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第一話 ―日常― 幕間

不良サイド

 メキメキという音が響き、不良たちは自分たちがオモチャにしていた此花さくやが崩れた床下に落ちていくのを見た。

 入口を塞ぐ不良たちは呆気に取られており、彼を犯そうとしていたゲイの不良2人はキョロキョロと周囲を見渡す。


「「さくやちゃーん? おーい、何処行ったんだー?」」

「お、おい、あれ……やばくないか?」

「あ、ああ……禍上さんに報告しようぜ?」

「「なあ、さくやちゃん何処行ったんだ? ていうかなんかあそこ穴空いてるんだけど?」」


 入口を塞いでいた不良たちが話しているとゲイ不良たちがさくやが見当たらず問いかける。

 どうやら彼が床下に落ちていったのを見ていなかったようだ。

 だから、入口を塞いで居た不良2人が目配せをする。


「お、俺は禍上さんに報告行ってくる。お前はこいつらに説明頼む」

「わ、わかった。頼んだぞ」


 そう言って入口を塞いでいた不良たちは分かれると、それぞれ説明を始めた。

 一方はさくやが抜けた床下に落ちていったことを禍上に告げ、もう一方はゲイたちに同じことを言った。

 すると……。


「「はあっ!? マ、マジで?!」」

「てめぇ、何やってるんだよ!?」


 ゲイと禍上の声が同時に旧校舎に響いた。

 そして、二階からドタギシと床を軋ませながら駆け寄る音が響き、階段から禍上が降りてきた。


「おい、さくやちゃん本当に落ちたのか?」

「は、はい。俺たちの目の前でそこの床が抜けて、ピューって……」


 ギロリと睨み付ける禍上の瞳にビクリと震えながら不良は答える。

 そんな手下の反応に腹が立つのか、禍上はチッと舌打ちをしてからさくやが落ちていったと言われる穴が空いた床へと近付くと中を覗いた。

 抜けた床の下にはさくやは居らず、吹き抜けの穴があった。穴の先からは風がうっすらと洩れており、何処かに繋がっていることが分かった。


(これは旧校舎の地下に繋がってるのか? けど地下室は何処にあるのか分からないって言われてるだろ?)


 ――コイ。


 昔からある噂の旧校舎の地下室。そこにさくやが落ちたのだろうと禍上は考える。

 だけどそこへの行き方は知らない。このまま放っておくか、だが放っておいて死んだりしたら自分の立場が。

 そんなことを考えていると、何処かから何か囁かれたような気がした。


「あん? おい、誰か何か言ったか?」

「い、いえ。その……ところでさくやちゃんは何処に行ったんですかね……?」

「知るかよ。おい、この穴は入れる奴だれか居るか?」


 子分たちを見回す禍上だが、見た目や体格からしてこの穴に通り抜けるのは無理だろうと理解しつつも尋ねる。

 当然尋ねられた不良たちは揃って首を横に振るう。


「くそっ、女みたいな体格のさくやちゃんだから行けたのか……。どうやって俺たちは地下に下りる?」


 ――コッチダ。コイ。


(……また聞こえた? ってことは幻聴じゃ、ないのか?)

「禍上さん? 何処に行くんですか?」

「こっちだ。来い」


 聞こえる声、その声はまるで自分を呼んでいるように感じ、禍上はその声に従い歩き出す。

 突然歩き出した禍上に子分たちは従い、後を付いていく。

 すると彼はさくやが落ちた穴とは逆の方向にある空き教室の中へと入っていったではないか。


「あ、あの、禍上さん? さくやちゃんが落ちたのはこっちじゃ……」

「分かってる。けどなぁ、声がこっちだって囁くんだよ」

「「こ、こえ……?」」


 禍上のその一言で、子分たちは微妙な表情を浮かべた。

 だが当たり前だろう、突然声が聞こえて自分を何処かへと導こうとしている何て言ってきたのだから。


(おい、禍上さん。おかしくなったのか?)

(いや、それっぽい気配は見せていなかったぞ?)

(じゃあいきなりどうしたんだよ?)

(知るかよ!)


 子分たちがこそこそと会話をする中、禍上は空き教室の壁に手を這わせ……ある地点で立ち止まった。

 そして突然壁を蹴りつけ始めた。


「「ちょ!? か、禍上さん!?」」

「てめぇらも手伝え。この壁をぶち壊すんだよ!」

「え、あ……」

「速くやれって言ってんだよ!!」

『『――!! は、はい!!』』


 禍上の怒声にビクリと肩を振るわせ、不良たちは禍上に続くように壁を蹴り始める。

 力の篭った蹴りを何度も受け、壁がメキメキと音を立て始め……トドメに入れた禍上の蹴りが壁に当たると彼の足は壁へとめり込んだ。

 そして力を入れて壁から足を抜き、顔を覗かせると……空洞が見えた。


「か、禍上さん。これって……」

「おい、空いた穴から壁壊すぞ。ほら、さっさとしろ!」

「「は、はいっ!」」


 禍上に言われるまま、子分たちは開けられた穴から板を剥がして行き……人が通れるほどの大きさまで広げる。

 すると、空洞の中が明らかになり、古びた階段が目に付いた。


「これって……まさか噂の地下室ですか!?」

「本当にあったんだ……」

「「し、下に行けばさくやちゃんが気絶してるんだよな? か、禍上さん!」」


 階段を見て驚く子分たち、そんな中ゲイ2人は興奮しながら禍上を見る。

 その瞳には速く楽しみたいということが明確に告げられていた。

 そんな馬鹿2人を軽く鼻で笑うと、顎をくいと動かし……。


「良いぜ、早く行けよ」

「「ありがとうございます!」」

「おら、お前らも行け」

「「は、はい……」」


 禍上に命じられるまま子分たちは揃って階段を下りていく。

 しばらくするとギギギと軋む音が聞こえたところから、何か扉があったのだろう。

 それを見届け、しばらくすると禍上もゆっくりと階段を降り始める。

 そんな禍上の頭の中には、自分を招く声……ではなく違う声が響いていた。


 ――ヨコセ、ニエヲ。ニエヲ、ヨコセ。ハラヲ、ミタサセロ。


「ああいいぜ、やるよ。たんと喰えよ」


 まるでその言葉を待っていた。とでも言うように、彼が見ている目の前で子分たちが開いたであろう錆びた鉄製の扉がしまっていく。

 そして少しすると……。


「「う、うわぁっ!? な、何だこれ!? か、禍上さん! 助けてください禍上さ――ぎゃあああああああああ!!?」」

「「く――来るな! 来る――ぎゃ!? く、くわれ……あれ、体がひとつにな――あげたがががはhrfがヴぁhがdgばばg」」


 悲鳴、恐怖による悲鳴が扉の奥から響き、ガンガンと力強く扉が叩かれる音が聞こえる。

 その悲鳴を、訴えを禍上は普通に無視をする。すると徐々に悲鳴も扉を叩く音も無くなっていき……ゆっくりと扉が開かれた。

 ぼろり、と開かれた扉から腕が落ち、禍上はゴクリと唾を呑みこむ。

 だがその驚きも戸惑いも見せないようにしつつ、ジッと扉を見ていると……黒い手が、腕を取った。

 目でそれを追うと、黒い……化け物が居た。


『ヒサシブリノ、ニエダ。ワガアルジノカテトナル、ニエダ……』


 黒い手の持った腕は、ニチャアと黒い口を開くと腕を食べ始める。

 クチャクチャと肉が噛み締められる音が響き、黒い化け物は笑みを浮かべているように口を細めた。

 そんな化け物を見ながら、禍上は声を出す。


「て、てめぇが、俺を呼んだのか……?」


 声を出した瞬間、自分は目の前の化け物に怯えてしまっている。

 それに気づき、禍上はギリッと歯を噛み締めた。

 だが、目の前の化け物にとっては彼の存在というのは些細なものなのか、それとも自分たちに関係が無いと言うことなのか……首を横に振るだけだった。


『チガウ。キサマヲ、ヨンダノハ……ワガアルジダ。ツイテ、コイ』


 チグハグな声を放つ黒い化け物。それに誘われるように、禍上は扉の中へと入っていく。

 すると中には黒い化け物がまだ居た。


(い、いったい何なんだこの化け物は……? 俺に対しては敵意は無いように思えるし……)

「っ! お、おい、待てよ。何処に連れて行くつもりだ!?」


 歩き出す黒い化け物、その後を追いかけながら禍上は暗い道を歩く。

 だが、何故か暗闇のはずなのに彼は転ぶこともなく、黒い化け物を見ることが出来た。

 それはまるで……いや、何かに呼ばれているからこそ出来る行為であった。


 ――コイ、コッチダ。コイ、コイ。


 黒い化け物と何かの声に導かれるように歩き続ける禍上は、ポッカリと広がる空間へと辿り着いた。

 そしてここまで来ると、真っ暗な空間のはずなのに禍上の瞳には外のようにはっきりと見えるようになっていた。

 だからこの空間がどのような形をしているのかも見えていた。


(な……何だここは? 防空壕か? いや、それにしても広すぎるし……人の手が入ってるようには思えない)


 旧校舎の地下なのだから防空壕の跡地かと考えたが、この空間は人の手によって造られたようなものではないように禍上には感じられた。

 そして、その空間の中央には……まるで飾られている。とでもいうように石段が組まれていた。

 石段に視線を向けると……石段の最上に淀んだようにうっすらと光る何かがあるのに気づいた。


「何だ……あれは?」

『サア、ワガアルジヲ、ソトヘトツレダセ』

「持っていけば、良いのか? わ、わかった」


 ――ツカメ、ワレヲ。ツカメ……。


 黒い化け物に促され、光る何かに訴えかけられ、禍上はふらふらと石段を昇る。

 それが何であるかは分からない。けれど、取らなくてはいけない。

 そんな想いが禍上の心の中に湧き上がり、石段を昇り……光る何かの元に辿り着くとようやくそれが何であるかが分かった。


「石……か?」


 石、もしくは卵なのかも知れない。……それが何であるか分からないけれど、掴まなければいけない。

 そう思いながら、禍上はそれを掴んだ。

 ――瞬間、掴んだそれ(・・)から棘が飛び出し、禍上の手を貫いた。


「ぎっ!? ぎゃぁぁぁぁぁああああああああああああぁぁぁぁっ!!?」


 激しい痛みと焼けた鉄が突き刺さる感覚に禍上の口から苦悶の悲鳴が洩れ、彼は即座にそれを手放そうとする。

 だがそれは離れること無く、それどころか彼の手の中へと入り込んでいくではないか。

 そしてそれが手の中、体の中に侵食して行くたびに……頭の中に何かが入り込んでいく感覚があった。


『オオ、ワレラガアルジノ――メザメダ!』

『『『グオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』』』


 禍上をこの空間に連れていった黒い化け物がそう叫んだ瞬間、いつの間にか集まっていたほかの黒い化け物たちも歓喜の雄叫びを上げる。

 その雄叫びを聞きながら、禍上は……笑っていた。

 だがはたしてそれは彼本人の笑みなのかどうなのか、それが分かる者は居なかった。

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