セーブ08 アトラスの村の危機
ぎゃんぎゃんと喚く海の精霊を祠に押し込み扉が開かぬように固定してアトラスの村へ到着した。
とりあえず村に行きたいと言う全会一致で、村へ行く障害となってる精霊を一旦と言うか永遠に大人しくさせたいと言う半分私怨で強制封印(擬)をさせてもらった。怨むなよ。
村に着いたのは夜で、村の長に軽く挨拶し宿に入った。
もう時刻は夜中に近かった。
詳しい話は明日すると言うことで今日は全員あっという間に寝静まってしまった。
◇◇◇
次の日、村の長から話を聞いた。
要約すると、アトラスの村の守り神「海竜様」が数週間前からいきなり暴れ出し何人も海に引きずり込まれ死んでいる。以前はお姿こそお見せにならなかったが大嵐が来れば村を守ってくれ、死人など一人も出ずに済み、村の周りにある泉や湖を常に浄化してくださるとてもお優しい守り神様だった。どうか村の守り神様をお鎮めくださいとのことだった。聞いてた話とほぼ一致していた。
詳しく聞けば、海に引きずり込まれるのは若者ばかりでこのまま行けば村は回らなくなり滅びてしまう。とのこと。
さてどうするか、と宿に戻り話し合いになった時、昨日出会ったエルフと俺の立てた仮設を話した。
「闇属性らしきエルフに、操られた海竜、ね。
ありそうだね、その話。ちょっと調べてみるかね」
ラベンダーはもっと早くそう言う事はいいなよと呆れつつも何やら調査に出かけてしまった。
「父から聞いた事があります。
闇属性とは闇を操り人々を恐怖に陥れるものだと。
恐怖に憑りつかれた者はもう逃げ場はなく、強い正義感も闇魔法を前には無意味と。」
「あっしも聞いたことありまっせ。
旦那の立てた仮説と似たような話になりますが、闇魔法は基本人を操り支配すると。
闇の根源はどこなのか、と聞くと魔法や魔術に詳しい者は口を揃えて"人の心の闇"だと言うそうでさぁ」
ナシュとジェットからの情報で、やはり闇属性、闇魔法は支配系と見て間違いなさそうだ。
しかしなぜ海竜を狙った? そこがどうもわからない。
そもそも、あのエルフはどこに消えた? あのエルフの従う親玉とはいったい?
ぐるぐると悩んでいると、スコーンとまた額に覚えのある痛みが走った。
「あだっ!?」
「やい無礼者!!昨日はよくもやってくれたな!!!
しかしこの俺様を閉じ込めるとはやるではないか!! 少しだけ褒めてやろう!!喜べ!!」
「帰れ」
やはりあの精霊だった。
相変わらず偉そうな上から目線だ。
冷ややかに帰れと言うが聞こえていないのか部屋をきょろきょろと見渡す。
「なんだ? 貴様一人か?」
言われてみれば、ナシュもジェットもいない。
なんか色々調べてくるとか言ってたような…考え事に耽っていてよく聞いてなかったな。
「お前みたく暇じゃないから色々調査してんだよ」
「貴様は暇そうだな!」
「考え事してたんだよ。」
「契約しに来てやったぞ!!」
「帰れとあれほど」
会話するのが疲れてきて、その場に寝転がる。
そんな俺の上でくるくると飛び回る精霊。
「貴様村の長から話は聞いただろう!?
この村は危機なのだ!! 勇者なら救うのが道理だろう!?」
「だーかーらー、穏便に解決するために色々考えてんだよ」
はーとため息を吐けば、精霊はピタッと大人しくなった。
気味が悪いなと見て見れば、精霊はじっと俺を見下ろす。
「…海竜は、もう助からん」
呟くようにその精霊が言った。
「海竜は、もう助からん。自身が朽ち果てるまで暴走を続けるか、誰かに鎮めてもらう…つまり殺めてもらうか以外方法はない。
助かる道などないのだ」
いきなりの事で、少し思考が停止する。
「…海竜は、闇に飲み込まれたと言う事か?」
俺の言葉に首を振る精霊。
「違う。…いや、そうとも言うのか。
確かに海竜が暴走している理由は闇に操られ、我を忘れているからだ。
しかし、それとは別に海竜の命はもう長くはないのだ。」
人間などを愛したから。精霊は俯きながら呟く。
起き上がりながら、窓の外に広がる海を見つめる。
「詳しく聞かせろ。お前の知っていること全てをだ」
精霊はいいだろうと頷くと、話し出した。
◇◇◇
海竜は、元々海全体を見守る位置に就いていた。
しかし、ある日海竜はこの美しい水達に囲まれる村に興味を持った。
当時、この村は荒んでいた。
いくら水が綺麗でも、土地は痩せ農作物は育たず村人は死を待つばかりだった。
海竜は、ほんの気まぐれで陸竜を呼びその村の大地を潤した。
ほんの気まぐれで、美しい水たちを更に浄化させ潤した。
ほんの気まぐれで、少しだけその村のそばに身を置き、ほんの気まぐれで、村を見守った。
それが、いけなかった。
海竜はやがてその村が潤い活気を取り戻す様子に喜んでしまった。
ずっと見守っていたいと思ってしまった。
必死に生きる人間たちを愛してしまった。
嵐が来れば人々を嵐から守り、戦が起きれば人々を海の脅威で守った。
ある時、一人の青年が海に落ちた。
海竜は自然の流れでその青年を助けた。
海竜は人に初めて認識された。
海竜は初めて人に必要とされた。
それが、海竜にとって今までにない喜びだった。
海竜にとって孤独と言うものは自分自身だった。
人と触れ合う喜びを知ってしまた。
それが、破滅の始まりだった。
海竜は「海全体を見守る者」であり「一つのものに執着する者」ではなかった。
海竜としての存在が少しずつ壊れて行ったのだ。
海竜として在るためにはここから一刻も早く離れ元の場所に戻る事だった。
しかし、海竜はそれをしなかった。
孤独と言う寂しさを知ってしまった海竜は、離れられなかった。
何千年と時が流れ、今となる。
海竜としての存在はもう消えかかっている。
元の場所に戻ろうとも、もう手遅れだ。
だから付け込まれた。
消滅と言う孤独に恐怖したところを闇に食われたのだ。
愛し自分を殺してまで守った場所を、破滅へと追いやる邪神になり果てた海竜は泣いている。
海竜に自身を止める力はもうない。
海竜の消滅が先か、村の消滅が先か。時間の勝負なのだ。
何とも哀れで馬鹿げた、そんな寂しがりのドラゴンの昔話だよ。
◇◇◇
精霊の話した海竜の話は、何とも言えないものだった。
「海竜の殺した若者を俺様なりに調べてみたら、どうやら先祖が海竜の助けた青年らしい。
きっと、無自覚に怨んでいるのだろう。憎んでいるのかもしれない。自分をここに縫い付けた最大の原因であるその青年を」
精霊がぼんやりと海を眺めながら言う。
俺は、違うと思う。実際海竜になんて会ったことないし、どんなやつかは今の話でしか知らないけど、怨みや憎しみとかではない気がする。
きっと、それは___。