セーブ05 ジェットとナシュ
あれから少しだけフィオーレと話してわかったこと。
俺に喧嘩をふっかけてきた青年、キンマは極度の負けず嫌いと意地っ張りだと言う事。とても俺に似ている。
俺はもう少し融通が利くと思う。いや、一周目の俺はキンマよりも酷いか。
改めて、一周目の事と今を照らし合わせるとかなり状況が違う。
やはり、俺の性格と言うか、行動が大きく変わったからだろうか。
悪い方には行っていないと思う。
◇◇◇
「で、どうするんだい? 何か必要な道具があるなら揃えた方がいいよ」
フィオーレと別れ、さて次はどうしようかと言うときにラベンダーがタイミングよく言ってくれた。
「必要な道具…うーん、俺は剣一本あれば十分だからな」
「そう言う話をしているんじゃないよ。
これから長旅になるんだろう? 旅生活で必要な物って話だよ」
脳筋なのかいと呆れたようにラベンダーは俺を見る。
あ、そっちか、とハッとする。ラベンダーのため息が聞こえる。
「旅生活の方でも特には…水は川とか探せばいいし食べ物も森に入れば…」
「それでオッケーなのはあんただけだよ野生児」
ばしっと肩を叩かれる。
また説教が始まりそうだ、何か話を逸らそう。
「そう言えば、お前テスト結果どうだったの?」
ぱっとラベンダーが何か言いかけたので遮り聞くと、ラベンダーはじとっと俺を一度睨み、
「はいよ」
やれやれと言ったように俺に紙を差し出してきた。
{ラベンダー
性別:女
役職:魔女
ランク:A
魔力量:95
属性:土(地)、風、無
得意魔法:転送(転移)、リフレクション、レジスト、サイレント、支援、鑑定、召喚
STR:7
DEX:10
VIT:6
AGI:9}
見ると、俺がもらった紙と数値だけが違う同じ内容が書かれていた。
えげつない量の得意魔法。これは最早得意と言う領域なのか。
「お前純粋に怖いよ」
「魔女相手に何を今更言ってんだい」
ラベンダーは呆れたように俺を見てため息を吐く。
「お前こんなに強かったっけ?」
「さあね。あたいもあまり戦闘はしなかったから自分に色々びっくりだったよ。」
弱いよりはマシさね。ラベンダーはふっと笑ってさてどうすんだいと俺を見た。
「んまあそれもそうか。
俺は特に買う物とかないけど、お前があるなら付き合うぞ」
「あたいもないよ」
「あ、そう」
スパッと言われたので、じゃあもう出発しようかと言う事になった。
そこで、あっと思った。
確か、ギルドを出た後ジェットに話しかけられたよな。そして一緒に旅をすることになったはず。
ジェットは道にとても詳しいから、是非とも今回も一緒に旅がしたい。
きょろきょろとギルド内を見渡すと、少し奥の椅子にジェットがいた。
こちらを面白そうに見ている。
ふむ、一周目の時は向こうから声をかけてくれたし今回はこちらから誘うのもありかもしれない。
「悪い、やっぱちょっと用事ある」
「はぁ?」
ラベンダーにそう一声かけ、ジェットのいるロビーの奥へと小走りする。
まだ話したこともなく、存在を認識されてないと思っていたであるジェットは怪訝そうに近づいてくる俺を見る。
「なぁ、あんた冒険家だろ?」
そんなジェットにお構いなしに声をかける。
いきなり声をかけられたジェットは驚いたように俺をまじまじと見る。
「はぁ、そうですが、あんさんみたいな方があっしに何か御用でしょうか?」
「うん、なんか道に詳しそうだからよければ一緒に旅をしないかって言うお誘いをしに来たんだけど」
俺の言葉にいよいよ目を丸くするジェット。
まあそう言う反応になるよな。
「あっしをですかい?
しがない冒険家でお役に立てるとすれば道案内程度ですぜ?」
「そう。お前を。
道案内って結構重要じゃん? ならちゃんとしたやつに頼みたいなって」
「そりゃぁ有り難いが…あんさんとあっし、初対面ですぜ? あっしなんかを信用していいので?」
確かに、ジェットはどちらかと言えば悪人面だ。
今改めてみると、かなりの実力者な気もする。
「俺は自分の目を信じているし、強いから。
俺はビダーヤのギムレット。知ってるかもしれないが勇者をやらせてもらっている。
別に誘いだし、無理にとは言っていない。そっちの気が乗ればどうかなって話さ。難しく考えないでくれ」
ぽんぽんと話を進めていく俺。一周目はぽんぽんと話を進められたからな。お返しの意味を込めて。
そんな俺を見て、ジェットは笑いだす。
「はっはっはっ、あんさん、随分と流暢で酔狂なお人ですな。
その誘い、ぜひとも受けさせてもらいまっせ。あんさんを少し見ていて、面白いと思っていやしたので。
あっしはジェットと言う冒険家でさぁ。あんさんの言う通り、ここいらの道には詳しいと自負してますぜ。お役に立って見せますぜ」
「受けてくれるか。ありがとう。
じゃあ改めてよろしく。
向こうに平手打ちの怖い魔女のラベンダーってやつがいるが、そっちともよろしくしてやってくれ。一応俺の幼馴染だし悪いやつじゃないんでさ」
ジェットと握手をしながら置いてきたラベンダーをちらりと見れば、何やらすごい疲れた表情をしていた。
十中八九俺のせいだろうけどスルーしておく。
◇◇◇
「悪いね。うちの馬鹿が無茶言って」
ギルドを出ながらラベンダーがジェットにそんな事を言った。
馬鹿とは何だと言いたいが、言わないでおく。ろくなものが返って来ない。
「いいんでさぁ。あっしもこのギムレットの旦那を気に入っていたんで、あんさんらから声をかけてくれなきゃあっしから声をかけてましたぜ」
「物好きだねぇ」
二人の会話を背中で聞きながら次はナシュだなと伸びをする。
多分、街の出口で待っているはず。
一周目よりも随分長くギルドにいたので少し申し訳ない。
出口に来ると、やはりいた。
一周目と変わらない姿でいた。
「誰だい、あれは」
「ありゃぁ城の聖騎士長じゃねえですかい?
十中八九旦那待ちでしょうなぁ」
「ジェットさん知ってんのかい?」
「そりゃぁアサーティール王国一を競う実力者ですからなぁ。
確か名前はナシュとか言ったような。父親も聖騎士長だったらしく、親子で聖騎士長ってのでも有名ですぜ?」
「ふぅん」
新しい情報が耳に届く。
ジェットって道だけじゃなく情報通でもあるのな。
「ちょっと話してくる」
二人にそう言ってナシュへと駆け寄る。
ナシュは少し驚いたように俺を見る。
「失礼ですが、城の聖騎士様ですよね?」
向こうが口を開く前にこちらから質問を飛ばす。
ナシュはすぐに笑顔を浮かべ、
「はい。わたしはナシュと申します。僭越ながら王に使えさせていただいてる聖騎士です。
貴方様が王に選ばれた勇者様でよろしいでしょうか?」
「そうです。ビダーヤのギムレットです」
「やはり。
勇者様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「勿論」
ナシュは一周目に言っていたことと同じ説明を少し言葉を変え話してくれた。
やはり、記憶内にある笑顔で。その笑顔は胡散臭く、どこか俺が嫌いと言う雰囲気を出していた。
改めて実際会ってみて確信した。
こいつは俺が嫌いだ、と。
「って事は、ナシュさんも俺たちと旅をすると言う事ですね?」
「はい、そう言う事になります。
よろしくお願いします。お役に立てるよう努めます」
笑顔のナシュに笑顔で返す。
ぎこちない気がするが、まあいいだろう。