眠れるよう、だっけか。あそこの墓って確か昔の戦いで死んだ人たちの…」


 ぼんやりとだけど、聞いた事がある。

 大昔の戦いで死んだ者たちは、無念の死だったと聞いた。悔やみきれず現世を彷徨わず安らかに眠れるよう、この美しい精霊の加護のある丘に眠らせたとか…。


 生者が勝手に無念の死と宣い、勝手にこんな場所に眠らされて可哀想にと呟けば、カイは驚いたように俺を見る。


「無念の死と勝手に謳うのは同感だが、可哀想とは?」

「だって、この場に眠らされるっつーことは、死んでからも永遠に国の戦士…悪く言えば奴隷と言うことになるだろ?

 死んだら戦士も何もないのにさ、生きてるやつらの勝手な都合で永遠に戦士として、奴隷として眠らされるって俺だったら嫌だな」


 前の俺なら、絶対に言わないであろうこと、考えないであろうことが今の俺は当たり前のように言い、考える。

カイは驚いたようにしばらく固まっていたが、そうかとだけ言い墓に視線を戻した。


 カトレアは、俺らの長話に飽きてしまったのか足元の色とりどりの花を突っついていた。

海竜も物珍しそうに花の匂いを執拗に嗅いでいた。


「ここって、通り抜けていいんだよな?」


 特に、俺がすることもなさそうだし、することがあっても面倒なので通り抜けるつもりだけど。

一応カイに訪ねれば、カイはうむと頷いた。


「今の貴様は、歓迎されておらんからな」

「罪人だもんな。」


 ならとっとと通り抜けよう。とカトレアに声をかければ、カトレアは海竜を抱き上げ立ち上がる。


「にしてもこの丘、どこまで続くんだってくらい広いな」


 ぼんやりと進む方向を眺める。

眺めただけでは、出口が、丘の終わりが見えない。カイもうむ、と頷き、


「まあ、アサーティール王国南側の半分はこの丘だからな。

抜けるのには少々かかるだろうな」


 気が遠くなるような事を言ってくれた。

 ああ、そうだった。たしか丘が半分南側を覆っていたんだ。もう半分の南東の方にはビダーヤの町があったんだっけ。

アサーティール王国って結構大きいな、と改めて実感しながらのんびりと歩く。


 歩いていると、時折くすくすと言う笑い声が聞こえてくる。

精霊たちの声だろうか? カイを見れば、うむと腕を組み、


「貴様の様なはんぱものが来たせいで精霊たちがおもしろがっておるのだ。

精霊の囁きに惑わされるなよ。連れていかれたらたまったものではない。」


 連れて行かれるとは、と謎に思いながらも、興味ないから大丈夫と返す。

カイはふんと鼻を鳴らして、


「貴様のその無関心、今はありがたいな。

興味の無さ故に精霊の声を理解しておらんからな」


 笑い声の他にも、何か言っているらしい。へえと聞き流しつつ、カイの反応から聞かない方が良さげなものなのだろうと勝手に結論付けてサクサクと花畑を突っ切る様に歩く。

カトレアは時折り周りをちらちらと見ている。


「カトレアに、精霊の声通じてるのかな」


 少々不安になったのでカイに問えば、カイはあり得んと笑った。


「俺様達の声は、聞こえたとしても精霊に愛されている貴様にだけだ。

小娘には気配程度しかわかるまい。」

「俺って精霊に愛されてんだ」

「そうだな。この俺様が加護してやってるのだぞ。有り難く思え。

罪人などにならなければ精霊にもっと愛されるものを!」

「はいはい」


 ふんぞり返っているカイを流しながら、カトレアをちらりと見る。

カトレアはぼんやりと花畑を見たたと思えば大木の方を見たりと世話しない。本当に大丈夫だろうか?


 そこで、踏み出した足が地につかなかった。

は、と足元を見る。先ほどまでそこに在った地面は無くなっていた。


「まじかよ」


 やけに冷静に、そして自分が今とても危険な状態とも理解しているのに、無駄に冷めた声が零れた。


「!?

何故ここに四神がおるのだ!?」


 カイの引っかかる言葉が背後で聞こえた。

足場を無くした俺の体は落下する。どん、と背中に衝撃が走る。

なんだと思えばカトレアだった。


「ちょ、カトレアなんで飛び降りた!?」


 海竜を抱いていたはずの腕は俺の腹に回されている。

海竜は多分カイの方だろう。

 崖から落ちた様な感覚。何故カトレアがわざわざ俺を追って落ちてきたのか。嬉しいが、危険だろう。


 落下し続ける。底が見えない。

落下している最初は、辺りは真っ白の光に包まれていた。

 しかし、その光はじわじわとどす黒く塗りつぶされ、真っ暗闇の中を落下しているような状態になってしまった。


 面倒事はないだろうと思った途端これだ。

 カイの言葉に四神と言う言葉が出ていたし、四神の仕業なのだろうと冷静に状況を分析しつつ、カトレアと離れ離れにならない様注意しながらまだこない底を待った。

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