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第一話 ―日常― 壱

『第一話 ―日常―』は書いていますので、3日間は連続で出します。

「う、うわぁっ!? ……へ?」


 突然のアラーム、その音に驚いてボクは起き上がる。

 そして、周りをキョロキョロと見回すと……そこは見慣れたボクの部屋だった。


「な……なんだ、夢か……。でも、凄く変な夢だったな…………」


 良く分からない夢、だけど怖い……という印象は強く感じた。

 その夢がいったい何を暗示しているのかは分からないけれど、何か嫌なことが起きそうな気がしていた。

 まあ気のせいだろう、そう思いつつ時計のアラームを止めると……廊下で足音が聞こえた。


 ――ドタドタドタ!! バンッ!!


「ア、アニキ! 大丈夫か!?」

「へ? い、いわなっ!? いきなりどうしたんだよ?」


 突然開かれた扉、ボクの部屋の中へと入り込む筋骨隆々の弟。

 此花いわな、ボクの弟だ。

 短く切り揃えられた髪、アスリート選手みたいに高い身長、筋肉が隆々としているけれど……中学二年の14歳。


「突然アニキの部屋から悲鳴が聞こえたら飛び込むに決まってるだろ?! いったい何があったんだよアニキ!」

「い、いや、ちょっと変な夢を見てさ……」

「そ……そうか、なら良いけど……って、ア、アニキ! すまねぇ!!」


 ホッと一息を吐いたいわなだったが、ボク……具体的に言うとボクの胸元を見て顔を赤く染め上げて謝ってきた。

 え、なにその反応? 何時も思うけど、なんでいわなはボクに対して女の子みたいな反応するの?

 心から問い質したいと思っていると、いわなは「顔洗って着替えてメシにしようぜ! それじゃあ、また後で!!」と言って部屋から出て行った。


「まったく、慌しい奴だなー」


 いわながバタバタと部屋から出て行った扉を見ながらボクは苦笑する。

 けど、いわなが言ったように顔を洗って着替えないと。

 そう思いボクは部屋から出ると洗面台に向かう。


「……そういえば、汗がぐっしょりだから……洗濯しないといけないな」


 いま気づいたけれどパジャマも下に着てるシャツも寝汗でグッショリと濡れているのに気づいた。

 部屋に戻ったら着替えないと、そう思いながら泡タイプの洗顔料を使って顔を洗う。

 バシャバシャと泡だらけとなった顔に水をかけ、タオルで拭うと鏡を見た。


 小柄な身長、肉付きの悪い体、微妙に伸びた髪……そんな少年が鏡に映っていた。

 これがボク……此花さくやの見た目だ。


「はあ……、いわなが女の子みたいにボクを見るのも分かる気がする……けど、男なんだよボク」


 ボクが溜息を吐くと、鏡に映るボクも溜息を吐く。

 ――っとと、速く戻って着替えないと!

 別のことを考えそうになっていたボクだったけど、すぐに気を取り直して部屋へと戻るとパジャマから制服に着替える。

 黒色と灰色のチェックズボンに白のワイシャツ、濃緑のブレザーという制服……。

 けれど、それらはブカブカであるため……着替え終えると裾や袖を捲くらないといけない。


「……本当、何時になったら大きくなるんだろうな」


 落ち込みつつポツリと呟きながら、ベッドの縁に座って裾を曲げる。

 ちゃんと曲がったことを確認してから部屋から出て行き、リビングに向かう。

 リビングの扉を開けるとコーヒーの匂いと食パンの焼ける匂いがした。


「おはよう、いわな。今日はトーストなんだね」

「おはようアニキ! それじゃあ、メシにしようぜ!!」


 調理場に立っていたいわなが爽快な笑みをボクに向けながら、フライパンからお皿へと目玉焼きを移していた。

 その姿を見つつ、ボクは椅子に座ると料理が並ぶのを待つ。

 待っているだけじゃなくてお皿を取ったりしてテーブルに並べたら良いだろうけど……、悲しいことにボクは料理が全体的に下手だ。

 並べるのは別に関係ないだろうと思うだろうけど、お皿を逆さにしてしまって料理を駄目にしてしまうのは間違い無しだ。

 ……要するにすっごく不器用なのだ。

 いわなもそれを知っているからか彼一人でお皿をテーブルに並べていく。

 だけどいわなも料理を作るのが好きなのだろうか、楽しそうにしながら料理が載ったお皿をテーブルに置いて行く。

 4枚のトーストが乗せられたお皿、1枚のトーストが乗せられたお皿、数種類のジャム瓶、5個ぐらいの半熟の卵黄が眩しい大きな目玉焼き、そしてマグカップに入れられたコーヒーと牛乳のパックが置かれ、いわなが席に座る。


「さて、それじゃあ――「いただきます!」」


 ふたり仲良く手を合わせて合掌。そして朝食を食べ始める。

 マーガリンを塗り、苺ジャムを塗ったトーストをモグモグと食べ始めるボク。

 それに対していわなはガブリとトーストを噛むと、咀嚼していって素早く1枚目を食べ終える。

 そして2枚目は目玉焼きを乗せて、元々振られていたと思う物に更に塩を振って少し辛くした物を半分に折ってから食べた。

 いっぱい食べるなー……。そんなことを思いながらボクはいわなを見ていたのだが……視線に気づいたいわなが恥かしそうに頬を染めてきた。


「な、なんだよアニキ? ジッと見つめられてたら照れるじゃんかよ……」

「いやー、本当いわなっていっぱい食べるなって思ってさ」

「そ、そうか? ていうよりも、アニキが全然食べないだけだろ!? もっとちゃんと食べないと大きくならないぞ!」

「それはそうなんだけどさ……」


 捲くし立てるようにいわながボクにそう言うけれど、あまりお腹が空かないし……すぐにいっぱいになっちゃうから仕方ないよね。

 いわなも分かってるのか、気まずそうな顔をしてから食べることに集中し始めたのかトーストをバクバクと食べて行く。

 同じようにボクもトーストを食べるけど、苺ジャムの甘みが口に広がって美味しい。

 そして、口の中がトーストで乾いたらコーヒーを飲む。

 いわなのようにブラックじゃなくて、砂糖いっぱい牛乳たっぷりのカフェオレな感じにして飲む。


「んぐ、んぐ……ふぅ、美味しい」

「良い飲みっぷりだなアニキ。もういっぱい、飲むか?」

「ううん、良いや。これ以上は入らないし……」


 いわなが勧めるコーヒーを断り、残りのトーストを食べようとする……けど、カフェオレが多かったからか、半分でごちそうさまをしてしまった。

 半分だけ残ってしまったトーストを見て、ちらりといわなを見ると目玉焼きサンドを食べているのかトロッとした卵黄がトーストの隙間から零れているのが見えた。

 本当、いっぱい食べるなー……。そんな風にジッと見ていると、ボクの視線にいわなが気づいたのかボクを見た。


「ほん? なんひゃアニヒ?」

「本当いっぱい食べるなって思ってさ、それで……悪いんだけど、これも食べてくれないかな?」

「ほふっ!? い、いひのか!?」


 ボクがお願いすると、咽そうになりながらいわなが尋ねてくる。

 いったいどうして何時もそんな反応するのだろうか、そんな疑問を抱きつついわなに頷くと彼は嬉しそうにと言えば良いのか、本当に良いのかという風に尋ねてくるので頷く。

 そして何故かのガッツポーズ。……本当、どうしてこんな感じにポーズを決めるんだろう?

 いわなに疑問を抱きつつ、少し食後の休憩をするためにテレビを点けて、ニュースを入れる。

 するとニュースでは芸能人が結婚したとか離婚したというバラエティの後に、全国区の放送が行われていた。


『見てください、この瓦礫の山を。実はここには神社があったのです』


 どこかを中継している映像が映る中、レポーターがここに何があったのかを説明する。

 けれどその場所には神社なんてものはなく、あるのはポッカリと……何かに潰されたクレーターがあるだけだった。

 そしてテレビに映ってる場所は……って、あれ?


「ねえ、いわな。ここって……あそこの山にある神社、だよね?」

「ぅえ? あ、ほ……本当だな? 凄いな、これ……ってことはこの町で起きた出来事なのかよ」


 見覚えがある神社に気づき、いわなに尋ねると彼も気づいたようで驚いた様子を見せる。

 というかこの町でこんな出来事が起きたんだ……。

 驚きつつも、こんな不可思議な現象がこの町で起きたんだと思うと少し……いやかなり怖くなった。

 そんなボクの様子に気づいたのか、いわなは声をかけてきた。


「大丈夫だって、速く帰って家の中に居たら変なことなんて起きないだろ。それにアニキはオレが守るからよ!」

「う、うーん……。それは嬉しいけど、ボクのほうがお兄ちゃんなんだからね?」

「分かってるって! っと、そろそろ学校行かないと遅刻するな。それじゃあ、オレ行くよ!! はぐはぐ、ごくんっ!」


 胸を叩きながら、いわなは自信満々に告げると素早くトーストと目玉焼きを食べて、ボクの食べ残しも食べてからコーヒーを一気に飲み干した。

 そんな弟を見つつ、ボクも立ち上がると使用したお皿を持っていこうと考える。

 ……が、ボクの考えを読んでいたのかいわなが素早くお皿を取ると、まとめて流し台に置いていった。


「帰ってきたら洗うから、そのままにしておいてくれよアニキー!」

「あ、うん。分かったよ」


 ちょっとだけ悔しいと思いつつ、飛び出すように出て行ったいわなを見送り、ボクも高校に向かうためにカバンを持って出る。

 ……出るのだけど、正直行きたくないな。


「けど、行かないと……」


 はあ、と溜息を吐いてボクは扉に手をかけると、家から出た。

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