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セーブ121 海竜と七日の空白

 ぼんやりとする意識。

確か俺はカイの社にいたはず。なのにここはどこだろう。


 深い深い海の底の様な色と雰囲気。

しかし穏やかで、命の危険や恐怖は感じない。


 まるで、死んだ海竜が最後に見せた表情のような場所。


 そう言えば、意識を手放す前に小さい海竜と目が合ったような気がする。


 ゆらゆらと揺らぐ当たりの景色。ぼんやりしていた頭が徐々にはっきりしていく。


 それと同時に、声が聞こえてくる。


「彼女をまたここに連れてきてくれて、感謝しています」


 その声は、海竜のものだった。

ハッとして辺りを見渡すが、誰も居ない。どこにいる?


「しかし、カトレアはすでにあの時のカトレアではないのですね」


 もしかしたら、この空間自体が海竜なのかもしれない。

酷く寂しそうな声が耳に届く。体に響く。


「…怒って、いるのか?」


 怒りは欠片も感じられないが、一応聞いてみる。


「いいえ。怒ってはいませんよ。

ただ、私の知っているカトレアはもういないのだと理解してしまった。


 それなのに、もう一度会えたことがこんなにも嬉しい。」


 死んだはずなのに、新たな海竜の目を使って見てしまう程には、と海流が笑んだ気がした。

新しい海竜の目を通してカトレアを見ている、という事は、本当に死んだわけではないのだろうか?


「私は死にました。

 ただ、一つの念、カトレアにもう一度会いたいと言う念だけが残ったのです。


 ですが、もうそれも消えます。カトレアに、会えましたから」


 だんだん、海竜の声が遠くなる。

それで、いいのか。カトレアは、お前の知っているカトレアじゃないだろう。


 そんな質問を口に出す前に、飲み込んだ。

別に、俺に関係するような事ではない。引き止めるような事をする義理もない。


 酷く冷めきった頭でそう結論付け、海竜の言葉に耳を傾ける。


「…そして、主も変わりましたね。ギムレット」


 最後に、苦笑したような海竜の声が聞こえた。

同時に意識が戻る。


 ハッとして起き上がれば、小さい海竜が腹の上に鎮座していた。


「…お前が、見せたのか?」


 つんつんと額を撫でて問えば、きゅいと一声鳴いた。

肯定の意だろう。そうか、とため息を吐いてまた横になる。


 そこで、視界が陰った。

原因はカトレアだった。目が覚めたのか、と言う驚きと共に言葉が出ない。


 寝転がる俺を覗き込むように見るカトレア。

その瞳は酷く綺麗な青で、海の色だった。


 さらさらとした金髪は、どこか青みがかっていた。


「おはよう、カトレア」


 驚きの声を飲み込んで、カトレアの頬に手を伸ばし、笑んで声をかける。

少々間があったが、こくりと頷いたカトレア。どうやら、言葉は理解しているらしい。


 さらさらと流れるカトレアの横髪を一撫でして起き上がる。


「カトレア、言葉、わかるのか?」


 どのくらいモンスターになったのかはまだわからないが、俺の言葉にひとつ頷く。

言葉を返してこない辺り、きっと言葉は奪われているのだろう。


「そっか。

じゃあ、何があったか覚えているか?」


 俺の言葉にカトレアは目をぱちくりさせ、じっと俺と俺の横にずり落ちた海竜を交互に見る。

海竜はのそのそとカトレアに近づいていきすり寄っていく。

カトレアは最初こそ驚いたように海竜を見つめていたが、ふわりと笑って海竜をいじりだした。


 うーん、記憶の方はよくわからないが、とりあえず俺の事は理解してるみたいなので問題ないだろう。


 にしても、カトレアがはやく目覚めてくれてよかった。


「なぁにがはやいだド阿呆!!

貴様七日も寝ておったのだぞ!!」


 すこーんと後頭部に覚えのある痛みが走る。


「ってぇな!?」

「やかましい!! 起きぬ貴様にどれほどひやひやしたかわからんだろう!!

 その小娘、目が覚めた途端少々暴れたのだからな!! 貴様が起きないとわかってからはもう本当に!!!」


 ぎゃんぎゃんと騒ぐカイに、ああそうだおかえりと言えばもう一度体当たりをされる。


「カトレア、暴れたのか」

「おう。

後ろの中庭を見て見ろ」


 言われた通り中庭を見れば、美しかった中庭は悲惨なことになっていた。

めちゃくちゃに乱されており、社の柱も数本折れている。


「はー…すごい威力だな」

「制御しててもこれだけ力を出せるとは恐れ入ったわい」


 やれやれとばかりにカイがため息を吐く。

ん? 待てよ。何か大切なことをスルーしている気がする。


「七日ぁ!?」

「遅いわ阿呆!!!」


 七日も、寝ていたのか俺は?!

わけがわからんとカイを掴めば離せ無礼者と罵倒される。


 おろおろとしたような海流とカトレアを横目で確認しつつも、どういうことだが聞きだすまでは落ち着けない。

 七日も、カトレアを放置していたと言う事だろう? 自分が許せなくなるのも仕方あるまい。

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