セーブ96 VSウェル
「ジェット、あとは頼んだぞ」
ひらひらと手を振ってラベンダーに回復してもらう為観戦組の方へと歩く。
ジェットはまじですかい…と絶望感をたっぷり含んだ声で俺を見送る。ソレイユはそんなジェットに「が、頑張ってね!」と申し訳なさそうに笑って俺の後を追いかけてくる。
「まぁた派手にやったねぇ。
あんたはもうちっと頭を使えばいいのに。
あんたならフェアの魔法を真似て同じ魔法をぶん投げて隙を作るってこともできるだろう。
本当剣一本のやつは頭が固くて困っちまうよ」
ラベンダーは俺の怪我を見るや否や呆れたようにぐちぐちと説教を始める。
さーせんとだけ言って大人しく右から左に聞き流す。
「兄ちゃん魔法あんま得意じゃないねー!!」
容赦ないライラの一言に少々精神的ダメージを受けつつも、魔法はライラやラベンダーにカトレアがどうにかしてくれるからいいんだよと目を逸らす。
「まー、確かにあんたとカトレアはいいバランスだよ。
あたいとあんただとダメだね。どっちかをサポートするって言う頭がないからね。」
俺に回復魔法をかけながらため息を吐く。
そう。ラベンダーはスイレン戦でもわかるが結構好戦的。ライラが絡むと殺しにかかる勢い。
一度だけ俺とラベンダーで組んだことがあるがもう結果は最悪。
お互いがお互いを支えようなんて気は一切なく我先にと言う酷いもの。
テンポよく俺が攻撃して次にラベンダー等と言うリズムならいいが、何故か同時に動くものだから正面衝突は当たり前。からの文句の言い合い、最悪喧嘩になる。
「あんたが速すぎるんだよ周りを見な」から始まり、「魔女なら少しは剣持の俺をサポートしてくれても良くない?」と言う言い争いになる。
そこにカトレがすっ飛んできて俺らが正座で怒られるのが一通りの流れだろう。
「あたしもー、兄ちゃんとコンビ組んでみたいー」
ライラが楽し気に笑う。
いつかね、と返してソレイユを見る。
ライラをじっと面白くなさそうに見つめている。
怪我はなさそうなので何より。ただ疲労が溜まっているようなのでもう無理はさせられないだろう。
「それ言うならオレもギムと組んでみたいなぁ。
きっと綺麗な連携できると思うよ。オレ、サポートから先制攻撃幅広く得意だから」
キラン、と言う効果音がつきそうなドヤ顔でハックが話に入って来る。
確かに、カトレア抜きで考えるなら何となくハックと組むのが一番いいかもしれない。
強すぎる故に雑魚にはあまり興味がないと言うか、俺が暴れたところで獲物の取り合いにはならないだろう。
「あっ、ギムそれ殺す? ならオレこっち~」と言うノリなんだろうな。
「ふん、まあ確かに組むならそこの堕天使が一番いいだろうな。
しかし組む組まぬ以前に貴様!! 何と言うお粗末な魔法の使い方だ!!」
うるさいのが出てきた。
カイがわなわなと肩を震わせて俺に怒鳴りつけてくる。うるさいなこいつ。
「俺様と契約していると言う貴様が!! 何故水魔法で負けているのだ!! 俺様がいないと何もできんのか戯け!!」
どうやら今の俺の魔法の使い方が気に入らなかったらしい。
いいじゃん勝ったし、とため息を吐けばカイがさらにうるさくなった。
「ソレイユだってぱぱとちゃんとうまくれんけいできたもん」
ぼそっと不機嫌そうにソレイユがそっぽを向いたので、どうしようかなこの状況と思わず苦笑が零れた。
◇◇◇
ふとジェットの方を見れば、まだ戦いは再開していなかった。
ウェルがフェアから離れないらしく、どうしたものかと頭をかいているジェットが見える。
「だ、大丈夫だよウェル。おれは負けちゃったけど、ウェルが頑張れば大丈夫だよ」
フェアがウェルにそんな事をずっと言っているが、ウェルはうつむいたまま動かない。
俺はてっきりフェアがやられて激怒してこちらに攻撃を投げてくるかと予想していたので少々驚きだ。
「ウェルはねー、普段はねー、元気だけどねー、超ネガティブなんだよー!
フェアがねー、やられちゃうとねー、情緒不安定になっちゃうのー」
ライラがくるくると回りながら教えてくれる。
「フェアはポジティブだったりする?」
「するー!」
ほう。意外だ。
見た目的にウェルのがポジティブ&活発なイメージ。
しかし今までの行動から見るに、フェアの方が好奇心が旺盛で物怖じしなかった気がする。
見た目で判断できないな。
「ウェル、おれは大丈夫だから、ね?」
フェアが困ったように笑う。
「でも…」
そこでやっとウェルがか細い声を出す。
「ほら、おれ、死んでないし、大丈夫だからさ。
ウェルが巻き返してくれれば嬉しいし、おれよりも強いウェルなら勝てるでしょ?」
わたわたとフェアがウェルの説得にかかる。
「で、でも、フェアがいないとぼく、ちゃんと戦えないよ!?」
「それはおれも同じだったでしょ? 先に突っ走ったおれが負けちゃったのはそれが原因だし…」
「ならぼくは無理だよ!!」
「おれよりも強くてちゃんと考えられるウェルなら大丈夫だよ」
「無理だよ!!」
泣きそうな声でウェルがフェアに抱き着く。
フェアは困ったようにこちらを見るが俺にどうしろと。お前が無理なら俺は無理。逆効果にしかならなそう。とにかく頑張れ。ウェルみたいなタイプの子供の説得って難しいもんな。と言う視線を投げるとフェアはさらに困ったようにわたわたし始める。
「あー、どうしやす?」
暇を持て余したジェットがこちらを見る。
どうしようね。とハックを見れば、
「さっきみたく振り回す?」
等と言うのでこいつに聞いたのが馬鹿だったと反省する。
ライラも
「ああなったウェルってフェアか姉ちゃんしか説得できないんだよねー」
困ったように首をかしげる。
ラベンダーもどうしたもんかねぇと苦笑している。
「ほ、ほら、おれたちが倒れないと進めないんだし、ウェルが頑張らないと姉様困っちゃうよ」
フェアの言葉でウェルがぴたりと止まる。
そして数秒の間を置いて、のそりと立ち上がる。
フェアはほっとしたように笑って、頑張ってねとウェルに笑う。
くるりとこちらを見たウェルはまだどこか不安げに視線を彷徨わせている。
「あ、姉様が困るのは、だめだから…」
呪文のようにぶつぶつとそんな事を言いながらウェルはジェットを睨む。
ジェットは少々困ったように笑って、どうしやしょうねぇとため息を吐く。
「あの冒険家一人に丸投げなんてオレびっくりだよ」
その様子を見てハックが笑う。
「まあ、最初はびっくりしたけどさ。
ウェルの攻撃をかわす動きと言い今までの道案内と言い…非戦闘員とは思えなくてさ」
素直に答えれば、ハックはふうん、とジェットに視線を戻し、
「ま、圧勝するだろうけどね。あの冒険家」
ぼそりと呟いた。
は? とハックを見れば、見てればわかるよ、とジェットを指差すので大人しく観戦することにした。
◇◇◇
やはりジェットの動きは戦い慣れしているモノだった。
ウェルの恐ろしい威力の物理攻撃を難なく躱し、簡単にウェルの背後を取ってしまう。
攻撃手段がないから取るだけで終わるが、あれで攻撃手段があればウェルはもうとっくの昔にダウンしているだろう。
ウェルは随分と疲れたように息を切らすがジェットは息一つ乱れない。
「旦那ぁ、あっし回避ばかりで勝ち方がわからないんでさぁ」
困ったように俺を振り返るので、武器持ってないのと問えば、
「…持ってないでさぁ」
少々間があったが、現在使えるものは持っていないらしい。
「…ま、回避力だけでも見れたし今回はいいか。」
そこでハックが何やらまたおかしなことを呟き、指を鳴らす。
「面白い回避力見せてくれたからそれあげるよ」
ジェットの目の前に銀の斧が落ちる。
ハックがジェットに声をかけてひらひらと手を振る。
「こりゃあありがてえ」
ジェットが助かったとばかりにその斧を拾う。
ハックはそれを見て目を細める。
「人の皮を被った化け物じゃん」
くつくつと楽し気に笑う。
わけがわからずハックを見れば、ハックはジェットに渡したものと同じ斧を俺の目の前に落す。
あぶねえなこの野郎。
「持ってみ」
まるで持てばわかるよと言うように斧を指差すので、言われるがまま斧の持ち手に手をかける。
「まって、おっっっも!?」
思わず声が出る。
そう、この銀の斧、めちゃくちゃに重い。
「だろうね。
オレが遊び半分に岩だの鉄だのなんだの練り合わせて作ったくっそ重い斧だからね。
振り回せるのなんて相当な怪力じゃないと無理だよ。
ちなみに一度だけオレが振り回してみたけど見事に腰痛めたよね」
「馬鹿じゃねえの!?」
「何事もやってみなきゃわかんないさ」
斧を持ち上げるのを諦め、ハックを呆れたように見ればけらけらと笑う。
そしてジェットを指差して笑う。
「でも、おかげであの冒険家が頭おかしいくらいの怪力ってのはわかったろ?」
何か隠してるよ、あいつ。とハックは笑い俺の目の間に落ちた斧を消した。
ジェットを見れば、あの馬鹿みたいに重い斧を顔色一つ変えず持ち上げ、移動速度も落とさずにウェルの攻撃を避けている。
…俺が思っていたよりもやばそうだな、ジェットって。