セーブ117 馬鹿げた閑話を
エニシダは、しばらく俺に何かを言っていたが、俺の瞳の色に気付いたのか一度目を見開き舌打ちをして俺を突き放した。
そして苛立つようにしてどこかへ行ってしまった。
「今の貴様を見れば、誰も感情をぶつけようとはできまいだろうな」
いつの間にかカイが俺の肩付近に浮きながら腕を組んでいた。
そんなに今の俺はおかしいだろうか。いや、おかしいか。
「カトレアは?」
カイがここにいると言う事は、カトレアの制御魔法の仕掛けは終わったのだろう。
「一応は制御魔法をかけてはみたが…、あとは貴様次第だな」
「ありがとう」
カイに礼を言ってカトレアの元に行くが、やはりカトレアは目覚めない。
「なあ、いつ目が覚めるんだ、カトレア」
「そうだな…まあ、モンスターの体が馴染むまでは目覚めぬだろうな。
見た所、かなり強引に、強制的にモンスターにされたらしく体の中はボロボロだ。
三日は目覚めないのではないか?」
カイが困ったものだなとため息を吐く。
三日。三日か。長いな、と思いつつもその程度で済んだなら幸運と思うべきだろう。
「わかった。」
「…で、貴様はどうするつもりだ?」
まさかこのまま終わる気ではあるまいな?と俺の目の前に飛んでくる。
このまま町に帰ってもいいなとか思っていたが、そのつもりはない。
「勿論、ハックを探すよ」
俺の言葉に、カイは肩眉を上げる。
「奴の居場所に見当でも?」
「いや全く」
「はぁっ!?」
残念ながら、ハックがどこに行ったのかなんて知らない。
だが、あいつの残して言った言葉から察するに、時が来れば向こうから姿を現すだろう。
ハック探しと言う便宜を盾に鍛え直すつもりだ。
もちろん、探してはみるけども。
「…まあいい。
貴様、この有様を仲間にどう説明する気だ?」
カイは俺の言葉に追及しても返答が来ないと悟ったらしく、話を別のものにする。
ちらりとカイの見た方向を見れば、ラベンダーがナシュやジェットに何かを話している姿が見えた。
「…説明、面倒だな」
思わず本音が零れれば、カイは呆れ果てたように俺を睨む。
睨むなよ。事実、こっちもよくわかってないんだ。
ハックが神様で、カトレアをモンスターにして、目的が自分と遊ぶためとか何とか。
「貴様とそこの小娘しかその状況を見ておらんのだ。
面倒だのなんだの言っておらんでとっとと説明して来い」
「カイって俺の記憶見れるんだろ?
なら代わりに…」
「阿呆!!!」
「はいはい…すればいいんだろわかったよ…」
思いっきり体当たりをかまされ、しぶしぶとラベンダー達の方に足を進める。
ラベンダー達は俺が近づく居ていくのがわかったのか、少々困惑したようにこちらを見てくる。
「ギム、大丈夫かい?」
「平気平気」
「あの、一体何が?」
「ハックがすべて悪い。多分」
「旦那、その、カトレアの奥方は大丈夫なので?」
「カイが何とかしてくれたっぽいから今の今どうにかなっちまうってことはなさそう」
「兄ちゃんどこ見てるのー…?」
「どこだろうな」
一通り投げかけられた質問をのらりくらりと躱してライラの頭をぽんぽんと撫でる。
ソレイユはナシュの後ろからじっと俺を不安そうに見ている。
「ソレイユ?」
どうした、と屈んで視線を合わせると、ソレイユは戸惑ったように視線を下にやった。
「…強欲の罪持ったから、変な感じなのかな。ま、いっか」
ソレイユに構ってる暇はない。
その場に腰を下ろし、起きたことをざっと話そうと口を開きかけた所で、
「ど、どうしてしまったんです? 彼」
驚いたようにナシュがラベンダーに問いかけていた。
どうしたとは酷いなと苦笑しつつ、どうもしてないよと笑う。
「まあ、今のこいつはさっきまでのギムじゃないってことくらいねぇ。
あたいもよくわからないんだ。まだ何も聞いていないしね」
ラベンダーが困ったように俺を見るが、スルーしてさてどこから話そうかなと考える。
「旦那、本当に人が変わっちまいましたね…」
ジェットも困惑したように俺を見て苦笑を零す。
感想などを好きに言わせておきながら、夜月の知らせの事を話すかどうかを考える。
そう言えば、夜月の言っていたやばいやつって結局誰だったのだろう。
ザラームか、ハックか。はたまた別の誰かか。
もしかしたら、今の俺か。
まあいいや、と投げやりになりつつまだごちゃごちゃと話している仲間たちを無視して俺は起きたことをざっくりと話し出した。