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その14 凡人の俺、龍に出くわす

ファンタジーならドラゴンだね

 俺は今、暗い洞窟を歩いている。

 アグルセリアに来た俺たちは偶然、魔境の火山に眠る財宝の噂を聞きつけた。

 そして今日俺達はその財宝を探しに、手分けして火山を登ったんだが、その道中で謎の魔物たちに襲われた。

 結果俺を庇ってコルトが負傷し、俺は危険なガスを出す毒の湖まで逃げた。俺は遺物「膜を張る腕輪」でこれを防いでいるが、俺達を襲った連中は、ガスを恐れたのか近づいては来なかった。


『…なあ、ここは一体何だろうな…』

『…さあ…何でしょうね…』

 俺達は先程、逃げ込んだ毒の湖の畔で謎の遺物を発見した。

 大きな石板型のそいつは、俺が触ると突然起動し、湖を割って道を作り出した。俺達はその道を進み、湖底洞窟に入っていた。

 俺達が湖底洞窟に入るなり、割れた湖は元に戻ってしまった。まあ、洞窟入口にも外にあったのと同じ石板型の遺物があった。出る分には問題無いだろう。

 洞窟中は暗いので、俺は「光る杖」を頼りに奥へ進む。

『しかし、少なくとも外より安全そうだ。何故かガスも無いし』

『…ええ……そうみたいですね…』

 …負傷したコルトは体力が限界かもしれない。

 肩を貸してはいるが、息が上がっている。恐らく安全であろう洞窟の地面に俺の上着を敷き、その上に寝かせる。少し休ませなくては。

『じゃあ俺は、少しこの中を探索するからな』

『…気を付けて』

 コルトを置いて、俺は単独で洞窟の奥へと進むことにした。


 この湖中洞窟には、間違いなく何者かが居る。俺の「レーダー円板」にも反応したんだ。

 それに俺達を襲った連中は、まだ遠くへは行っていないかもしれない。

 湖底洞窟に居る「誰か」を頼って、このクソみたいな状況を打開してやる。






 薊はミレニィと一緒に山を登っていたが、途中で突然襲われた。

 気配に鋭く反応した薊は、風魔法で放たれた矢を防いだ。後は「空飛ぶ手甲」を使い、縦横無尽に飛び回りながら、敵を一方的に殴り倒した。

『…何よ、こいつら』

『さあ、何者だろう』

 敵が倒されたのを見て、空に逃げていたミレニィが降りてきた。

 地面に伸びているそいつらは、爬虫類系の魔物の若者だった。薊は一応そいつらを捕縛し、縄尻を手ごろな大岩に結び付ける。

 ミレニィはしげしげと、気絶したその若者たちを観察する。

『…「解放派」の連中…?でもいくら何でも、手段を間違え過ぎでしょ。私たちを狙っても、いいこと無いと思うんだけどなあ…』

『うん、まあ、そうだよね』

 ミレニィの血の半分は確かに人間だが、周囲は皆、彼女を魔物として扱う。襲われる理由にしては、少し弱いと感じていた。

 嫌な可能性を考えた薊が、苦い顔をする。

『…もしかしたら、シュウさん達も襲われたかも…』

 ミレニィも息を呑む。

『…それはまずいわ。一旦下山して、アグルセリアの自警団を呼びましょう。私は1人で山を下りるから、アーちゃんは先に、コルちゃん達を探しに行って』

『ダメだよミレニィ、1人じゃあなたが危ない。私も一緒に山を下りるよ』

『でも…』

『ダメだよ』

『…わかったわ』

 とにかく、2人が襲われていないことを祈ることにした。






「こ、これは一体…?」


 湖底洞窟の最奥にあった光景に、俺は、言葉を失う。

 そこには確かに「誰か」が居た。

 「レーダー円板」の反応は、確かに間違っちゃあいなかったんだ。

 洞窟の奥には、高さが5m位の空間があった。そこの最奥部に澄んだ銀色の壁があり、俺の「光る杖」が出す明かりを、周囲の岩壁に反射させている。「レーダー円板」の反応の主は、その銀色の壁の中に居た。

 銀色の壁の中にいるそいつは二足で立っており、背丈が俺の倍以上はある。硬そうな鱗は深紅色で、頭の上から長い尻尾の先までを覆っている。前足と後足には、鋭い爪が見て取れる。閉じられた口からは牙がはみ出し、背中にあるのは…間違いない、翼だ。


 俺の知っている言葉で言うなら、こいつは、ドラゴンだ。


「…龍は絶滅したってミレニィが言ってたが、そうでも無かったみたいだな…」

 銀色の壁の中に居るドラゴンは、眠っているのだろうか?目を閉じ、全く動く気配が無い。まあ仮に動かれても、それはそれで怖いが。

 いくらなんでも俺には、ドラゴンとお話しする勇気はない…。

「これは頼るどころじゃ無いかもなぁ…。上手くやって、こいつを敵にけしかける手は無いかな…。ん、何だあれ」

 ドラゴンの眠る壁の前、何かが地面に置いてある。

 どうやらそれは本1冊と、指輪1個だ。俺は目を輝かせる。

「やった、遺物か!?武器だと助かるぜ!」


 不用意だった。

 俺が本に触れた瞬間、本から何かが発射された。

 そして発射されたそれは、銀色の壁に吸い込まれていった。


「あ、しまった…これはまずい感じだぞ…?」

 銀色の壁にヒビが入る。

 壁の破片が、表面から剥がれ落ちる。

 この本をここに置いた誰かさんは、次に誰かがこれに触れるのを合図にしていたのだ。

 ドラゴンが、目を覚ます。






「だから、本当に襲われたのよ!本当よ!」

 薊とミレニィはアグルセリアの自警団を呼び、2人を襲った魔物を連行して貰っていた。再び山を下る頃には、登山口に大勢の魔物が押しかけていた。自警団と野次馬だ。


 連行された魔物たちは、あろうことか「襲われたのは自分達だ」と主張している。


「目撃者が居ない以上、どっちとも言えんな」

「そんな!それならわざわざこうやって、あなたたち自警団に通報する理由が無いわ!」

「さて、どうだか…」

 最悪なのは、アグルセリア自警団も、ミレニィに対して友好的では無かった事だ。彼らは逆に、薊とミレニィを疑っている。

「そもそも、人間と半端者が、あんな所で何してた」

 自警団の男は、ミレニィに威圧的に詰め寄る。

「何って、別に登山しようが何しようが、そんなの私の勝手でしょ!?それを言ったらこいつらだって、あんなところで何してたのよ!」

 捕まった魔物たちを指差し、ミレニィが臆さず抗議する。

「彼らはアグルセリアの住人だから、まだわかる。しかしお前らは何だ?」

 ミレニィは密かに薊の様子を伺う。

 薊は全くの無表情で、言葉も発しない。

 ミレニィも初めて見るが、どうやら激怒している様子だった。ここで暴れだすかもしれない。この人数の自警団相手でも、薊は止まらないだろう、と内心冷や汗をかく。恐らくミレニィにも止められない。


「おめーら何してる。仕事に戻れや」


 突然、野次馬の中から声がした。野次馬たちの大半は採掘所の労働者だったらしく、その一声でもとの仕事場に散っていった

「え、ゲルテさん…?」

「なんだミレニィかよ?それに捕まってんのは…運び屋のガキ共か。自警団相手って、お前らなんかやらかしたのか」

 声の主はゲルテだった。

 異様な雰囲気に遠目に気付き、やってきたようだ。捕まった若者達はゲルテと顔見知りらしく、しめたとばかりに主張する。

「ゲルテさん、そこの人間が俺たちを襲ったんすよ。自警団になんとか言ってやって下さいよ!」

「な!?ちょっとあんたら、そっちが先に弓撃ってきたんじゃないの!」

「うるせえ、弓はその人間が使ってただろ!」

 ミレニィは捕まった魔物と口論するが、その言葉にゲルテは首を傾げる。


「あ゛ぁ?弓だぁ?俺は昨日こいつらの装備を一式拝見したから知ってるが…ミレニィも連れも、弓なんか持って無かったぞ?ああ、剣なら持ってたと思うが」


 若者たちが動揺する。

「えっ?じゃ、じゃあその後買ったんじゃ…」

「なら自警団のみなさんに、アグルセリア中の武器屋を当たって貰え。ミレニィに弓を売った奴が居るだろ。しっかしアグルセリア周辺は原生物が少ねぇから、狩人なんて居ないよな?弓を売ってる武器屋があるかどうかも怪しいだろうな」

「そ、それは…」

 若者たちがたじろぐ。

 ゲルテは自警団員を睨みつける。

「おめーらもちゃんと仕事しやがれや。怪しいのはガキ共の方だろーがよ。だいたいなぁ、この弓がガキ共の物って調べるほうが、よっぽど楽だろ」



『…なんだかよくわからなかったけど、ありがとゲルテさん』

 自警団が去ったあと、黙っていた薊がやっと話した。

 先程のやり取りが魔物の言葉だったせいで、薊には半分も聞き取れなかった。

『あー?俺は野次馬しに行った連中を連れ戻しに来ただけだぞ?しかしまさか、お前が自警団にも嫌われてるとは知らなかったがな。全く難儀な奴だ…』

『それでも助かったわ…ありがとね』

 ミレニィが礼を言い終わらないうちに、薊は再び山に向かって行く。昼過ぎの空は雲行きが怪しく、今にも天気が崩れそうだった。

 薊は自分1人でも、繍五郎とコルトを探すつもりだった。


 薊は「空飛ぶ手甲」を起動する。

『アーちゃん!気を付けて!』

『後で自警団も捜索に向かうように、俺が掛け合ってやる!』

 2人の声を背中で聞いて、薊はホバー移動で一気に山を駆け上がる。






 尻もちをついた俺の前に、ドラゴンが居る。


 この深紅のドラゴン…さっきまでは寝ていたのに、今はばっちり起きていらっしゃる。開かれた目は金色の光を放ち、俺を頭上から見下ろしている。

 全く、逃げようとして転ぶとは、俺は自分自身が情けない…。

 これは、死んだか…?

「な、何だよ、俺が起こしてやったんだから、俺に感謝しろよ…?」

 苦し紛れに、恩着せがましく言い放つ。まあ俺の言葉は通じないだろうが。そもそも、このドラゴンは言葉を喋るのか…?

「グルルルルルルルルル…」

 返ってきたのは唸り声だった。まずい、何とかして、俺が友好的なのを示せないか…?

 そんなことを考えていると、ドラゴンが俺に向かって、片方の前足を伸ばしてきた。鋭い爪が近づいてくる。

 驚いた俺は咄嗟に後ずさりするが、

「え、そっち!?」

 ドラゴンは俺に触れず、本と一緒にあった指輪を持って行った。大きな前足で、器用なものだと密かに感心する。


 ドラゴンが手にした指輪から、不思議な光が漏れる。


 あれ、あの指輪の装飾、どこかで俺は見たことあったぞ…?あ、「念話ネックレス」に似てるような気がするぜ…。

 指輪を持ったドラゴンは俺を睨みつけ、


『あんた誰だ』


『…マジかよ…』

 …普通に話しかけてきた。






『…なんで、こんなところに、いるんだっけ…』

 洞窟のドラゴンは、まさかの記憶喪失だった。

 自分の名前も、なんでここに居るのかも、何故眠っていたのかも、分からないという。洞窟にあった指輪が「念話」の遺物なのは、辛うじて覚えていたらしい。


『えー…これは、何ていうか、びっくりですよ…』

 俺は、洞窟の入り口付近で休ませていたコルトも連れてきた。彼女も一応驚いている。ドラゴンはコルトを見ると、顔を近づけてくる。

『おねーさんケガしてるじゃん。だいじょーぶ?』

『あ、あんた、結構軽い感じなんだな…』

 ドラゴンは、かなり砕けた感じのフランクな奴だった。仰々しい登場をしておきながら、この落差は何だ…。

 あれ?俺は、何となく今のドラゴンの言葉が気になった。

『ん、「おねーさん」って、お前は一体何歳だよ』

 ドラゴンの喋り方は若い印象だ。それにコルトを「おねーさん」呼びとすると…。

『え?あたしの歳…?歳…』

 雌かよ。

 ドラゴンが考え込む。もしかしたら、この大きさでも子供なのかもしれない。そうだとすると、成体は一体どんな大きさになるのやら…。

 しかし、ドラゴンが絶滅した要因は「勇者」らしいし、こいつはもしかしたら、「それ以前」から生きてる可能性がある。つまり何か、勇者や遺物の謎を解く手掛かりを、


『あー!!思い出したぞ!!父上、なんであたしを置いて行ったああああああああ!!?』


『うぉっ!』

 突然ドラゴンが癇癪を起した。俺は驚いて飛び上がる。

『龍さん、何を思い出したんですか?』

 コルトは割と平然としている。相変わらず、マイペースな奴だ…。

 興奮気味のドラゴンが、勢いよく俺たちに向き直る。

『2人とも聞いてくれ!あたし思い出したぞ!!父上があたしを置いて行ったんだ!!』

『落ち着いて』

『ぅえっ!?あ、ああ、そーだな…。その、父上はあたしを、ロジィって呼んでた。名前かな?愛称かも…。あと歳は、確か14だ。それでここに、父上に…置き去りにされたんだ…』

『父親に、眠らされたのか…?』

 ドラゴンは喋りながら、自分の話で落ち込んでいく。感情の浮き沈みが激しい奴だ…。

 コルトは、ロジィと名乗ったそのドラゴンを、物珍しそうに見ている。

『しかしこれで子供ですか…。「龍」は魔物の中でも最大だったと伝わっていましたが、ここまでとは…。でもなぜ眠っていたんでしょうかね』

 コルトの言葉を聞いたドラゴンはぽかんとする。この体躯でそういう動作をするのはシュールだ。笑えるからやめてくれ。


『へ?まものってなんだ。あたしは人間だぞ?』


『…え?』

 思わぬ言葉に、俺は、固まる。それは、どういう、

『そうだ、これも思い出した』

 ドラゴンの足元に突然魔法陣のようなものが現れ、光を放つ。

『まぶしっ!』

 俺は思わず目を瞑る。

 数秒で、光が収まる。

『ほら。あたしはれっきとした人間だぞ。そっちのおねーさんだって、そーだろ?』

 魔法陣の中から現れたのは、ドラゴンでは無かった。


 魔法陣の中から現れたそいつは、薊よりさらに小柄で、褐色肌に銀の短髪で、タンクトップ風の服とぶかぶかなズボンを履いた、どう見ても人間の少女だった。


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