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セーブ120 カイの社

 結局海竜はカトレアから離れそうにないので連れて行くことになった。

カイ曰く、まだ海を治めるほどの力はないから少しの間なら連れまわしても問題ないだろうとのこと。

 それに、カトレアがモンスター化し、記憶や人としての理性がどのくらい残っているかはわからないので会った事のある海竜と同じではないが、同じ役目を持つ海竜がいた方が安全かもしれないとも言っていた。


 小さい海竜はとても軽く、とりあえず俺の頭の上に収まったのでそのままにし、カイの社に向かう。

相変わらずこじんまりしていて、カイが初対面一発目に体当たりをしてきたのを思い出す。


「前に俺様の空間に来たことがあるだろう?

それと同じ原理で本当の社の場所まで行けるのだ。すごいだろう。」

「うんすごいね」

「感情をもっと出せ!!」


 はいはいと流しながら、辺りを見渡す。特にあの時と何も変わらない風景が広がっている。


 カイはふんふんと息を荒くしてなにか騒いでいたが、俺が全く話を聞いてないとわかったらしく無礼者と新たに騒ぎ出した。


「貴様! 匿ってやると言っているのに少しは興味を持て!

美しいのだからな! 俺様の社は!!」

「そっかそっか。じゃあさっさと連れてってくれよ」

「無礼者!」


 ぎゃんぎゃん騒ぐカイをスルーして欠伸をする。

カイは疲れたのか何なのかは知らないが一回ふんと鼻を鳴らすとパンと両手を叩き合わせた。


 小さな社の扉がぐにゃりと歪み、辺りが青に包まれる。

その青は酷く優しくて暖かかった。


 はたと気づくと、別の場所にいた。

カイの住処である空間とほぼほぼ同じような空間。

 足元には真っ白な石の床があり、前方には真っ白で美しい社がどっしりと建っていた。


 カイはふんと得意気に腕を組み、俺の目の前に飛んでくる。


「どうだ! 美しいだろう!!」


 辺りがほぼほぼ青のこの空間に、白い社に白い床はとても美しく見える。


「すごい綺麗なところだな」


 素直に頷けば、カイは満足そうにぺらぺらと喋り出した。

全て無視しながらのんびりと社の方に歩いて行く。


「本来なら人など入れぬ空間だぞ。有り難く思えよ!」


 ふんすと偉そうにそっくり返るカイに礼を述べてカトレアが目覚めるまでの休憩所は確保で来たなと安堵した。


◇◇◇


「この空間には温度など無い。

 その者の感じる適温がこの空間の温度だ。風は吹くがそれも冷たいものでも熱いものでもない。

朝と夜はそのまま訪れるから時間の感覚は狂う事は無いだろう。


 社の中にある好きな部屋で勝手に過ごせ!!

俺様は貴様と違って忙しい! しばらく留守にするぞ!!」


 社に入れば、そこはやはり白だった。

しかし水の魚や海月がふよふよと空を泳いでいた。水族館かな。


 カイは一通り勝手に喋るとどこかに行ってしまった。

ここからどう出ればいいと聞いたり、食べ物はと聞いたが、


「俺様が不在の時に外に出るなど門外不出に近いわ!」

「褒められてるのか貶されてるのかいまいちわかんないんだけど」

「今の貴様らに食など必要あるまい!!」

「死ねと?」

「やかましい俺様はもう行くからな!!」


 と、ものすごい雑に言われて置いていかれた。

まあいいかとすぐに開き直って社の中を歩き回った。

社は広く、中庭もあった。


 中庭に通じる大きな部屋があったので、そこで大人しくしていることにした。

その部屋には大きな木が一本生えており、根元にカトレアを寝かせている。


 海竜はそんなカトレアの横で丸まっている。


 中庭に在る小さな池を覗き込みながら、カトレアが目覚めて一段落したら、どこから行こうかなと考える。

 マゼンダの火山地帯に雷神の山、未知の草原にハーピーの樹海が地平線の外れをぐるっと囲っているはず。

火山地帯と樹海は行ったことがあるから、やはり行ったことのある所からのが安全だろう。


 それなら、樹海からだろうか。

ハーピーの女王はカトレアを気に入っているみたいだし、敵意を持たれる可能性が一番低い。

 ただ、俺が酷く責められる気がする。女王にも、カトレアの事を任されたようなものだったし。女王の一番恐れていたであろう事がカトレアのモンスター化なら、きっと酷く怒るだろう。


「ま、カトレアの行きたいところから行くかな。」


 考えるのがだんだん面倒になってきたので考えることを放棄しつつ伸びをする。

空が少しだけ暗くなり始めた。そろそろ夕方と言う事だろうか。


 部屋に戻り、カトレアの横に腰を下ろす。

カイがどこに行ったのかは知らないが、とりあえずは帰って来るのを待とう。


 色々あったのに疲れをあまり感じていない。しかしゆっくりと眠気が襲ってくる。


 ぼんやりとする意識の中で、海竜の綺麗な瞳と目があった気がした。

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