表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第一話 ―日常― 四

 とん、と足先が地面に降り立つ感覚がし、フワフワとしていた意識が段々と引き戻されてきた。

 戻ってくる意識、同時にゆっくりと目蓋が開かれ……目を点にした。


「……え? 真っ暗、だった……よね?」


 戸惑いながらボクは呟く。何故なら、ついさっきまで真っ暗で……あの剣の光でぼんやりとしか見えていなかった周囲が、まるで昼間みたいに明るく見えたのだから。

 どうしてだろうか、そんな疑問を抱くように首を少し傾げるとサラリと前髪が揺れた。

 って、え……? 桃色の、髪?


「え、いったいどういうこと……?」

『混乱するな、来るぞ!!』

「えっ? う、うわっ!? ――ひぃっ!!」


 叱咤する声がして、キョトンとしたけれどブォンと風を切る音がしてそちらを見ると細い鎌が振られるのが見えた。

 突然のことで驚きの声を上げながら、後ろに後ずさる。

 すると体はふわりと浮くように後ろに移動して、鎌の振りを避けることが出来た。……けれど、後ろに行きすぎたからか尻餅をついてしまった。

 お尻の痛みを堪えつつ振られた鎌を目で追うと、先ほどまでボクを追いかけていた不良たちだった化け物の姿が改めてくっきりと見えた。

 鎌を振られたと思っていたけれど、あの化け物前足だったようだ。同時にそのおぞましい姿を見てボクは恐怖し、口から怯える声が上がった。


『『あ~ぁ、もうちょっとだったのにな~~。けど、さくやちゃんがより柔らかくなったから歯応えはないけど、きっと美味しいよな~~♪』』


 怯えるボクを見ながら、長い舌から涎を垂らしつつ……化け物はジュルリと口の周りを舐めた。

 その姿にボクは恐怖し……、その場から後ずさることも立ち上がることも出来ずに体が強張る。


『お主、何を怯えておる!? 立て、早く立って奴と戦うのじゃ!!』

「た、戦う……? む、無理! 絶対無理だよぉ!! あんなの勝てっこないよぉ!!」

『くっ、こやつ臆病者か……! それにまだ体に力が馴染んでおらぬのか完全に衣が纏えておらぬではないか!』


 聞こえてくる声、それが誰のものかはわからない。

 けれど、まるでボクの中にもう一人誰かがいるように感じられた。

 いったい何なんだよ、この声……!?

 分からない、訳が分からないよぉ!! 頭の中がグチャグチャになり、ボクは身動きが取れないままその場で蹲る。


『『お、今がチャ~ンスッ! さくやちゃんいっただきまぁ~~すっ!!』』

『っ!! 気をつけよ、狙われておるぞっ!!』

「え……? ひ、ひぃぃぃぃっ!?」


 大きく開かれた口、それに恐怖してギュッと目を瞑ったまま、無意識に両腕を前に突き出す。

 喰われる? 食べられちゃう! もう、もう駄目だぁ!!

 ……けれど何時まで経っても痛いのも怖いのも来ない。

 恐る恐る、目を開けると……唖然とした。


「え、あ……れ?」

『『うおぉぉ~~ん、何だよこれはぁ~~~~!? さくやちゃ~~ん!!』』


 見えない壁、何か見えない壁がボクの前に出ていて、化け物がこっちに来るのを妨げている。

 え、あ、あれ? どういう……こと??

 まったく理解出来ないまま唖然としていると、その壁が少しずつ削られているのに気づいた。


「ひっ!? や、やっぱりもう駄目だぁ……!!」

『ええい、仕方ない! お主の体、しばらく借り受けるぞ!!』

「え――――」


 声がした瞬間、ドクン、と心臓が脈を打ち、ボクという存在が体から弾き出された様な感覚がした。

 そして気づくと、ボクは本当に体から出ていた。

 ……って、え? あれ? どういうこと……?

 何が起きたのかまったく分からずに呆然としつつも自分の手を見ると透けていた。

 これって、もしかして……所謂幽霊?

 自分の状態に驚きつつも周囲を見ると、ボクが今いる場所は先ほどと同じ場所であることが理解出来た。

 同時に幽霊だからか天井辺りで浮いているということ理解出来た。

 どうしてこうなったのかと混乱していると、突然ドゴッという音が下からして驚きながら視線を下へと向ける。

 すると、そこには拳を構えたボクが立っていた。

 …………ボ、ボク?


『……え、あれ、ボク……だよね?』


 誰かが返事をしてくれるかわからないけどボクは呟いた。

 だって拳を構えているボクの姿は所々違っていたのだから。

 女性用の制服を着せられた上に羽織るようにして、薄い着物のようなものが羽織られているし……。

 髪もなんだか伸びているし、先っぽとかが桃色に見えるし……。

 身長もなんだか縮んでいるように見えるし……。


『『さ、さくやちゃん。痛いだろぉ~~~~っ!!』』

「ええい、黙れ! 貴様ら禍津日(まがつひ)などに優しさなどいらぬわ!!」


 そう言うとボクじゃないボクは、化け物に向かって跳ぶと細い脚から蹴りを放った。

 普通に考えるとボクの脚じゃ蹴りをしても、自分のほうが痛くなる。……はずなのに、またもドゴッという音を立てながら化け物の体は吹き飛び、土壁に激突した。

 それを見届けながらボクじゃないボクは地面にふわりと降り立つ。……と、とりあえず、ボクじゃないボクなんて言い辛いし、ボクでいいの……かな?


『『ごぶひゅ!?』』

『えっ!? ど、どういう……こと?』

「……まずいな、馴染んでおらん上に……結界を使いおったから正直纏う時間は無いか……。なら!」


 戸惑うボクを他所に、ボクは片腕を振るう。

 すると何処からともなく、剣が顕れた。


『え、え? えぇ??』


 戸惑っている上に更に戸惑いが振ってきて、もう何がなんだか分からない状態となっている。

 そんなボクの様子に気づくこと無く、ボクは顕れた剣を構えると化け物を見据えた。


「これで仕舞いにしてやろう!!」


 叫び、ボクの体は揺らめいた。

 瞬間――化け物の前に立っていて、構えていた剣を上から下へと振るった。

 目にも止まらぬ早業と言えるそれは化け物の片方の首を斬りおとし、地面にゆっくりと落ちていく。


『『は、え……な……ぐぎゃああああああああああっ!!?』

「……この体、まったく鍛えておらぬようじゃな。じゃが、無理はさせてもらおうか!」


 化け物の悲鳴を聞きながら、ボクは呆れたように息を吐きつつ痛みに前足を振り回しながら暴れる化け物と距離を取り……再び接近をする。

 危ない、そう思ったけれどブンブンと振られる前足の攻撃を避けていきながら、同時にボクの腕が動き化け物の腕を斬りおとしていく。

 痛みに叫び、血……だと思う液体を撒き散らす化け物を見ながらボクは、哀れみを感じてしまった。

 ボクに変なことをしようとしていた人たち、だけどこれはあまりにも可愛そうだ。


『ぎゃああああああっ! 痛い、イタイ、いたぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』

「…………これで、仕舞いじゃ! はあああああああああぁぁっ!!」


 ちらり、とボクがボクを見た気がしたけれど、すぐに正面を向き直ると剣を構えて大声を上げた。もしかしなくても吼えているのかな?

 そう思っていると、剣が突然輝き出し――ボクの体をも包みこむと化け物へと駆け出して行く。


「くらうがよい、錬気斬ッ!」


 技の名前を叫び、剣が化け物へと振り下ろされる。

 剣の長さから叩き斬るなんて無理だと思っていたのに、輝いた剣は元々の長さ以上の物を剣に与え――化け物の胴体を斬りおとしていく!


『ぎゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!! い、痛い痛いいたいぃぃぃぃぃぃぃ~~~~!! さくやちゃん、ざぐやぢゃん、ざぐやぢゃぁぁぁぁ~~~~――――』


 残った化け物の首が痛みによる絶叫と、ボクの名前を叫びながら血を噴出して行く。

 血に塗れながらも、ボクは剣を下ろすのをやめない。

 助けを求めているのか、それともそんな状態になってまでもボクに変なことをしたいのかは判らない。

 だからボクは目を閉じ耳を抑え、聞こえない振りをする。

 だってボクには何も出来ないんだ。何も出来ないんだ……!

 必死にそう思いながら縮こまっていると、絶叫は徐々に聞こえなくなり……ボクがゆっくりと目を開けると、左右に分かれた化け物がいた。

 それを見てガクガクと震えていると、まるで熱々のトーストの上にバターを置いたように化け物が溶けていった。


『あ……、う、うわあああああああああああぁぁぁぁっ!!』


 理解出来ない状況にボクの頭は限界を向かえ、悲鳴を上げながら意識を失ってしまった。

 そして、次に目が覚めたとき……。


「アニキ、アニキしっかりしろ!」

「いわ、な……?」


 ゆさゆさと体が揺さぶられ、目蓋を上げると……いわながいた。

 ボクが目を覚ましたことにホッとした様子のいわなを見て、どうしたのかと思っていると。


「よ、かったぁ~~……! 何時まで経ってもアニキ帰ってこないから、心配して高校に来たら正面玄関でアニキが倒れていたから心配したんだぞっ!」

「そ……そうなの? えと、ごめんねいわな」

「いや、気にしないでくれよ。それにその格好……あいつらに何かされたんだな?」


 いわなに言われてようやくボクが着ている服装が女性用の制服だと言うことを思い出した。

 それを思い出し、恥かしそうにスカートを抑えると……何故かいわなが口元に手を当てた。


「その……、な、なんとも無いからいわなは気にしないで! それと、ごめんね変なの見せちゃって……」

「い、いや、き……気にしてない、気にしていないから! それよりもアニキ! 体も汚れちまってるだろ? 速く家に帰ってお風呂入ろうぜ!!」

「あ、うん。その、本当心配させてごめんねいわな」


 そう言ってボクはいわなと一緒に家へと帰っていった。

 そしてボクは言われるがままにお風呂に入るために脱衣所へと向かうとブレザーとスカートを脱ぐ。

 土で汚れていたそれらを脱ぎ、ようやく一息吐きつつ洗面台の鏡を見た。


「…………? あれ? なにか……変?」


 鏡に映る自分自身の姿に違和感を感じ、ジッと見る。……けれど良く分からない。

 ……あ、少し背が縮んでる。……って、え、どういうこと??

 頭をぶつけたとか? 走り過ぎて縮んじゃったとか?


「って、走り過ぎて…………っっ!!」


 そのとき、ようやく忘れていた記憶が甦った。

 あ、あれはいったい何だったんだろう……?

 というか、何でボク、無事なの??

 頭の中がグルグルとして、心臓がバクンバクンと高鳴り始める。

 少しでも恐怖を紛らわせようと心臓の辺りへと手を当てた。


 ――ふにょん


「……え? あれ、今の感触……なに?」


 柔らかい感触に戸惑いつつも、気のせいかと思いながら……もう一度、手を胸に当てる。

 ……柔らかかった。筋肉質とか男性特有の触り心地と違う感触がそこにはあった。


「ど、どういう……こと?」


 別の意味でドキドキし始めながら、ボクは恐る恐るブラウス……だったかを脱ぎ始める。

 ボタンを一つ一つ外していくもどかしさを感じながら、すべて外し終えて脱いでシャツも脱ぐと……少しだけ膨らんだ胸がそこにはあった。

 太っている男の人の胸とも違う、ボクが持っているわけが無いような胸がそこにあった……。

 認めたくない現実だった。気のせいだ。そんなはずが無い。

 ちょっと何かがあってそう見えるだけだ。きっと下のパンツのほうはちょっと変に膨らんでる。恥かしいけどそうに決まってる。

 そう思いながら、恐る恐る視線を下に向けるが、良くわからない。

 どくんどくんと、胸が脈を打たせながら……パンツを下ろし、首を視線を股間に向けた。


「な、ない……ない、ないないないないないっ!? どういうこと、どういうことなのっ!?」

「アニキ? どうしたんだ。アニキ、アニキ!?」


 わけが分からない、今日一日で色々ありすぎたけどこれが本当にわけが分からない!

 そして、そんなボクの叫びを聞きつけたのかいわなが脱衣所の扉を叩いて心配そうに声を上げる。

 その声にビクリと震え、体が震える。

 当たり前だ、今まで兄だったのになんだか女の子になってるなんて知られたら気色悪いとか言うに決まってる。

 だから、必死に口を開きいわなに声を掛ける。


「な、なんでもない。なんでもないよ……!」

「そ……そうか? えと、困ったことがあったら、本当に頼ってくれよ?」

「うん、ありがとね……いわな」

「気にすんなよアニキ。そんじゃあお風呂入ったらメシ喰おうぜ」

「うん……またあとでね」


 去っていく足音を聞きつつ、ボクはふぅと溜息を吐き……その場にへたり込む。

 よ、よかった……行ってくれた。


『良かったのう、ばれたら怖いと言う恐怖が我にも伝わってきておったぞ』

「え? こ、この声って……!」


 頭の中に聞こえた声に、ボクは驚き周りを見る。

 周囲には誰も居ない……。


『ここじゃここ、お主の手を見よ』

「え……? これって、腕輪……? って、え、えぇ?」


 声に従い、ボクは手に視線を向けた。

 すると、ボクの手首に腕輪のような物が嵌められているのに気づいた。

 無骨な腕輪、その上に桜色の何かが立っているのをボクは見ていた……。

ようやく女体化しました。

男の娘っぽい外見が、本当に女の子になる。結構好きです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ