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第二話 ―異形― 弐

読んでくださいありがとうございます。

 リビングに入ると料理の匂いが漂い、お腹がぐぅ~っと鳴いた。

 結構お腹が空いてたんだな、そう思いながらいわなを見たら……ギョッとした。


「い、いわなっ!? だ、大丈夫なの!?」

「アニキ? 何が大丈夫なんだ、オレは平気だぜ!」

「いや、目を真っ赤に充血させて大丈夫なんて言われても逆に怖いよ?」


 にこやかに笑ういわなだけど、ボクの裸を見ないようにしたときに指で目を打っていた。

 結果現在は、目を真っ赤にしていて……かなり怖い。

 そんなボクの心境を理解しているようだけど、いわなは笑みを浮かべて両手をテーブルに向ける。


「さ、そんなことより早く食べようぜ!!」

「そんなことで片付ける内容じゃないと思うけど……。でもいわなのほうがボクより詳しいよね」

「そういうこと! さ、食べた食べた! アニキのおなかの音こっちまで聞こえたんだかさ!」

「~~っ! そ、そんなこと言わないでよ、も~~!」


 口を大きく開けながら笑ういわなに怒りながらボクも椅子に座ると、食事を開始する。

 今日のご飯はお肉がおおめの野菜炒めだ。

 だけど何時ものように残すだろうなと思いつつ、食事を始める。

 ご飯、味噌汁、野菜炒めとモグモグとちゃんと噛みながら食べて行く。

 一方でいわなもボクを待っていてくれたからかお腹を空かせていたのだろう。

 目の前に置いていたボクの物よりも多い野菜炒めをガツガツと食べている。


「いわなはいっぱい食べるねー」

「育ち盛りだからな! そういう兄貴も何時もよりも食べてないか?」

「え? そ、そうかな? えと、育ち盛りだから……かな?」

「いや、全然育ち盛りじゃないと思う。その、なんていうか……縮んだ?」

「ひ、酷いッ!!」


 いわなの言葉にショックを受けつつもボクもご飯をモグモグと食べる。

 でも、いつもはこれだけ食べたらお腹いっぱいになるはずなのに、お腹いっぱいになる気配がない。

 どうしてだろうかと思いつつ、ご飯を食べていると……何時の間にかご飯が無くなっていた。

 ……でも、足りない。

 もしかして、女の子の体になったことが原因なのかな?


「アニキ、もしかして足りないのか?」

「え!? ……えと、少し……足りないや」

「マジか? 珍しいな、アニキがいっぱい食うなんて……っと、ちょっと待っててくれよ!」


 頷くボクに驚きながらも、いわなは考えて立ち上がると冷蔵庫を覗きこむと何か作れる物がないかを考えているように見えた。

 それをボーッと見ていると、「くそっ、ちゃんと食材を用意しておけばよかった!」と悔しそうな声が聞こえた。

 そのままいわなを待っていると、ご飯が入ったお椀が置かれた。その隣には、お茶が入った急須とお茶漬けのもとの袋が。


「すまねえアニキ! 食材を買い込んでいなかったから作れる物がなかったんだ。だからこれで大丈夫か?」

「だ、大丈夫だよ。だからそんなに落ち込まないでよいわな。それに、お茶漬けおいしいよ」


 そう言ってボクはいわなに笑いかけながら、お茶漬けのもとの袋を破いて中身をご飯の上に置くとお茶をかける。

 するとお茶漬け特有の香りとお茶の香りが鼻をくすぐり、ボクはそれを食べ始めた。


「ずずっ、ずずず……っ。うん、美味しいよ、いわな♪」


 お茶の渋みとお茶漬けの塩味が口の中に広がって美味しい、それにカリカリシナシナのあられも美味しい。

 くにゅくにゅとお茶を吸って膨らんだご飯も美味しいし、サラサラと呑んでいくようにしてお茶漬けを食べていく。

 お椀を傾けて、ご飯とお茶を一気に飲んでいき……最後にけぷ、と小さく口から鳴ってしまい、恥かしくなった。


「ご馳走様、いわな。美味しかったよ」

「そう言われると嬉しいな。……けど、これだけ喰うならもっと用意しておくべきだったぜ」

「気にしなくても良いよ。ボクもこんなに食べれて驚いてるんだから」

「そ、そうか? とりあえず、お茶淹れるから……その、何があったのか聞いてもいいか?」


 言い辛そうにいわなはボクを見ながら言う。

 ああ、どう考えてもボクがあんな、女性用の制服を着ていて倒れていたことについて聞きたいんだ。

 ボクはそう理解し、いわながお茶を淹れてくれるのを待つ。

 でも何処まで話せば良いんだろう? ボクが女の子になったとか言っても、信じるかも知れないけど……言いたくないし。

 じゃあ、誤魔化す? でも、いわなには隠し事なんてしたくない。

 ああどうしたら……!


『お主、優柔不断と言われるじゃろ?』

「――っ!!」

「アニキ?」

「な、なんでもないよいわな!」


 頭の中に聞こえてきた桃色毛玉の神さまの声に驚いたけれど、姿が見えない。

 そしてそんなボクを心配するようにいわなが見たので、何でもないと言っておく。

 び、びっくりした……。


『我はお主と一体と化しておると言ったであろう? じゃから、お主も頭の中で考えたら我に語り掛けることが出来るぞ』

『え? ……あ、本当だ』

『我となら話さずとも喋ることが出来るから安心せよ。で、お主はそこの弟にどこまで話そうか悩んでおるのじゃな?』

『はい……、その……女の子になったことは言いたくないけど、誤魔化したらいわな疑っちゃうだろうし、でもボクもウソつくのが苦手だし』

『そうか、ならば我が代わりに言おうか?』


 え。代わりに言う、神さまが……。つまりはあの時みたいな感じにボクの体を使って話すの?

 びっくりしたけれど、神さまはきっと上手く説明してくれるに違いない。……でも、いわなを騙してるみたいで、嫌だな。


『か、神さま……。ボク、自分で話すよ。でも、苛められてたってところだけだけど……』

『そうか、ならばきちんと話すが良い』

『うん』


 ボクが心の中で頷くと、神さまは静かになった。

 それと同時にいわながボクの前にお茶が淹れられた湯呑みを置いた。


「さ、アニキ。熱いと思ったら冷まして飲んでくれよ」

「うん、ありがとういわな」

「いつものことだろ、気にすんなよ。それで……何があったんだ?」

「……えっと、いわなは知ってるんだよね……ボクが、苛められてるってこと」

「ああ……、それを知ったからあいつらの所に殴り込みかけて……って、まさかアニキがあんな可愛らしい服装してた理由は!?」


 ボクがしていた格好で、いわなは気づいたようだ。……というか、可愛いって、ボク男なんだけどなぁ……。

 そう思っていると、テーブルに頭をぶつける勢いでいわながボクへと頭を下げてきた。


「すまねぇアニキ! オレがもっとあいつらを黙らせておけば、アニキがあんな目に遭うことなんてなかったのに……!」

「う、ううん、気にしないでよいわな! やり方はダメだったかも知れないけど、いわなはボクを思ってしたんだからっ」

「ア、アニキ……すまねぇ、本当にすまねぇ……」


 泣きながら謝るいわなの頭を撫でながら優しく声をかけると、いわなも落ち着いてくれてるようで沈んでいた表情が和らぐように見えた。

 それにホッとしつつも、いわなに嘘を吐くことになる申し訳ない気持ちを抱きながらボクは口を開く。


「それでね、ちょっと変な趣味の人たちに襲われそうになって……必死に逃げて隠れてたら、正面玄関で力尽きたんだ」

「なるほど……そこでオレがアニキを見つけたってわけだな?」


 いわなの言葉にボクは頷く。実際には違うけれど、頷いておく。

 その言葉にいわなは安心したのかホッと息を吐いた。


「そっか……、良かったよ。アニキが怖い目に遭わなくて。……もし最後まで変なことをされてたら、オレはそいつらゆるさねぇ……」

「い、いわな? なんだか凄く黒い笑み浮かべてるよ?」


 表情を黒くしながら呟くいわなに引きつつ言うと、すぐにパッと明るい何時ものいわなに戻った。

 うーん、いわなってボクのことになると本当に見境がなくなる……のかな?


「まあ、明日高校に行くのが怖かったら休んでも良いからさ、今日はもう休めよアニキ」

「うん、わかった。それじゃあ……おやすみ、いわな」

「ああ、おやすみアニキ」


 お茶を飲み干してボクはいわなにおやすみを言うと、部屋へと戻る。

 部屋の扉をパタンと閉めてから、ようやくボクは息を吐いた。

 いちおう、誤魔化せた……よね?

 とりあえずそういうことにしておこうと考えていると、不意に着信音が聞こえてビクリと体が震えた。


「ひゃう!? ス、スマホ……?」


 驚きながらも、その音がスマホであると理解して音がしたほうを見ると……机の上にスマホが置かれていた。

 画面を見ると……非通知の文字が出ている。

 いったい誰だろう? あれ、でもそれ以前にボクのスマホって、あのとき禍上くんたちに着替えさせられたときにズボンのポケットに入ってたはず。

 え、じゃあ……そこにスマホがあるのはおかしいんじゃないの?

 それに気付き、不安になるボクはその電話に出るべきかどうか悩み始める。

 ……けれど、留守電設定にしていたのか『ただいま、電話に出ることができません』という音声が流れ始めた。

 そのことにホッとしていたけれど、非通知の相手が喋り始めた。


『メガサメタヨウデ、ナニヨリ。ナガキネムリヨリ、メヲサマシタコトヲココロヨリカンシャイタシマス。ヒメ』

「ひめ?」

『我のことじゃな。しかし面白いカラクリじゃのう。そのすまほというのは』


 首を傾げるボクに対して、いつの間にか桃色の毛玉となった神さまが出ていてボクに語りかけてくる。

 同時に興味深いという風に机の上のスマホへと視線を向けているのを感じた。

 科学の力は神さまも驚かせるってことかな?

 そんなことを思っていると、非通知の相手は言葉を続ける。


『アスハ、ガッコウヲヤスンデ、スマホニニュウリョクサレテイルバショマデキテクダサイ。ドウセ、キテイクセイフクモナイデショウシ、ソノホウガイイデショウ?』

「う……、それはそうだけど……」

『デスノデ、アシタハソノバショデオマチシテオリマス。カナラズキテクダサイ、サクヤヒメ』


 ぷっ、と相手が電話を終了したのか音声が途切れる。

 暗くなったスマホの画面を見つつ、ボクはどうするべきかと呆然と考える。……けど、疲れてるし、明日考えよう。

 そう思っていると、桃色毛玉がフワフワ飛跳ねている様に見えた。


「神さま?」

『さくやひめ、お主のさくやという名に、我のひめを付けて、サクヤヒメか……面白い、面白いのじゃ! お主、今日から我らはサクヤヒメじゃ!!』

「え、えぇ?」


 神さまは興奮しているのか、それともその名前が気に入ったのか……桃色毛玉で飛跳ねる。

 それを見ながら、ボクはベッドに入ると部屋の電気を消して、目を閉じた。

 そして、ボクは一気に夢の中へと落ちていった……。

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