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セーブデータをお探しですか?  作者: 卵粥
東の無の街編
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セーブ99 扉の先

「さて、長話をしてしまいましたね。

そろそろ勝負に移りましょう。私のお相手をしてくださるのはどちら様でしょう?」


 何とも言えない空気を破るように、トトがにっこり笑う。

ちらりとハックを見れば、トトの顔に少々苦みが浮かんだ。


「…貴方様ですか?」

「そうだけど。不足?」

「とんでもございません。逆ですよ」

「はっはー。だよね」


 その場に空気が一気にぴりぴりとし出す。

本当にこいつら仲悪いな。それよりも、トトの話が後味悪く終わった気がするが大丈夫だろうか?


 トトは特に問題なさげな顔をしているし…ラベンダーは苦い顔をしている。

とりあえず二人が今にも戦いだしそうなので安全なところまで移動する。


「…カトレアも、困ったやつだねぇ」


 ラベンダーが呆れたようにこそっと呟く。

それに否定も肯定もせず聞き流せば、呆れたように笑われた。



 トトとハックの戦いは何というかあっさりしたものだった。

トトが一つ攻撃するとハックが防御する、逆も然り。暴れるとかではなく力比べに似た何かを感じた。


 ハックは値踏みする様にトトの攻撃をまじまじと見ていた。

トトはそんなハックを見て苦い顔になっていた。


「…ふうん、思ったよりも強いじゃん」


 どのくらい経ったのか、ハックが感心したようにトトを見た。

意外な言葉にぽかんとしていると、トトは何とも言えない表情でありがとうございますと苦笑していた。


「でも、やっぱオレには敵わない雑魚か。

もういいよ、飽きたし」


 感心した表情を一転させ、つまらなそうにトトを見て一つ指を鳴らす。

ヒヤッと嫌な感覚が背筋を走った。


 反射的に剣を引き抜き、走り出す。トトを庇うように二人の間に滑り込む。

そして自然の流れで空を右上から左下に叩き切った。


 ギャン、と言う金属音と共に何もない空間から大きな手裏剣が現れハックのすぐ横に跳ね返り刺さった。


「ちょっと~、邪魔しないでよギム~」


 ハックの不機嫌そうな声を遠くで聞きながら、一気に速くなった心音と呼吸を整えようと集中する。

なんだ、今の感覚は。

 今まで感じたことがないものだった。ハックと初めてあった時もあそこまでではなかった。


 あれに触れたら魂ごと消される様な、そんな卑怯で非道な感覚。


「お、まえ、トトの事殺す気かよ?」


 じろ、とハックを睨めばハックはきょとんとして、


「殺さないよ? だってルール上殺すのはダメでしょ?」


 不思議そうに俺を見る。

じゃあ、今のはなんだ? 理不尽すぎる圧倒的なパワーと、圧倒的な恐怖。


「殺すのがダメだから、魂ごと存在を消そうかと。

消すと殺すはイコールじゃないからさ。」


 からりと笑うハックに眩暈を覚える。


「だから嫌だったのですよ…」


 トトの絞り出した様な声を背で聞きながら、やはりハックはおかしいと痛感した。


「消すってお前なぁ…!!」

「怒んないでよ~。わかったよ、もうやめるよ。

その秋のデーモンが負けを認めるならやめるから」


 むぅ、とハックが手をひらひらさせる。


「だって、トト。どうする?」

「最初から勝負など見えておりましたし、主様は死ぬなと言う命を私に仰いましたので大人しく負けを認めますよ」


 苦笑したトトにホッと安堵しつつ、ハックを見る。

ハックは不貞腐れたようにこちらを睨んでくる。


「つまんないの~」

「お前本当自重覚えた方がいい」


 剣を鞘に納めつつため息を吐けば、ハックは俺をまじまじと見る。

なんだよ、と睨めば、


「いやぁ? オレのあの攻撃弾かれたの初めてだからさぁ」


 楽し気に笑う。

ああそう、とだけ返してラベンダー達の方へと戻る。


「可能性があるのはやっぱギムだけか~…。無能多すぎるな~」


 ハックがわけのわからないことを言っているがスルーしつつ、ラベンダー達に声をかける。


「進めるって」

「…あんた、よくあの攻撃を止められたね?」

「…見えませんでしたよ、わたし」

「あっしもギリギリ見えるくらいでしたぜ…」


 帰ってきたのはそんな言葉。

全員が全員ハックと俺を交互に見ている。


「…まあ、ほら、俺って結構速いもの見えるから…」

「…そう言う速さじゃなかったんだけどねぇ。」

「ジェットも見えるって言ってるしジェットも問い詰めた方がいいと俺は思う」

「ははは、旦那とぼけるのがお上手で」


 ため息を吐くラベンダーをジェットに任せようとしたが見事に流されてしまった。

そんなに速かっただろうか? と言う視線をナシュに向ければ、


「人が見えてはいけない速さでしたよ。

普通あの攻撃を弾き飛ばす間なんてあるはずないんですけどね」


 じろりと睨まれた。

結構俺っておかしなことやっちゃった感じ?


「兄ちゃんやっぱすごいねー!!」


 ライラだけはぴょんぴょん飛び跳ねて笑っている。

そんなライラをじっと見つめるソレイユ。相変わらずだな。


「ところでギムレット様。

次はエニシダが相手ですが策はあるので?」


 トトの声で現実に引き戻される。

そうだ。次はあのエニシダだ。ちらりとカイを見れば、ふんと鼻を鳴らす。


「安心しろ秋の小僧。

俺様があんな竜如き捻り潰してくれるわ」


 自信満々がかえって不安になって来るのは何故だろう。

そんなカイを見てトトも苦笑する。


「…海の精霊様がついておられるのなら死ぬ事は無いでしょうけど…。

ご武運を」


 何か言いかけたが、すぐにやめてトトは背後の扉を指差す。


「エニシダのいる場所にはあの扉からしか行けません。」


 見ると、やはりここに入って来た時と同じような扉が見えた。

それじゃあ行こうかとラベンダー達に声をかける。


「ギムが負けることはないだろうけど、少々心配だねぇ。」


 苦笑するラベンダーの声。

確かにカイがいれば負けることはないだろう。俺一人だったら負けるだろうけど。とは言わず扉を開く。


 扉の先は真っ暗だった。何も見えない状態。闇が手招きしている様だった。


「何も見えないんだけど…」


 一歩踏み出す。

途端、ゾッと寒気が走る。


「っ、ギム!?」


 同時にラベンダーの焦った声が聞こえる。

ナシュやジェット、カイ等の声も何やら聞こえる。


 何をそんなに焦っているんだと振り返ると、そこには何もなかった。


「は…?」


 闇の中に一人立っている状態。

デジャヴを感じつつ、エニシダの術とやらだろうと結論付け辺りを観察する。


 冷たい風が遠くから流れてくる。手招きする様に。

罠だとわかっていても、それに縋るしか方法はない。


 腹を括り一歩踏み出すと、言い知れぬ寒気がひとつ増えた気がした。

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