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第一話 ―日常― 参

 ふわふわとした感覚、まるで何かに抱かれてるような……。

 そんな心地のいい感覚。ああ、気持ち……いい。

 この心地良さにこのまま眠ってしまいそうになってしまう。

 けれど……、ぽたりと頬に冷たい何かが当たるのを感じた瞬間、抱かれている感覚は遠ざかって行き……ボクは目覚めた。


「う……うぅん……。こ、こは……? ボク、どうしたんだっけ……? それに、ここって……?」


 ゆっくりと目蓋を開けたけど……、辺りは真っ暗で何も見えない。

 ……もしかして、目蓋を開けていないとか?

 そう思いながら目をパチパチとしてみたけれど、変化が無い。


「もしかして、真っ暗なのかな?」


 ポツリと呟いたボクの声は周囲に反響するように小さく響いた。

 え、ど……何処ここ??


「いったい何があったんだっけ……? えっと、えっと……」


 グルングルンと頭の中が揺れるように混乱し、ボクは声に出しながら何があったかを思い出そうと頑張る。

 そのお陰か気を失うまでの間に何があったのかを思い出すことができて……徐々に顔色が青くなっていったと思う。


「そ、そうだった……。ボク、禍上くんたちに襲われそうになって逃げたんだった……」


 そのことを思い出し、ボクを変な目で見ていた不良2人も一緒に思い出したために体がブルリと震える。

 ……怖かった。本当に怖かった。それもあるだろうけど……この女子用の制服も足元がスースーして寒いんだ……。


「と……とにかく、ここから出ないと……」


 呟き、ゆっくりと立ち上がる。

 だけど周りは真っ暗で何が何処にあるのかもまったく分からない。

 とりあえず……壁に沿って歩けば、何処かに辿り着く……よね?

 そう考えてボクはゆっくりと足元を気をつけて、手を前に動かしながら歩いていく。

 するとすぐに手が壁に当たったけれど、指に感じたのは土の感触だった。


「もしかして、洞窟の中……なのかな? あ、旧校舎の地下」


 ここはいったい何処かと思ったけれど、ふと思い出したことがあってそれを呟く。

 旧校舎の地下、噂とか学校七不思議とかのものだと思ってたけど、あったんだなぁ……。

 とと、本当にあったってことには驚いたけど……はやく地上に上がらないと。


「あ、で……でも、上にあがったら、禍上くんたちが居る……よね?」


 それじゃあ上がったら上がったで全然良くないや……。

 ど……どうしよう。

 で、でも、上にどうやって上がれば良いのか分からないし……、スマホも禍上くんたちに無理矢理着せ替えられたときに没収されたし……。


「こ、このまま待つ? でも、誰か助けに来てくれるのかな……? いわな? き、来そうだけど、これ以上迷惑かけたくないし……」

『ぎゃああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁあっぁぁあぁぁぁっっ!!!』

「ひっ!? な、なに、今の悲鳴……?!」


 突然何処かから響いて聞こえた悲鳴、それに怯えてその場でへたり込んでしまったけれど……仕方ないと思う。

 同時に今の悲鳴は何なのと言う自問が来るけれど、ボクにわかるはずがない。

 でも、何かこの地下で起きたのだけは理解した。


「に、逃げないと……!」


 だから逃げることを考えて、まったく見えない視界で壁伝いに移動を始めようとする。

 だけど、前のほうからペチャ、ペチャ、と何か潰れるような音が近付いてくるのに気づいた。

 な、なに? なにが近付いてくるの……?! というか、この地下変なの居るの!?

 バクンバクンと心臓が鳴り響く中で、ヌッとそれは顔を出した。


『『ぁ~、さくやちゃん見~っつけた』』

「ひっ!? あ、で、でも助かっ――――あれ?」


 顔を出したのは、ボクに変なことをしようとしていた不良2人だった。

 それに恐怖はしたけれど、同時にここから抜け出せると思いホッとした。……けれど気づいた。気づいてしまった。

 あの2人が何で暗い中でボクに気くことが出来たのかということに、そして2人が微妙に光っているように見えるということに。

 ……そして、2人の首の位置がボクよりも下にあることに……。


 ――逃げろ。


 そう本能がボクに告げる。

 ジリジリと後ろに下がり始めるボクへと、にたにたと2人は笑いながら近付いてくる。

 2人が近付くに連れて、ベチャ、ベチャという音がはっきりと聞こえ、悪臭が漂ってきた。


「うっ……、な、何この臭い……」

『『さくやちゃ~ん、ナンデ逃げようとするのかなぁ?』』


 初めて嗅ぐ臭いに口元を押さえ、吐きそうになるのを堪える。

 そんなボクを2人は面白そうに見ながら、近付く。

 来ないで、そう言いたかったけれど……この臭いを口に入れたくない。そう思って口を開くことが出来なかった。

 だからだろう、2人はボクの行動に変な解釈を抱いたようだった。


『『ああそっか、さくやちゃんは逃げて捕まるのが好きなんだよね~? それじゃあ、追いかけてあげるから速く逃げな~~。でないと――』』

「――ひっ!? か、顔……顔が!?」

『『すぐに食べちゃうからさぁ……!』』

「う……うわああああああああああああああああーーーーーーっ!!」


 ケタケタと笑いながら、ボクの目の前で2人の不良の頭がぱかりと割れた。

 しかもそれが当たり前とでもいうかのようにだ。

 だからボクは悲鳴を上げて走り出した。

 暗くて前に何があるのか分からない、見えるのは背後からボクを追いかける不良だったモノだ。

 濁った赤の双眸が2つ揺らめきながら、ベチャリベチャリと音を立てて歩き、ボクを追って来る。

 怖い、怖い……、何が、なにが起きてるの!? 分からない分からない……!

 誰か助けて助けて助けて……っ!

 あの不良たちに何が起きたのかまったく分からず、恐怖と混乱で頭の中がぐしゃぐしゃになる。

 それに逃げるときに足を挫いたのか、ジンジンと痛いし、暗闇の中闇雲に走っていたからか、肩も腕も頭も痛い……多分ぶつけたんだ。

 それに頭のほうはぶつけた結果、血が出ているのか熱く痛い……それに片目が痛い。

 だけど止まりたくない、痛いしその場で蹲って助けを待ちたいけど、止まったら駄目だ。


『『べちゃ、れろ……。んまぁ~~い、さくやちゃんの血うまぁ~~い!』』


 走っている際に地面に落ちた血を見つけたのか、不良だった化け物はその場で歓喜の声を上げる。

 その声を聞いて、止まったら命が無い。そう理解させる声だった。

 でも、でもどうすれば、誰か、誰か助けて……!

 それに……このままじゃ、走り疲れて止まってしまう。


「ぜぇ……、はぁ……! ――え」


 ――しゃりん。


 音がした。

 疲れが見せた幻聴かと思ったけれど、この音は……ボクが此処に来ることになった音だ。

 そして、ボクが逃げようとした先に……あのとき見た幽霊が立っていた。

 あのときは幽霊の姿が良く見えなかったけれど、暗い中だからかはっきりと見えた。


「みこさん……?」


 巫女、そう巫女だ。……と思う。

 よく正月の神社で見かけるあの服装は間違いないと思う。だけど顔は布で覆われていて見えない。

 そのみこさん幽霊が、手に持っていた道具……多分鈴がいっぱいついてる物を鳴らしてこちらを見てから歩き出した。

 まるでこちらについて来いとでも言うかのようで、それを見てボクは躊躇う。

 このまま行けばいい? でも、あの幽霊に導かれたからここに落ちたんだし……。


『『ふはぁ~~、さくやちゃんの血うめぇ~~。きっと肉もうまいよなぁ~~♪』』

「ひ、ひぃぃっ!!」


 躊躇う暇はない、それを思い出し……ボクはみこさん幽霊が歩いていった方向へと走り出した。



 ●



「はぁ――ひぃ、ふぅ――っ! ひぃ、ひぃ……!!」


 喉が痛い、胸が心臓がバクバクと破裂するみたいに激しく脈打っている。

 それでも逃げないといけない、出ないと死ぬ。殺される。


『『待ってよさくやちゃ~~ん!』』


 ベチャラベチャラと背後から音が響き、化け物はボクを追いかける。

 それから逃げるために必死に走り、逃げる。

 聞こえてくる音がさっきと違う感じから、どんな姿になっているのか分からない。

 だけどきっとパニック映画ばりのクリーチャーのようになってるに違いない。


 ――しゃん、しゃりん。


 みこさん幽霊が一度だけ後ろを振り返りボクを見ると、鈴を鳴らして前を移動する。

 その薄く光るように見えるそれを必死に追いかけていくと……みこさん幽霊が立ち止まった。


「え――?」


 何で、どうしたの? 戸惑っていると、みこさん幽霊が立ち止まった横へと手を向ける。

 すると、ぽぅ……っと手を向けた先にあった物が照らされた。

 照らされたおかげか周囲が少しだけ明るくなり……、久しぶりの灯りにホッとすると此処が通路ではなく一室であるということが分かった。

 そして、照らされた物をようやくボクは見た。


「…………剣?」


 剣、剣だ。古びた剣が突き立てられていた。

 って、ま……まさか。


「これを使って、追いかけてくるアレと戦え……っていうの?」


 怯えつつ、返事がないだろうけど思わずにボクはみこさん幽霊に尋ねる。

 思った通りみこさん幽霊は何も答えてくれない。

 そう思っていると、ベチャリという音が響き振り返った。


『『さくやちゃん、お~いつ~いた~ぁ……!』』

「あ、ああ……っ!」


 うす明かりの中、ボクはようやく不良たちだった化け物の全様を見た。

 それはひとことで言うと……巨大な蜘蛛だった。

 巨大な黒い蜘蛛がドロドロとした液体を垂らしながら動いていて、頭は不良だったものが2つカタツムリみたいに伸びている。

 そんな化け物だった。


『『らっき~ぃ、ここは行き止まりか~~。今度こそ逃げられないよさくやちゃ~ん。いっぱい可愛がってからムシャムシャして上げるよ~~♪』』

「ひっ、ひぃ!! や、やだ……! いやだぁぁぁぁぁっ!!」


 にぃ、と不良たちが顔の原型が残っていない顔で嗤った瞬間、恐怖が押し寄せ……死にたくないと言う感情が膨れ上がった。

 だからだろう、ボクは死にたくない一心で剣を掴んだ。

 ――瞬間、掴んだ剣から何かが伸びて、ボクの腕に突き刺さった。


「えっ!?!? あ、ぎ――、ぎやぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああーーーーっ!!」


 突き刺さった箇所が痛い、熱い。そして何かが注ぎ込まれる感覚……違う、何かが入ってくる感覚がした。

 直後全身を襲う焼け付くような感覚と痛みに、その場で蹲ってしまう。けれど何が起きているのかという不安から瞑っていた目蓋を少しだけ開くと……剣がボクの腕に吸い込まれるのが見えた。


「な、に……これぇ……!? いたい、いたいよぉ……!!」


 ボロボロと涙が零れ、情けない声が口から洩れる。

 それなのに剣が体の中に入っていくに連れて……、体がビクビクと震えた。

 震えが何度か続き……股間に湿り気を覚え、きっと漏らしてしまったという恥ずかしさが一瞬湧き起こった。

 ――が、すぐに全身を襲うピリピリとした痺れ、メキメキと起きる痛み、焼かれるような熱さにその感情も流されてしまう。


『『どうする? どうするよ? あれは危険だぁ。だから食べよう。そうだ、さくやちゃんをもう食べよう』』

「っ!? う……あ……!」


 化け物の囁く声が響き、直後浮く感覚がした。

 見ると、化け物が器用にボクの体を掴んで持ち上げているのだ。

 その先には大きく開けられた口、ギザギザとした歯も見える。

 逃げないと、逃げないと……!

 でも、体が痛いし、浮かばされて動けない。


『何をしておる、速く戦えっ!!』

「――え?」


 声がした。だけど周囲にはボク以外には元不良の化け物しか居ない。

 それに、戦うって……?


『ええい、兎に角――お主は叫べっ!』

「さけ、ぶ……?」

『そうじゃ、――神姫転生(・・・・)とっ!』

「しんき……てん、せい……」


 聞こえた声、その声に反芻するように呟いた瞬間――ボクの腕から、剣が入った腕から光が放たれた。

 その光に温かさを感じつつも戸惑っていたけれど、段々と光は大きく強くなり……ボクを呑み込んでいった。


『『な、なんだ~~っ!? 熱っ!?』』


 足が自由になった気がしたけれど、フワフワと浮いた感覚がなくならない。

 どういうわけだろう? そう思いつつも、光の中で体が変わって行くような感覚は続く。

 そして、どれだけ時間が経ったのかは分からないけれど……光が徐々に収まり、ボクは地面に下りた。

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