表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セーブデータをお探しですか?  作者: 卵粥
東の無の街編
116/287

セーブ110 もう一人の罪人

 頭を使えとカトレアに言われてから、俺はカトレアの動きをよく見る様になった。

それでわかったことは二つ。


 ひとつ。カトレアが魔法を使う予兆が動きとして現れること。

ふたつ。何か企んでいる時、視線は固定されている、または逆の方向を向いていること。


 ひとつめは動きだから見切れるが、ふたつめが厄介だ。

視線の事にカトレアも気づいているらしくうまくカモフラージュされている。


 来るな、と思ったら来なかったり。来ないだろうと思ったら来たり。


 しかしまだ見落としがある気がする。

 二つの事に気づいてからはだいぶ読めるようにはなったが、まだ押されている。

弾き返すことは難ではないが、こちらが斬り込むと通用しないのがほぼほぼだ。


 俺はカトレアと戦うときは頭を空っぽにしてしまうため、普段できることができなくなっている。

普段敵と戦うとき、俺はどうしている?

まだなにかあるはずだ。


 その何かを、普段無意識でやっている何かに気付ければ、うまく形勢逆転できるはずなんだ。


「考えるのはいい事ですけど、動きが疎かになっていては意味がないよ。ギム」


 ほんの数秒考えに集中していただけなのに、カトレアは視界からいなくなっている。

 空気の揺れで上から斬撃が降って来るのはすぐに読めた。

水の盾で降ってきた真っ黒い斬撃を弾き飛ばし、足元を掬おうとする鎌の刃を飛び退いて回避する。


「…ギム、本当にすばしっこいね」

「ははは、俺を捕らえられるやつなんてなかなかいないからな」


 素早さには自信があるし、この目にも感謝している。

普通では追えない速さを見切れるのは俺の素早さを引き上げる重要な役割だ。


 カトレアは、目を潰せればなあとため息を吐く。

 おいおい恐ろしい事言うなよと思うが、やりかねない。こいつはガチになると手段を択ばないのだ。

普段優しく笑っているだけな奴は怒らせたりマジにさせるとやばい。


 ラベンダー程えぐい手を使ってこないだけが救いか。


「素早さでも、腕力でも、脚力でも勝てないとは思っていたけど、体力もこんなに持つなんて…。

あれだけ魔法を使ったり攻防戦に集中して、疲れないの?」


 計算が外れたらしく、カトレアが苦笑する。

残念ながら俺はまだ疲れのつの字もない。


「カトレア、もうへばったのか?」


 からからと笑えば、からかわないでくださいね、とカトレアがにっこり笑う。


「でも、やっぱり私相手だと油断する。」


 カトレアがぱちんと指を鳴らした。

足元にゾッとした寒気が走る。


 慌てて足元を見ると、俺の影から闇魔法らしき影が飛び出して、俺の足を固定してしまった。こんなのありかよ。


「動きを封じれば少しは違うかな。」


 カトレアはうまく行ったと笑って、容赦なく光魔法を投げ飛ばしてくる。

光魔法は竜の様な形になり、俺に牙を剥く。


「はっ、殺す気かよ!」


 おっそろしいなと吐き捨てながら、爆発魔法で光の竜を粉砕する。


 竜が粉砕した中からカトレアが飛び出してくる。読み通りだ。

万物の鎌の刃が降りかかってくるが、剣で受け止める。


 ギャリギャリと耳に嫌な音が流れ込んでくる。思わず顔をしかめれば、カトレアは笑った。


「いくら腕力があっても、動けないギムが上から降って来る攻撃を弾き返せる?」


 重力もあってか、いつもよりも刃が重い。

舌打ちをすれば、カトレアは楽しげに笑った。


「笑ってんなよ」


 あまりにも不利だし腹が立つ状況。

 押し切られるかもと言うネガティブな思考に苛立って、エニシダ戦の時に使えたあの激流を使えればと舌打ちをもう一度する。


 途端、体の奥で何かが熱くなった。

目の奥がカッと熱を持ち、先ほどと同じように力が湧いてくる。


 カトレアは少し目を見開き、口元に笑みを浮かべる。


「流石ギムですね。

殺意以外でも、純粋な闘志でも罪を使えるなんて。」


 罪云々でうろたえていたカトレアはどこに行ってしまったのか。

戦いとなるとなんでもポジティブに捕らえやがる。


 カトレアの言う通り、どうやら俺は罪の能力を使えるらしい。

カトレアを横殴りにして距離を取りたい。そう思えば激流がフッと現れてカトレアに襲い掛かる。


 威力は先ほどほどではないが、直撃したら骨折れそう。と眺めながらカトレアなら大丈夫だろと勝手に思い込む。

 普段なら、焦るだろうな。俺。そもそも戦い以外にカトレアにこんな危ない魔法向けることないし。


 等と軽く現実逃避していると、激流によって吹っ飛ばされたはずのカトレアが少し距離を取った場所に立っている。

咄嗟に回避したか。と感心していると、カトレアはにっこりと笑う。


 なんだ、と思いつつもカトレアに向けて激流を一本突きだす。


 しかし、カトレアは次は避ける動作もせず、向かってくる激流に手を伸ばす。


 腕が、折れると直感した。

嘘だろと腹の中が冷えた。


 が、そんな心配はいらなかった。

激流とカトレアの指先がふれた瞬間、激流はカトレアの指に吸い込まれるように消えて行った。


「は…?」


 何だ、今の。と理解できずに立ちつくしてしまう。

カトレアはにっこりと笑った。


「ギムは、まだ罪を持って本当に数時間だから気づけないのも当たり前ですけどね。

罪を持ったものは同じ罪を持つ者を普通見れば一発でわかるんですよ。」


 いきなり、何を言い出すんだとぽかんとしていると、カトレアは楽し気に笑った。


「私ね、色欲の罪を持っているんですよ。」


 は、と息が詰まった。

こいつ、何と言った? カトレアも、罪持ち?


「よかったですよ。ギムがさっき罪を持ってくれて。

私のとっておき、罪相手の対策を事前に見抜かれずに済んで。」


 心底楽しそうな声に、言葉が出ない。

何を言えばいいのか、怒ればいいのか、驚けばいいのか。

 こいつは一体どれほど自分を危険な目に陥れれば気が済むんだ?

俺に勝つためなのだろうけど。俺ってそこまでカトレアを追い込む存在なの?


「目覚めたばかりの罪はとっても弱い。

本来罪同士は跳ね返すことくらいしかできないのに、ちゃんと使いこなせず、弱い罪相手だとこうもあっさり打ち消せる。」


 カトレアは激流を打ち消した自身の指先を見て笑った。


「お、まえ…自分がどんだけやばい状態かわかってる…?」


 やっと出せた言葉はそれだった。

それ以外は何も言えなかった。こんなの想定外にもほどがある。


 カトレアはそんな俺を見て頷く。

その顔に後悔や反省の色は一切ない。


「わかってますよ。」


 その言葉を続けるようにカトレアは笑う。


「私が罪を持った原因は、ギムに見てほしいと言う欲から。

そしてギムが罪を持った理由は私への執着。


 私、さっきそれを知った時、すごい嬉しかったですよ」


 ぱっと満面の笑みになって言葉を吐き出すカトレアは、綺麗なくらいに歪んだ感情を浮かべていた。

その歪みがいっそ美しく見える俺も末期かな。


「やられたよ。

お前は俺の一手先、二手先を簡単に進んでいく。」


 苦笑が漏れれば、カトレアはくすくすと笑う。


「ギム、今からはもうただの勝負じゃないですよ。

罪人と罪人の、馬鹿げた勝負になっちゃいますよ」


 罪人と比喩する癖に、その顔は罪人のする顔じゃない。

はっ、と乾いた笑いを吐き出して。上等と返す。


「馬鹿げた勝負でも、俺にとっては大事な大事な勝負なんでね。」


 歪みに歪んだ俺の幼馴染は、今の俺ではきっと届かない。連れ戻せない。

そんな感覚を覚えつつも、なら俺もそこまで駆けあがればいい。


「待ってろよ。カトレア。

その高峰から引きずり降ろしてやる」


 高峰ではなく、泥沼の底かもしれないけれど。

俺の言葉にカトレアは笑った。


「あはは、それは楽しみですね」


 嬉しそうに、楽しそうに、カトレアは心底幸せそうに笑いやがった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ