男の娘メイドユウタ 爆!誕!
久しぶりの投稿です!!
楽しんでもらえれば嬉しいです
白銀の燐光が雪のように降りそそぐ中、その中心にいると少年は両膝をついたまま動かなかった。
ポツ、ポツ。と淡く弾けていく光の泡は、台座でにいる少年を祝福する様に、最後の灯火を華麗に散っていく。
──まるで絵画の様に、神話を切り取った様な光景。誰もが息を飲むほど圧倒的な空間。そこに熱を帯びた声が、大気を震わす。
「──おお、おお!! まさかとは思っていたが、本当に【神々の寵愛】を引き当ておった……! さすがはシーシェ達が認めた少年だ!!」
1人興奮して小躍りするクーデルン。彼の口ぶりから、僕のギフトが強力だと推測できるんだけど……はぁ。全然嬉しくないんですけどっ!
「──なんで僕のギフトが【メイドの中のメイド】何だよっ!?」
僕は男なんですけど、神様間違えてませんか? 今からでもやり直してください!
僕に駆け寄ってきたクーデルンさんが、バシバシ肩を叩いてくる。地味に痛いし、この人ほど喜んでいないから、ただただウザい。
しかし、空気の読めない変態紳士なクーデルンさんは、御構い無しに捲したてる。
「いや〜、本当に素晴らしい。数万人に1人現れると言う強力なギフト【神々の寵愛】。それを引き当てた場面に居合わせるなど、わしの人生でも数える程しかないわい。誇っていいぞ!!」
「……クーデルンさん。僕のギフト名をわかって言ってますか?」
「? 確かにまだ聞いていないが、【神々の寵愛】である以上強力なもので間違いない。これを祝福せねば、司祭の名折れじゃ!」
「…………そうですか。ソレハリッパデスネー」
「何じゃ何じゃ、そんなこの世の終わりみたいな顔をして、もっと喜ばんかい。子供は素直なのが一番じゃよ」
長い時を生きている彼だからこそ浮かべることんできる慈愛のこもった笑み。まさにそれは司祭の名にふさわしく、人に安堵をもたらす人徳があった。
──しかし、この場面で見せられても困るんだよぉぉぉおおおっ!!
ははは。と乾いた笑いしか出なくなった僕。心配そうに背中をさすってくれるクーデルンさんには悪いけど、これはしばらく立ち直れそうに無いよ……。
失意のどん底で、ボ〜ッと壊れた壁を見ていると、完全武装をして駆けてくる5人の姿が見えた。
「──やっと見つけたぞ、このドグサレイカレ司祭が!!」
「ユウタく〜〜んっ!! 大丈夫〜〜っ!!」
「…………………変態発見……殲滅を開始する…………」
「ユウちゃん!! まだ穢されてませんか!! 」
「もし、もしユウタ君に何かあったら責任問題に……!? 即刻排除しなければ!!」
「お〜い、みんな〜聞いておくれよ〜。ユウタがの〜凄い──ごパァっ!」
突入してきたシーシェ達に手を振っていたクーデルンさんの顔面に、ルチアさんが投げたメイスが突き刺さる。
「今のうちに、ユウタ君をこちらに連れてきてください!」
「ナイスだルチア! 私とディアでゴミ掃除をするから、シーシェとレーテでユウタを助けてくれ!」
「「「了解よ!!!」」」
見事な連携を見せる5人は、迅速な動きで悶えるクーデルンを排除する。
その隙に僕はシーシェ達に抱えられ祭壇の下に運ばれるが、さっきのショックが抜けなくてイマイチ現実感がなかった。
「レーテ、どうしよう!! ユウタ君の瞳に光が宿ってないの!?」
「やっぱり、あの変態に近づいたせいだわ……。ユウちゃん、ゴメンね!」
むぎゅううっ!! 両手に持っていた巨大な槌を投げ捨て、力の限りユウタを抱き締めるレーテ。
「く、苦し……! い、呼吸ができないよ……!」
「ごめんね、ごめんねユウちゃん!!」
「──レーテ! そろそろ離さないとユウタ君死んじゃうよ!?」
「──っえ」
「……かくっ……」←ユウタの意識が落ちる音
「「ユウタ(ちゃん、くん)!!」」
……あ〜、お花畑が見えるよ〜。なんか全てがどうでも良くなってきちゃったな〜……。
「ユウタ君、起きて〜っ! そのまま進んだら本当に死んじゃうよ!?」
「ユウちゃん戻ってきて! 貴方は今死ぬべき人じゃ無いのよ〜!!」
シーシェさんとレーテさんが必死に叫んでる。それをどこか遠くの出来事のように見つめていると、「おぶしゅあっ!!」という叫び声と凄まじい轟音が聞こえてくる。
その余波は部屋全体を揺さぶり、ユウタにも衝撃を与えた。
「──っは! 僕は一体何をしていたんだ!?」
ギフトカードを引いた後ショックを受け、クーデルンさんが袋叩きにされているのを見たのは覚えているんだけど、その後に記憶が曖昧だ……。どうしてだろう?
「──ユウタ君! 気がついたんだね!!」
「ユウちゃん……! 本当に良かったわ……」
「え〜っと、何か心配をおかけしたようですが、僕は大丈夫ですよ」
なぜか泣きながらシーシェさんとレーテさんが僕に抱きついている。僕の記憶が曖昧なことと関係してそうだが、彼女達を悲しませてしまったようだ。
……本当に情けない限りだよ。
ギフトは……当てにならなそうだけど、精一杯彼女達の助けになりたいな
「また僕が迷惑をかけちゃったみたいですね。 ──でも、一応ギフトも手に入ったことですし、皆さんのために何かできるように頑張ります! 」
この人達が、僕のために泣いてくれたのは何回目だろう。まだ出会って間もない僕をこんなに大事にしてくれる人達を悲しませないためにも努力しよう!
「──だからもう泣かないで下さい。シーシェさんとレーテさんには笑っていてほしいですから!」
「「…………………」」
あれ? なんか反応がないんだけど、おかしなこと言ったかな?
──まさか引かれたとか。 ……ありえるな。いきなりこんなことを言われたら、普通はキモいと思うよね。調子に乗っちゃったかな……。
自分の発言を振り返り不安になっていると、シーシェとレーテがユウタに頬ずりし始めた。
「ユウタ君は優しすぎるんだよ〜! 私の良心が痛んでしょうがないの〜!!」
「……ユウちゃん。私には貴方が天使に見えるわ……」
「いきなりどうしたんですか!? くすぐったいですよ!」
ぷにぷにといきなり密着されたよ! 一体何があったのさ!
どうやら引かれているわけでも無いし、僕には女心がわからないよ……。
「うう……またユウタ君に気を使わせちゃったよ〜」
「気にしても仕方がないわ。これから私達が、ユウちゃんに何ができるのかが大切なのよ」
僕を挟んで僕についての話しをしているはずなのに、全くついて行けないや。何でだろう?
「今は切り替えましょう。さっきユウちゃんが言ったことも気になるしね」
「ユウタ君が言ったこと? 」
「覚えていないの? ユウちゃんは【ギフト】を手に入れたと言って言いたのよ」
「──っあ! それ以外の言葉が衝撃的すぎて忘れてたよ!」
あ〜、シーシェさん達が凄い見てくるな。やっぱり言わなきゃダメかな、がっかりされそうで怖いんだけど。
「シーシェはうっかりさんね〜。ここは【宣誓の間】ですし、クーデルンさんが【通過儀礼】を強行したとしても不思議ではありません」
「確かにクーデルンさんならやりそうだね〜……」
「となると、ユウちゃんのギフトが何なのか気になりますね」
「儀式に立ち会えなかったのは残念だけど、ユウタ君のギフトがわかるのは嬉しいな!
──ユウタ君! どうだったの!!」
うう……。2人の期待のこもった眼差しが痛い。内容が内容だけに言いにくいな。
「一応ギフトは手に入ったのですが、何と言いますか……すごく予想の斜めを行きまして……」
答えにくくて、つい言葉を濁してしまう。今日は言いづらいことばかり増える日だよ……。
「う〜ん、そう言われるとますます気になるよ〜」
「ギフトはその人の性格や生い立ちが深く関わっているはずです。となると何が当てはまりますかね……」
「──そ、それは…たしゅかめてみるのが一番じゃよろうて……ゆ、ユウタのギフトは【神々の寵愛】……期待してみいいんじゃよ……」
見るも無残なほどボッコボコにされたクーデルンさん。壊れかけの人形のようにプルプルしながらも、ドヤ顔で話に割り込んできた。
……この人はどんなに痛めつけられても、他人を引っ掻き回すことだけはやめないんだな。
「何だって!? なぜそれを早く言わないんだ!!」
「……驚愕…………ユウタは本当にすごい……」
「か、【神々の寵愛】ですか! これは一大事です、王都に連絡しなければ!!」
クーデルンさんを追ってきたイルザさん達が、驚いた表情で僕を見つめる。
どんどん言い出しづらい空気になってるんですけど!! どうしたらいいんだ!
「なるほど。確かにそれは予想外だね〜」
「ええ。さすがはユウちゃんとしか言えないわね」
「じゃ、じゃろう……儂もたまにはいいことしたんじゃから……そろそろ許して……」
「「「「「それとこれとは話は別です」」」」」
「──ひどい! もっと老人を労ってくれ!!」
本気で事切れそうなクーデルンを、ぽいっ。ゴミのようにイルザさんが投げ捨てる。
そして邪魔者はいなくなったとばかりに清々しい笑みを浮かべて、
「それで、ユウタはどんなギフトを手に入れたんだ?」
遂に恐れていた質問をした。
……こんな注目されている中で逃げるわけにはいかないし、腹を括って打ち明けるしか無い。神よ、我に力を!!
「僕が手に入れたギフトは…………」
「「「「「「ゴクッ」」」」」」
「──────|【メイドの中のメイド】《ドレスアップ》です」
僕の一世一代のカミングアウト。心臓はバクバクだし、冷や汗も止まらない。
案の定みんな固まってしまったし、あんなに騒がしかった【宣誓の間】には音一つ無い。
……一体どれくらい経っただろうか。石像と化したみんなの呪縛が解け、間の抜けた声が漏れる。
「「「「「「…………………………っへ?」」」」」」
そして堰を切ったような絶叫の五重奏が部屋を満たす。
「「「「「ええぇぇぇええええ!!!!!」」」」」
「【メイドの中のメイド】ってどういう事!? そんなギフト名聞いた事ないよ!!」
「確かにユウタは可愛らしいが、男だぞ。何かの手違いか!?」
「…………………さすがに予想外……ユウタは意外性の塊だね…………」
「はうっ……! ユウちゃんのメイド姿ですか……萌えますね!!」
「み、皆さん落ち着いてください! 一気に喋ってもユウタ君が困るだけですよ!!」
目をグルグル回し、捲したてる4人。唯一冷静なったルチアさんがなだめているけど、焼け石に水だろう。レーテさんがキャラ崩壊するほどの衝撃だ、みんなそう簡単には帰ってはこれまい。
「やははははは!! 本当に君は面白い子だね〜。今まででピカイチだよ!!」
「──クーデルンさん!? 生きていたんですか!!」
「……やははは、その言い草はなかなか傷付くね……」
悲しそうに頰をポリポリかくクーデルンさん。言い過ぎちゃったかな──って、何でこの人傷が治ってるの!? 背中にブッスリと剣が刺さってたし、致命傷を受けていたはずなんだけど!
「……相変わらずゴキブリのような生命力をしてますね……」
「ルチアちゃん、上司に対してその言葉使いはどうかと思うな〜」
「貴方にはこのくらいで丁度いいんですよ、まったく」
2人とも傷が治るのが当たり前みたいに話してるけど、明らかにおかしいよね!? 今まさにファンタジーな事が起きてるよ! これは解明しなければ!!
「あの〜、何でクーデルンさんはそんなにすぐに復活できるんですか? さっきの怪我は、1日で治るようには見えないんですけど……」
「ん? ユウタ君には話して無かったかの。わしは【母なる大地】という、回復関係のギフトを持っておるんじゃよ」
「誠に遺憾ですが、クーデルンさんは世界屈指の回復魔法師であり、【不死身の変態紳士】と言われるほど打たれ強いのです」
「ホッホッホ。わしは攻撃を受けた瞬間から回復が始まるからな、許容量を超えるダメージを受けない限り死なないんじゃよ」
話している口調は軽いけど、クーデルンさんってチートだよね!! じゃ無いとイルザさん達の折檻から生還出来ないだろうし……。
「この人の事は置いておくとして、ユウタ君にはギフトについて説明して起きましょう。シーシェ達もしばらく正気に戻りませんし、タイミングとしては丁度いいでしょう」
ルチアさんの言う通り、シーシェさん達が回復するまで時間がかかりそうだ。それなら大人しく説明を聞いた方が賢明だろう。
「お言葉に甘えて、説明お願いします」
「では早速始めましょうか。まずギフトとは【神々の祝福】のことを指します。これはユウタ君が体験した通り、【通過儀礼】を受ける事で誰でも手に入れる事が出来ます。そしてギフトはギフトカードとして現れ、【福音顕現】する事で始めて本当の力を発揮し、様々な能力を顕現するんですよ」
早速講義を始めてくれるルチアさん。
何て言うか、遊〇王のカードみたいなものなんだね。
「そしてギフトは経験を積む事で成長します。例えば戦闘系のギフトなら訓練や魔獣との戦闘で、生産系のギフトなら何かを作ったりして成長させるのが一般的ですね。更に教会で【祝福進化】する事で、【神々の祝福】の内容に沿ったギフトカードを新たに手に入れる事が出来ます。
一般的には生涯のうち、ギフトカードを5枚手に入れる事ができるそうですが、優秀な人は数十枚持っていることもあるそうです」
「え〜っと、僕はギフトカードを一枚も持っていないんですが、それは普通のことなんですか?」
「本当ですか? 【神々の祝福】と共に、最低でも一枚のギフトカードが現れるはずなんですが……」
ルチアさんが整った顎に手を当てて、考え込んでしまう。
……もしかして僕は、すごく弱いんじゃ無いかな……
「──何を言っておるんじゃ? ユウタ君のギフトカードならそこにあるじゃ無いか」
「「──えっ!!」」
何でも無いようにクーデルンさんが示した先には、輝きの失っていない祭壇があった。
「なぜルチアまで驚いておるのかわからんが、台座からギフトカードを引かないで手元にあるわけないじゃろう?」
……それはどう言う意味なんんだろう。僕には全くわからないけど、ルチアさんには伝わったみたいで、目を見開いて驚いている。
「──どうしてギフトカードを引いていないんですか!? 一番重要なことですよ!!」
「それは、お主らが邪魔したからであろう? ユウタが引く前にわしをボコり、そのまま連れ去ったのじゃからな」
冷たい目で見られ、ルチアさんが気まずそうに目を逸らした。
──でもよかったよ! これで僕にも可能性が残されていることも分かったんだからね。
「じゃあ、今からでもギフトカードは手に入るんですね!」
「うむ。早く取ってくるといい」
いや〜よかった、よかった。能力が【メイドの中のメイド】だけじゃ不安だからね。せめて他にも力が欲しいところだよ。
カツカツ。未だ明滅している祭壇に向かって歩いていると、他のみんなも付いてきた。その中には正気に戻ったシーシェさん達4人の姿もあった。
「……ふう。焦った焦った〜!」
「全くだ。こんなに取り乱したのは久しぶりだな」
「それほど衝撃的だったのですから、しょうがないですよ」
「…………レーテまで取り乱すのは珍しい……いいものを見た……」
「──ディア! あまりからかわないでください!」
からかわれて頬を赤くするレーテさん。みんないつも通りに戻れたみたいだし、これで僕のギフトカードが良いものなら言うことはないんだけどな〜。
「ホッホッホ。怒るレーテちゃんも可愛いのう。どうじゃ、今晩わしの部屋に来んか?」
「──死んで下さい。貴方に穢されるくらいなら死を選びます」
冷たく吐き捨てるレーテさん。クーデルンさんに対してはとことん厳しいな。
それにしても懲りないクーデルンさんは、またレーテさんの胸に手を伸ばし、
「──おにゅぱっ!」
祭壇の上から蹴り落とされていた。
「まったく……。何回繰り返せば懲りるんでしょうか……」
「諦めろ。あいつのセクハラは死ぬまで終わらん」
ここまで冷たくあしらわれるなんて、今まででどの位セクハラしてきたのだろうか。怖いから聞けないが、気になる……。
途中でクーデルンさんが脱落しちゃったけど、僕たちは台座の前まで到着する。
そして灼銀に輝く長方形の台座の上には、明滅する5枚のカードが主人を静かに待っている。
「──ごくッ。じゃ、引くよ?」
「ユウタ君頑張ってね!」
「……別にガンバてどうこう変わるものじゃないんだが……」
シーシェ達の掛け合いを背に受けながら、一番上のカードにてを添え勢いよく──引いた。
「今度こそ、今度こそまともな物が来てくれ……!!」
万感の思いが込められたドロー。燐光を散らしユウタの手に収まったカードには、
「────【掃除道具一式】」
箒や雑巾といった掃除用具が書かれていた。
「なぜなんだぁぁぁぁぁぁああああ!!! メイドだからか、メイドだからか掃除用具なのか!!」
「あちゃ〜……また何とも言えないのを引いて……」
「まあ、メイドに関係のある物だからなぁ。ある意味必然とも言える」
くそ〜っ!どこまで僕を嘲笑えば気がすむんだよ!? 良い加減泣くよ!!
シーシェ達も諦めムードだし、ここは残りのカードで唸らせるものを引くしかない!!
「唸れ、僕のデュエリストとしての血!! ──ドロー!!」
僕の全てをかけて、残りの4枚のカードを次々に引いていく。その結果は──
1枚目→調理器具一式
2枚目→『ネコミミ』カチューシャ
3枚目→ピンクの『ウサミミ』
4枚目→グリフォンのモノクル
──散々たるものだった
「うう……うう……なんでだよぅ……何で変なのばかりなんだよ……!」
ギフトカードって、確か能力だよね!?どうして掃除用具とかウサミミとか出てくるの!! 問題外だよ!!!
「ゆ、ユウタ君! 元気出してね、きっと良いことあるよ!!」
「まあ、アレだ。実は凄い力を秘めていて、後から覚醒したりするかもしれないぞ」
「……すん、すん……。 ──本当にそう思う?」
「…………【神々の寵愛】のギフトなら弱いはず無い……元気出して……」
「そうですよ〜、ユウちゃんは出来る子ですし、きっと大丈夫ですよ〜」
膝から崩れ落ち、祭壇に水たまりを作るユウタ。滂沱の涙はとどまることを知らず、ボタボタと溢れ続ける。
シーシェさんがハンカチで涙を拭い、レーテさんが優しく抱きしめてくれる。しかし、今はその優しさが心に痛いよ。
「──少年よ!! 絶望するにはまだ早いぞ!!」
バコン!台座が二つに割れ、完全回復したクーデルンさんが飛び出してくる。この人どういう原理で生きてるんだろう。ちらっと見えたけど、台座の中に空間なんてなかったのに……。
正直それだけで驚きなのだが、イルザさんとレーテさんの方が衝撃的なことを叫ぶ。
「何でまだ生きてるんだ!? 今回は硫酸を飲ましたんだぞ!!」
「ぬわははっははは!!!! 体を溶かされたくらいで儂が死ぬわけないじゃろうが!!」
「本当に人間なのかしら〜。人の皮を被ったゾンビだと言われた方が納得できるのだけど〜……」
……レーテさん僕もそう思いますよ。
人間離れしすぎた老人は、僕らを煽るように踊り狂っている。時々ウインクされて鳥肌が立つが、それよりも無駄にキレッキレのダンスがウザい。しかもツバと汗も飛んできて、女性陣の怒りに火を注いでる。この人って、本当に聖職者なのか……。
「──っ!!」
背後から膨れ上がる殺気に、思わず振り返ってしまった。そして後ろを見てしまったことをすぐに後悔する。なぜなら──
「あはー。温厚な私でも、怒ることはあるんだよ??????」
「殺す。ただただコロス。私の煮えたぎる狂気を持って──コロシツクシテヤル」
「…………… 『地獄より顕現せし不朽の業火よ その身をもって 愚かなる咎人を断罪せよ』………。 ギフトカード発動──【魔と踊る愚者】」
「うふふふふふ〜〜〜〜〜、この世で誰を怒らせると怖いのか、教えてあげますよ〜〜〜〜〜」
──4人の修羅がいたからだ。
「ちょ、クラウディアさん!? 教会内でガチ魔法を打とうとしないで下さい!!」
「……ルチア、危ない……そこにいると死んじゃうよ……??」
「あ、あちっ! 早くその炎を消してください!! シャレになってないですよ!!!」
ゆらゆらと覚束ない足取りで近づいてくる4人の顔には生気がない。ただ焦点の合わない瞳で、クーデルンを見つめるだけだ。今回ばかりは本気なのか、ディアさんに至っては、魔法を発動している。正直初めて魔法を見てテンションが上がるかと思ったけど、その禍々しさを見て、そんなことを言っている余裕がなかった。
ディアさんが創り出した炎は、太陽のように燃え盛り、その熱量を持って大気を歪ませている。黒々と渦巻く円球に、『幻想的だ!』なんて感想は浮かぶわけもなく、魔法に対して苦手意識を持ってしまいそうだ。
そんな危機的な状況になってもクーデルンさんは、ヘビ〇ローテーションを踊っている。何でこの人はA〇B48を知っているんだろう? とことん謎が多い人だ。
──っと、呑気に眺めている場合じゃないや! このままだと、クーデルンと一緒にまる焦げにされてしまう! だって、ディアさんは正気を失っているんだもん。このままだと巻き込まれかねない!!
「──クーデルンさん!! いい加減この状況をどうにかして下さい!! 死んじゃいますよ!!」
「あいうぉんちゅ〜っと! 何をそんなに慌てておるんじゃ? 君も一緒に踊らないかね?」
「何を呑気なこと言っているんですか!? 現実をみて下さい、目の前にヤバイのが迫って来てますよ!!」
「なんじゃ、ディアちゃんが魔法を使ったのかいな。なかなか派手な事をするの〜」
どこまでも他人事みたいに話すクーデルンさん。この人の頭の中はどうなっているのだろう? 間違いなく僕たちとは違う構造をしているに違いない。
どこから取り出したのか、お茶を飲んで一服し始めるこの人は、他人をおちょくる天才なんじゃないだろうか? でなければ、この場面で寛げるはずがない。
「この光景を見て、その感想しか出てこないんですね……。貴方とわかり合うのは後にしますので、取り敢えずディアさんを止めて下さい」
「それなら、ルチアちゃんがしておるよ。ほれ、後ろを見てごらん──」
くるっと体ごと後ろに向けられた僕の視界には、必死に4人に食い下がるルチアさんの勇姿が映ったが──
『みなさん落ち着いて下さい!! 確かに気持ちはわかりますが、ここは抑えて!!』
『………………ルチア、どいて……あのダニを消せない…………』
『消したらダメですよ!! いや、クーデルンさんだけならいいんですか、ユウタ君と祭殿はやめて下さい!!』
『…………サーチ & デストロイ……………』
『ひぃぃぃぃいい!! 全然止まってくれません、主よ!! 私に力をぉぉぉお!!』
とても抑え切れそうにはなかった。
「ルチアさんも頑張っていますが、1人では無理ですよ!!」
「そうじゃの〜、なら加勢するかの ──ユウタがな」
「──っへ!?」
なんでこんなタイミングで僕に振るの!? 僕が行っても、有象無象のように吹き飛ばされるのがオチなんだけど!!
いつまでもふざけているクーデルンさんに抗議しようとするが、彼の目を見て辞めた。明らかに本気で言っている。この人が真面目な表情をするときは、必ず理由がある。短い付き合いだけど、それは感覚でわかる。
僕が落ち着いたのを見ると、クーデルンさんは信じられないくらい真剣な声音で、話を切り出した。
「──ユウタよ。どうやら勘違いしている様じゃが、お主のギフトは決して弱くなど無い。むしろ世界屈指の力を秘めているじゃろう。それを今、引き出すのじゃ」
「いきなりそんな事を言われても無理ですよ。そもそもギフトの使い方すら知らないのに……」
「大丈夫じゃよ。自分の可能性を信じて、ギフトに触れるんじゃ。そうすれば、自然と使い方がわかるだろう」
促されるまま、ポッケからギフトを取り出す。【メイドの中のメイド】のカードは、ユウタに呼応するかの様に、明滅を繰り返す。そしてギフトから膨大な力が伝わってくるのを感じた。
「──そう。それでいいんじゃ!! 後は心に従って、魂から吼えろ!!」
ドクン、ドクン。ギフトと共鳴するかの様に心臓が高鳴り、力を解放しろと訴えかけてくる。体を駆け巡る焼き尽くす様な力の奔流。全てを魂で受け止め、自然と頭に浮かんで来た祝詞を高らかに叫ぶ。
『幾千の時を経て積み重ねられて来た記憶よ 幾億の朝を超え歴史を紡いだ大いなる意志よ 我は全てを受け継ぐもの 我は全てを守護する者なり』
ユウタの力を持った言葉に、世界を構成する大いなる力が集まり、ギフトを形成していく。高まり続ける神の奇跡に対し、気高く、信念を込め──最後の言葉を紡ぐ。
「【福音顕現】────|【メイドの中のメイド】《ドレスアップ》!!」
────ぴきぃぃぃぃいいんん!!!!!
ギフトカードから灼銀の燐光が噴水の様に溢れ、ユウタを光の渦に飲み込む。
──ああ、力が溢れてくるのを感じる
神より授けられし祝福が真の力を発揮し、現世に顕現する。いつまでも増え続けると思われた燐光が、ユウタを中心に収束し始めた。そして──
パァァァン!!
光のカーテンの先に、祝福を発動したユウタの姿があった。
「──これがギフトの力。身体中から魔力が溢れてくるのを感じる」
ギフトを発動した途端、頭の中に力の使い方が流れ込んで来た。そして、このギフトが持つ制約がユウタに重くのしかかる。
「──生きとし生けるものに、直接危害が与えられないか……」
なんてやっかいなものがついてるんだよ……。これじゃあ、一方的にタコ殴りにされるだけじゃ無いか。どうしろっていうんだよ、まったく。でも、最初に見た時より、このギフトが好きになったよ。思うところはあるけど、利便性は高いみたいだし!
ようやく光明が見えた気がして、笑顔でみんなに振り向く。そこには頰を上気させたシーシェ達の姿があった。
「み、皆さん……。一体どうしたんですか!? 正気に戻ってるのは嬉しいんですけど、反応がおかしいですよ!!」
ほんのりと赤く染まった頰は愛らしく、トロンと緩んだ瞳は艶やかだ。とても人を殺そうとしてた人達の表情じゃ無い。まだギフトを発動しただけで僕は何もしていないし、彼女達に何が起こったんだ!?
「ゆ、ユウタ君……! ──その格好はどうしたの!?」
シーシェさんに言われて、皆んなが僕に注目していることに気づく。その視線に嫌なものを感じながら、ゆっくりと顔を下に向けると、
──メイド服を着た僕がいました
「なんでじゃこりゃぁぁぁぁぁぁああ!!!!」
どうやらこのギフトは、どこまでも僕を翻弄するつもりらしい──