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『変態司祭は挫けない』

 




「ほらほら、ユウタ君はいい子だからね〜。そんな気にしなくてもいいんだよ〜」


「……うにゅ〜……ぐすっ……」


「ユウちゃん、こっちにいらっしゃい。慰めてあげるからね〜」


「あう〜、ありがとうございます……」



「「か、可愛い……!!」」



 じゃれ合っていた(?)せいで話が進まなくなったユウタ達5人は、談話室に移動して仕切り直していた。その際にイルザとディアが知り合いのシスターに会いに行ったので、部屋には3人しかいない。そしてシーシェとレーテで、落ち込んでいるユウタを励ましているのだった。

 よしよし。とシーシェに撫でられていたユウタだが、今度はレーテに抱っこされ大きすぎる胸に埋もれた。

 ──ふにゅ。沈み込むようにレーテの双丘に包まれる。そしてレーテのミルクの様な香りが鼻孔をくすぐり、ついつい熱い吐息を零してしまう。


 ……気持ちいい。女の子の胸ってこんなに柔らかかったんだ。世の中の男子が魅了され続ける理由がわかった気がするよ。


「はふぅ……ふわふわでモチモチです……」


「あらあら、すっかり泣き止んでくれたみたいね。よかったわ〜」


「なんか複雑だけど、ユウタ君が元気になってくれたんならいっか!」



 レーテの胸で幸せそうにするユウタを見て、釈然としない様子のシーシェ。しかしすぐに気をとりなおして、満面の笑みを浮かべる。


 素直にユウタが元気になったことを喜べるあたり、シーシェの人の良さが出ているだろう。


 ……けど、日本でフツメンだったはずの僕は、今はどんな姿をしているんだろう。確認しようにも鏡なんて無いし、窓もガラスが濁っていてダメだった。どうにかしたい所だけど、今はシーシェ達の迷惑にならない様にしよう。



「何か考え込んでいたみたいだけど、心配事があるなら遠慮無く言ってね。気を使う必要わ無いのよ」



 難しい顔をしていたのだろう。ユウタの顔を覗き込みながらレーテが語りかける。その拍子に彼女の艶やかなライトブラウンの髪が肩から溢れ、甘いミルクの様なレーテの香りを運んでくる。

 彼女の優しく下がったタレ目には『慈愛』の光が灯り、ユウタを本当に心配している事を伺わせた。



「──ううん。別に対した事じゃ無いので大丈夫ですよ。心配してくれてありがとうございます!」


「そう? なら良かったわ。ユウちゃんはいい子ね〜」


「えへへ〜、くすぐったいです〜」



 よしよしと頭を撫でられ、ほにゃ。表情筋がゆるゆるになってしまう。

 合ったばかりのはずの僕をここまで気遣ってくれる皆んなには、本当にいくら感謝しても足りないな。


 しばらくシーシェとレーテと3人で他愛無い話をしていると、イルザ達が法衣を着た老人を伴って帰って来た。



「待たせたな。クーデルンさんのセクハラが長くて時間がかかってしまった」


「……すけべジジイ……本当に聖職者とは思えない…………」


「ホッホッホ。若い子の肌に触れると力がみなぎるんじゃよ。これぞ正しく最強の健康法!!」



 高笑いをあげながら、ディアの胸に手を伸ばす神父、クーデルン。シワが深く刻まれた顔は、彼の生きて来た歴史を感じさせる。イルザに肘鉄をくらい「ぐぼぉ!!」と悶絶しているが、来ている法衣は華美とは言わないが、所々に刺繍が施されていて彼の身分の高さを伺わせた。


 ……偉い人なんだろうけど、全然そんな風には見えないよ。


 たっぷりと蓄えたヒゲを触りながら再びディアの胸に触ろうとする姿は、ただのセクハラ親父にしか見えない。しかしクーデルンの雰囲気が、それを冗談ですませている様に感じる。さすがは神父といったところか、彼の行動の一つ一つには愛嬌があり、接するものの心を解きほぐしていた。



「いい加減にしろ! そろそろ本気で殴るぞ」

「そうけち臭いことを言いなさんな。別にイルザちゃんのを触るわけもないし、減るもんでもないじゃろう?」



 そう言いながらイルザの胸に視線を向け、納得のいった顔をする。



「なるほどなるほど。ディアちゃんのと違って、イルザちゃんの胸は触るほどないし、これ以上減ったら無くな──ごぴゃっ!!」



 ────ズドム


 しっかり踏み込んで、捻りまで加えたボディーブローが、深々とクーデルンに突き刺さった。


「……人が大人しくしていれば随分好き勝手言ってくれたな、この色ボケなんちゃって聖職者が! そこまで口にしたのなら、死ぬ覚悟はできているんだろう?」



 光を失った目でイルザが蹲って泡を吹くクーデルンを睥睨する。

 さすがにマズイと思ったのか、必死に弁解をし始めた。



「ちょっとしたジョークじゃ、ジョークぅっ! そんなに怒ることはないじゃろうて! イルザちゃんの無い乳だって需要はあるんじゃよ! ──世の中の変態紳士には」


「…………………辞世の句はそれだけか???????? なら──お別れと行こうか???????」


「ひぃぃぃぃぃいい!! 何でそんなおっかない顔をするんじゃ! 儂、褒めたはずなんじゃが!」


「……今のは褒め言葉とは言わない……ただの侮辱……さよなら、すけべジジイ……」


「ディアちゃ〜〜〜んっっ!! このいたいけな老人を見捨てないでくれ〜〜〜!!」



 イルザのとぼけた口調が根源的な恐怖を呼び起こす。

 ……近くで見ているだけの僕で震えが止まらないんだ。直接威圧を受けてるクーデルンさんは、どれほどのプレッシャーを受けてるんだろう。



「──アババババば…………ぶくぶく……」



 ──ああ、クーデルンさんは死ぬんだろうな。

 もはや幻覚まで見えてるみたいだし、彼の墓場がここになるのは確実だと思う。だってさっきから「う、うへへへ……可愛い巨乳のお嬢さん達……儂は逃げないから順番に……」てうわ言をつぶやいてるんだもん。ただでさえ老い先短い命が、風前の灯火だ。



「あらら。またやってるんだね。クーデルンさんも本当に懲りないね」


「そうね〜。この前イルザに頸椎をおられたから、さすがに懲りたと思ったのだけど……そうでもなかったみたいね」



 ……へっ! け、頸椎……。それって折られたら生きてられないと思うんだけど……。



「まあ、クーデルンさんにはいい薬じゃないかな? この前私もお尻を触られたし」


「あら? シーシェもだったのね。私も出会い頭に胸を鷲掴みにされて、その後に頰ずりまでされたわよ」


「……何というか、節操のない人なんですね……よく今まで捕まらなかったのか不思議です」


「クーデルンさんはアレでも結構偉い人なんだよ! 回復魔法についても一流だし、私達も何度かお世話になったもん」


「困った事に、私よりも優秀なの。だから頼ることがあるのだけど、同じヒーラーとしては屈辱だわ」


「──っぴ!」



 こ、怖いよ! レーテさんの後ろに仁王が見えるくらいにはビビってるよ!

 ……それほどクーデルンさんに負けてるのが悔しいのかな。この話題は危ない気がするから逸らす方向で行こう。


 シーシェもそう考えていたのか、少し言葉に詰まりながらも話を変える。



「れ、レーテの魔法にはいつも助けられてるよ! レーテが居なかったら、今ここに全員無事で居られなかったもん!」



 ……シーシェさん。あまり誤魔化せてないんですけど! 回復魔法の事から離れましょうよ!


 ──しょうがない。ここまできたらこのまま押し通すしかない!



「そ、そうなんですか! レーテさんは凄いんですね! 僕は魔法を使えないので尊敬しちゃいますぅ!」

「あら。ユウちゃんに褒められると照れちゃうわ〜」



 ほっぺに手を当て、いやんいやんと悶えるレーテ。それと同時に強く抱きしめられるが、怒気が霧散した事に対する安堵感しか感じられなかった。


 ──グッ。視界の端でシーシェがサムズアップしている。

 この危機を乗り越えた事で、シーシェと僕の間に奇妙な連帯感が生まれた。



「──シーシェちゃ〜〜〜んっっ!! 助けておくれ〜〜〜!!!!!」



 一難去ってまた一難。クーデルンが修羅と化したイルザを連れてこちらに逃げてきた。


 い〜〜やぁぁぁっっ〜〜っ!!イルザの周りだけ、禍々しく空間が歪んでらっしゃる! あそこまで行くと、睨まれただけで殺されちゃいそう!



「く、クーデルンさん……自分で蒔いた種は自分で何とかしなきゃダメだよ」



 めっ!と縋り付くクーデルンをイルザの方に押し返し、シーシェは危険地帯から離脱して、傍観を決め込むディアの元に駆けていく。


 ……シーシェまで逃げたという事は、次にクーデルンさんがくるのはここという事で……みゃっ!



「レーテちゃん!! 頼れるのは君だけなんじゃ!! どうか憐れな迷える儂を救っておくれ!!」


「んん〜〜どうしましょうかね〜〜?? 」



 わざとらしく惚けるレーテ。文字通り死の淵に立っているクーデルンは、焦れた様子で捲したてる。



「そんな無体なことを言わないで、イルザを止めてくれぇ! 聖書にも『迷える者には救済を 苦しむ者には博愛を』とあるじゃろう!」


「……いえいえ、聖書には『罪を犯したなら潔く償え ──右の頬をぶたれ、左の頬もぶん殴られるのだ!』とありますし、大人しくイルザの処刑を受け入れてください」


「た、確かに載っておるが、今ここで見捨てられたら、儂は骨も残さず折檻されてしまうぅぅぅ〜〜〜〜!!!!」



 ──載ってるの! 一体どんな宗教なんだよ!



「ユウちゃんの教育によろしくないですし、そろそろ諦めてください」


「な、なんて薄情なんじゃ……。こうなったら夜逃げするしか──「逃すと思うか?」ひぃぃぃい!!」



 音も無くクーデルンの背後に忍び寄ったイルザは、死神そのものだった。子鹿のように震え、とうとう立てなくなったクーデルンは、ついに白目をむいて腰を抜かしてしまった。



「年貢の納め時タイムだ、クソじじい……!! 大人しく地獄に叩き落とされろ」


「は〜い。ユウちゃんには刺激が強いから、見ちゃダメよ〜」


「うみゅ!?」



 今まさに死刑執行という所で、レーテに体の向きを変えられ──ムギュ。メロンと見間違うほどの立派な物で、視界を塞がれてしまった。



「イルザ〜。これで気にすることなく、思うがままにやっちゃって良いわよ〜」


「すまないな、レーテ。これで気がねなく──ヤれる」


「ノォォォォオ!!! 羨まけしからん上に、儂の退路がなくなったぁぁぁああ!! 主よ、儂の敬愛すべき主人よ!! 今こそこの敬虔な信徒をお救い下されぇぇぇぇぇええっ!!」



 オンオン泣きながら天に叫ぶクーデルン。ここは教会だしひょっとしたら神様に届くかもしれないけど、このおっさんに限っては逆に天罰が返ってきそうだ。

 しかしイルザが剣を抜いちゃったし、そろそろ止めたほうがいいかも……。さすがに刃傷沙汰は勘弁して欲しいし。



「──イルザさん。そろそろ許してあげたらどうですか」


「……………………ユウタはこいつの肩を持つのかい?」



 レーテの谷間から顔を出したら──鬼がいた。

 みぎゃぁあぁぁぁああ!! むっちゃ怖ぇぇぇぇぇええ!!


 どうやったらあんな迫力が出せるの! 声かけられただけで死を覚悟するなんて初めての体験だよ。できれば一生関わりたく無かった……。

 というか、ここまでリスクを冒してクーデルンさんを助けるメリットはあるのだろうか。いや、無い。ただ同じ男として、シーシェたちに手を出すのは仕方がないかな〜って同情しただけだし、そもそもシーシェ達に手を出したこの人を助ける義理は──


(──微塵もないな)


 これからイルザ達に、居候させてもらうお願いをするのに、セクハラ親父を庇ったせいで悪印象を持たれる必要はないよね。多少は可哀想に感じるけど、僕の明るい未来のために犠牲になって貰おう。



「──いえ、何でもありません。イルザさんの気が済むまでやっちゃって下さい」


「そうか。なら思う存分にやらせて貰おう」


「そんなばかなァァァぁぁああ!! 神は私を見捨てるというのかぁァァァァァァあああっ!!」



 あげて落とすとはこのことだろう。一度はユウタという希望を得たクーデルンは、絶望の中に一筋の光を見出したとばかりに祈りを捧げていた。なのにユウタが保身のためにアッサリ意見を覆した事で、またどん底に叩き落とされたのだ。もはや再起は不可能だろう。

 ……南無三。せめて安らかに眠れ──



「ふむ。まずは腕から行ってみるかな」


「後生じゃ、後生じゃからァァァ──あっ…………ポキっ!」←右腕の関節が外れる音

「次はこっちかな?」

「ノォォォォオ!!! 腕の関節はそっちに曲がらないぃぃ…………ペキョっ!」←左の手首が外れる音


「あうあう……なんですか、この地獄絵図は……!」


「わりといつもの光景よ。クーデルンさんはタフだし大丈夫よ〜。ユウちゃんは、私と一緒にお話ししていましょうね〜」

「はいぃ〜……2度とこの光景には関わらないです〜っ!」



 イルザによる人体改造は、叫び声を聞いたシスターが飛び込んでくるまで続いた──





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