セーブ94 ソレイユの我儘
「お化け屋敷?」
「しっかりおし。どう見ても違うよ」
「いや、じゃあなにあれ」
「たかがスケルトンだろう。」
「ゾンビの間違い」
「同じようなものさね」
「つかなんで城内に墓場があるの?」
「カトレアにお聞き」
テンポのいい俺とラベンダーの会話が発生したわけは城の中に入れば誰でも頷くだろう。
そこは青白いファイヤーボールもとい人魂らしきものがふよふよ浮かび、入ってすぐの場所にずらりといくつもの墓が綺麗に並んでいる。
墓の周りには無数のスケルトン。吸血鬼らしきものもちらほら。
光景の割には城内はとても清潔。
「ここねー、たまにねー、何も知らないモンスターとかー、すごーい低確率で運の良すぎる人間がきちゃうんだよー。
そして一回城の中うろついて大騒動になったことがあってー、城の一階はー、ぜーんぶお墓とかー、スケルトンたちが―、パトロールしてるんだよー。
あそこの吸血鬼たちがー、スケルトンのまとめ役さんー」
「所謂部外者への威嚇だね」
「そう言う事ー」
ライラが楽し気に吸血鬼やスケルトンの下に走って行く。
吸血鬼にスケルトンたちは攻撃することもなくライラに好きにさせている。
ライラは俺の知らない間に随分とモンスターと友好的な関係と共に懐いたらしい。
ラベンダーの言った威嚇でようやく現実を受け止めつつ、カトレアはどう言う思いでこんなことしてるのだろうと気が遠くなりかける。
「ちなみにねー、一階は霊界と引っ掛けて霊階って呼んでてー、二階がー、あたしとかのー、部屋があってー、キッチンとかもー、あるのー!!
三階はねー、姉ちゃんの部屋とかー、話し合いの場所とかー、書庫とかー!
地下もあってねー、地下はねー、訓練所とかー、あとはー、宝物庫とか!!」
階段こっちねーと突き当りの扉を開くと立派な階段が現れる。
「でもねー、今回はねー、こっちー!
城の裏手にあるー、大理石のー、大広間にー、向かうのー。」
大理石の大広間、と聞き少しだけ顔が引きつる。
夢で見た、回想で見たカトレアを殺した場所は十中八九そこだろう。
「大広間にー、向かうまでにー、四人をー、倒すルールになったみたいー」
ライラがくるくる回りながら階段の後ろに在る隠し扉を開く。
隠し扉の先にはそこそこ広いコンクリートでできた真っ白な部屋があった。
その真ん中に例のウェルとフェアが仲良く立っている。
「え、えっと、まずはようこそ。
ここはおれたちを倒さないと進むことができない仕組みになっている場所です」
フェアがぺこりとお辞儀をして笑った。
ウェルはどこか不貞腐れたようにそっぽを向いている。
フェアはそんなウェルを困ったようにちらりと見てから、そわそわと俺を見る。
「…どうした」
視線に耐え切れず問いかければ、ぱっと表情を明るくしてこちらに駆け寄ってくる。
「う、海の精霊様っていますか!?」
キラキラとした瞳で俺を見上げる。
そう言えばこいつなんかカイにめっちゃ憧れてそうな瞳してたなーとフードの中にいるカイを鷲掴み、フェアに渡す。
「フェアの言っているのはこれかな」
「んぎゃっ!? き、貴様いきなり無礼だぞ!! 俺様は今から昼寝をだな!!」
「わ、わぁ!! 小さい…!!」
「うわぁ!? びっくりした!! なんだ貴様!!」
カイがぎゃんぎゃん騒ぐが、すぐにフェアを見て声を上げる。
こんな時に昼寝ってどういう了見だが知らないがいい気味だと思う。
「ほー、これがハーフの双子ですかぁ。
随分大事にされてますなぁ。こんなに綺麗に育つなんて」
ジェットがまじまじとフェアを見る。
フェアはびくりと俺の影に隠れる。懐かれたものだな、とどこか諦めつつも、
「綺麗って?」
引っかかった単語を問えば、
「噂によりますと、ハーフってのは別種族の血が混ざるため成長するにつれ肌が二つの血に耐え切れずボロボロになるらしいんでさぁ」
それなのに、とジェットはフェアを指差す。
「そのフェアってハーフは随分と綺麗な肌をしているなと。」
ほー、そんな事があるのか、とフェアを見れば、フェアはどもりながら、
「え、えっと、おれらの場合は、小さい頃に片目をお互い無くしているから、大丈夫って教えてもらいました」
「あのねー! ハーフもねー! 小さい頃にねー! とっても大切なところを無くすとねー! その無くなった部分に濃い血が溜まってねー、肌が綺麗なままでいられてー、長生きできるんだってー!!」
ライラが割り込むように声を上げる。
「確かに、別種族同士の血が体の中で大きく暴れずにその失った部分に集中するなら血の暴走も起きずにすむのか。
考えたねぇ」
ハックもほー、といつの間にか捕まえたらしいウェルと観察しながら笑う。
あいつって笑うとどこか悪魔っぽいから傍から見たらあの図は犯罪だろう。めっちゃウェル嫌がってるし。
「うわぁ!? た、太陽の天使様!?」
そこでフェアが悲鳴を上げる。
フェアに捕まっているカイが握りつぶす気か愚か者と叫んでいる。いっそ潰れろ。
フェアが悲鳴を上げた原因はどうやらソレイユらしい。
むすっとした様子でフェアをじっと見つめている。
さっきから機嫌悪いな、と思いつつも、ソレイユとフェアを引き離す。
「ソレイユ、お前さっきからむすっとしてるけどどうした?」
ぽんぽんと頭を撫でつつ苦笑すれば、ソレイユはふいとそっぽを向いてしまう。
その姿がどこかウェルと似ていて思わず笑ってしまいそうになる。
「反抗期ってやつ?」
うーんと考えれば、ハックが爆笑し出す。
うるせぇ、と睨めば、
「違うでしょどう見ても!! 拗ねてるだけでしょ!!」
笑いながらソレイユを指差す。
は? とソレイユを見るが、やはりこちらを見ない。
「あんた、カトレア以外にもくっそ鈍いねぇ」
「流石に引きました」
「旦那らしいですなぁ」
ラベンダーは呆れたように俺を見るし、ナシュもため息を吐く。ジェットだけが楽しげに笑うばかり。
「つまりあれだ。
太陽の天使にとっては父親にあたるギムが、カトレアのお嬢さんやそこのライラのお嬢さんと再会してから構ってくれなくなったから拗ねてるんだよ。
さらにこの双子のハーフの登場でキレたんじゃないの?」
ハックがウェルの腕を掴みくるくるぶん回す。
やめてやれ悲鳴上げてんぞ。
「カトレアのお嬢さんまでは良かったと思うけどね。カトレアのお嬢さんってギムにくっつかないし。ああでも万物の王がいるしできればいなくなってほしいのかな?
でもライラのお嬢さんやこの双子のハーフは幼いと言うか身長が小さいせいかギムとの距離が自然と近くなるでしょ。
父親取られて拗ねた子供状態なんだよ、太陽の天使は」
目を回したウェルを引きずりながらハックが戻ってくる。
全く浮かばなかった考えに少々混乱しつつも、ソレイユと目線を合わせるために屈む。
「そうなのか?」
問えば、ソレイユはやはりこちらを見ない。
むすっとした様にフェアを見る。
フェアはヒエ、と後ずさる。
カイがまだ騒いでいる。
「…ソレイユ、戦う」
びしっとフェアを指差してソレイユが拗ねたような声を発する。
「ええええ!? お、おれ!?」
フェアが悲鳴を上げる。
「む、無理ですよ!! さすがに太陽の天使様相手じゃ死んじゃいます!!」
わたわたと泣きそうになりながら俺に助けを求めるフェア。
俺も正直ソレイユに戦わせるのは反対。
「ソレイユ、まだ実戦ははやいんじゃ?」
「戦うもん!!」
俺の問いに間髪入れずに叫ぶように答える。
「でもだな、」
「やだ!!」
「やだって…」
いつもの素直さはどこに行ったのか。
ソレイユはこちらを見ずに駄々をこね始める。
ハックに似たのかな、と遠くを見つめる。まあ、ソレイユの周りにはやばいのが多いからな、俺含めて。
「ちょっとー、この頑固さはオレ譲りじゃなくギム譲りでしょどう見てもー」
「いや、わんちゃんカイもありそうだけどねぇ」
「普段聞きわけが言い分、ですかね」
「何にせよ面白い事になりましたなー」
ハックがこちらの考えを呼んだらしくぶーぶーと口をはさんでくる。
ラベンダーは面白そうにフェアに捕まってるカイを見る。
ナシュは苦笑しているしジェットはもはや止める気は無いらしい。
いきなりのソレイユの我儘にどうしようと頭を抱えながら、思わずため息を吐いてしまったのは仕方ないだろう。