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その37 首謀者

災害は怖いですよね 片鱗を味わっただけでもそう思えるほどに

 俺達は今、セニア王城地下「勇者廟」に居る。


 ここは、セニア建国の祖である“勇者”にして初代セニア国王…ヨーグ・アスラスタの霊魂を祀る場所だという。魔境の伝承によれば…ここにはヨーグの他に、邪龍として死んでいったロジィの父やその仲間も葬られているらしい。

 静かな地下の荘厳な廟は…薄暗い闇の中にある。






 先程「勇者廟」に突入した俺達の前から、魔王が突然…姿を消した。

 そして代わりに現れたのは…。

「ここまで来る者は居ないと思っておりましたが…流石は異世界人様。私の浅はかな考えを、容易に越えるのですね。城に置いておいた“偽の魔王”が追い詰められるのは想定外でしたので…思わず私も転移魔法を使ってしまいましたよ」


 前大神官…ザフマン・レインが、ここに居る。


 魔王と入れ替わるように現れたこの男…異様な雰囲気を纏っている…。

 こいつが…魔王異変の“首謀者”だという事なのだろう…。








 臨戦態勢の俺達を前に、ザフマンはとても嬉しそうだ。

「昨晩魔境に召喚した“焦土の使徒”を倒したのも…貴方達なのですね?魔物達には物量的に対抗不可能と考えて、“あれ”は制圧力に特化させてあったのですが…まさか撃破されるとは思いませんでした」

「ザフマン…様…?」

 奴に歩み寄ろうとしたレイナも、その異様な雰囲気を警戒して止まる。

「そしてさらに…貴方達の、ここまで乗り込んでくる勇気!実に素晴らしいです!魔王に挑む勇気を持つ、勇猛果敢な勇士達よ…!是非とも私と共に、素晴らしい世界を創りましょう!!」

「素晴らしい…世界…だと?」

 ザフマンは…何故か“魔王”と同じ理想を語っている…。

「どういうことですかザフマン様!?というか…魔王は一体どこへ消えたのですか!?そもそも貴方…どうやってここへ!?転移魔法とは!?」

「レイナ」

 混乱するレイナを、俺が宥める。

 そのまま俺は…ザフマンを睨む。




「…つまり、お前が“魔王”なんだな?ザフマン…」




 俺がこの異変で感じていた“違和感”。

 俺の中にあった違和感の欠片が、一気に組み上がる。

「そもそも…“魔王”が平和を望んでいるって時点で、おかしいと気付くべきだったぜ…。魔王…いや、ラグラジア帝国のイカレ魔術師ヴェラーツ・ニガルドが、平和を望むはずが無いんだよ…!」

「…シュウさん、どういうこと?」

 薊の問いかけ。

 静かに耳を傾ける…ザフマン。

「あのなザフマン…俺達はお前が、レイン家が『魔王復活』の為に暗躍していたことを知ってるんだよ。レイン一族は100年前から異世界人を狩り続けて、魔王の封印は恐らく…お前がレイン家当主になった時点でほぼ解かれていたんだろうな」

「…続けて下さい」

 嬉しそうなザフマン。

 不気味だ。

 …俺は、続ける。

「本当なら魔王の封印は、とっくに解けているはずだったんだろ?異世界に召喚され、大神殿まで案内された…この俺を、生贄にして。でもそれは失敗した」

「…」

「俺を生贄にし損ねた魔王は…聖星祭直後に“10人目の異世界人”を再召喚したんだろう。そして魔王の封印…正確には、魔王を封印していたという遺物『奇跡を呼ぶ月』の使用制限が遂に解除されたんだ。だが…その時、お前は『月』で魔王の封印を解くのではなく…!」

 俺は一呼吸置く。


「お前は、『奇跡を呼ぶ月』で…あの時セニア王城に居た全ての人間の命を『月』に捧げたんだろ!?お前自身が強大な魔力を得て、“魔王”を騙って君臨する為に…!」


 魔王を出し抜き、魔王になりかわる。

 それこそが…ザフマンの真の狙いだったんだ…!








 俺の言葉を聞いたザフマンは、感極まっている…。

「す…素晴らしい…!ここまでとは…!!魔王の秘密はもとより、我が野望まで看破しているとは…!」

 ザフマンは胸に手を当て、苦しそうに喜ぶ。

「その英知…!ますます貴方達に…私の同志になって頂きたくなりました。ですがその為にも…私が為した全てを説明せねばなりませんね」

 ザフマンは、全く動揺しない…。

 それどころか、奴は俺達を“説得”しそうな勢いだ…。






「我がレイン家の悲願は、勇者にも為し得なかった“平和で平等な世界の実現”です。魔王復活はその為の手段に過ぎませんでした」

 ザフマンは静かに語り出す。

 レイナと薊は、奴の斜め後方に移動する。

 正面のロジィは動かない。

 俺も奴を、正面から見据える。



「全ての始まりは…私の曽祖父が、封印されていた筈の魔王から交信を受けた事でした。魔王は曽祖父に様々な事を伝えたと言います。ラグラジア帝国の歴史や、魔王の封印の正体などを…」

 暗く静かな「勇者廟」に、ザフマンの声が反響する。



「魔王の要求は単純でした…“我の復活を手伝えば、それに見合った力を与える”…最初、曽祖父はこれを跳ね除けましたが…後日再び交信してきた魔王に対し、逆に要求を突きつけたそうです。“復活に協力するから、魔王の力で平等な世界を実現しろ”とね」

 俺達はザフマンを包囲したのが、奴は全く気にしていない。



「曽祖父の要求を呑んだ魔王は…レイン家との間に“契約”を結びました。そして封印の解き方を魔王と示し合わせ、レイン家は魔王復活の為に活動を始めました…とはいっても、“契約”はレイン家当主しか知らず、常に当主1人が“大神官”の地位を活用して行っていたのですがね」

 懐かしそうなザフマンの表情は、まるで夢を語る少年のそれだ。



「実は魔王は、封印の外に協力者さえ居れば…封印の中からでも大魔法が使えました。そこでレイン家当主が協力者となり、魔王の大魔法を補佐しました。“封印を解くために必要な異世界人の召喚”という、魔王にしか使えない魔法…それも、封印されている魔王が数年がかりで魔力を溜め、そうして発動しなければならない秘術を」

 俺は魔王に関して、ある疑問を持っていた。

 『“異世界人召喚”以外にも、魔王は魔法を使えるのではないか?』

 しかしどうやら、これは間違いだった。封印された魔王は…レイン家当主の同意が無ければ魔法が使えないので、“異世界人召喚”しかできなかったって事か…。



「そして今からおよそ100年前…私の曽祖父が魔王と共謀し、セニアに最初の異世界人を召喚しました。曽祖父は大神官という地位を利用し、『勇者のお告げ』と『異世界人の脅威』という2つの嘘を広め、その異世界人を討ち取りました。結果セニア全体に“異世界人は悪”という風潮が生まれ、レイン家にとって都合の良い環境が出来たのです」

 “最初の異世界人”…か。

 彼もまた、犠牲者だったのだ。

 突然異世界に引き込まれ、そこであらぬ噂を流されて、濡れ衣で処断され、悪として語り継がれる…。こんな末路はあんまりだと思う。

 しかしザフマンは…レイン一族は気にしなかったようだ。

 奴等にとっては、異世界人もまた“ただの道具”なのだろう…。



「大神殿が巡回騎士団を創立した事も功を奏し…魔王の封印は徐々に解かれていき、10人目…即ちサミダレ様が現れたことで、魔王の復活は為されるはずでした。しかしサミダレ様は何者かに攫われ、そこで私は気付いたのです。“魔王復活に気付き、阻止しようとする勢力”が居るという事に…」

 薊はそういう意図で、俺を助けてくれたわけではないが…。

 ザフマンはその時点で、警戒心を強めていたようだ。



「私が為すべきことは2つでした。まずは“魔王に対抗し得るラグラジアの魔術兵器”…つまり、遺物の収集・確保です。ラグラジア帝国の術具の凄まじさは魔王より伝えられていた為、これだけは排除せねばなりませんでした。魔王が復活しても、再び斃されては困りますからね」

 魔王に対抗できるのは、遺物…ラグラジアの術具だけ。

 ザフマンはその為に、遺物を買い漁っていたという訳か…。



「もう1つが…異世界人召喚の周期を早める事でした。従来、魔王による異世界人の召喚周期は最低でも1年以上必要でした。しかし“魔王復活を妨害する者”も当然それは知っているでしょうし、妨害される事も予想できました。その為私自身が失脚したと見せかけた状態で、密かに“前例の無い異世界人召喚”を行うことにしました」

 俺達はこれにしてやられた。

 ザフマンの失脚で、ことが済んだと勘違いしてしまったのだ。

 俺達は『月』による封印の仕様を知った時点で、セニア王城に強行するべきだったのだ。魔王による“異世界人の召喚周期”を知っていた俺は、俺が召喚されて1年以内はとりあえず大丈夫と高を括っていた。

 セニア王政も、きっと同じだったのだろう。

 …しかし結果、『月』の封印が解かれてしまったのだ。






 黙って聞いていた薊が口を開く。

「…聖星祭の前、大神殿は大量に魔石を買い込んでた筈だよね。それを使って、魔王の異世界人召喚を手伝ったんだ」

「その通りです!!」

 ザフマンは楽しそうに手を広げる。

「魔王が異世界人召喚に1年以上の間隔を要する理由…それが、魔王自身の“魔力の貯蓄”でした。これを一手に解決する為、私は魔石を収集しました。これによって10人目の異世界人を…サミダレ様召喚の1年以内という異例の周期で召喚できたのです!」

 聖星祭前…俺達が大神殿に忍び込んだ夜。

 確かに、大神殿が魔石を大量に買い込んでいる証拠は見つかった。

 だがしかし…今の今までその理由が、俺達には分かっていなかった。






 しかしそこで突然、ザフマンがトーンダウンする。

「私がレイン家当主となった日から、私は魔王復活の実現に向けて活動を続けていました。しかし以前より…私はある懸念を持っていました」

 ザフマンは額に手を当て、眼を閉じる。

「“魔王は、レイン家との契約を守るのか?”というものです。規格外の化物である魔王が…たかが人間1人の為に、その願いを聞き届けるのか…?そうした不安要素は、私の父・シュレノンも危惧しておりました…」

 ザフマンが括目する。

「もし魔王がレイン家との契約を反故にしたら…世界が魔王の危機に晒されてしまいます。世界の平和の為にも、それだけは阻止せねばなりませんでした」

 俺は思わず、歯ぎしりする。

「…その答えが…“レイン家当主自身が『月』を発動する”ことかよ…!」

 ザフマンは急に満面の笑みを浮かべる。

 今までのとは違う、歪んだ笑顔…。



「そうです…!10人の異世界人が『月』の封印を解いた時、1度だけ『月』は使用可能となるのです!その1回は本来“魔王封印の解除”に使う契約でしたが…私はそれを破り、セニア王城の人間全ての寿命を『月』に捧げ、私は強大な魔力を得たのです!!そして私は“偽の魔王”をセニア王城に配置し、私自身は“魔王に従う傀儡”として振る舞い、間接的にセニアを…世界を…魔王として統治できる状況を創り上げました!!これこそが、私の悲願!!!」



 狂ったようにザフマンが語り続ける…。

「私は幼少の時期より、父シュレノンに連れられて世界各国を旅しました。そこで私は、私の住むセニア王国がいかに豊かであるかを痛感したのです…!セニアと違い…外国には貧困に喘ぐ地域も非常に多く、苦しんでいる民が大勢居ました。比較的豊かなセニアですら、魔境を圧政で踏みつけにすることで…人間達の生活が支えられているのです」

 ザフマンが、天を仰ぐ。

 わなわなと、彼の体が痙攣する…。


「ああ…!この世界は、なんと不完全で…なんと醜いのでしょう!?勇者は義憤に駆られて魔王封印を成したのでしょうが…彼には未来が見えていなかったのです!!勇者が“神”として崇められるこの現状…確かにセニア王国は平和です…!しかし隣国間での諍いは絶えず、平和と中立を謳うセニアはそういった諍いに介入すらできない!!セニアの民が謳歌する平和とは…そんな愚かなものなのです!!」


 ザフマンは、平和なセニアの現状を、嘆く…。

 貴族であるレイン家に生まれてしまった彼は、“自分が恵まれている”という自覚があったのだろう…。そしてそれが余計に、彼の思想を先鋭化させているように感じる…。

「真に平等な…完全な世界を創り上げるのには、現世に“神”が顕現せねばなりません。勇者のような虚の偶像では無く…圧倒的な力を誇る、いわば“魔王”のような存在が…」


 ザフマンの望む世界…。

 魔王が“神”として君臨し、全てを魔王の下に平等とする世界、か。











 俺はザフマンの様子に注視しながら、1つ尋ねる事にする。

「おいザフマン…お前、最初に俺達に“一緒に平等な世界を創ろう”とか抜かしたよな?俺達がお前の仲間になったって、お前に得があるのか?」

 ザフマンは俺に正対する。

「もちろんです」

 張り付いたような、柔和な笑顔だ。

 こいつの笑顔…俺は初めて会った時から、気味悪いと感じていた。

「魔王復活には、大神殿は関与していません。神官達にも一切事実を伝えていませんので…真に私の協力者は居ないのです。それに私は、“魔王”に関する真実を広める気はございません」

「おい、説明になってないぜ?」

「私はセニア王城に“偽の魔王”を配置しておりますが…これには不都合が多いのです。私がセニア王城の人々を『月』に捧げて得た魔力は…本物の魔王と比較しても非常に少ないのです。故に“偽の魔王”は予想以上に脆弱で…護衛が欲しいとさえ考えております」

 ザフマンがこの城に据え置く、“魔王の人形”。

 俺達に…その護衛をしろと…?


 俺と薊は、思わず顔を見合せる。

 ザフマンの真意が見えない。

「…あたし達は、あんたなんかと組まないよ」

「反魔王の俺達にそんなことさせていいのか?裏切るかもしれないぞ?」

「いえ、それは無いと信じております」

 薄ら寒いザフマンの信頼に、俺は鳥肌が立つ。

 しかし、ザフマンは俺に真摯な視線を投げかける。


「貴方達は、セニアの騎士…外国人…魔物の戦士…龍…そして、異世界人ですね。貴方達が魔王護衛となれば…ありとあらゆる種族が魔王の護衛に就いたとなり、魔王の謳う“平等な世界”の象徴となるでしょう。そしてそれを契機に…魔王の名の下に“魔境の解放”を行います」


 薊が、僅かに反応する。

 魔境の、解放か…。

「でもよ…それならお前が神殿警備隊の中から適当に指名して、そういう護衛隊を立ち上げればいいだろ?魔王討伐に来た俺達を、わざわざ勧誘する必要あるか?」

「ええ、あります。魔王の真実を広めたくない私にとって…“それ”を知る貴方達は代え難いです。真実を知る貴方達が魔王側近であれば、私が不在でも“魔王の活動”に齟齬が出ないでしょう。さすれば私はセニアを離れ…元大神官の肩書を利用し、隣国に行って魔王への恭順を促す活動が出来ます」

 ザフマンはもう既に、魔王の名を利用して諸外国を従わせる活動まで行うつもりでいる。その為にも…ザフマンがセニアを離れている間に、セニアの“ニセ魔王”の安全が欲しいのだろうか…?








 静かに聞いていた薊が、ザフマンに尋ねる。

「貴方…なんで、なんで魔境にあんなことをしたの…?」

 言葉も様子も冷静だ。

 しかし、迸る怒気がありありと感じられる。

 焼かれたデリ・ハウラ。

 ミレニィの翼。

 俺もこれだけは…絶対許せない。




 しかしザフマンは、事も無げに返す。


「ああ、あれは…『尊い犠牲』です」


「…は?」

 流石の薊も、呆気にとられる。

 俺も、この返答は予想していなかった…。

 …一体、どういうつもりなんだ…?

 当のザフマンは、俺達の反応を意にも介さない。

「あれは断じて、見せしめなどではございません。平和な世界を実現する為にも、あれは必要な犠牲なのです」

「…意味が分からないよ」

 薊は困惑しながらも、眉を顰める。

 ザフマンは、構わず続ける。

「分かりませんかね?今までの“仮初の平和”に浸った者達には…真の平和の尊さが分からないのです。魔王の下で真の平和を実現する為にも、ある程度の『尊い犠牲』が必要なのです。このセニア王城で、多くの方々が『月』の犠牲になったように…」

「…」

「このセニア王国の成り立ちもそうです。かつての魔王異変では…“呪い”と“流星”で数多の犠牲者が出ました。そしてそれ故に…“流星”で生き残ったウェステリアの民は勇者と共に“博愛の国セニア”を興したのですから。死を悼む民衆こそが、真の平和・平等に価値を見出すでしょう」

 もう理解できない。

 ザフマンの理論は、こいつ自身の中で完結しているのだ…。

「今…魔境もセニアも、共に多くの血を流しました!きっと魔境の魔物達にも、平和の尊さが伝わったでしょう!これでセニア国内の下準備は全て終わり、遂に諸外国へ働きかけることが…」


「待てよ」


 俺は、ザフマンを遮る。

 ザフマンが、高ぶった姿のまま、顔だけを俺に向ける…。

「じゃあさ、この後魔境はセニアと平等になるのか?」

「もちろんです」

「嘘だな」

 嘘だ…!

 こいつは嘘を言っている…!

 俺は思わず、怒鳴る!




「ザフマン…お前はアグルセリアにある“かもしれない”遺物を恐れ、「解放派」の魔物を唆して、魔境を混乱させようとしたじゃねぇか!?魔物に親身なフリをしやがって、結局はお前もクソ野郎だよ!それに大神官だったお前なら…魔境が魔王について情報を持っている可能性だって考えるはずだ!ついでに“遺物がまだまだ眠っている可能性”まで含めれば…お前にとって都合の悪い魔境を、お前が開放するはず無いよなぁ!!??」




 ザフマンが驚く。

 しかしすぐに、いつもの柔和な笑みに戻る。

「おや…見透かされていましたか、これは困りましたね。私にとって遺物と魔境は、魔王復活後における最大の不安要素でしたから…いずれにせよ殲滅するつもりでした。しかし貴方達が私に協力してくれるなら…」

 今度は薊が遮る。

「貴方は?」

「…?」


「ザフマン…貴方は、平和で平等な世界の対価に…何を払ったの?セニアと魔境だけが酷い目に遭って、貴方は何も失っていない…それは、ずるい」


 ザフマンが薊を見据え、胸に手を当て、凛とした顔で返す。 

「私は…この命を、平和な世界の為に捧げます」

「“魔王”として…って事…?」

「その通りです」

「…くだらない」

 薊が吐き捨てる。

「いろいろ理由付けしてるけど…結局は世界を、あんた自身の思い通りにしたいだけじゃん!勝手な理想を押し付けて…魔物を大勢殺して…何が“平和な世界”だ!」

「…!」

 驚き、ザフマンは項垂れる。

 少しの間、勇者廟に静寂が訪れる。











 ザフマンが、顔を上げる。

「残念です」

「何がだよ」

「貴方達の協力が、得られそうにない事です」

「そうか、そりゃあ残念だったな」

「これは仕方がありません…」

 ザフマンは悲痛な、しかし覚悟を決めた表情になる。


「貴方達にも…平和の為に、尊い犠牲となって頂かねばなりませんね」


 突如ザフマンが、異様な魔力を纏う…!

 これは以前、俺がザフマンを「看破の面」で見た時と同じものだ。奴は恐らく、強大な魔力を何かしらの術で隠していたのだ…!

「皆、構えろ!」

 レイナの号令。

『…やってやる!』

 滾るロジィ。

『みんなセニア語だから何言ってるか分かりませんでしたが…とりあえずあいつをぶっ殺せばいいって事ですね』

 コルトも普段使いの剣を抜く。鈍らの「災厄避け」は抜かない。

「ザフマン…貴方なんかの思い通りには、させない」

 薊が「空飛ぶ手甲」で浮き上がり、「空圧棍」を構える。




 俺はロジィの後ろに、コルトと一緒に隠れる。

 「ステルスランタン」を起動する。

 そして腰の「零式魔導砲」に、そっと触れる。






 いよいよだ…!

 こいつを倒して、この魔王異変に終止符を打つ…!

2021/12/30 誤記訂正などなど

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