その19 凡人の俺と異世界の祭
異世界の台風っていろいろとヤバそう
俺は今、薊と2人でセニアの市場に来ている。
アグルセリアのゲルテに向けて手紙を出してもう10日以上が経つ。
もうじき開催されるというセニアの建国祭「聖星祭」。やはりというか何というか…今日のセニアの市場には、聖星祭に関係があると思われる品物が多く出回っている。
その中でも、とある1種類の花が、やけに多く見受けられる。
7枚ある花弁の色は、紫から橙へのグラデーションで、独特の色味をしている。花自体が掌サイズとなかなかの大きさで、不思議なことに、それらの殆どが植木鉢の状態で取引されている。
「何だあの花、随分と派手な色合いだが…」
「…ああ、あれね。たぶんニルックスっていうお花だよ」
試しに聞いてみたが、薊はその花の名前を知っていた。という事は、恐らくセニアでは割とポピュラーな花なのだろう。
「薊、あの花を知ってるのか?」
「知らない」
「えぇ…」
そうでも無かったようだ…。
「…じゃあなんで、薊はあれの名前だけ知ってるんだ?」
今この市場全体に、不思議な芳香が満ちている。恐らくこの花の香りなのだろうが、俺には馴染みがないため、若干きつい。
そんな俺の事を見て、薊は得意気に笑う。
「数日前のセニアの新聞にね、今年の聖星祭のシンボルが、大神殿から発表されたって書いてあったんだ。“ニルックスの花”が今年の祭印なんだって」
「…成程な。聖星祭直前にこれだけ大々的に出回っているとなりゃあ、この花がその“祭印”なんだろーな」
聖星祭が着実に近づいてきているのを、俺は肌で感じた。
何だか、無駄に緊張してきたな…。
ミレニィは自分の店で、装飾品加工をしていた。
「…」
「…ロジィちゃん、ちょっと近いわ…」
「お??あ、ああ…ゴメンナサイ…」
それをロジィが間近で見ていた。
…のだが、流石に作業し辛いため、ミレニィは彼女に少し離れてもらった。
「御免ねロジィちゃん…今集中してるの…後でね…」
「はーい」
ミレニィは以前アグルセリアで買った魔石の屑石を、全て球状に加工し終えていた。そしてミレニィが鋳物屋に発注していた首飾りの原型に、その魔石を嵌め込めば「商品」の完成となる。
これは今年の聖星祭で扱う品物で、意匠は“ニルックスの花”だ。
「へえ、今年の祭印はニルックスですか。ヨーグ四世が愛したと言われる花ですね」
コルトが、ミレニィの用意した首飾りを見て呟く。
「…良く知ってるわね、コルちゃん」
聖星祭の“祭印”に選ばれるのは、大抵セニア王家に縁があるものだ。
「それを言うなら、ミーちゃんだってどこで知ったんですか?大神殿が祭印を発表するのは祭の15日前って決まってますけど、ミーちゃんがその首飾りの意匠を決めたのってもっと前ですよね?」
ミレニィは今年の祭印が決まる前から、既にこの「ニルックスの首飾り」を設計し、鋳物屋に依頼をしていたはずだった。
それを聞いたミレニィが、ニヤリと笑う。
「…祭印って実際は、聖星祭の1ヵ月以上前に内定しているらしいわ。それに商人や職人は、大神殿の公式発表を受けて商品を作るんじゃあ間に合わないから、そういう情報って必ず市場に漏れるのよ」
「成程」
ミレニィは喋りながらも手を止めない。
机に「映像を拡大する術具」を設置し、細かな作業を行っている。
首飾りの金具部分を机上に固定し、魔石を定位置に収める。あとは魔石が動かないように、周囲の金具部分を変形させて抑え込む。
なかなか地道な作業だった。
ミレニィの作業を食い入るように見ていたロジィだったが、ミレニィの邪魔をしないように彼女の傍を離れた。そして代わりに、長椅子に掛けていたコルトの横に座る。
「…ミレニィねーちゃんは凄いな…」
「ああいう装飾品加工って、ミーちゃんが小さいころからの趣味らしいですよ?」
親が劇作家というミレニィは、恐らく子供の頃からそういった演劇の小道具に触れてきたと思われる。きっとそこで興味を持ったのだろうが、自分の手でやろうという発想は実にミレニィらしいとコルトは思う。
「でもコルトねーちゃん、あの石小さいから作業が難しそうだな…」
ミレニィが使っている魔石は、本来なら規格外の屑石だ。故にほぼ全てが小粒で、非常に細やかな作業が必要となる。
そこで初めて、ミレニィが顔を上げる。
「屑石の中にもマシなのはあるわよ?ちなみに最近のセニアではね、大神殿が魔石を買い占めているせいなのか…市場でも魔石が品薄なのよね。だから…」
それで繍五郎と薊は、2人でセニアの市場に行っているのだ。
『ほぉ、いい魔石じゃないか』
『小粒ですけど、ちゃんと形を仕上げてあるものです』
『いやいや、こいつは有難い…。何だか知らんがね、最近大神殿が魔石を買い占めてやがってねぇ…』
『あれ、本当だったんだな…』
『ん?兄ちゃん、「あれ」って何だい?』
『いや、こっちの話だ』
俺と薊はセニアの市場で、術具を扱っている商人を発見し、ミレニィが加工した魔石を売り込みに掛かっていた。俺達は魔石の屑石の中でも比較的大粒のものを選んで、このセニア市場に持ち込んだのだ。
読み通り、最近セニアでの魔石価格は原石だろうが何だろうが高騰していた。原因は恐らく、大神殿が魔石を買い漁っているせいだろう…。
「…やったじゃんシュウさん。シュウさんの予想通りだね」
「ま、まあな…」
結果、俺達が持ち込んだ小振りの魔石にも、普段の相場より高い値が付いたのだった。…ちなみに珍しく、今回の件は俺が言い出してみた事だった。
昨日の夜。
『明日はアーちゃんとサミーさんで、セニアの市場に行ってもらおうかしら?』
例によって、ミレニィが急に言い出した。
薊もこれは予想外だったようで、
『…珍しいねミレニィ。この時期にセニアに何の用?』
…この言い方、どうやら去年はこうでは無かったらしい。
話が呑み込めていない俺の為に、コルトが補足してくれた。
『聖星祭の前って、ミーちゃん行商に出ないんですよね』
案の定、説明になっていない…。
『いや、だから何でだよ…』
『聖星祭に向けて、装飾品を作るためですよ』
雑多に商品が納められているミレニィの店の一角が、現在魔石加工の工房と化している。来たる聖星祭で売るアクセサリー用の魔石らしいが、俺はてっきり仕上げを専門の職人に任せるのだと思っていた。
『…ミレニィが、自分でやるのか?』
『ええ、そうよ!』
ミレニィは得意気だ。
『自慢じゃないけど私、元々そういうのが得意でね。外国の親元を離れて魔境に移住すると決めた時だって、本当はこういう職に就こうと思ってたのよねー。アグルセリアには鋳物とかの職人が多いから、私の望む仕事自体はあったんだけどね…』
『…それをアグルセリア長老に邪魔されたと』
俺がぼそっと言う。
幸い、ミレニィは気にも留めない。
『とにかく、私は聖星祭向けの装飾品組付けで忙しくなるから、この時期って行商に出られないのよ…去年まではね』
『…で、なんで今年は出るの?』
薊が首を傾げる。
『だって、サミーさんとロジィちゃんの2人が増えたんですもの。折角人手があるのなら、使わない手は無いわ!』
『マジか…まあそうだよなー…』
『そうね…この時期なら、セニアの市場には外国の商人が増えるから…。外国の商人を見つけて、珍味と書物…あと術具でも買って来て貰おうかしら?外国の術具って、魔境じゃなかなか手に入らないのよねー』
セニアの市場か…。
あれ、ちょっと待て?そういえば…。
『なあミレニィ…最近大神殿が魔石を買い占めてるなら、魔石が高くなってるんじゃね?』
確か…薊が大神殿で盗んだ書類に、そんなことが書いてあった。
『…』
真顔になるミレニィ。
あれ?要らん事を言ったかな…?
『良いわねそれ!!』
『ぅおっ!?』
ミレニィが目を輝かせる。
どうやら俺の意見は採用されたらしい…。
『じゃあ早速、屑石の中でマシなのを選別しましょう!!』
もう聞く耳を持たない。
ミレニィが、加工済みの魔石を漁り出す。
魔石の行商を終えた俺達は、今日の目的を達したので帰路に着いていた。
「今日はシュウさん大活躍だったね」
「…俺も、少しはミレニィの店に貢献したいからな…」
薊はご機嫌だ。
先程遅い昼飯をセニアの町の大衆食堂で食ったが、よっぽどうまかったのか?しかし薊と2人きりというのも、なんだか久しぶりだ。
「シュウさん、商人の才能があるかもね」
「いやいや、俺は褒めても伸びねぇぞ?」
今回の魔石の件だって、平常時ならミレニィがやっていたと思う。彼女は聖星祭に向けて忙しいようだったし、そこまで気が回らなかっただけだろう。
薊はふと、俺に尋ねる。
「ねえ…シュウさんは、他にやってみたい仕事とかあるの?」
「し、仕事ねぇ…」
そう言われてもなぁ…。
今だに俺達は、セニア大神殿に見張られている。
今日だって、市場で変な奴と目が合った。
俺には今、他の事を考える余裕は無いな…。
「ミレニィねーちゃん、外が凄い騒ぎだぞ…」
夕刻。
デリ・ハウラの大通りが賑わっている。
「…まさか大神官でも布教に来たのかしら?」
店の窓の外を楽しそうに眺めるロジィと並んで、ミレニィも外を見る。ちなみにコルトは先程、突然訪問してきた自警団の仲間に連れて行かれてしまった。何でも、自警団の飲み会があるとの事だ。
ミレニィは大通りの喧騒の中に、知った顔を見つける。
「あれ、たぶんヴェスダビ長老ね…」
よくよく見れば、大通りには見慣れぬ魔物の集団がいた。狩人のような装備に身を包んだ獣人の団体で、その中心に小柄な老人が見えた。
一瞬しか見えなかったが、間違い無いだろう。
「誰だそれ?」
「えーとね、よその町の、偉い魔物ね」
「偉い魔物?なんでこの町に来たんだ?」
「今度セニアでお祭りがあるんだけどね、それには魔物も参加できるの。だから魔物の町の偉い長老さんが、お祭りまでこの町に滞在するのよ」
「へー」
恐らく数日以内には、アグルセリアの一団もこの町に来るだろう。
…タジェルゥと顔を合わせたくないミレニィは、毎年コルトに頼んで彼の宿泊場所を調べてもらっている。そうしておけば、ミレニィが気を付けることで彼と鉢合わせずに済むからだ。
『ただいま』
『…この騒ぎは、一体何なんだ…』
俺達はやっとの思いでミレニィの店に帰って来た。
『あら2人とも、お帰りなさい』
『にーちゃんねーちゃん、お帰り!』
夕刻のデリ・ハウラは、今朝と違ってすごい混みようだった。
特に凄かったのが、店の前の大通りだった。浮動車が進めないくらいの混雑だったので、仕方無く裏道を廻って廻って、ようやくこの店に辿り着いたのだ。
『2人とも運が悪かったわね。どうもサウラナの一団が今日来たみたいなの』
『長老ご一行が来たんだね』
薊は納得と言った表情だ。
成程、それでこの混雑か…。
『きっと数日以内にはアグルセリアからの一行も来るから、しばらくデリ・ハウラは賑やかになるわね』
『これ以上か…』
聖星祭直前には、祭りに参加する魔境の長老達がデリ・ハウラに来るという。この話はコルトから聞いていたので知っていたが、まさかここまで大量の従者が付いてくるのだとは思わなかった。
そこで俺はちょっと気になることが。
『…なあミレニィ、魔境の長老って何人居るんだ?』
『え?アグルセリアとサウラナに1人ずつで、2人しか居ないわよ?』
そこだ。俺は前から気になっていた。
『このデリ・ハウラって、長老が居ないのか?』
『…それを話すと長くなるんだけどね』
『あたしも理由は知らないや。聞かせてよ』
薊も乗って来た。
ミレニィはちょっと考え、すぐに笑顔になる。
『そうね…まあいいわ。早い夕飯にして、ゆっくり話しましょ』
『あのね、デリ・ハウラって…セニア王政に正式に認められた町じゃないの』
『え、そーなのか?』
俺達は日没を待たずに、夕飯を食っていた。
コルトは何やら外出中という事で、今日は炊事係が居ない。という事で、ミレニィと薊が近くの商店で惣菜を買い込んできたのだ。
『勇者の作った掟でね…魔境に町を作るのには、大神殿とセニア国王の許可が必要なの。そもそもセニア建国当時、魔境にはアグルセリアしか町が無かったしね』
『…アグルセリアだけか』
『狭い所に魔物を押し込んだんだ…』
薊はパンを齧りながら渋い顔だ。
ミレニィは、どうも酒を飲んでいるようだ。彼女の歳もセニアの法も知らないが、きっと合法なのだろう…。
『獣人系の魔物には、暑いアグルセリアの環境はやっぱり厳しかったみたい。セニア建国の20年後くらいには“別の場所に町を作りたい”って、当時のアグルセリア長老がヨーグ二世に直訴したって記録があるわ』
『え?建国20年の時点で、ヨーグ一世はもう死んでたのか…?』
勇者ヨーグは、彼の像や肖像画を見る限り、30代くらいに見えたが…?
ロジィも、ちょっとショックを受けている…。
『とにかくね、この直訴は奇跡的に通ったの。それでセニア側が指定した場所、それが“サウラナの森”の入り口ってわけ。サウラナの森には豊富な薬草類があるって知られてたけど、あの森の出す花粉等が人間に有害だから…セニアは魔物を使って、資源を手に入れようと考えたって訳ね』
薊が、貝の煮付けを頬張りながら訝しむ。
『…サウラナって、アグルセリアから結構遠いよね?サウラナとアグルセリアの間は険しくて、直通の街道は通せないって聞いたよ?』
『そう、遠かったのよ。当時のその行程では、少なくとも2泊は野営する必要があったの。それで多くの魔物が野営地として使ったのがこの場所、デリ・ハウラね。魔物の言葉で「荒野の泉」って意味だけど、デリ・ハウラの中央広場には今でもその泉が残っているわ』
『それは前に、誰かに聞いたな』
随分前過ぎて、誰に聞いたかも思い出せないが。
構わずミレニィは続ける。
『そのままなし崩し的にこの町が出来ていったんだけど、途中でセニアから騎士が来たのよね。“勝手に町を作るとは何事だ!”ってね』
『それは、そうだね』
『でもねでもね、その頃のデリ・ハウラには人間の商人も多く出入りし始めていたの。セニアとしても物流の拠点に便利そうだったから、最終的には王国騎士団の下部組織である「自警団」を設立して、一応セニアの管理下っていう形だけ整えたのよ』
『正式な町じゃないから、長老は居ないのか…?』
それはそれでどうなんだろう?まあ今現在でも上手く回っているということは、別に問題無いという事なのだろうが…。
『とにかくっ!!』
ミレニィは、いつの間にか出来上がっていた。
赤い顔で上機嫌に酒瓶を振り回す…。
『タジェルゥみたいな煩い爺も居ないこの町は…自由で!気楽で!そりゃあいい所よ!!!』
『ちょ、ミレニィ暴れないでよ…』
「なんで急に私を誘ったんですか…」
「そりゃあお前、自警団には華が無いからに決まってんだろーが!」
「ああ、やっぱりそういう理由ですか…」
コルトは夕刻、自警団の飲み会に誘われて、自警団本部に来ていた。
こういうのは町の呑屋でもいいのだが、今回はヒトが集まり過ぎた。そのため、団員各自で酒や肴を自警団本部に持ち込み、ここで大騒ぎをするのだ。
こういうことは、まあ良くある。
あと、自警団には現在、女性団員が1人しか居ない。
「まったく、セニアの騎士には女が大勢居るのになぁ!コルトお前、どっかから腕っ節の強そうな娘を探して来て、自警団に勧誘しろよ!」
「嫌ですよ面倒臭い」
「そう言うなって!」
コルトは自警団での紅一点という事で、こういう席では徹底的に絡まれる。今だって隣席のおじ様に、何故か肩を組まれている…。
遠くの席からも野次られる。
「コルト!こっち来て酌しろや!」
「コルト!ここは酔っ払いばっかで暑いだろ!脱いじまえよ!」
「コルトお前、肩の矢傷を見せてみろよ!」
…まあ、これは毎度の事なのでもう気にならない。いつものノリだ。
「張り倒しますよあんたら…」
自慢じゃないが、コルトは自警団の中でも腕は上の方だった。酔っ払い相手なら余裕で張り倒せる自信がある。
隣席のおじ様がしみじみと呟く。
「しっかし、お前が負傷するとは思わなんだわ…」
「仕方無いですよ。私は守り方なんて知りませんから」
コルトは、戦闘で“何かを守る”のが苦手だった。
有事の際には暴れたり突込んだりするのが好きで、誰かを守るなんて戦い方は、それこそアグナ火山での一件が初めてだった程だ。
実は、コルトは飲み会以外にも用事があった。
自警団で調べたいことがあったコルトは、ここで情報収集を試みる。
「最近、デリ・ハウラで怪しい2人組の人間を見かけるんですが、何か知りませんか?男の2人組なんですが…」
「2人組…?」
隣席のおじ様が少し考え込み、思い出したように目を見開く。
「お前の友人に、半人の商人が居るだろ?あの店の近所になら、最近セニアの騎士が張り込んでるぞ。何でも大神殿の特命らしいが、何を見張ってるかは自警団にも教えてくれんのだ…」
やはりミレニィの店を見張っているのは、大神殿の回し者のようだ。
「そーですか…」
おじ様が、酒臭い溜息を吐く
「何にしろ関わらん事だ。ああいう連中は何を考えているか分からん!」
再び、遠くの席から声が上がる。
「コルトこっちに来いや!」
「脱げ脱げ!」
「はいはい…今行きますよー」
今宵の自警団本部は、どんちゃん騒ぎで夜が更けていく。
『…コルちゃんが帰ってこない…』
深夜。酔ったミレニィがうわごとを繰り返している…。
『自警団本部って宿泊できるんだよね?泊まってくるんでしょ』
『そんな…!』
あっけらかんとした薊の一言に、ミレニィが震える。
『自警団なんて野獣の群れにコルちゃんが1人…!?まずいわ、助けに行かなくちゃ…!』
『野獣ってお前な…』
薊が俺の袖を引っ張る。
『仕方無いね…あたし達で見に行こうよ。そんなに遠くないし』
『え、俺もかよ…』
薊は、俺の遺物を1つ手に取る。
その薊の表情は、思ったより真剣だ。
俺は薊の考えを察し、黙って彼女に同伴する。
俺達は、店の裏口から静かに外に出る。
俺は「闇を生むランタン」を手に、姿を消しながら夜の町を往く。
ちなみに自警団本部はもう暗く、施錠までされていた。
そのまま俺達は帰り、今度はミレニィの店の周囲を探る。
「…あれだな」
「見つけたね…」
案の定、ミレニィの店の傍には、怪しい人影があった。
俺達はこれを探していた。
どうやら2人居る。俺達には気付いていないので、そのまま忍び寄る。
「今日も特に怪しい動きは無かったな」
「ああ、店員の外国人がセニア市場に行ったくらいだな」
怪しい男達は、どうやら騎士のようだ。騎士の装備はしていないが、体格といい雰囲気といい、一般人のそれではない。
「いつまで続くんだ?この仕事はよ…」
「不平を吐くな。聖星祭までの辛抱だ」
(大神殿の監視は、やっぱり聖星祭までか…それだけ聞ければ十分だな)
俺達の“手紙”はバレて無さそうだ。
まあこれ以上、俺達に打つ手も無いが…。
聖星祭まであと僅か。このまま順調に行ってくれるといいな。
深夜。
繍五郎と薊が、店を出た直後。
「ミーちゃんただいま」
コルトが杖を突き、ミレニィの店に帰って来た。
「ふへっ!?コ、コルちゃんお帰り!!てっきり今夜は、自警団本部に泊まってくると思ったわ!」
「あそこ危なくて。あんな所泊まったら酔っ払いに襲われますよ」
「よかった、本当に…!」
いろいろと危険だったので、飲み代だけ払って密かに自警団本部を抜け出してきたコルトだった。
2021/12/30 誤記訂正などなど