セーブ122 人間もどき同士
カイの話だと、どうやら俺は七日程意識を食われていたらしい。海竜に。
やはり海流と接触したことがあるからか、この小さい海竜にも多少なりとも俺と言う存在を認識されており、念だけになった先代の海竜が俺の意識を別の場所に攫ったらしい。
その空間ではほんのわずかな時間でもこちらの通常世界での時間はあっという間に流れていく。
気づくのがもう少し遅くなり、完全に閉じ込められてしまったらやばかったとカイが腕を組んでいた。
全く実感がなく、どこか他人事のように聞きながら小さい海竜を見る。
きょとんとしたように俺を見てくるその瞳には悪意などなくて、純粋な色をしていた。まあ、悪気がないならいいか、と片づければカイが貴様はそうやってと何か言っていた。スルーした。
海竜を抱えているカトレアは少々困ったように俺とカイを交互に見ている。
そうだ。俺の事よりもカトレアだ。
「なあ、今のカトレアってどんな感じなんだ?」
俺の言葉にカイは呆れ果てたように睨んでくる。睨むなよ。俺が一番心配しているのは俺でもカイでも海竜でもない。カトレアだ。
「貴様は全く…。
はあ、まあいい。
この小娘の制御はちゃんとできておるわい。まあ、制御魔法が解けたら貴様も認識できないくらいになってしまうだろうが…当分はその心配はない。
モンスターとしてのレベルは中庭を見ればわかるだろう。
貴様の言う事くらいしか聞かない状態になっておるだろうな。一応、貴様が主と言う様暗示をかけた。
自分の名がカトレアと言うのは理解しているらしい。
人としての記憶は曖昧だな。精神年齢もかなり低くなっていると思うぞ。
そして、何故か喋らん。
ただ、頭の回転は速い様だ。」
「そっか」
カイが腕を組んでざっくりと教えてくれた。
特に、今すぐどうこうなってしまう様子はない様だ。ほっと安堵しつつ、カトレアに声をかける。
「カトレア、大丈夫か?」
カトレアは一度瞬きをした後、にっこりと笑って頷いた。
「俺様の言葉はガン無視なのに貴様の言う事には反応するとはどういうことだ!!」
「俺が知るかよ…」
カイがぎゃんぎゃんと騒ぎ出す。
どうやらカイの言う事は全く聞かなかったらしい。こんだけ荒れた跡があるし、きっと苦労したんだろう。俺は寝ていてわからなかったけど。
カトレアのピアスがきらりと輝く。青い光がちらつく。あれが制御魔法かな。と思いながらさてどうしようと伸びをする。
「あれ、そう言えば俺七日も寝てたのに体訛ってないし腹も減ってないわ」
そこで違和感を感じカイになんで? と聞けば、カイはふんと鼻を鳴らし、
「貴様が罪の能力を持ってその罪と同化しかけているからだ。
貴様も、もはや純粋な人間ではないのさ」
「へぇ」
「軽いな」
うんざりとカイがため息を吐くのを横目で流し見つつ、でもこっちのが得してるだろと笑う。
カイは呆れ果ててしまったのか好きにしろと言ってどこかに行ってしまった。怒らせたなーと思いながらカトレアの隣に座る。
カトレアが何をするのという様にこちらを見上げてくる。本当に喋らないな、と苦笑しながら、考えていたことを口にする。
「あのな、これから俺はハーピーの樹海か、マゼンダの火山地帯に鍛え直しに行こうと思うんだ。
勿論、カトレアも一緒にな。
そこで、カトレアはどっちに行きたい?」
俺の問いに、カトレアはぽかんとしたように俺を見て、そして海竜を見る。
海竜は呑気に欠伸をしている。
「…もしかして、行ったところはいやか?」
悩む様な素振りに思わずそう聞けば、カトレアは首を横に振る。
うーん、喋ってくれないと少々会話が面倒な気もする。まあいいか。
「他の場所のがいいなら、そっちから回ろうと思うけど…。
他の選択肢だと草原と山になるな」
草原、という言葉にぴくりと反応したカトレア。
そう言えば、カトレアって綺麗な場所が好きだったな。樹海、火山地帯、山、草原と来れば一番綺麗な場所は草原だろう。
「草原に行くか」
行き先変更が確定した。我ながら甘いなと思いながらも、どうせ最後は全部回るんだしいいじゃんと別の俺が言い訳した。
そうだよ。いいんだよ。のんびりで。
「海竜はどうする? 連れて行くか?
カイの話だと、少しの間なら連れまわしても問題ないみたいだけど」
俺の言葉にカトレアは海竜を見下ろす。海竜はふんふんとカトレアにすり寄っており、しばらく離れそうにない。
「カイが騒ぎ出すまでは、連れて行くか」
つん、と海竜の額をつつきながら苦笑すれば、カトレアはこくこくと頷いた。
さて、あとはカイが戻って来ればすぐに出発できるのだが。
一体あいつはどこに行ったのだろうか。