『僕のターン、ドロー!!』
クーデルンの絶叫が反響し混沌としていた談話室。
その惨状を言葉で表すのは難しく、間違いなく放送コードに引っかかるだろう。
そんなイルザの迫力に押され誰もが見て見ぬ振りをする中、血相を変えて扉を蹴破ったシスターの登場で一旦の収拾を見せた。
「──一体何があったと言うんですか!? 教会中に悲鳴が鳴り響いて、子供達が怯えて怯えているんですよっ!! もっと静かにして下さい!!」
救世主となり得る可能性を持った少女は、憤慨した様子でズカズカと室内を進んでいく。
ふわふわのカールした紫水昌の様な髪が歩くたびに揺れ、修羅場と化した談話室に浄化作用を運ぶ。この状況に全く臆さない少女は、まだ幼い肢体に修道服を纏い、クリクリとした大きな瞳で室内を見渡す。そして力無く横たわるクーデルンを発見し、呆れのこもった吐息を漏らして、
「……だいたい何があったのかを把握しました。この度は私たちの上司がご迷惑をおかけしたようで、誠に申し訳ありませんでした」
ペコ。折り目正しく90度のお辞儀をした。
……この慣れた対応を見る限り、よくある事なんだろうな。それを考えると、このシスターさんはすごく苦労してそう。
「──ルチアが気にすることはない。悪いのは全てこのゴミ屑だ」
「…………万年発情神父にはいい薬……ルチアも殴っていい……」
「そうね〜、孤児院の子供達の教育にも悪いし、このまま矯正しちゃった方が良いんじゃないかしら」
とことん辛辣な女性陣。イルザさんなんて、モザイク処理がかかりそうな状態のクーデルンさんを足蹴にしている。
……グリグリと踏みつけられているクーデルンさんは「はぁ…はぁ…イルザちゃんのおみ足……た、堪らん……っ!」とか呟いてるくらいだし、まだまだ余裕がありそうだ。
でも、これ以上やったら死んじゃいそうなんだよな……。どうしたものか……。
「そうしたいところも山々なのですが、こんなのでも私達のトップなのです。不本意ですが、皆様には許してもらえると嬉しいです」
予想に反してルチアさんが助け舟を出す。それを聞いたクーデルンさんがゴキブリ並の生命力を持って復活した。
「ふぉぉぉぉおお!! 天使が降臨したのじゃぁぁぁぁあ!! 儂は、儂は信じてたのじゃ……。いつもツンツンしているルチアちゃんも、必ずデレてくれる時が来ることを……っ!!」
手足が変な方向に曲がっているせいでまともに歩けないクーデルンさんは、カサカサと地面からルチアさんに這い寄る。涙と鼻水で顔をグシャグシャにした老人が、ロリっ娘の足に縋り付く。そして「ふへ、ふへへへへ……ルチアちゃんの瑞々しいあんよ……全くロリは最高じゃあっ!」と凄い勢いで頬ずりし始めた。
「「「「「………………………」」」」」
ルチアさんのおかげで許してもらえそうな雰囲気だったのに台無しだよ……。
あのシーシェさんですら、瞳孔の開ききった目で見つめてるし。
高まる殺気、渦巻く怒気、そして荒れ狂う狂気。
地獄の鬼ですら裸足で逃げ出すような殺伐とした空気の中、ルチアさんの法衣の裾をあげ直に肌の感触を味わうクーデルン。
……ここまで来ると尊敬できるかも。
変態紳士というものは、極めればここまで凄いのか。それをユウタにクーデルンは教えてくれた──自分の命という対価を払って
「ぐふふ〜〜ルチアちゃんの愛!! すなわちアガペーじゃあっ!! メシアじゃ、博愛じゃあぁぁぁあっっ!! この世はこんなにも美しく、愛に満ち溢れている。主よ、儂の敬愛すべき偉大なる愛と平和を司る女神よ!! あなたの教えは世界を救いたもうた、神はいた、神はいたんじゃぁぁぁああ!!!!!」
「「「「「………………………」」」」」
「にゅふふふふ〜〜ルチアちゃん〜〜っ!! もっと儂に愛を、淫らな幸せをくだ──ごぼろしゃぁっ!!」
クーデルンの涙とヨダレでベトベトになった足を、容赦無く振り下ろすルチアさん。それにイルザさんとディアさんまで加わって、ひたすらスタンピングをする。
「──良い加減くたばってくださいこの変態が!! 誰があなたに愛を捧げましたか!!」
「80超えた耄碌ジジイのくせに盛ってるんじゃないっ!! 歳の差を考えろ、ルチアは15歳だぞ!?」
「…………ゾッとした……今回は本気でゾッとした……まさかロリまで守備範囲とは……二度と寄るな…………」
「グフっ! おぼうぅっ! げべら! 折れてるから、そこ折れてるから踏まないでぇぇぇええ!!」
「あらあら、生ゴミ風情が喋ってるわ〜不思議ね〜。みんな〜、ゴミはちゃんとゴミ箱に捨てなさ〜い」
「「「了解(しました、した、 ……したよ)!!!」」」
「そこは返事したらダメじゃろ!!」
クーデルンの悲痛な叫びは聞き入れられず、ルチアを筆頭に3人が髭を鷲掴みにして引きずる。その姿を見ていると、不思議とドナドナを思い出した。
「能力は優秀なのに、なんであんな残念な人なんだろう? 世界って不思議な事だらけだよ」
「シーシェ、こんなどうでも良いことは考えるだけ無駄よ。忘れなさい」
「……クーデルンさんって、偉い人なんですよね。あんな雑に扱って大丈夫なんですか?」
ルチアさんも上司だって言ってたし、クーデルンさんはそこそこの地位にいる人なのだろう。それをボロ雑巾になるまで痛めつけた後、事後処理するために連れ出すのはマズイんじゃないかな。
……割とクーデルンさんはどうでも良いけど、イルザさん達が捕まるのは避けたい。
しかしそんな心配もいらなかったみたいで、あっけらかんとレーテさんが話してくれた。
「全然大丈夫よ〜。普段からあの調子だし、今更気にする人はいないわ」
「……それはそれでかわいそうですね……」
「全部身から出た錆だからしょうがないよ。何回お仕置きされても懲りないんだもん、クーデルンさんは。もう一生治らないんじゃないかな〜」
「何というか、色々な意味ですごい人ですね……。僕には真似できません」
「「──マネしちゃダメだよっ!!」」
綺麗にハモって否定されてしまった。別にあの人と同じ事をしたいとは思わないんだけどなぁ。
でも2人の機嫌も治ってきたし、これで安心できそう──
「やっぱり、クーデルンさんはユウタ君の教育に悪いね」
「ええ。純粋なユウちゃんがあの汚物に毒される前に、私達で消しておきましょう」
「どうせ明日にはケロッとしてるんだから、今のうちに追撃しておいて、確実にとどめを刺しておこうか……」
──にもありませんでした。
すまん、クーデルンさんよ。僕の教育のために、あなたは犠牲になるそうです。同じ男として尊敬できる部分もあったので、心の中だけでは師匠として仰がせてもらい貰います。
サラッとクーデルンさんの運命が決定してしまったが、これは僕にはどうすることもできないだろう。精神衛生上悪いので、このことは忘れる。さらば、クーデルン。
「じゃあ、ユウタ君。私とレーテは少し用事ができたから、出かけてくるね」
「1人でお留守番は寂しいと思うけど、すぐ戻ってくるから泣かないで待っててね〜」
「はい! 僕は大丈夫ですので、2人も気をつけて行ってきてくださいね!」
「ありがとう! ユウタ君を見てると癒されるよ」
「ええ。この子のためにも、早くあの歩く猥褻物を排除しましょう」
僕の頭を撫でてから、2人はクーデルンの血でできた道を歩き部屋から出て行った。
その後すぐに、断末魔が響き渡ったが、無力な僕は何もすることができなかった──
♢
「以外とゴミ掃除に時間がかかっちゃったね」
「そうだな。途中痛みすら快感に変えるようになった時は絶望したが、5人の力を合わせたおかげでなんとかなったな」
「…………すけべジジイのくせにしぶとかった……」
「アレでも元聖翼騎士団の団長ですからね。なかなか侮れなかったです」
「……皆様には本当にご迷惑をおかけしました。性欲が強いこと以外は完璧な方なんですが……」
「それって、聖職者にとって一番重要な気がしますけどね〜」
「──っう。それを言われると、返す言葉もございません……」
「まあまあ、もう済んだことだし、あれのことは忘れましょう!」
シーシェの明るい声で、沈みかけた空気が元に戻る。
先ほどクーデルンらしき悲鳴が聞こえなくなってから数分、赤くなった手をタオルで拭きながら5人が談話室に戻ってきた。その顔は清々しく、何かをやり遂げた事を物語っていて、思わず姿の見えないクーデルンに向かって合掌したものだ。
それで晴れ晴れとしている女性陣だが、さすがに疲れたみたいで休憩しているところだ。ここは談話室だし、話すことが本来の目的だったため、ようやく本題に戻れたともいうが……。
──しかし、誰もクーデルンさんの名前を出さないなぁ。たとえ呼ぶとしても『アレ』としか表現しないし……。彼女たちの中でどんなあつかいをされているのやら、想像もしたくないよ。
「──ゴホン。そういえばシーシェから話したい事があるとさっき言ってましたね。それは、今ここで話せる事ですか?」
「あ、大丈夫だよ! ちょうどみんな揃ってるし、タイミング的にはバッチリかな」
レーテが咳払いをして、強引に話題を変えた。それほどクーデルンの事を話したくないのだろう。
しかし、そのせいで僕にとっての山場が来た。多分シーシェが話したい事は、僕が居候することについてだろう。という事はだ、これから話す内容によって僕のこれからが決まると言っても過言じゃない。無意識に力が入ってしまう。
──しかし、そんな僕の葛藤は知らず、シーシェが軽い口調で話を進める。
「え〜っと、それでね、みんなに話したいことっていうのは──ユウタ君のこれからについてなの」
「ユウタのこれから?それはどういう意味だ?」
「…………色々あったせいで聞けてなかったけど、私達はユウタが攫われた理由も知らない……」
「そういえば、詳しく聞いていなかったわね〜。 ──でも、それは話しても大丈夫なことなの?」
レーテさんが気遣うように僕の頭を撫でてくれる。
誘拐されるなんて滅多にあることじゃないし、何か理由があると思ったのだろう。そして、それが話し難いという事も……。
レーテさんの言葉で、他の3人もハッとする。そしてどう反応したらいいのか迷ったのか、僕たちの間に微妙な空気が流れた。
出会ったばかりの僕のために、ここまで親身になってくれるこの人達はどうしようもないくらい良い人だ。異世界で初めて仲良くなったのがシーシェ達で本当に良かったと心から思う。だからこそ包み隠さず全て話したいが、それは無理だろう。なぜなら僕は
──異世界人なのだから
「……ユウタ君。私からみんなに話すけど良いかな? もし辛いなら無理にする必要は無いんだけど……」
黙り込んでいる僕を、シーシェさんが心配そうに覗き込む。
──これ以上この人に心配かけるわけにはいかない。僕自身の言葉で、伝えても大丈夫な部分だけなるべく誠実に話そう。
「──シーシェさん。僕は大丈夫ですよ。皆さんに隠し事をしたく無いですから」
「……そう。ユウタ君は強いね、私も安心して見ていられる」
──そっと頰を撫で、僕を抱き上げてくれるシーシェさん。まだ出会って1日も立っていないが、彼女に包まれていると心から安心できる。
──伝えよう。僕の拙い言葉でも、精一杯に、
「──では改めまして。僕は 桐生 裕太と申します。この国からは遠く離れた島国の出身……の筈です。自分で言ってておかしいとは思うんですが、今日目覚めたらこの街にいて、路地裏に迷い込んだ所を攫われかけ、皆さんに助けてもらったんです」
──話そうとしたけど、何を伝えたら良いのかわからない!! シーシェさんがすごいシリアスな感じで話しているからそんな気になってたけど、よくよく考えればただ異世界に来て、テンションの上がった僕が後先考えずに行動しただけなんだよね。そうなると僕の自己紹介みたいになるんだけど……。これじゃあ、脈絡がなさすぎるよ! このあとどうやって居候させてもらえるように頼むんだ!? 凄く切り出しづらいよ!!
……どうしよう。米粒ほどしか無い僕のコミュ力じゃ、この状況鵜を打破できる、ナウでヤングなセリフが出てこない……!!
──しーん……。
沈黙という音が聞こえそうなくらい、静寂が談話室を包む。呼吸すら感じられないほど誰も動か無い。ただ、みんなユウタだけを見つめている。
──とにかく何かを喋らなきゃ!
この状況に耐えられなくなったユウタが、意を決して口を開こうとした時、シーシェが先に言葉を紡いだ。
「──ユウタ君が話しにくそうだし、やっぱり私が代わりに話すね。ユウタ君はね、多分何処かの国の貴族だったみたいなの。それで何かしらの理由──恐らく没落してしまったせいで家族も故郷も失ってしまったの。それで家族の人たちがユウタ君だけを逃がして、巡り巡ってこの街にきたんだと思う。そして街を彷徨ってる間にゴロツキに絡まれ、私達に出会った。──という訳なの」
初めて見るシーシェの真剣な表情。いつもの爛漫とした笑顔はなりを潜め、今は凛とした大人びて見える。
──って、そんなシリアスに話さないでぇぇぇぇぇええ!! いや、僕は貴族じゃ無いですよ。というか、帰れないだけで家族も故郷も無事ですっ!!
確かに礼拝堂でぼかした言い方をしたけど、ここまで斜め上の方向に解釈しているとは思わなかった……。
「──そうだったのか……。ユウタも辛い経験をしていたんだな」
「……………………ユウタ、可哀想……甘えても良いんだよ…………」
「ううう……。健気です。そんな悲しい過去を持っているのに、周りを心配させないように気丈に振る舞って……。可愛い上に、本当に優しい子ですね」
「えぐっ、えぐっ……。ユウタ君、ヒック、大変だったんだね……。何かあったら、私を頼ってね!」
……………………物凄く盛大に勘違いしていらっしゃる。もはや手遅れなくらいに……。
えっ、僕はどうしたら良いんだ?。今更『全部作り話の勘違いですっ! ゴメンちゃい!』とか言えないよ!? なまじっか真実が混ざっているせいで信憑性があるし、皆んなの気持ちを踏みにじるなんて僕にはできない……っ!!
と、とりあえず、やんわりと方向修正しなきゃ!
「え〜っと、あのですね〜……その話には多大な誤解が……「それで本題なんだけどね」 ってあの、話を聞いてください……!」
本人を放ったらかし、話はどんどん進んでいき──
「いまの話でユウタ君にいく当てがないのはわかってもらえたと思うんだけど、そこで私達の家に来てもらいたいの。皆んなもユウタ君と一緒に暮らすのに賛成してくれる?」
「「「もちろん大歓迎です!!!」」」
──そして即答でした。
──って、ストォォォォップぅぅう!! ちょっとマジで待ってください!? 受け入れてもらえたのは嬉しいけど、このままだと設定が重いよ!? ヘビー過ぎですよ!!
「良かった〜!! 皆んなならそう言ってくれると思ってたよ!!」
「当然だろう? 私達にユウタを拒む理由は無い」
「…………ユウタ……良い子……大歓迎……」
「新しい家族が増えるのは大歓迎ですよ。これからは私達のことを『お姉さん』や『お母さん』と呼んでもいいんですよ!!?」
「あの〜……流石にそれは遠慮しておきます……」
なんかすごい受け入れられてる……。ここまできたら流れに身を任せよう。無力な僕じゃ何もできないし、生活していく中でおいおい話していけばいいだろう。
歓迎ムードでこれからの事を話して盛り上がる4人。ルチアさんも号泣しながらその輪に加わっていた。
……ルチアさん、いつまで泣いてるんだろう。
「ユウタ君、遠慮なんかしなくてもいいのに!! 私の事を『シーシェお姉ちゃん』って呼んでいいんだよ!!」
「いや、あの、遠慮とかでは無く恥ずかしくて……」
「シーシェ、そんな無理強いすることでは無いわ。いつかユウちゃんが、自然にそう呼べるようになるまで待ちましょう」
「そうだね!! 強制しても意味無いもんね!!」
「……僕がそう呼ぶ事になるのは確定なんですね〜」
実年齢がほとんど同じかそれ以下のシーシェ達を『お姉ちゃん』って言うのか……。ヤバイ、恥ずかしすぎて死にそう。
顔を真っ赤にして俯く僕をよそに、シーシェ達の会話は弾んでいく。ひとしきり僕にどう呼ばれたらいいかを語り合った後、興味深い話題へと移っていった。
「──そう言えば、ユウタ君の【神々からの祝福】ってどんなのだろうね〜」
「確かに、ユウタなら強力な【ギフト】を持っていても不思議じゃ無いからな」
「……ユウタ、きっとできる子……」
「ユウちゃんの【ギフト】が優秀なのは確実ですが、問題はどんな系統かっていうことね」
ユウタの聞き慣れない単語が飛び交い、なぜかすごい期待をかけられていた。
──【神々からの祝福】ってなんだろう??
話の内容から推測すると、なんらかの能力のようなものみたいだが、そんな物異世界に来たばかりの僕は当然持っていない。なんせテンプレである神様と会っていないのだ。チートなんてもらいようが無い。
しかし皆んなの様子から、誰でも何かしらの【ギフト】は持っているみたいだが、それの確認のしようがない。ステータスオープンとでも言えばいいのか?
錯綜する思考に翻弄されながら、さらなる情報を求めてシーシェ達の会話に集中する。
「ユウタ君のイメージですと、近接戦闘系より、後方支援といった感じですかね?」
「そうね〜。剣を持って戦うユウちゃんもいいけど、魔法を使ってる想像の方がピンと来るわ」
「ふふふ〜、2人もまだまだ甘いね! ユウタ君はね、生産職もあってると思うの!!」
「それは考えてもみなかったな。ユウタは頭も良さそうだし、ピッタリじゃないか?」
「……鍛治……錬金……調合……魔道具開発……なんでも似合う……」
どうやら僕がどんな力を持っているか話しているみたいだけど、それ以上の情報が入ってこない。唯一分かった事としては、【ギフト】は様々な種類があって、専門技能の総称のような感じだ。
……逆にそれしか推測できなかったんだけどね!
「あの〜、今更なんですが、ユウタ君の年だと──【通過儀礼】を受けていないんじゃないかと……」
「「「「ええっ!!?」」」」
──バッ。擬音が聞こえて来そうなくらい勢い良く全員の視線がユウタに集まった。
「……ユウタ君って、まだギフトを持ってない……?」
「──はい……。みなさんの期待に添えずごめんなさい……」
「そ、そんな事ないよ!! ユウタ君は別に悪くないもん!!」
「あ、ああ。なんなら今から【通過儀礼】を受ければいい。ちょうどここは教会だし、直ぐにでも受け──「呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ〜〜〜ん!!!世紀の天才司教、クーデルン。ただいま参上!!」られるんだが──って、どっから沸いたんだキサマぁぁぁ!!?」
ドゴン!! という音とともに天井の木材を吹っ飛ばして、傷が癒えたクーデルンが降って来た。
「わはははは!! エロと祭事のあるところにクーデルンアリじゃ!! 【通過儀礼】をするんじゃろう? なら、わしの出番じゃないか!? 」
「──っぐ。小賢しく嗅ぎつけやがったな……!!」
「ふははははは!! わしから逃れる事など不可能じゃよ!? おははははははは〜!!」
「おかしいですね〜……全身の骨を折った後に簀巻きにして焼却炉にぶち込んだんですが……なぜ平気な顔をしているんでしょう?」
──え!? 今レーテさんが可愛らしく首を傾げて、とんでもない事言ってなかった!!?
「残念じゃったの〜、アレくらいじゃわしは死なんよ。この世にエロ可愛い女の子がいる限り、わしは不滅なんじゃっぁぁぁぁあああ!! ──というわけで、さらば!!」
「え、ちょっ、何? なんなの!? なんで僕をいきなり担ぎ上げるんですかぁ〜〜〜!!!」
「あっはははは、あっはははははは!! この少年は貰っていくぞぉぉぉぉおおお!! 唸れわしの神足ぅううっ!!」
どっゴォオン……!!
光の速さでシーシェの腕の中から僕を奪い取ったクーデルンさんは、談話室の壁を蹴破り逃亡した。いや、司祭が教会を破壊しちゃダメでしょ!
「──待ちやがれ!! この腐れ司祭が!!」
「うふふふふ……。ユウちゃんを攫うなんていい度胸してるのね〜……。 ──万死に値するわ」
背後から怨念のこもった絶叫が聞こえて来る。コレ、捕まったら殺されるんじゃ……っ!!
「──クーデルンさん! あなた、捕まったら殺されますよ!!」
「ホッホッホ。わしの心配をしてくれるのかい? 優しい子じゃのう〜」
「いや……そんな呑気な事を言ってる場合じゃなくて、レーテさん達のあの目──本気ですよ」
『あの社会不適合のゴミが……遂にショタまで守備範囲になったか!!』
『消しましょう。純真無垢ユウちゃんが汚される前に!!』
『…………塵も残さず燃やし尽くす……っ!』
ボロボロになった壁をくぐり、修羅と化したレーテ達が姿を現わす。
その目は虚ろで焦点はあっておらず、幽鬼のような足取りで迫ってくる。皆んな誰もが振り返る美少女だ。その彼女達が無機質な声で笑いながら凶器を手にする光景は、人生で最高潮に怖いぃぃい!!
──ヤバイ! あの様子だと僕まで巻き込まれて殺されそうだ……っ!
「クーデルンさん! 今からでも遅くはありません。自首して下さい!!」
「何を言うんだね、ユウタ君よ。目的地には既に到着しているのだ!! やっははははは!!!」
「目的地って、何をする気なんですか!? 本当にぺど野郎になってしまったんですか!! 聖職者なのに!??」
──なんか根源的な恐怖を感じるんですけど!? この人本当に大丈夫!!
見た目は好々爺としているクーデルンだが、その力は強くユウタが幾らもがいてもビクともしない。ただ高笑いを浮かべるだけだ。
そしてまたまた壁を破壊して乗り込んだ先は──荘厳な雰囲気を持つ祭壇があった。
「──ここは【宣誓の間】。全ての者に、等しく神から【神々からの祝福】が贈られる場所じゃ」
茜色の夕陽に照らされた純白の祭壇。華美な装飾など一切無く、中央にある長方形の箱を讃えるかのように、静寂の中佇んでいる。
神を祀る神殿に相応しく、神秘的な空間。その中を臆する事なく進むクーデルンは、やがて灼銀の箱の前に立つ。
「──さあ。今こそ祝福の時。我らの世界を統べる偉大なる神々による、新たな寵愛の信徒に福音を!!」
ユウタを下ろし、両手を広げ高らかに祝詞を唱える。それに呼応し、祭殿が光り輝く。
「──ユウタ君。祭壇の中央にある箱に触れなさい。さすれば、君の手の中に【神々の祝福】は現れるだろう」
「僕にも【神々の祝福】が……!」
「心の赴くままに、君の可能性を掴み取れ!! 未来は常に見えているはずだっ!!」
クーデルンの言葉に促されるまま、ヴォルテールに明滅する箱へと触れた瞬間
──光が溢れ、世界が灼銀に染まった。
全てを押し流す光の奔流の中、手に確かな感触を得る。
「──それじゃ! それが【神々の祝福】じゃあ!! 魂の求めるままに手繰り寄せろぉぉおおお!!」
「──いくぞ、僕のターン、ドローっ!!」
荒れ狂う白銀の燐光をかき分け、台座からカード引いた。
──ピキぃぃぃいいん!!!!
高らかに掲げられたカードは天に向かい光の柱を形成する。そして独りでにユウタの前まで浮遊し、その権能を示す
『────────ギフト名|【メイドの中のメイド】《ドレスアップ》』
「僕は男なんですけどぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!」
蛍火のように灼銀の光がユウタを取り巻く中、魂から振り絞った絶叫が響き渡った──