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セーブ118 始まりの場所へ

 一通り起きたことを話せば各々色々な反応をしてくれた。

それを流し見しながらカトレアの方を窺う。


 当たり前だが目覚める気配はない。

カイが腕を組んで難しい顔をしてカトレアを見ているが、どうしたのだろう。


「ま、そう言う事だから」


 ざわついてる仲間たちにそう声をかけて立ち上がる。


「どこ行くんだい?」


 慌てたようにラベンダーが俺の腕を掴む。

どこもここもないだろう。


「ハックを探す」

「一旦サラームに戻らないのかい?」

「なんで?」

「なんでって、あんた一応勇者だろう?」


 ラベンダーが困り果てたように俺を見上げる。

ああ、そう言えば勇者だったなと思いだす。


「じゃあ、代わりにラベンダー達が行ってくれればいいよ」


 から、と笑って次こそカトレアの方へと歩く。

ラベンダーの制止の声や、ナシュの困り果てた様な声が聞こえるが無視しておく。


「いいのか?」


 カイが俺に問うてくるが、何故そんなに確認するのだろう?


「良いも悪いも、これがいい」

「…そうか」


 話しても無駄だと悟ったのか、カイはそう言って口をつぐんだ。


「本当にどうしたんですか?!

正気に戻ってください」


 そこでナシュがこちらに駆け寄って来る。

正気もなにも、俺は正常だよと返せば、ナシュは首を振る。


「今のあなたは、正気でも何でもない。

目がいつもの色ではない。どろどろとした、暗い色をしている。戻ってきてください」


 真剣に見つめられるが、わけがわからない。


「まあ、そのうち」


 適当に返してカトレアを抱き上げる。


「俺はこれから、鍛え直しながらハックを探す。

一旦ここで別れよう。今の俺は、多分一人の方が効率がいい」


 まあ、カイとカトレアは連れてくけど、と笑えばナシュは目を見開く。


「王の命により、わたしはあなたに同行する様言われています。

勝手な行動は困るんです」


 どこか、最初に会った時の様に喋るナシュに違和感を覚えつつ、そっかとだけ返す。


「旦那、本気ですかい?」


 ジェットも困ったように近づいてくる。


「悪いな。勝手に誘って勝手に解散だなんて言って」

「いやぁ、それは別にいいんですけどもな。

旦那自身が、大丈夫ですかい?」

「俺は大丈夫」


 からからと笑って答えれば、ジェットはため息を吐いて何も言わなくなった。


「じゃ、またどっかで」


 一方的にそう告げて、さっさと歩き出す。

慌てた様なラベンダー達の声を無視して、カイに声をかける。


「追われても面倒だし、砂漠近くまで移動できないのか?」

「大気の水分を使えばできるが…貴様、本当にこれでいいのか?」

「いいよ」

「…そうか」


 何やら追ってくる足音が聞こえる。

カイは背後をちらりと見て、少々申し訳なさそうに苦笑した。


「悪いな貴様ら。

俺様は結局こいつの我儘を優先するぞ!」


 そう言ってカイは指を鳴らした。

一瞬辺りが海の色に包まれたと思ったら、砂漠を抜けた死の森に立っていた。


 すごいな、と思いながらさて砂漠をどう抜けようかとため息を吐く。


「砂漠は乾燥しているから、あまり移動はしなくないな!」


 ふんと偉そうにカイがそっくり返った。

はいはいと流しながら、まあなるようになるかと砂漠に足を踏み入れる。


 カイが慌てたように俺のフードを引っ張る。


「阿呆! 死ぬ気か!?」

「大丈夫だって」

「いいやだめだ!」


 ぎゃんぎゃん騒ぐカイ。

耳を塞ぎたいが生憎両手は塞がっている。


 どうしよう、とため息を吐いたところで、ふわりと風が揺れた。


「…おやおや、随分と酷いありさまだねぇ。」


 先程聞いた夜月の声だった。

ハッと顔を上げれば、夜月が目の間に立っていた。


 俺とカトレアを交互に数回見た後、ふわりと笑う。


「砂漠を抜けたいんだろう? 案内するよ」


 特に何があったかは聞かれずに手招きをされる。

有り難いと思いながら夜月の後をついて行く。


「おい、何も聞かないのか?」


 カイが夜月の前まで飛んでいき、不思議そうに尋ねる。

余計なことを本当にするな、この海の精霊。


 しかし夜月はカイの質問にうんと頷く。


「聞いたところで、俺は何もできないし、するつもりもないからねぇ」


 こちらを振り返らずに、でもまあ、と夜月は続ける。


「ハックが一緒にいたのなら、こうなるのは当然だと思ってたしね。」


 独り言のように呟く。

そうか、とそれを流しつつ、そう言えばと夜月に声をかける。


「お前の知らせてくれたやばいやつって、結局誰だったんだ?」


 俺の問いに、夜月はゆらゆらと肩を揺らす。


「さあて、誰だろうねぇ。」


 答える気は無いらしい。

まあいいかと追及せずに大人しくついて行く。


「さてと、そろそろ砂漠を抜けれるけど、君は何処へ向かう気だい?」


 夜月が足を止め、振り返る。

そう言えば、決めていなかったな、とぼんやりする。


「…アトラスの、村、かなぁ」

「はぁ!?」

「へぇ」


 ぼんやりと思いついた場所。

そこは海竜にカトレアを連れて行くと言い残した場所。

それにカイとの出会いの場所でもある。


 色々あった場所。あそこに立ち寄るのも一興かもしれない。


 カイがわけがわからんと声を上げる反面、夜月は目を細める。


「うん、いいんじゃないのかな。

じゃあ、連れて行ってあげるよ」

「えっ?」


 夜月はふわりと笑って俺の頭に手を置いた。


「頑張ってね」


 さら、と一撫でされると風が吹いた。

思わず目をつぶってしまう。


 そして、瞑った目を開けると、そこには海が広がっていた。


「…海」


 思わず零れた言葉。

何が起きたのかはまだ理解していない。


 ただ、夜月が連れてきてくれたのだろうと言う事はわかった。


 久しぶりと言う程ではないが、久しく感じるアトラスの村に。


 思えば、ここが全ての始まりだったのかもしれない。

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