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その30 揺れる魔境

寒くなってきたから火事に気を付けないとね

 俺は今、セニア王都の上空に居る。




「やっぱ誰も居ないよ、シュウさん…」

「王都の人達は、マジで全員逃げたみたいだな…」

 今は夜。

 今日の夕刻、俺と薊は“魔王”の声明を聞くために王都西門付近に来ていた。そして魔王が姿を消した後、そのまま近辺の宿に入ったのだ。魔王のお陰で近辺に宿泊客等は皆無だったため、入れる宿はあっさり見つけることが出来た。そのまま俺達は夜を待ち、深夜こうやって王都の偵察に入ったのだった。


 俺の装備は「闇を産むランタン」と「看破の面」、それに「膜を張る腕輪」と「レーダー円板」だ。重装備の俺に薊がしがみ付き、「空飛ぶ手甲」で飛行している。

「この黒い靄…何なんだろうね…?」

「さあな。でも健康に悪そうだし、“膜”は張って正解だろ」

 王都の中からその上空までに、黒い靄が漂っている。魔境から見た時は非常に濃いと思ったが、いざ近づいてみるとそうでも無かった。確かに視界が悪いものの、体感的には「黒くて薄い霧」程度だ。

 薊は飛行しながら、徐々に王城へと近づいていく。

「…シュウさん、変な魔法とか、見える?」

「いいや、大丈夫そうだが…」

 俺は念のために「看破の面」を装着している。見た目はキモいこの面だが、魔法の類を視認できるようになる優れ物だ。

 今の所、魔王の掛けたであろう魔法は、王都の城門でしか見かけていない。

 ロベルの前情報通り、王都の東南北にある城門に魔法が掛けられていた。俺達は、閉まっていたそれをそのままにしてきた。危険だし、開くかどうかは試さない事にしたのだ。


 俺の「レーダー円板」は、全く反応無し。

 俺と薊で、無人の王都を飛んでいく。











 王城からまだ距離があるというのに、薊が嫌な顔をする。

「…ちょっと降りるよ」

 薊が高度を徐々に下げる。

 そのまま、2人で何かの建物の屋上に降り立つ。

「ええっ?まだ行けるだろ」

「いや、これ以上近づくのは止そうよ」

 降り立った建物の王城、薊が王城を睨む。


「城に誰か居る」


「へっ!?」

 薊の言葉につられて、俺も王城に目を凝らすが…。

「…遠くて見えねぇよ」

「シュウさん目が悪いんだね」

「薊が良すぎるんだろ…」

 遠くて良く見えない。それに黒い靄も相俟って、俺には城のシルエットが辛うじて見えるだけだ。誰かが居るとか、そもそもそれ以前の問題で、


 何か動いた。


 薊の言葉通りだった。

「…確かに、何か居るな…」

 俺にも見えた。

 王城の正門付近で、何かが動いている。

「シュウさんも見えた?あれ…」

「いや、あれが何かは分からん。大きさ的には…人間位だな…」

「あたしには良く見えてるよ」

 薊は王城を睨み続けている。


「城の兵士が警備をしてる」


 いや、それは有り得ない…!何故なら…。

「ちょっと待てよ薊…!この距離なら、王城はもう俺の「レーダー円板」の範囲内だぞ?そして見ての通り「レーダー円板」は無反応だ。王城に誰か居る筈ないって!」

 俺は首に下げた「レーダー円板」を起動し、薊に見せる。

 以前より感知範囲が広がったこの遺物には、何の反応も無いのだ。

 薊が少し考え、

「ねえシュウさん、これってその…死体…にも反応するの?」

「ええっ!?そ、それは試してみないとわかんねぇが…多分反応しない…と思うぞ?」

「そっか」

 薊の眼が、光る。

 何かを確信したようだ。

「今までの情報だと…セニア王城の人は、魔王の呪いで全滅した筈だよね。きっと魔王が、その遺体を操って手駒にしてるんだと思う」

「し…死体を…?」

「そう」

「…有り得そうだけどさ…」

 じゃあ何だ、セニア王城の中はゾンビだらけって事かよ…。




 薊はセニア王城を見据えながら、隣に立つ俺に語り掛ける。

「…シュウさん、あたし…魔王をなんとかしたい」

「…本気か?」

「当然。このままじゃ…きっと魔境に良く無い事が起きる」

 薊が顔をこちらに向ける。

 そして、少し困ったように、

「でも…皆を巻きこめないよ。きっとすごく危険だし…」

「…そうか、そうだろうな」

 薊が気にしているのは…ミレニィ、コルト、ロジィの事だろう。確かに…この異変に首を突っ込んだとしたら、タダでは済まないだろう。

 だが、

「でもよ、皆はどう思ってるかな?」

「…ミレニィ達が…?」

「そうさ。ミレニィ達だって、同じ思いかもしれないぞ?いずれにせよ、今後の動向は皆で話し合って決めればいい…今までみたいにな」


「シュウさんは、いいの?」


 薊の黒い瞳が、俺の瞳の奥を刺す。

「きっと危ないし、痛いことだってあるかもしれない…。それに…もし魔王が流星を呼んだりしたら…死んじゃうかもしれない…」

「薊」

 薊は俺を心配しているのだろうが、薊だって逃げる気はないだろう?

 俺達の想いは、同じだと信じている。

「一昨日アグルセリアから帰るとき、俺が「解放派」に言った言葉は嘘じゃないぜ?俺は魔境に恩があるから、今こそ恩返しの時だと思ってる。それはきっと、薊と同じだと思うんだ」

「…うん、そうだね」

「まあ、俺はそれだけじゃないがな」

「え?」

 俺は薊の肩に手を置く。


「俺がこの世界に来たとき、薊が俺を救ってくれたよな?だから俺は、薊にも恩返しをするぜ。薊の夢を…魔境をセニアから解放して、叶えたい」


 …恥ずかしくなって、俺はそっぽを向く。

 こんなセリフは、こんな非常時でもないと出てこない…。

「…ま、まあ…できればだけどな?いや…この異変を俺達が解決したら…魔境解放の足掛かりに利用できるかなー…なんでさ…?」

「…うん、ありがとう」

 薊は俯く。

 今彼女は、どんな表情なんだろう?
















 夜。

 ミレニィはロジィと一緒に、店の地下室に籠っている。

 毛布を被り、魔法の灯を焚き、暗い部屋の隅に縮こまっている。

「…にーちゃん達、大丈夫かな…?」

「…」

「…コルトねーちゃん、早く来るといいな」

「…」

「…あ、あのさ…何か静かだね…夜だから当たり前だけど…」

「…」

「ちょっと!ミレニィねーちゃん!何か喋ってくれよ!」

「…そうね」

 ミレニィはだいぶ参っていた。

 この非常時にロジィも不安を抱えているのは、ミレニィも分かってはいる。しかし彼女自身の余裕が無くなってしまって、こうして店の地下室に隠れているのだ。

「へへへ、御免ねロジィちゃん…私、どうしていいか…」


 魔王の復活は、ミレニィにとって凶事でしかなかった。


 …本当なら今日、ミレニィもデリ・ハウラで情報収集を進めている予定だった。そして遅くとも明日には帰ってくる繍五郎達と情報をすり合わせ、今後の動きを決める筈だった。

 しかし、ことは予想以上に厳しかった。




 デリ・ハウラの魔物の多くが、ミレニィを人間の仲間として見たのだ。

 ロジィを連れての情報収集は、散々だった。ミレニィが見知った商人も、店の近所の連中も、悉くミレニィを避けたのだ。無理矢理押しかけても相手にされず、ミレニィは途方に暮れる羽目になった。

 おまけに、町中で石を投げつけられた。

 察知したロジィが石を防いでくれたものの、人が多い場所だったため犯人がどこのどいつなのかは結局分からずじまい。近辺に居た自警団員を頼ってみたが、そいつにも軽くあしらわれる始末。

 確かにミレニィは半分人間だが、ずっと魔物として暮らしていた。

 しかし半端者のミレニィの味方は、思った以上に少なかったのだ。




 そういう経緯で、夜中に襲われる可能性を考え、ミレニィは店の地下室に逃げ込んだのだ。この地下室の入口は分かりづらいため、誰かに店に侵入されても大丈夫…の筈だ。

「…結局私には、本当の意味での“味方”はほぼ居なかったって事なのね…。どいつもこいつも…私を白い眼で見てた…」

「ま、魔王のせいだって!元気出せよねーちゃん…」

「…ありがとね、ロジィちゃん」

 年下の子供に励まされて、全く情けないものだとミレニィは思う。

 これがアグルセリアなら、まだ良かった。あの町は過激派が居るから危険は付き物だと割り切っていたし、ミレニィも最初から期待していなかった。

 …しかし。

「でも、この町でこんなことになるなんて、私は思わなかった…!」

「ミレニィねーちゃん…」

 このデリ・ハウラは、魔物と人間の交流が長く続いて来た町なのだ。

 魔物と人間とが、分かり合える町だと信じていた。

 魔王が復活した程度で、ここまで揺れるなんて…信じたくなかった。


 突然、店の方から何かが割れる音がした。











 コルトは自警団の仲間と、夜のデリ・ハウラを警邏していた。

「は、放せクソ女!!」

「放しませんよ」

「おいコルト…加減はしろよ…?」

 そして先程、ミレニィの店の前を通りかかったとき。ガラの悪い獣人の青年達が、ミレニィの店に何かを投げ込むのを目撃したのだ。店の窓を割ったそれには火が付いており、放火の立派な現行犯だった。

「いでででで!だから放せって言ってんだろ!!」

「嫌ですよ、放したら貴方暴れるでしょう」

 …という事で、コルトはその青年達に襲い掛かった。

 2人をさっさと昏倒させ、残る1人を引き摺り倒し、うつ伏せになった所に馬乗りしていた。両肩に体重を掛けてのしかかっているので、青年が若干痛がっている。

 コルトの上司である小隊長が、彼女を窘める。

「任務に私情を持ち込むなよ、コルト」

「…わかってますよ」

 青年を押さえていたコルトが、ちょっと力を抜く。それを見た小隊長と隊員達が、ホッと息を付く。

 コルトはいつも以上に殺気立っている。


 そのまま小隊長は、コルトが取り押さえた青年に目を向ける。

 黒焦げの“玉”を彼に見せつける。

「…さて青年、君達が今投げたこれは…黒油玉だな。投げ込むところを我々が目撃したから小火で済んだが、一歩間違えれば全焼だったぞ?」

「うるせぇ!知るか!!」

「放火の現行犯で確保させてもらう」

 青年達が投げ込んだのは、丸めた蔦に油を染み込ませた物だった。

 “黒油玉”と呼ばれるそれは、油分の多い蔦が大量の煙を吐き出すので煙幕にもなるのだが、結構な火力で長時間燃え続ける。放っておけば一大事になっていただろう。

 今も店の入口に、ロジィが仁王立ちで立っている。

 鬼の形相だ。

 しかしミレニィは居ない。




 取り押さえた青年が、抵抗しながら逆上する。

「現行犯だァ!?ざけんじゃねぇ!!!」

 大声で叫ぶ。

 さらに、勝ち誇ったように言い放つ。

「テメェら自警団は、セニアの騎士団の下っ端だろーが!そのセニアはもう魔王様が支配したんだぞ!?つまりなぁ、俺達がセニアの法で裁かれるなんてことはねぇんだよバーカ!!それに俺達は、この町に居着いた人間を追い出そうとしただけだぜ!!」


「粋がってんじゃねぇよ屑が」


 コルトが青年の背中に、両手の爪を突き刺す。

「ギャッ!!!」

 青年の服に血が滲む。

「コルトやめろ!!」

 見かねた小隊長が、コルトを青年から引き剥がす。

 小隊長1人では止められなかったので、もう1人の隊員が加勢する。

 残りの隊員達が、コルトに代わって青年を押さえる。

「隊長、放してくださいよ」

 コルトはすっとぼけた口調だが、眼が殺る気に溢れている。

「馬鹿者!頭を冷やせ!!」

「冷え冷えですよ。それにソイツが言うには、私がソイツ殺しちゃっても問題無いみたいですし。セニアの法は無効なんですよねー!?」

 背中に傷を負った青年が呻く。

「痛ェな畜生…なんて奴だ…!」

 そんな青年に向かって、コルトは良い笑顔で叫ぶ。

「お兄さん良かったですねー私が良い魔物で!私が悪い魔物だったら貴方もう死んでますよ!?」

「コルト黙れ!お前ら、その青年達を連行しろ!治療も忘れるなよ!」

「りょ、了解!」

 コルトと小隊長を残し、他の者達は去っていった。











 ミレニィの店の前。

 コルトは地面に転がった。

 小隊長に、拳で思いっきり殴られた。

「私情で逆上して、無意味に暴行するとは何事だ!!」

「…」

「怪我までさせるなど言語道断!恥を知れ!」

「…すみませんでした」

 ゆっくりと立ち上がる。

 視界の端に、店の入り口に居るロジィが映る。

 怯えた顔で、こちらを見ている。

 …やってしまった。

 今のでようやく、頭が冷えた。


「彼等があの店…私の友人の店に火種を投げ込んだのを見て、頭に血が上ってしまいました。完全に私の私怨でした…」

 小隊長が、厳しい目をコルトに向ける。

 コルトは思わず目を伏せる。

 暫しの沈黙。

 小隊長が、再び口を開く、

「…お前はしばらく、自警団を離れていろ。こんな調子で騒動を起こされては、他の隊員に迷惑だ。わかったな?」

「…了解しました」

 そこで小隊長が、柔らかい物言いになる。

「…あの半人商人の味方は、そう多くないのだろう。ああいう輩も少なくないだろうし、自警団の中でも過激な意見が出ているんだ。仲良しのお前が、あの商人を護衛してやれ」

「…え?」

 コルトが顔を上げる。

 小隊長は、厳しくも優しい表情になっていた。

「いいか、無駄な騒動は起こすなよ?そしてこの魔王の異変が終わった時、必ず自警団に戻って来い。自警団で彼女の護衛をしてもいいのだが、いかんせん彼女を良く思わん隊員も多い」

「…お心遣い、ありがとうございます」

 小隊長に気を使わせてしまった…。

 自警団の仲間にも迷惑をかけるだろう…。

 しかし、これでミレニィの事を、傍で守ることが出来る。


 彼女は私が守るんだ。これは確かな、私の役目だ。











 俺と薊が王都の空を飛んだ翌日。

 俺達は日の出と共に、魔境に向かって帰路についた。

 …道中のセニア市街では、民衆が予想以上に混乱していた。

 何しろ、セニア国民の多くが存在そのものを疑っていた“魔王”が顕現した上に、そいつは何故か友好的だったのだ。町の人達は口々に、不安と困惑を吐露していた。


 奴はただひたすら、理想の世界を語った。

 勇者への恨みも、現セニア王を討って晴らしたと言った。

 そして攻撃を仕掛けた騎士団に、反撃もせず褒めちぎったのだ。


 俺達はデリ・ハウラへと急ぐ。

 浮動車を走らせる薊が、ぽつりと呟く。

「セニアの人達、魔王も悪くないって思ったりするかな?」

「…さあな。でも魔王って、怖いけど味方なら心強いかもな」

 俺はセニア東区の町中で貰った、新聞の号外を見ている。

 記事は昨日の“魔王の声明”に関するものだ。記者っていうのはこういう非常事態でも仕事熱心なようで、結構ありがたい情報源になりそうだった。

「『セニアが魔王に服従するのであれば、10日以内に使者を寄越すようにとの要求があった。しかし王政が機能しない現状、使者に相応しい人物は限られている』…だってさ」

「確かにそうだね。偉い人は殆ど死んじゃったし…」

 俺は記事を読み進める。

「ふむふむ…『現状、魔王との交渉を行う使者に足る人物は…セニア王家の人間、国境騎士団元帥が有力とされる』…か。王家の人間って全滅したわけじゃ無いんだな」

「セニア王城に住んでる王族は、現王様と王妃様…あとは王位継承者だけ…だったと思う。その他の王族は、確かセニアの南方にある王家の私有地に住んでるって聞いたことがあるような…」

 薊がいろいろ知っていて助かる。

 彼女も魔王と勇者については良く調べていたようで、勇者と関わりのある王族や大神殿についての知識は結構な物だ。


 ふと…俺はそこで、ある嫌な考えが浮かんだ。


「…なあ薊…仮にセニアの王族が使者になって魔王と交渉することになったとしたら…魔王はどう思うかな?」

 薊が眉を顰め、少し考える。

「えっ?うーん…そうだね…。勇者の家系だし、思わず殺っちゃうとか?」

「そこまでするかな…」

「するでしょ」

「…ま、まあ魔王が良い顔をしないのは確かだな」

「だろうね」

 そうだ。

 勇者を怨む魔王に対し、セニアは流石に王族を出せないと思う。危険過ぎるし、交渉があらぬ方向へ滑る可能性もある。

「つまり、王族は使者にならないと思う。ついでに言うと…国境騎士団元帥の可能性も薄い。遠すぎるらしいからな」

「…じゃあシュウさんは、誰がセニアの使者になると思う?」



 ある男の、柔和な笑みが頭に浮かぶ。

 この状況すら、あいつの計画だと感じてくる。

 まさか、全て奴の思惑通りなのか…?



「…ザフマン・レインが有り得ると思う」

「え…?」

 罷免されてもなお、王都の民に信頼されていたというあの男。

 それに、偽物かもしれない魔王。

 あいつの“悲願”。

 …俺の、考え過ぎだろうか…?











 俺達はやっとミレニィの店の前まで帰って来た。

 もう日が沈んでかなり経った。

 日没前には到着するはずだったのに…。

『…なんか雰囲気がおかしいな』

『…そう、だね』

 町の魔物達が、俺達に冷たい眼差しを向けてくる。

 魔王復活で、人間と魔物は完全に割れるかもしれないな…。




 俺達がここまでたどり着く間、障害がいくつもあった。

 まず最初。

 セニアから魔境に向かう街道に、騎士団の検問ができていたのだ。普段は見張りが居るだけで特に困る事は無い街道のだが…今回は別だった。この世界で外国人として通している俺達は、危険だという理由で魔境行を阻まれたのだ。

 魔境在住という旨を必死に説明し、なんとか通してもらったが。


 2つ目。

 やはりというか何というか…街道のデリ・ハウラ側にも検問ができていた。こっちは自警団の魔物達が詰めており、人間は危険だから入るなと言われたのだ。しかしセニアと魔境の間は、この街道以外全て森林だ。ここを通らねば魔境へ行けない。森を突っ切ってもいいが、その場合浮動車は置き去りになる。

 自警団に知り合いが居るという事を話し、やっと通行許可が出た。


 3つ目。

 町中にガラの悪い魔物達が居たのだ。

 数は少ないが、大きい通りに屯していた。見たところ武器も持っていたので、そういう通りには近寄らないようにした。向こうもそこまで好戦的では無かったのが救いで、俺達は裏道を廻って廻って、やっとミレニィの店に到着したのだ。




 そして今に至る。

『ミレニィ…ただいま』

『アーちゃんお帰り!2人とも無事!?遅かったじゃない何かあったの!?心配したんだからっ!!』

 店の奥からミレニィが駆け出して来て、薊に抱きよる。ちょっと涙目で、よほど心配を掛けてしまったようだ。

 薊が優しく抱き返す。

『あたし達は大丈夫だよ。ミレニィも無事でよかった…』

 俺達が居ない間、こっちでもいろいろあったようだ…。


 俺はまず、店の異常が気になった。

『…なあミレニィ…なんで店の窓が割れてんだ?それになんか床が焦げてるし…店中煙臭いぞ?』

 店の窓が割れているし、床に何かの焦げ跡がある。

 これは恐らく…。

『あ…アザミにゴローさん、お帰りなさい』

 俺の質問を遮って、店の奥からコルトが顔を出す。

 …なんか頬が腫れている…?

『え…コルト大丈夫?なんか腫れてるよ?』

『お気になさらず』

 俺と同じ疑問を抱いた薊がコルトに尋ねるが、軽く流された。

 そして焦げ跡に視線を落とし、これまた軽い口調で言った。


『放火ですよ放火。火種を店に投げ込んだ輩が居たんです。犯人は自警団が確保しましたが…今この町は、若干の無法地帯です。“次”が有る可能性も高いです』

『そ、そんな…!』

 薊の顔が、悲しく歪む。

『ミレニィは魔物の仲間じゃん!なんで魔物に襲われるの!?』

『アーちゃん落ち着いて…』

『だってさぁ!生まれが外国だけど、ミレニィは何年も魔境に住んでるでしょ!?その仲間にこんなことする!?信じられないよ!!』

『アザミそこまでです。ロジィちゃんが起きちゃいます』

 コルトが制止して、やっと薊は落ち着いた。




 コルトも深い溜息を吐き、寂しそうに言う。

『ちょっと今、魔境はこんな雰囲気です。たぶんゴローさん達も、町中で変な目で見られたと思いますけど。皆魔王に期待を寄せ過ぎてまして…』

『…それはわかるよ?コルト。でもさ…』

 ヒートアップする薊を、俺が遮って止める。

『ああ…これは言っとかないとな…』

『…どうしたのサミーさん?』

 ミレニィが食いつく。

 今回の偵察の中で、これだけは先に伝えねば…。


『昨日の夕方…セニア西区に魔王が現れた。そんでセニア国民に向けて服従を要求したんだ…。何故か平和的な態度でな』


『魔王…!?それホント!!!??』

 ミレニィの顔色が変わる。

 どうやらまだ、魔境にこの話は届いていないようだ。

『あたし達も姿を見たよ。騎士が紅蓮杖で魔王を砲撃してたけど、魔王は無傷だった。あれを倒すのは難しそう…』

『紅蓮杖…セニア最強の術具武器が効かないのね…』

『あとな…魔王は魔境について、一言も話さなかったぜ』

『ええっ!?それは…何故でしょうかね?』

『さあな…さっぱりわからん』

『…先行きが読めないわ…』


 揺れる魔境。

 機能不全のセニア。

 そして魔王の、予想外の出方。




 俺達は、どうするべきなんだろうか…?

2021/12/30 誤記訂正などなど

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