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その36 王都侵攻

灯りを付けましょう雪洞に

 俺達は、早朝の空を飛行している。


 まだ日の出前のセニアが、上空から一望できる。こんなに高空でもまだ太陽は水平線から頭を出さない。気温も寒く風も強いが…そんなのは些細な事だ。

 俺達の遠く後方には、大半が焼け落ちたデリ・ハウラが見える。既に毒霧も、火事の煙も収まっている。避難した魔物達の姿は、高空からはもう見えない。

 そしてデリ・ハウラ北方。

 昨日の怪獣が鎮座している。






 龍のロジィが、一息吐く。

 ロジィの全身を、銀の靄が覆っている。

『…よし、今度は怪獣に気付かれなかったぞ』

『いいぞ、思った通りだ…!』

 俺達は怪獣に気付かれる事無く、デリ・ハウラを離脱した。


 俺達は先程、デリ・ハウラを出発した。

 龍のロジィに俺と薊、コルト、レイナが乗り込んでいる。

 俺達は「ステルスランタン」も併用しているが、昨晩は“これ”越しでも怪獣に存在を察知されてしまった。俺はその原因を…ロジィの飛行速度と見ていた。

『やっぱり昨夜は…ロジィの飛行速度に遺物の力が追いつけなかったんだ』

『そっか、なるほど…』

 「ステルスランタン」は、姿を隠す靄を纏う遺物だ。こうやって昨夜と違いゆっくり飛べば、ちゃんと姿が隠せるようだ。

『…しかし、驚いたよ。ロジィ君にこんな力があるとはね…!』

 レイナは昨夜から驚きまくっている。どうやら俺の遺物もロジィの『龍』も、薊の武勇も…。全てレイナの予想外だったらしい。

 コルトが面白そうに、レイナに絡む。

『あははは。ねぇレイナさん知ってますか?魔境の言い伝えでは…かつて魔王を斃した勇者は…異世界人と共に戦ったんですって』

 レイナが目を丸くする。そして困ったように首を捻る。

『…私が、勇者と同じだと?』

『だいたい似てますよね』

『…まあ、勇者に肖るのも悪くはないが…』

『縁起は担ぐものですよ?』

 コルトは終始笑顔だが…彼女は出発してから魔境を一切振り返らず、真直ぐセニア王都だけを見据えている。そしてそのまま顔も向けず、俺の肩に触れる。

『じゃあ、飛びながらですが…作戦を立てておきましょうね』

『おう!』

 俺の考えを中心に、俺達は対魔王の策を練っておく。











 空飛ぶ深紅の龍の背。

 コルトが、冷徹に言い放つ。

『皆さん分かってると思いますが…我々が魔王を倒せる手段は「零式魔導砲」のみです。他の術具等は、たぶんろくに効かないでしょうから』

『…そうだね、コルト』

 薊が静かに頷く。

『ですから、我々が勝つのに必要な要素は…「魔王の動きを止める事」と、「ゴローさんを徹底的に守る事」です。ゴローさんを生かす為なら、他の人は死んでも守る必要があります。あと「零式」は一発外したら半日使えませんから…外した時点で負けです』

『…わ、わかってるぜ…』

 いざそう言われると、俺も震えてくる…。


 俺にしか扱えない「零式」を。

 弱っている予想とはいえ…実力が未知数の魔王に。

 “確実に”当てなければならない…。


 重責過ぎる…。

 コルトは構わず続ける。

『「零式」以外のこちらの戦力は…「空飛ぶ手甲」と「空圧棍」を持つ薊、『龍』のロジィ、レイナさんは…』

『私は「紅蓮杖」を持ち出してきた』

 レイナの装備は、セニア最強と言われる術具だった。

 コルトは満足そうに、不敵な笑みを浮かべる。

『上等です。それらの集中砲火で、魔王の足止めを行いましょう。あと、わざわざ他の騎士や自警団員にも伏せたこの奇襲…迅速が命ですんで』

 俺も思わず神妙に頷く。

『とっとと王城に侵入して魔王を探し…接敵したら皆で集中砲火して、姿を隠した俺が魔王の死角から「零式」を放つ…これでいいな。魔王は多分玉座とかに居るだろうから、広い場所で戦えそうだしな!』

 ちょっと無理筋だが…弱った魔王相手に仕掛ける奇襲としては上々だ。




 そこでレイナが、コルトを横目で見る。

『あれ、コルト君は…?』

 レイナの疑問は当然だ。

 そういえば、コルトは何をする気だ?

『決まってます』

 コルトはいい笑顔だ。彼女は、腰の剣に手を当てる。

『お守り程度の「災厄避け」が主装備の私は、たぶん…大した戦力になりません。だから私は…体を張ってゴローさんを守りますよ』

『コルトねーちゃん…!』

『これは必要ですから。我々が昨夜、あの巨大な怪獣を倒してしまったことで…“怪獣程度なら倒せる戦力を持つ勢力”が存在することを魔王に知られています。つまり奇襲する我々の秘策…「零式」が魔王に警戒されるっていうのは、十分あり得ます』

『でも…!』

『姿を消したゴローさんの不意打ちでも危険が残ります。だから私はせめて…ゴローさんの盾になりますよ』

 ロジィが悲痛な声を上げるが、コルトは意にも介さない。ミレニィのあの惨状を見てしまった彼女は、何をしてでも魔王を討つ気迫なのだ…。

 この作戦しかない事を、皆わかってくれたようだ。


 俺は一言、皆に謝っておくことにする。

『悪いな…「零式」が俺にしか使えないせいで、こういう作戦しか無いんだ。わかってくれよな。俺も…魔王を倒すために最善を尽くすからよ…』

『シュウさん』

 薊が俺に、体を寄せてくる。

『大丈夫、あたし達が勝つから。あたしはシュウさんの作戦を信じるよ』

『薊…』

『そして魔王を倒して、英雄になって、魔境を開放しようよ』

 薊の大きな瞳が、俺の眼の奥を捉える。

『…そうだな、そうしようぜ』

 そうだ、いい方向に考えよう。

 それにこれが上手く行けば…薊の夢も叶うかもしれない。

 その為にも…何としても、魔王を斃すのだ。











 あと俺は、どうしても言っておきたい事があった。

『なぁコルト』

『何ですかゴローさん?』

『あのな…何ていうか…』

 出発直前。

 俺達は、目を覚ましたミレニィに会って来た。その時コルトは、“帰ったらミレニィに伝えることがある”と言い残していた。きっとコルトは…彼女を想うミレニィの愛に応える気なのだろうが…。

『…あのなコルト…お前、帰ったら“ミレニィに何か伝える”って言ってたけどよ…あれさぁ…』

『何か不満が?』

『出発前にああいう事言うの、不吉だと思うんだ。何ていうか…俺達の世界では、そういう奴が死にやすいっていうからさぁ…』

 あの告白…よくある“死亡フラグ”だったので、どうしても気掛かりだった。こういうのは、露骨に折っておくといい…とどこかで聞いた気がする。

 しかしコルトは、意外そうに眼を丸める。


『え?逆に魔境では…ああいう事しないと死ぬって言われますけどね』


 ん、この世界では逆なのか?

 コルトが真剣な面持ちで続ける。

『死地に赴く時には…生きて帰れるように“縁”を繋いでおくんです。仮に生死の境を彷徨った時に、魂をこの世に繋ぎ止めてくれるように…』

『…』

 俺は言葉を返せなかった。

 ロジィもぽつりと呟く。

『…それたぶん、ラグラジアの風習だぞ』

『…そうなの?ロジィちゃん』

 薊が驚くが、俺も意外だった。確かにラグラジア語を継承する魔境には…ラグラジアの風習くらいなら残っているのかもしれないな…。

 その時薊が急に、俺の腕を掴む。

『…じゃあ、あたしも縁を繋ごうかな』

『…?』


『えーと、その…あたしは絶対生きて帰って、シュウさんにあたしの想いを伝える…みたいな…?』


 !?

 急に何を…。

 言ってて恥ずかしくなったのか、薊がそっぽを向く。

 …でも、あれ、それじゃダメじゃね?

『いや、俺も死地に同行するんだが…それじゃ意味無いんじゃないか?』

『…いいの』

『やり直してもいいぞ?』

『いいったらいい』

『そうかい』

 周りに皆が居るのに…こういう時、薊は大胆だな。

 …俺も、縁を繋いでおこう。


『じゃあ…そうだな、俺も絶対生きて帰って…薊の夢を叶えるぜ』


『シュウさん…!?』

 薊が真っ赤になって驚く。

 俺がこういう返答をするのが意外だったようだ。

 思わず俺は、驚く薊の頭を撫でてしまう。

 薊が恥ずかしそうに俯いてしまった。

 可愛い奴だ、全く。






 そんな俺達に、レイナが呆れている。

『君達なぁ…もう王都は目の前だぞ?』

『おっ!?』

 レイナの言う通りだった。

 もう俺達は、黒い靄に包まれるセニア王都の上空に居る。


 ここまで来た。後はやるだけだ…!

『じゃあロジィ…セニア王城の正面から突っ込むぞ!まあ流石にここまですれば…魔王も気付くだろうから…一気に行くぞ!』

『わかったぞにーちゃん!任せとけ!』

『城の中は私が熟知している。先導は任せてくれ!』

『頼りにしてますよ、レイナさん』

『…じゃあ、皆…行こう!』

 薊の号令。

 ロジィが一気に降下する!


 俺達の「魔王討伐」を始めよう。











 デリ・ハウラ南の街道沿い。

 ロベルはアリエル、キキと共に…魔境の長老と一緒に居る。

 彼等の集団は、セニア王城に居る魔王の元へ向かう準備をしている。アグルセリア長老タジェルゥも、サウラナ長老ヴェスダビも…共に魔王への服従を選んだのだった。

 万が一を考え…長老の警護は、デリ・ハウラの救援に来た王国騎士・神殿警備が行う事になった。


 セニア王都への出立まで、あと僅か。

「…皆様…大丈夫ですかね…?」

 ロベルは、沈んだ面持ちで、セニア王城を見つめる。

「デリ・ハウラを蹂躙した怪物を倒した方々だ。私は信じるよ」

 キキはデリ・ハウラ北方に鎮座する怪物を睨む。

「レイナお姉様…どうか、ご無事で…」

 アリエルはレイナの無事を、偉大なる勇者に祈る…。


 3人は今朝、レイナの出発を見届けていた。


(私は必ず成し遂げる!君達は、魔境の民を救うんだ!)

 別れ際のレイナの言葉が、ロベル達の耳に残っている。

 彼女は異世界人と共に、『龍』に乗って姿を晦ました。

 今頃、王都に到着している頃だろう。




 騎士団員が、3人に駆け寄る。

「ロベル…それに神殿警備隊のお2人。出発の時間だ」

「…はい」

 3人は真直ぐ顔を上げる。

 祈りは十分に捧げた。

 今は、出来ることをするだけだ。











 深紅の鱗を纏う龍が、城を翔ける。


「グオオオオオオオォォォォォォ!!」

 怒声と共に、ロジィが突進する!

『良いぞロジィ君!玉座の間はこのまま直進だ!!』

 目指すはセニア王城・玉座の間。

 魔王はきっと、そこに居る。


 城の正門は、紅蓮杖で破壊して来た。

 俺と薊が以前王都の偵察に来たが…やはり城の中は、兵士の死体が歩き回っている。彼等は襲撃者である俺達の方へ走って追尾してくるが、動きはやはり緩慢だった。

(…うすのろ死体兵士とは、戦り合う必要は無いな)

 しかし、魔王の取り巻きにも死体兵士が居たら俺が大変だ。まあ俺は「光る杖」も持ち込んだので、最悪これで応戦するしかないだろう。

『あの扉か!?ねーちゃん!!』

『そうだロジィ!吹っ飛ばしてくれ!!』

 俺達の進路に、絢爛豪華な大扉がある。

 ロジィが口を開く。


 ロジィの口から放たれた火球が、扉を吹き飛ばす!


 爆風を突っ切り、龍が玉座の間に飛び込んだ。











 “魔王”が、居る。


 広大なセニア王城・玉座の間は…閑散としている。

 死体兵士の姿は無い。

 荒廃した様子も無い。

 しかし…広々とした空間には、淀んだ空気が溜まっている。


 玉座の間…たった一人だけが、そこに居る。

 セニア国王が掛けるはずの玉座に、悠々と座している。

<<何ダ?騒々シイ客人ダナ…>>



 青白い肌に、銀の髪、黒い翼、それに赤黒いオーラ…。俺は魔王を近くで見るのは初めてだが…よく見たら、牙も長い。セニア王が座すべき玉座に足を組んで座る彼の態度は…尊大にも、優雅にも見える。

 まるで…魔王というより吸血鬼のイメージだ。



 レイナが叫ぶ!

「魔王よ…私は王国騎士レイナ・ヴェンシェンだ!神聖なるこのセニア王城にての貴様の悪行…断じて許さん!私がここで、貴様を討つ!!」

 啖呵を切ったレイナに、魔王は立ち上がって拍手を返す。

 本当に嬉しそうに、まるで英雄のようにレイナを称える…。

<<ホウ…素晴ラシイデハナイカ!セニア王国ニハ誰一人トシテ城ニ討チ入ル者ハ居ナイノダト失望シテイタガ…骨ノアル騎士モイルノダナァ…!女騎士殿…君ヲ、是非トモ我ガ側近ニ迎エタイナ!!>>

 俺はその応酬の隙に、ロジィの巨躯の陰に潜む。

 コルトと一緒に「ステルスランタン」で身を隠す。


 今度は薊が、忌々しげに魔王を睨む。

「魔王!何で魔境を襲ったの!?」

<<ン?アア・・・アレカ>>

 魔王がそれに、そっけなく返す。

<<我ノ望ミハ…真ニ平等デ平和ナ世界ダ。シカシ魔物共ハソレヲ理解シテオラズ…コノセニア王国トノ決戦ヲ望ンデイタヨウダカラナ。故ニ彼奴等ヲ鎮メル為、少シバカリ身ノ程ヲ理解サセテヤッタマデヨ>>

「…許さない…!!」

 薊の瞳が、憤怒に燃える。


 一気に始まる。

 ロジィを先頭に、薊とレイナが攻めかかる。

 俺はコルトと共に、玉座の間を壁沿いに移動する。






 龍が翔ける。

「ガァァァァ!!」

 ロジィは脇目も振らず、玉座に突っ込んだ。

 玉座が無残にも砕け散る。

 魔王は…。


<<フム、君ハ魔物カイ…?シカシソノ姿…成程、『龍』カ>>


 魔王は浮遊し、ロジィの突進を回避している。

「そこかぁ!!」

 レイナが空中の魔王目掛けて、紅蓮杖から爆炎を放つ。

 魔王はまたも回避。爆炎が、玉座の間の天井を焼く。

<<コノ絢爛ナ王城ヲ焦ガスノハ頂ケナイナ、女騎士殿>>

 空中をフラフラと浮遊する魔王に、薊が飛行して急接近。

「食らえ!!」

 空圧棍を振りかざして、魔王に振り下ろす。

<<ホウ…?>>

 魔王はさらに回避する。

 それを薊が追う。

 魔王はさらに逃げる。

 追う薊。

 複雑怪奇な軌道を描く両名が、空中で鬼ごっこを演じる。

<<オ嬢サン…淑女ハオ行儀良クスルベキダヨ?>>

「…!」

 魔王の挑発に、薊が急停止する。

 魔王も止まる。



「グガァ!!」



 直後、ロジィが魔王の真下から体当たりを食らわせた。






 俺はコルトと一緒に、下でそれを眺める。

 「零式」は構えたままだ。

『…何…!?』

『あれは…!?』

 今確かに、ロジィが魔王を捉えて体当たりを決めた。

 勢いそのままに、ロジィは天井にぶつかった。

 だが…。


<<…君達デハ、我ハ倒センヨ>>


 魔王が、そのまま空中に居る…!

 まるでロジィが、魔王をすり抜けた様だ…。

 俺はそこで、俺の“仮説”を半ば確信する。

(やっぱりこの“魔王”は、本体じゃない…!)

 そして俺は「レーダー円板」を起動する。




 当の“魔王”は呆れたように俺達を見回している。

<<フム…モウ飽キタヨ。君達デハ、我ヲ満足サセテクレナイヨウダ…。モシマダヤル気ナラ…「勇者廟」マデ来ルトイイ。来レルモノナラナ!!>>

 そして高速で飛行し、玉座の間を去っていく。

「ちょっと!逃げるの!!??」

 薊が憤るが、魔王は振り返りもしなかった。











 俺達は魔王を追い、セニア王城地下の「勇者廟」を目指す。


 ロジィは低速で飛行する。

 俺は「看破の面」を装着し、道中を警戒する。

『おいロジィ…直進路には魔法の罠があるぜ』

 魔王は「勇者廟」への道中に、魔法の罠を仕掛けていた。

 俺達はそれを警戒しながら進んでいるのだ。

『え!?レイナねーちゃん、迂回路無いの!?』

『あるにはあるが…』

『…いい、私が壊す』

 薊が解呪の魔法を駆使し、道中の魔法罠を破壊する。

 これにはレイナが驚く。

『…凄いな、アザミ君…』

『感心してる場合じゃないですよ?』

 コルトが後方確認しながら、剣を構える。


 城の死体兵士達が、俺達を追って来ているのだ。

 多くが弓を携えている。これは危険だ…。


「レイ・デルワック!」

 コルトが魔法のバリアを張る。

 バリアが、矢を弾く。

『良いぞコルト!!』

『ロジィちゃん!とっとと魔王に追いつきましょう!』

『分かったぞコルトねーちゃん!!』

 俺達はひたすら、複雑なセニア王城を下に進む。

 最下層の「勇者廟」に行かなくては…!






 俺はあの魔王を直に見て、ある確信を持っていた。

『…あの“魔王”、ただの端末だな。実体が無いんだと思う』

『実体が…無い…!?』

『そうだ…多分な。あいつ俺の「レーダー円板」に映らないんだ』

 逃げてばかりで、反撃すらしなかったさっきの“魔王”。

 恐らくあれは…セニア人との会話用の端末に過ぎないのだ。あれが攻撃能力も、実体すら持たない、魔力で出来た幻影だとすると…。


 つまり、本体は別に居る。


『俺の予想では…』

 俺は少し考える。

『魔王は怪獣を立て続けに召喚したせいで…やっぱり弱ってるんだ!だから本体は隠れてて…俺達の急襲に慌てたんだろ。だから、ちょっとでも魔力を持つ端末も本体に取り込む気なんだと思うぜ。あの端末…術具の攻撃は避けたから、魔法は効きそうだ』

 レイナが訝しむ。

『…だが、魔王が王都西門に現れた時は、紅蓮杖が効かなかったらしいぞ?』

『それは…あの時の魔王が万全だったから、端末の強度もそれなりだったんだろ。今はそうじゃないから、ああやって逃げ回ったんだ。そして魔王本体は、きっと勇者廟に居る』

『…いずれにせよ、我々は奴を追うしかないがな』

 レイナは納得する。

 しかし今は、そんなことはどうでもいい。

 魔王の本体を、「勇者廟」で討つまでだ!











 勇者廟は、厳かな場所だった。

 まず、玉座の間と同等の広さがある。しかしここは薄暗く、同じセニア王城内とは思えない。入口の正面方向、一番奥に…大きな祭壇が設けられている。あとは灯りの掛かった太い柱が居並ぶばかりで、他には何も無い。

 …いや、祭壇の奥に…大扉がある。

 あれは何だろう?




 その「勇者廟」で、魔王が床に何かを描いている。

<<ホホウ…ココマデ早ク来レタトハネ、意外ダヨ。道中罠ヲ仕掛ケテ置イタノダガ、楽シンデ頂ケタカナ?>>

「あんなの障害にもならないよ」

 薊が強気に吐き捨てる。

<<フフフ…ソレハ素晴ラシイナ>>

 魔王は、嬉しそうに笑う。


 そして、床に描いた魔法陣を起動する。


「…あれは…何の魔法だ!?」

「分からない!!」

 魔法陣が、光を放つ!

(くそう…!“魔王”、何をする気だ!?)

 俺は「ステルスランタン」を手に、コルトと物陰に隠れる。

 あの魔法は、何なんだ…!?

『…転移魔法?』

 ロジィが何か呟く。






 突然、魔法陣の光が落ち着く。

 “魔王”の姿が…無い!?

 代わりに、誰かが居る…!



「レイナ…実に素晴らしいですよ…!私は感激しています…!」



 知った奴だった。

 肩までの銀の髪、優雅な法衣、柔和な笑顔…。


 元セニア大神官…ザフマン・レイン…!


「勇敢なる騎士レイナ…!貴女こそ、セニア随一の騎士です!魔王が支配するこのセニア王城に、寡兵で討ち入るその勇気!並大抵ではありません!」

 レイナが、驚愕する。

「ざ…ザフマン様…!?それに魔王はどこに!?」

 彼に駆け寄ろうとするレイナを、俺は慌てて制止する。

「待てレイナ!駄目だ!」

「な…!?」

 ザフマンが、俺を見る。

「おや、貴方は何時かの異世界人様…!またこうしてお会いできるとは思いませんでしたよ、サミダレ・シュウゴロウ様…」

 嫌な再会だった…。

「俺は会いたくなかったけどな」

 俺の仮説…どうやら当たっていたらしい…。

 やはり魔王は、真に復活していなかったのだ。






 消えた“魔王”。

 そしてここに、こうして、ザフマンが居る。

 それが意味するのは…恐らく…。


 ザフマン・レインこそが、“魔王異変”の首謀者なのだ。

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